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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第十章:人と悪魔の争奪戦
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微睡む眠り、或いは目覚めの再誕⑬

どうも皆様泥陀羅没地です。


何時もの時間よりも大分遅れての投稿で申し訳無い。

「〝万の祖王、虚ろの大悪〟」


一つ、必要なのは〝縁〟である…封印に縛られる刹那、悪魔は己の四肢を鍵とした。


「〝我は穢れ喰らい、世界滅ぼす災厄の骸〟」


2つ、必要なのは〝讃美歌〟である…歌は次元を跨ぎ万物へ届く、最古の〝祈り〟だからである。


「〝悠久の虚構に住まい、幾百幾千の時を経て、再誕の時は来た〟」


3つ、必要なのは〝魔力〟である…魔力は無限の可能性を秘めた、尊ぶべき〝叡智〟だからである。


「〝お前の再誕を我が赦そう、お前の帰還を俺が認めよう…さぁ応えろ、お前は何だ?〟」


4つ、必要なのは〝意思〟である…意思とは限界を引き裂き、運命を否定する唯一の〝手段〟だからである。



ソロモンは詠う、悪魔の魔力、悪魔の魂を喰らい黒く輝く魔術の繭へ。



『……〝我は爾〟…〝爾の片割れである〟』


遙か遠く、果てすら通り抜けた虚無の世界で、光の鎖に縛られたそれは言葉を紡ぐ……その瞬間、己の足元から赤黒い魔術陣が現れ、己を縛る〝光の鎖〟を黒が蝕んでゆく。


「〝贄は焚べた、魔力は注いだ、時は満ち祝詞は紡がれた…残るは魂、〝爾我()〟の〝魂〟を以て今この地、この星、この世界に災厄は生まれ落ちん〟」


5つ、必要なのは〝魂〟である…幾百の時を超えて、祖王の〝魂〟は再誕を計り、そしてソレは〝魂〟の〝同化〟によって成就する。


――ドクンッ――


ソロモンが魔術陣へ入ってゆく……その瞬間、黒い魔術陣は収束し、脈動する〝黒い繭〟を創った。



静寂…皆の顔が緊張に染まる、其れ等を無視して、繭は胎動する。


――ドクンッ…ドクンッ…――


…と、それが続くに連れて、繭を亀裂が覆い、その黒い瘴気を周囲に吐き散らす。


――ドクンッ…ドクンッ…――


周囲の植物が枯れてゆく……まるで命を貪るように……それは人も例外では無く。


「ッガァァ――ァァァッ…」


周囲の森人達を瘴気が包む……それに叫ぶ森人は次の瞬間、瘴気が晴れるとカラカラのミイラと成って地面に転がる。


――ドクンッ…ドクンッ…――


それは無差別に人間を襲い、やがて満足したのか…或いは〝不要〟となったのか、その瘴気を己へ集める……それと同時に。


――ドクンッ!――


一際高い鼓動と共に、繭が割れる。


○●○●○●


「『…こうして見えるのは初めてだなァ、俺?』」

「『……』」


暗闇の中で、鎖に縛られた〝己〟へ…俺はそう言葉を吐く。


「『随分と様変わりしたな?』」


黒い髪は白に染まり、紫の眼は赤黒い狂気に染まっている…実際の所、時間も物質も何も無い場所に一人、其処で縛られているのだから気が狂うのは仕方ないか。


「己の手で産み落とした物には〝色〟が有るのに、自分自身には何も無い…中々の皮肉だな」


――パキンッ――


近付くに連れて、俺を縛る鎖が外れる。


――パキンッ――


「『さぁ、俺よ…虚構の魔王よ…俺を喰らえ』」


痩せこけた魔王は俺の言葉に返答無く、俺の事を貪り始める…。


――バリバリバリッ――


俺の脚、俺の腕、俺の腸、俺の肺、俺の頭蓋を貪り、その脳髄と血液を啜る。


――ゴキ…ボコッ――


痩せこけた身体に次第に肉が戻る、蒼白い肌に少しの赤みが帯び、その赤黒い眼は狂気が形を潜め、紫の眼を取り戻す。


――サァァッ――


そして髪が黒に染まり、俺は〝俺〟を認識する。



――パキンッ――


その刹那、暗がりが罅割れ…〝懐かしい陽の光〟が俺を出迎える。


●○●○●○


