問答と余興
――カチャッ――
「――相も変わらず良く食うな?」
世間話を交わしながら菓子を食う二人を見る……見るだけで胸焼けしそうな光景だな。
『主が居らん間地上の菓子にありつけなかったからのう!』
『えぇ、その通りです』
「自前で作れんのか?」
『妾が作れば呪いで腐ってしまうのでな!』
『私は飽く迄も世界の管理者ですので、食事も睡眠も不要なのです…決して作れない訳では有りません』
「……成る程ねぇ……所で――」
世間話を交えつつ、俺は二人へ〝問う〟
「〝俺〟へ何の用だ?」
『?…知己と茶を飲むのはいかんの――』
「誤魔化すな〝アーリーユ〟……お前の目の前に居るのは誰だと思っている?」
『『ッ!?』』
「みなまで言わねば分からないか?…誤魔化すな、洗い浚い吐け……なぁに、大体は理解している、恐れる事は無いさ」
俺と二人が暫く見つめ合う…そ目の奥には〝葛藤〟が有った…が、とうとう二人は観念し、その顔を冷たく、努めて冷たくしながら問う。
『『ハデス…貴方(主)は何をしようとしている?』』
「……〝何を〟…ねぇ?…極めて抽象的で曖昧な問いだが……さて――」
――ゾオォォォッ――
「俺がもし〝そうする〟として…お前達はどうする?」
俺は敢えて、威圧的にそう問うと二人は冷静に言葉を紡ぐ。
『その場合、妾は主を殺すぞ…例え知己で有ろうとな』
『えぇ、ソレが世界を管理する者の務めです』
「……フフフッ、大変結構……安心しろよ、俺は俺が楽しむ為に舞い戻りはしたが、〝舞台〟を壊したい訳じゃない…俺はお前達の世界を〝壊そうとは思わない〟よ…誓っても良い」
俺の言葉に、二人の心に安堵が戻る…ふむ。
「神の癖に随分と甘いな」
『う、うるさいぞ…(妾とてこんな筈では無かったのだ…)ボソボソ』
『……』
「ふむ……成る程……フフフッ、そうか…お前達はお前達の好きにしろ…俺は俺の好きにする」
――フワッ――
……と、そろそろかな?――なら。
「ノア…〝気に病む事は無い〟ぞ?…アレはアレで、お前はお前だ」
『ッ!……感謝、します…』
「なぁに、思い詰めた友を慰むのも友の務めだろう?」
と、最後にノアへそう伝え、俺は花園を去る……。
〜〜〜〜〜
「んぁッ、戻って来れた―――ァ?」
「「スゥ……スゥ……」」
「……さて」
次に目覚めた時、其処は俺の寝室で…寝具の上で眠る俺の上には小さな二人の狼が眠っている……うん。
「起こしてやるのも忍びない……それに、今はやる事もそう無いし……うん」
――少し、〝夢〟を見よう――
「丁度良さげな所は……お、コレはコレは」
俺は目を閉じて育った〝蕾〟を観察してゆく…そして、その内の一つに目を向ける。
「良いね、コレにしようか♪」
俺は脱力し目を閉じる……その影から新たな〝分身〟を産み落として。
「〝疫病の村と魔女の呪い〟……フフフッ」
眠る本体を置いておき、俺は翼を生やして目的地へ向かう……中々良い玩具に成りそうだ。
○●○●○●
「あ〜金欠だ〜!」
「最近装備新調したばっかだしねぇ…そろそろ金策の頃かなぁ?」
商業都市ブルエナから東南へ位置する場所、ドルダナン王国の1都市〝リンバス〟の冒険者ギルドの酒場にて、とある守護者の冒険者達が机に突っ伏し唸り声を上げる。
彼等は〝散月輝〟……全員漏れ無く冒険者ランクBの中堅でもやや上位のパーティーなのだが、そのパーティーは今、絶賛の金欠危機に陥っていたのだった。
「何だよあのオヤジ〜!…剣の修理であんな取るかよ!?」
「そりゃあテメェの使い方が悪いからだろうがッ、〝岩鎧亀〟相手に剣使いやがって、むしろ怒鳴り散らされただけでも良かったと思え!」
机に突っ伏し恨み言を吐くのは、前衛を担当する〝ブレイド〟…それに対して怒鳴るのは散月輝のリーダー〝アドルフ〟…アドルフの言葉にバツが悪そうにそっぽを向くブレイドにアドルフは頭を抱え……ソレを呆れた様に見る後衛の〝アーラシュ〟と回復役の〝ミーナ〟の元へ、双剣使いの〝アラミネ〟…。
「全然駄目よアドルフ、目ぼしい依頼は無かったわ…」
「そうか…うぅむ…こうなるとレア素材を集めて売るか?」
「この辺りで狙うレア素材って何が有ったっけ?」
「う〜んと……〝月泣蛇の涙結晶〟と〝銀毛熊の毛皮と胆汁〟位ッスね」
「月涙蛇は夜限定のレアエネミーだろ?…確か出現確率ってクソ低かったよな?」
「そうね、大体0.3%位らしいわ」
「っとなると必然的に銀毛熊か」
「彼奴は東の森の深奥に居たっけな…結構強いしタフだからなぁ」
「私はボス周回を提案するッスよ!」
「ボス周回は大体の人間が乱獲して値崩れ起こしてるだろうし…うぅむ」
案を出し合っては却下をしての繰り返し…皆の脳が熱を帯び、思考が煮詰まるその刹那…最早半分思考放棄気味だったブレイドとアーラシュの耳に、受付の会話が耳に入る。
「〝呪いの調査と排除〟…ですか?」
「はい、お願いします……金は〝500万z〟でお願いします…」
「500万ですか…!?…」
「「500万」」
「「「え?(あ?)」」」
「今受付の方で良さげな依頼の話が聞こえたッス」
「500万だ500万…一人当たり100万zだぜ…!?」
アーラシュとブレイドが周囲に配慮する様に小声で続けると、アドルフは訝しげな顔をして問い返す。
「依頼内容は?」
「確か〝呪いの調査と排除〟ッスね…呪い関係ならミーナなら大丈夫ッスよね?〝上位神官〟は確か回復と呪いに強かった筈ッス」
「う、うん!…任せて…!」
「……オーケー、その依頼を受けるか……だが、準備は入念にしておくぞ、報酬の額が額だ…最悪の事態も有り得る」
ソレから少しして、張り出された依頼を回収して、5人は支度を始める……。
ソレを1人の男が楽しげに見ていた。
「フッフフフッ♪……オーケーオーケー、ちゃんと守護者が喰い付いた……住民なら最悪殺しても良いんだけど、それだと依頼のランクが上がるからねぇ…」
「……」
「あ、協力ありがとうね――」
――パンッ――
「――ッは!?…お、俺は一体何を!?……そ、そうだ冒険者ギルドに依頼を―」
「オイオイ何言ってんだよ〝クレル〟?…俺たちゃもう依頼を発行しただろうが」
「え!?…そ、そうだったか〝ガルガド〟…」
「そうだぜ?…何だよ気分でも悪いのかぁ?…なら村に帰るまで馬車の中で休んどけ、代わりに俺が運転してやる」
「あ、あぁ…悪い、言葉に甘えさせて貰うよ」
そう良い二人は馬車へ戻る…二人が過ぎ去った路地裏の一角には……〝赤い水溜り〟が有ったが、それはやがて忘却に消え…静寂に呑まれるのだろう。




