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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第一章:獣の厄災と強欲の魔女
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獣の軍靴と強欲者①

――キィィンッッ――


正午の刻、普段の喧騒は鳴りを潜め、重苦しい緊張が場を支配する……街の中には力無き者達が顔を暗くし震え、街の城壁を、更に覆う形で造られた石の壁、其処に造られた櫓とフェンス、その前には多くの……とても多くの〝戦士達〟が居た。


「『諸君、単刀直入に言おう……此度の〝獣災〟は未だかつて、類を見ない規模のモノであると』」


ハッキリとそう断言する男……その男の名は〝アーサー〟、この街最強のクラン〝円卓騎士団〟を率いる長であり、世界で数本の聖剣に認められた〝勇者〟である、その男の声に老若男女問わず、全ての戦士が顔を引き締める。


「『無傷とは行かないだろう、けして軽くない怪我を負うだろう、もしかすれば死ぬかもしれない……いや、死ぬ可能性が高いだろう』」


彼の声は静かに、人の間で反響する。


「『それでも、この場に並ぶ君達へ、僕は守護者の一人として最大の敬意と感謝を述べる……ありがとう』」


アーサーは頭を下げ、そして続ける。


「『貴方達へ、私は今から無理難題を告げる……〝決して死ぬな、生きて戻って来い〟……そして〝守護者の皆〟、君達にも無理難題を告げる、僕を含め、守護者は皆〝不死〟だ、この場に居る、この世界の皆よりも、僕達の命はずっと安い……だから、〝決して彼等を死なせるな、死んでも守り抜け〟……時間がないので、僕からは以上とします……〝全部隊へ伝達!〟』」


その声に、皆が覚悟を目に宿す。


「『戦闘準備!』」


――オオオォォォォォ!!!――



人と獣の……骨肉の、血みどろの、地獄の生存戦争が始まった、と。





「見ているんだろう……〝ハデス〟」


皆が慌ただしく動く中、一人アーサーは呟く、その手には聖剣の柄が握られている……そんな彼の脳裏に浮かぶは、〝憎むべき悪〟そのものの様な、一人の男。


「お前のシナリオ通りにはさせない」


――お前が笑う光景を、必ずブチ壊してやる――


誰に言うでもなく吐いたその言葉は風に流され消えて行く。






「あむ……んぐッ……いやぁ、やはり鑑賞と言えばポップコーンとドリンクよなぁ……炭酸が無いのは気分的に残念だが」





○●○●○●



――ドドドドドドドッ――


獣は駆ける、我先にと……逃げる様に、怒る様に……飢えながら、迫りくるソレから逃げる様に駆けていた……しかし。


「グルァッ」


凡そ1週間に及ぶ逃走、飯すら食わず、渇きも癒えず逃走を続けたそれ等にとって、眼前の〝人間〟はその溜まった食欲と、憎悪をぶつける矛先と成った。


――グルルル――


虫が、狼が、猪が、兎が、鳥が……その食欲を剥き出しに狂い始める、欲望の枷が外れ、真の意味で〝獣災〟と成り果てた……そして先頭の獣が大地を進んだ瞬間。


――カチッ――

――カァッ――


全ての音を飲み込んで、大地が爆ぜた。



●○●○●○


西方防衛エリア。



「今だ撃て!」


号令と共に矢が、鉄の礫が空を駆ける……獣の肉を裂き、次々と屍を作っていく。


「ハッハッハァーッ!お前達怯むな!相手が足止めされてる今が好機だ!数を減らせ!」


西方で、前線で盾を、剣を構える者達……その更に前で仁王立ちしながら豪快に笑い飛ばす男……その手には赤い旗に金で彩られた剣と盃の文様が掘られた軍旗が握られていた。



現在最強のクランは〝円卓騎士団〟? それはそうなのだろう……しかし、〝最強〟と言っても、それに喰らいつく者達も居る。


「しかし〝鉄打〟の連中、良くアレだけの数〝地雷〟を作れたなぁ……」


染み染みと語る赤毛の大男……その名は〝ダルカン〟、〝オケアノス〟と呼ばれるクランの頭領にして、単体の戦闘能力は円卓のアーサーすら認める程の腕を持つ。


円卓は多数の〝実力者〟と〝隔絶した個〟を上に持つ〝組織〟である、故に〝最強〟と呼ばれる。


対してオケアノスには隔絶した個はいても幹部の個の戦力は及ばない……では何があるのか?