脈打つ〝黒繭〟の鼓動が一際高く鳴き、その繭に奔った亀裂がパラパラと崩れ落ちる。


――ドオォォォッ――


その瞬間、白い祭祀場を黒が蝕む……顔を青くする森人とアリステラ、そして焦燥を浮かべる守護者達はその瘴気の中央で立っている〝ソレ〟へ目を向けていた。


「……フッ」


それは目を開き、己の身体を見渡す…そして己の目に飛び込み、その目を焼く陽の光へ顔を歪に歪ませる。


「フッハハハッ…ハハッハハハッ、アッハハハッ――」


――ゴプッ――


「「「「「アッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!!!」」」」」


そして、己の身体から幾つもの口を創りながら、腹を抱えて笑う。


「――あぁ、やはり陽の光は本体で浴びるに限るなぁ!」


――ボキボキボキボキッ――


己の身体を伸ばしながら、〝ハデス〟は笑う……誰もソレを止めることは出来なかった。


……その桁違いの魔力によって、動く事を許されなかった。


「ンン〜……ハァッ♪…やはりこの世界は良い…空気が澄んでいる…恐れも、怒りも、殺意も…怨嗟に満ちているなァ♪」


――ギィィッ――


そんな中、扉を開け放ち数人の人間がその場に現れる。


「――お久しゅう御座います、〝我が主〟」


その先頭に立つのは、白髪を整えた老獪な雰囲気の執事、執事はそう言い己の目に映る男の前で跪く。


「おぉッ!…久しいなベクター…それに…良く働いたな、〝血染歌〟と〝死の狩人〟」


ハデスはそう良い、跪くベクターの後ろに立つ、数人の人間を見て言葉を吐く。


「そう言う〝契約〟だからねぇ」

「俺ちゃん超疲れたぜぇ〜?…報酬に色は付けてくれよ?」


血染歌の首魁、〝ジェームズ〟は肩を竦め、ブギーマンは飄々とそう言いニヤリと歯を覗かせる。


「さぁ、〝契約〟の対価を頂こう」

「――無論だとも」


――ブチィッ――


ジェームズの言葉に短く返し、ハデスは己の腕を千切る……そしてソレをジェームズに放り投げて言葉を紡ぐ。


「契約に則り、お前に俺の力の一部をくれてやろう」

「――確かに、それじゃあまたの御利用、お待ちしているよ」

「――あぁ♪」


ジェームズがハデスの四肢を己のインベントリに入れたのを見届けると、ハデスはそう良い血染歌と死の狩人を変化した腕で斬り殺す。


「さて、コレで晴れて〝自由の身〟と成った訳だ…〝殺るかッ♪〟」


腕を元に戻しながら、ハデスが魔力を噴出させる…そして。


「――全力で遊ぶには少し狭いか?」


――ゴプッ――


影が〝蠢いた〟……誰もがそれを認識したその瞬間、影が祭祀場全域を侵食し…〝天井〟が砕けた。


――ドオォォォッ――


そして溢れ出す、〝瘴気の奔流〟が…それは天井を突き破り、〝黒い柱〟と成って空へ伸びる。


――ゴゴゴゴゴゴッ――


そして、それと同時に祭祀場が蠢き黒い影に押し上げられる様に天井を突き破ってゆく……。


――パラッ…パラッ…――


砂煙に目を閉じて一塊に集まる守護者と森人は、それから目を見開き、その光景に驚きを浮かべる。


――ビキビキビキビキッ――


世界樹から伸びる幾百幾千の枝…世界樹の根元からのそのそと伸び、無数の目と口を無造作に無秩序に創りながら世界樹を蝕み誇大する〝呪いの泥〟を見て。



「――ハッハハハハハッ!」


そして、守護者の耳に悪魔の愉悦の声が響き渡る。


○●○●○●


――ドクンッ…ドクンッ…――


俺の身体に幾百幾千幾万の〝恐怖〟が吸収されてゆく…そうだろう、そうだろうとも…恐れない筈が無いだろう。


――ペキッ…パキッ…――


伸びる枝が俺へ届く前に折れてゆく……俺の放った呪いに〝魔力〟と〝生命力〟を吸われて、己等の〝誇り〟…〝崇拝する物〟が壊れてゆくのだから当然だろう…。


「『――さぁ、どうする?…このまま指を咥えて見守るか?…尻尾を巻いて逃げ出すのか?…誰かへ縋るか、〝助けてくれ〟と…〝早くしろ〟と…さぁ選べ、お前達が選ぶんだ』」


