狐耳の商会長
お祭り開始まで後1日、日課の様に成った白鳥でのティータイムを済ませ、俺は町中をふらついていた。
――ドンッ――
「チッ!気を付けろよな!(へっちょれぇちょれぇ)」
「あぁ、コレは済まない(おぉ、コイツ結構持ってるな、ラッキー)」
いやぁやはり人里は良い、こういった小悪党が蛆のように湧いている、お陰で資金に苦労はしない、この金で今度は新作のアップルパイでも頼もうか、こうして経済は廻るのだ……フフフッ♪
――カツッ……カツッ……――
――カツッ……カツッ……――
「………?」
――カツッ……カツッ……――
――カツッ……カツッ……――
「……あ〜……何か用かな? レディ?」
「……コチラを」
俺は背後をピッタリとくっついて来た眼鏡の女性へ問う……すると彼女は名刺を私へ差し出しす。
「ほむ……〝アラリア商会特別招待状〟?……アラリア商会と言うのは確かこの街で1、2を争う商会と記憶しているが?」
「はい、その認識で間違い有りません」
「そんな商会にこの様な待遇を受ける覚えは無いかと」
「会長直々の指示で御座いますので」
「ふむ……デックラード・フロネルガン会長殿とは面識も無い筈ですがねぇ」
まぁ良いだろう、別に困る程でもあるまいし。
「まぁ良いでしょう、案内をお願いしますね、レディ」
「ありがとうございます、そして私の事はリッタとお呼び下さい」
人混みに紛れて進んで行く、リッタは顔バレを防ぐ為かボロ布を纏っている……時折ぶつかってくる小悪党から財布を抜き取りつつ、俺は商会へ赴く。
「フフッ♪ 器用ですね♪」
「中々楽しいですよ?」
人混みの背後から「無い!?」、と言う声が聞こえたが……はて?財布でも落としたのかな?
〜〜〜〜〜
「コチラでお待ち下さい」
「では、御言葉に甘えて」
商会を通り、やけに豪華な応接室で紅茶と茶菓子を摘む……ふむ、ベクターやリーアに及ばないまでも中々美味だな。
『会長、例の客人をお連れしました』
『御苦労様、今から向かうわ』
(ふむ……確かデックラードは男だと報告書には有ったが?)
影を伸ばし、〝耳〟を生やす、其処から聞こえたのは二人の〝女の声〟、デックラードは男だと顔写真付きで報告書に載っていたので間違い無いと思うが、代替わり等報告に無いな。
(……となると……ふむ)
――ガチャッ――
「リラックスして頂けたかしら?……〝ハデス様〟?」
「えぇ、中々寛げました……おや?デックラード殿は男と聞いていましたが……随分と女性らしい男性ですね?」
扉を開くと共に、女性が声を上げる、ソレを横目に俺は少し戯けて話す。
(狐?……獣人か、しかし獣人にしては魔力が多いか……それにこの女)
俺の目に映るのは、人を惹きつける姿をした人に狐の耳と尾を生やした女性、その色は少しの〝落胆と興味〟を帯びていた。
「しかし成る程、中々の掌握術と経営手腕で……彼からこの商会を乗っ取るのは簡単でしたか?」
「ウフフッ、まぁね?……でも凄いわね、一目見て其処まで分かるのかしらぁ?」
「貴方こそ、よく〝偽装〟に惑わされず正体を知れたものだ、私も貴方に興味が湧いてきた……ねぇ? 悪性プレイヤー……〝タマモ〟殿」
俺の問に、彼女はますます好奇と興味、そして妖艶な笑みを深くする。
「流石は〝迷宮の悪魔〟、前々から思っていたけど、やはり観察力と頭脳がずば抜けてるわねぇ……ウフフッ♪やっぱり欲しくなっちゃうわぁ」
「さて、私を此処へ呼んだ理由は説明してくれるかな?」
戯れも程々に早速本題へ促す。
「フフッ、そうね……単刀直入に言うと〝貴方と縁を繫ぎたかった〟……それだけよ」
「ふむ」
「貴方の推察通り、通常プレイヤーとは違う〝悪性プレイヤー〟と貴方が総称するプレイヤーは数は少ないけれど居るの……まぁ貴方の様に街にすら入れないのは稀だけれど」
「それで?」
「貴方さえ良ければ……だけれど、私と手を組まないかしら?」
手を組む……用は協力者に成るという事だが具体的な話が見えて来ない。
「私はこの世界で一番の資産家を目指して遊んでいるの……そういったプレイの中で一番儲かる事業……それはぁ」
「〝死の商人〟、所謂武器商ですね」
「そう♪貴方が街へ魔物を仕向けて、私が人に武器を売る……そうして得た利益を二人で分けるの……良いでしょう?」
彼女の提案から得られるメリット……商会のコネとマッチポンプで得た資金。
「……ふむ、タマモ、君は少し勘違いしているね」
「?……何をかしら?」
俺は微笑みながらタマモを見やる
「それは〝人と人〟で、初めて成立する取引だ……〝人と獣〟では取引に成らんよ」
「ッ!?」
影が脈動し、至る所から腕が、目が、耳が口が顔が生える……タマモの〝色〟が〝恐怖〟を帯びる。
「こんな風に、金が欲しければ俺は奪う事が出来る……人がこういった蛮行に滅多に走らないのは〝理性と法〟が有るからだ、この世界において、俺は魔物であり、人類の敵対者で在る……君はその情報を既に得ていたろう?……君が私と同じ様な方法で、この世界に来た……それはそうなのだろう、だからこそ同じ境遇の者と寄り合い、利用し合う、それは悪く無い、賢い選択だ……だが、〝俺〟はそんな事どうでも良い、つまらない」
「人類を減らす……そう位置付けられた、俺自身がソレを選んだ、だがそうだとして俺は人類を全て殺す訳では無い、面白ければ生かしつまらなければ殺す……〝我欲に生きる存在〟、ソレが俺でありハデスと言う個体……確かに俺は街を襲うだろう、それをどうするかはお前で決めると良い、しかし生憎、俺はつまらない〝謀〟に協力する気は欠片も無い……面白ければ手伝ってやるがね」
「……」
からかう為に出した影を引っ込めて、呆然と俺を見るタマモへ声を掛ける。
「俺は面白いと思ったならば例えどんな結末であれ受け入れる……それが俺自身を滅ぼそうとな♪」
「……今の私ではお眼鏡に叶わないかしら?」
「さぁ? ソレを考えるのはお前自身だ……っと」
――ピロンッ♪――
軽快な音を鳴らし、タマモは目を見開く。
「コレは……」
「フレンド登録、折角〝種〟を見つけたんだこのまま捨て置くのも勿体ないだろう?」
「……貴方の事が良く分からないわねぇ」
「どう定義するかはお前の主観だろ……俺は〝俺〟だ」
「フフッ、私の負けね……でもまぁ、チャンスは貰えたし、収穫は有ったわ」
「愉しみにしてるぞ?」
茶菓子を数枚摘み、俺は応接室を出る。
「フフフッ♪交渉で負けたのは一体いつ以来かしら?」
〝嵐〟が去った室内で、紅茶を口に含み頬を緩める女性。
――ポリッ――
「……そうね、忘れてたわ……私、案外負けず嫌いなのよねぇ?……フフフッ♪」
「失敗したのに随分と嬉しそうですね、タマモ会長」
「あらリッタ……ウフフッ、そうねぇ、こんな感覚は久しぶりかしら?」
ゆったりと流れるときの中で、その女性は〝部下であり友人である〟、女性と楽しげに話を始めた。