血に染まる夜⑦
どうも皆様泥陀羅没地です。
遅くなりましたが本日の投稿です。
――………――
「あ〜此方ガラハド〜此方ガラハド〜…現在ソロモンは相手の結界内に囚われたまま、依然出てくる気配無し……どうよプロフェス?」
「『…駄目だね、魔力反応も生命反応も認識出来ない…』」
「どう思う?」
「『さぁ、此方に情報を完全に渡さない為の結界だ…コレがソロモン君の狙いによってか、或いは偶然か測り兼ねるね』」
「取り敢えず静観、か?」
「『そうだね』」
ガラハドとプロフェスはそう言葉を交わし、通信を切る…残されたガラハドは、眼の前の黒い結界をただ見守っていた……。
○●○●○●
一方その頃、結界の中では。
「〝呪壊の右腕〟」
「ハハハッ♪」
――ドッ、バキッ、ドシャッ――
ソロモンとレーラが情熱的なタンゴを踊っていた…レーラの言葉と共に右腕が黒に染まる…見るからに危ういソレを掴み止め、そのまま腕を捻る―。
「〝重撃〟」
「ッ♪」
ソレは即座に対応され、捻る力に沿う様にレーラは廻り、そのままソロモンの顔めがけてその脚を振るう。
――メキョッ――
「クゥッハハ♪…重く鋭く、良い一撃だ♪」
街道を削りレーラと距離を離される…腕がへし折れ、骨が突き出て力無く垂れ下がっていると言うのに、ソロモンは笑っていた。
「近接戦は不利か?…で、あるのならば――」
――カッ――
ソロモンは言葉と共に剣を影へ沈め…代わりに〝黒い杖〟を手に取る。
「たまには型に嵌まって見ようか♪」
――コンッ――
「ッ〝絶歩〟」
「〝召喚〟」
ソロモンの影が広がり、杖が影を突く…レーラはそれを認識し、即座に仕留めんとその脚を進めたその瞬間。
「〝執妄の黒腕〟」
その脚を、影の腕によって掴まれる。
「コレは―」
「〝召喚〟―」
――パキンッ――
ソロモンは再度杖を左手で突きながら、右手で紫の魔石を砕く…内包された魔力はソロモンに吸収され、新たな〝影〟が現れる。
「〝堕落の人柱〟」
「「「「――――ッ!!!」」」」
ソレは黒い人型の集合体、それが積み重なり、溶け合い、一本の柱と成った醜い姿。
「恐れを忘れ、驕り堕落した生命の末路だ♪」
何だとでも言いたげた顔のレーラへソロモンはそう言うと…言葉を紡ぐ。
「〝アレを殺せ〟」
「「「「「ッ※※※※※※!!!」」」」」
言語と呼ぶには粗末な叫びを上げて、人柱が犇めく……すると、人柱から幾つもの腕が伸び、レーラへ伸びてゆく。
「ッ……」
「死んで尚求め続ける…愚かだろう?…コイツ等は気付いていない、己が〝死んだ事〟も…己がただの〝抜け殻〟である事も…無知蒙昧にただ求め、ただ〝肉〟を求め続けている…この悍ましい身体を捨て去り、人として再び生きたいと、其の為ならばかつての友も、家族も犠牲にし、同じ境遇の者達とも喰らい合う…何とも悍ましく、そして滑稽な喜劇だ」
そんな愚か者達の攻撃がレーラに迫る…しかしソレは無に帰すだろう。
「〝延見の魔眼〟」
人柱の欲の腕をレーラは躱す…その目は忙しなく動き続け、全てを見切る…。
「〝聞覚の耳〟」
背後から、死角からの攻撃も全て躱す…縛られた機能を駆使し、全ての攻撃を淡々と処理してゆく。
「〝言宿しの喉〟…〝止まれ〟」
レーラの声に触れた全ての〝腕〟が止まり…何の感慨も無く処理され、その根元…人柱へレーラが迫る。
「「「「「※※※※※!!!」」」」」
懇願か、嘆願か…否定か拒絶か…悲痛な叫びが轟き鳴く…その悍ましい化物の〝命乞い〟は。
「〝我が五体に砕けぬ者無し〟」
レーラが放つ拳の一撃によって無惨に砕かれ、そして消えてしまう。
「〝我が名の下に、爾へ与える〟」
――キュィィンッ――
「ッ!?」
そして、間髪入れずにレーラが言葉を吐く…その刹那、俺の身体に紫の痣が浮かぶ。
「〝爾の声は潰えて砕け、爾の眼は闇夜に閉ざされ、爾の耳は何も通さず、爾の身体は萎びて下り、爾のその名は―〟」
レーラの〝口が動く〟と共に俺の身体に痣が広がる…喉が潰れ、片目が黒く染まり、身体が重く大地に縫い付けられる。
「(〝レーラの縛り〟か…コレが封じられた〝名〟が開放と共に与えられた〝能力〟か?)」
単体に特化した強力な〝弱体化〟の付与…条件はレーラの〝名〟を知り、且つこの結界に〝一人〟閉じ込める事…だけ…じゃないだろう…この弱体化は〝抵抗〟出来ない…余りに強力な呪いだ…。
「…回…帰」