俺の言葉が首都全域に響き渡る…国の影を伝い、俺の声を影に浮かぶ死肉の口が伝える。


「『時間は有限だ、お前達の葛藤が世界樹を殺すぞ?……さぁ、どうするんだ?…さぁ、さぁッ、さぁ!』」


俺の言葉に静寂が燻る……しかし、その瞬間。


――ボフンッ――


俺へ一つの〝魔術〟が直撃する……弱く脆く、拙い魔術が、俺へ…〝仇なす者〟へ向けられた。


「ッ――素晴らしい♪」


――ブンッ――


俺は心からの言葉を吐き、俺へ〝刃を向けた彼〟の前に立つ。


「ヒッ…!」


それは小さな森人の少年、気弱そうで、脆く…俺にとっては取るも足らない様な小さな小さな命。


「素晴らしいぞ〝少年〟…俺の声を聞き、居ても立っても居られず、葛藤を置き去りに〝俺へ挑んだ弱き強者〟…恐れているな、後悔している、しかし…〝怒り〟…世界樹を穢されたことへの怒り、傷付けられた事への怒りか…純粋で〝美しい怒り〟だ♪」

「〝ひ、火よッ、眼前の悪を焼き焦がせ!〟…〝火炎球〟!」


恐れと共に少年がまた魔術を撃つ…それを俺は避けずに、〝進む〟…。


「〝か、風よ斬り裂けッ〟!――〝風刃〟!」


この、小さな小さな勇者へ。


●○●○●○


――ズドンッ――


「ハァ…ハァ…ハァ…」

(何で、何で攻撃しちゃったんだろう…?)


魔力を使い過ぎた事による疲労感に息を吐きながら、僕は魔術を絶え間なく唱える。


自分でも分からなかった……自分には他の森人よりも魔術の才能は無い、魔力も多い訳では無い…自分が来た所で何の意味も無いとは知っていた…なのに避難場所を抜け出して、今此処に居る。


何故かは分からない、分からないけど…赦せなかった。


僕を育ててくれた両親の家が、優しくしてくれた人の家が、壊されるのが…。


僕を救ってくれた世界樹を傷付けられたのが…。


「〝火炎球〟!」


――ズドンッ――


「――良い魔術だ、幼く、未熟で、拙く脆いが…〝素晴らしい〟…〝無才者〟と笑い者にされ、それでも尚努力を諦めなかった…何時か誰よりも〝強くなる〟と…君、名は?」

「ッ――誰がお前なんかにッ!」

「……フフフッ、成る程確かにそうだ…俺はお前の憎むべき敵だ、そう返すのも成る程当然か…では、力尽くでも〝聞き出そう〟……〝名は〟?」


僕を見て笑いながらソイツはそう言う…その瞬間、僕の口から自分の名前が飛び出してしまう。


「――成る程、〝リーベン〟か……良い名前だな♪」

「ッ……クッ」


魔術を使おうとして、ふと身体が鉛のように重くなる、膝を突き地面に手を突き見つめていると、地面に赤い点が生まれてくる。


「魔力を無理に使おうとするからだな…気付いていなかったのか?…もうお前の魔力は空っぽだぞ?」


僕を見ながら、ソイツは続ける…。


「良くやったよリーベン、未熟なその姿で、お前はこの俺へ挑んだ…力の差を理解してな?……〝勇敢〟では無い、コレは〝無謀〟だ、お前は大馬鹿だ…お前では俺と戦いにもならない…」

「ッ…」


ソイツはそう事実を告げる……それに思わず歯噛みする…それは紛れもない事実だからだ。


「――だが、俺はお前の無謀を認めよう…素晴らしい〝蛮勇〟だと」

「?」

「俺との力量差を理解して、此処まで来たのはお前だけだ、お前以上に魔力を持つ者も、お前以上に魔術の才を得た者も、誰一人俺へ挑もうとはし無かった……〝お前だけ〟だリーベン」


そう言いながら、ソイツはクツクツと笑う……それは今まで見てきた〝嘲り〟とは違う…不覚にも美しいと思ってしまう様な笑みだった。


「〝小さな勇者〟、〝蛮勇の無才者〟…リーベン、お前は良くやった…お前のこの極僅かな〝足掻き〟が――」


――ズドォォォンッ――


「―ただ滅びるだけだった未来に〝可能性〟を与えた」


ソイツの言葉がそう言うと同時に、世界樹へ、世界樹を蝕む泥に向けて〝光〟が貫く…光に焼かれた泥はその身体を散り散りの〝塵〟に変えて、消失する。


「――ハデス」

「〝アーサー〟…久しいな〝神の傀儡〟、〝張りぼての勇者〟…〝勇者の皮を被る者〟」


そして、ソイツの前に…一人の男が現れる……依然母さんから聞いたことのある、五百年前に現れた守護者の〝勇者〟…。


「ッアーサー!」


聖剣の勇者…〝アーサー〟が。



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― 新着の感想 ―
[一言] アカン、ハデスに共感しか湧かない そうなんだよな、こういう勇士は尊ばれるべき英傑候補よな。そういうその人間が持つ『強さ』が何よりも見たいよな。わかる。(後方腕組み) そして一般的な認識の方の…
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