――卓越した戦術と、それを遂行する能力――


「へいボス!コッチは準備オーケーよぉ!」

「早くのってくれい!」

「何ィ!?お前等仕事早すぎねぇかぁ!?」


――ドンッ――


「スティーブ!」

「はいよ!テイル!スウプ!全速前進!轢き殺せ!」


「「ブオォォ!!!」」


2体の牛が猛進する……それと同時に牛に引きずられるように〝戦車(チャリオット)〟が車輪を回す。


「全速前進!」

「「「「ヒャッハーッ!!!」」」」

「お頭ァ!もうすぐぶつかるぜぇ!」

「構わん!轢き殺せ!」

「「「「ハッハッーッ!」」」」


5の戦車が大地を駆ける、牛の雄叫びと、獣の悲鳴を掻き混ぜて。





○●○●○●


東方、防衛エリア


「レイン!〝爆炎プロミネンス・ファイア〟」

「了解、〝(ストーム)〟」


西で馬車が爆進する最中、その対極ではまた違った戦場が出来ていた。


「〝土部隊〟、敵が這い出るぞ〜!」

「「「「はいよ、〝土操作(ガイア・コントロール)〟」」」」


「……第一陣、後方へ下がりたまえ、第二陣、前進」


彼等全ての戦況を目に納めながら、指示を出す男……彼の名は〝プロフェス〟、検証と魔術、調薬のプロフェッショナルが集うクラン〝真理の開拓者トゥルー・コンキスタドール〟の長であり、〝魔術師〟のトッププレイヤーでもある、そんな彼はコーヒーを片手に戦況を見て顔を顰める。


「アリアナ、敵の規模は?」

「偵察部隊が総動員で〝使い魔〟を回しています、エリアを4つに分けた上での1エリアに殺到している敵の数は、1エリア2万程かと……歴史書に記載された過去最悪の規模と一致しますね」

「やはりか……加えて〝例の彼〟から貰ったサンプル、アレの解析は?」

「未だ難航中です……やはり〝彼〟とのコンタクトを優先するべきでしょうか?」

「それもこれも先ずは眼の前の面倒事を終わらせてからだ……全く、私もまだサンプルを触れていないと言うのに(ブツブツ)」


不愉快げに眉を寄せるプロフェス……知らぬ者から見れば心底怖い雰囲気の男に映るだろう……だが身内か、関わりのある者は〝彼〟がどういった考えをしているのか一目で分かる。


「今は作戦の最中です、鎮圧出来るまで外出は禁止ですよ……報告書に目を通して我慢して下さい」

「………少し催してね」

「ではログアウトを、この世界で排泄の機能は有りませんよ?」


この男、眼の前の大惨事よりも自身の好奇心を優先する気質なのである……何処かの誰かの同類と言える、因みにハゲ薬も料理(人造生命)も凡その原因が〝彼〟のせいなのだが調べるだけ調べて消えるので大体の犯人がその場に居たプレイヤーとなってしまうのである……この事を知っているのは副クランリーダーの〝アリアナ〟だけである。


「……仕方ない、君は頑固だからね、分かったよ……それにこのまま続けば問題も有るまい……はぁ」

(隙を見て逃げ出すか……)

(―等と考えているのでしょうね……)





●○●○●○


南方、防衛エリア。


「ふぅむ……暇じゃのぉ……」


南の戦線……そこは他の戦線と比較して、若干波が穏やかな場所だった、魔物の数は脅威だが、それ以外に警戒する要素は無く、毒も支給された薬品で事足りる程度、故か、南戦線の大多数のプレイヤーは若干の油断が生まれつつあった。


「こうして矢を射るだけ、趣向を凝らさねば眠ってしまいそうじゃなぁ……ふわぁッ」


――トストストスッ――


傍目から見れば適当に射ただけ……しかしそれを有識者が見れば、どれだけ異常か明白に分かるだろう。


相手との距離凡そ三百、そんな距離から和弓で射た3本の矢、それが大小バラバラな魔物の眼を貫く……それが1度だけならばマグレで済んだだろう。


――トストストスッ――

「右前足〜」


――トストストスッ――

「左前脚〜」


――トストストスッ――

「鼻の穴〜……退屈じゃなぁ」


欠伸をしながら矢を射る老人、その放つ矢は全てが宣言通りの位置を射抜き、的確に処理していく


「矢を射るのは飽きたのぉ……儂は斬り合いがしたいんじゃがなぁ……」


たった一人、櫓の屋根に座り瓢箪を煽る老人……彼の名は〝三郎丸〟、その〝額〟には人ならざる者の〝角〟が生えていた。










○●○●○●


「あれあれあれあれ?可笑しいなぁ、変だなぁ……何で潰されてないのかなぁ?」


森の奥に見える景色、それを見た影は眉を顰める……その目には苛立ちがあった。


「下等生物の分際で僕の計画の邪魔をするなんて、鬱陶しいなぁ〜……早く行けよウスノロ」


――パチンッ――

『『『『※※※※※※!?!?』』』』


影がそう良い指を鳴らす……すると眼の前でのそのそのと動いていた〝ソレ〟は絶叫を上げ、その移動速度を上げる……森の木々を破壊しながら、爆走を始める


「うん♪コレで良し!さぁさ、早く街を壊しなさ〜い♪」




僕の為にねぇ。




「ん?……〝監視者〟から通知………ほぉ!〝アレ〟の移動が速まった?……クッフフフ♪ コレは良い、同じ様な絵面で飽き飽きしてた所だったしな、まだまだお楽しみが有って良かった良かった♪」

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