「――流石の観察力ですね…その通りです」
レーラの顔と、其処に浮かぶ色から推測するに俺の予想は当たっているだろう。
(この技はレーラへも返ってくる…そして、レーラはまた〝死の狩人〟として回帰するのか…)
「…♪」
成る程…俺の負けか……。
見上げる俺の顔に迫る、レーラの短剣を認識し……そして、俺は暗闇へ落ちる…。
一時の〝愉悦〟に微睡んで。
●○●○●○
「うわ本気かッ」
「『まさか、負けたのかい?』」
「そのまさかだよ!」
ガラハドは瞠目し、そう声を上げる…そして繋がるプロフェスとの通話、プロフェスはガラハドの表情から己が限りなく低いと判断した可能性が確定した事を理解する。
彼らの目の前で、黒い結界は破れる……その場には倒れ伏すソロモンの骸と、それを見て…そして踵を返しジェームズの方へ駆け出す〝死の狩人〟が居た。
「……どういう事だ?」
「『詳しくはまた後ほど聞くことにしようか…そろそろ〝幕引き〟だ…帰投したまえ』」
「了解」
プロフェスの言葉に、ガラハドが駆ける……その空には。
――ブンッ……ブンッ……――
魔力の気配も無く、空へ静かに広がる〝魔術陣〟が広がっていた。
●○●○●○
――ギィンギィンッ――
「シィッ!」
「クッ!」
リップの攻撃をアーサーが捌く、しかしその顔は険しく、焦燥を帯びていた。
「まだまだまだァ!」
「まだ上がるッ――」
リップの雄叫びと共にその拳速は上がる、響く音楽は更に早く、荘厳さを増してゆく…。
勝敗は決していた……如何にアーサーが強かろうと、守護者最強だとしても、際限無く強くなってゆくリップを相手には分が悪い…相手の領域で、万全な状況で油断を突かれてと…相手取るにはあまりにも間が悪すぎた。
慢心のツケがこうして回ってきた……。
――ドゴォッ――
「グガァッ!?」
リップの拳が鳩尾に減り込む……掠れた息を置き去りに、アーサーは街道を転げ飛び、突き当りの家屋へ打ち当たる。
「……グゥゥッ…ク…ソ…」
「――勝負有り…かしら?」
リップがアーサーの前に立つ……息が上がって居るが、その姿には負傷らしい負傷は見当たらない…事実アーサーから致命傷らしい致命傷を受けていないのだから当然だ。
「まさか此処まで粘られるなんて思わなかったわ…流石守護者最強ね」
リップがアーサーに歩み寄る…止めを刺すために…アーサーは動かない…動く体力等残されていないのだ…。
「流石に次はこう上手く行かないでしょうね…貴方の油断が上手く噛み合っただけだもの……さぁ」
リップが拳に力を籠める…純然たる殺意と、確かな敬意を以て…その拳は振り下ろされ…。
――ドスッ――
アーサーは敗北した……。
「……フウゥ……疲れたわ…身体が怠い…けど、悪くない気分ね…」
リップは踵を返し、倒壊した家屋を出る…。
――ヒュウゥゥゥッ――
吹き荒ぶ夜風が、リップの熱を帯びた身体を冷やす……勝利の高揚にリップは夜空を仰ぐ。
「あぁ……後はジェームズちゃんを見つけるだ…け…」
しかし…夜空を仰いでいたリップは、その光景に瞠目するだろう。
「ッ――!?」
夜空に煌めくは星々では無く、数百に及ぶ〝魔術陣〟なのだから…。
知覚し、そして認識し…リップが駆け出そうとした、その瞬間。
――ドッ――
「ガァ…ッ!?」
リップの喉に玉虫色の槍が突き刺さる。
「ッ―まざかッ…プロ…フェス…」
問答は無く、全ての魔術陣から冷徹な終わりが降る……その様はさながら流れ星の様に…。
そして…夜は血に染まる。
○●○●○●
「〝混沌の雨〟…」
全てはプロフェスの狙い通り……プロフェスはただ備えていた…己の術の完成を…。
夜の闘争の外側で、ただ粛々と機が熟すのを……。
当然誰もが誰も空の異変に気が付かなかった訳では無い……止めに入ろうとした者達も居ただろう…しかし、それは鉄壁の守護の前では叶うことはなく、こうしてプロフェスの一人勝ちに終わった…。
――ゴプッ――
血に染まった大地が泡立ち、プロフェスの目の前まで沸き立つ。
――ズロォッ――
そして、その中から〝脚〟が姿を現す。
「ほほぉ、自ら現れることも有るのか……」
プロフェスを守り、そして雨を防ぐ〝傘〟の中に居た彼等はただじっと彼を見る。
「この戦争は〝私達〟の勝ちだ」
――ウオォォォォッ!!!――
夜の街に雄叫びが響く……そして彼等は3つ目の〝骸〟を手に入れ。
そして争奪戦の終わりへ手を掛けた。




