限界死霊術師
「さて、今現在の手札は……うっそだろ」
意気揚々とステータスを弄った結果を見て、俺はそう呟く。
――――――――
【死霊術】
死体と魂を操り不死の化物を生み出す力
〈死霊作成:下級〉
〈死霊隷属:下級〉
――――――――
――――――――
〈作成可能死霊〉(マニュアル)
・屍人(素材が足りません(魂/肉素材))
・骨魔(素材が足りません(魂/骨素材))
・悪霊(素材が足りません(魂/魔石))
――――――――
「絶望的だなぁ……オイィ?」
敵を倒したらある程度手に入るとは言え……流石に初手から作成不能とはこの李白の目をもってしても見えなかった。
「……取り敢えず、目に付いた獲物ブッ殺すか」
何するにしても素材が必要だしなぁ……良し。
「近くの人間殺すか」
丁度近場に何人か居るし……な♪
――ダッ――
草原を駆け出し、初期装備の杖を取り出す……狙うは草原狼とやり合ってる戦士タイプ。
「その剣良いな♪俺にくれ♪」
「なッ!?PK!?」
俺の事を認識したらしい、その戦士プレイヤーは俺を見てギョッとした顔をする、それに相対している狼もだ。
「お?此奴もう弱り掛けか、よっと」
――ボコンッ――
「ギャンッ!?」
『草原狼を討伐しました!』
「ハイエナか――」
「おいおい、言葉より先に手を動かせよ?」
杖を振り上げ、戦士プレイヤーの……名前は〝マゴット〟か、マゴット君の顎をカチ上げる。
「う〜ん、尖ってりゃ刺しに行けたんだがねぇ〜?」
――ガッ――
――カランカランッ――
「ッ!?クソ――」
「……」
振り落とされた剣を拾い、尻餅をつくマゴット君の腕を斬る……深々と切り裂かれた故か〝部位破壊状態〟になり腕をダランとのばすマゴット君。
「ちょ、やめ――」
「うん断る、さぁさ、肉と骨と魂を俺に頂戴な〜♪」
恐怖を張り付けたマゴット君の言葉を待たずして、俺は男の喉元に剣を突き落とした。
『プレイヤーを殺害しました!』
『LVが上がりました!』
『"戦士の長剣"を奪取しました!』
『新称号〈外道〉を獲得しました!』
「お?良いね良いね〜……どんくらい強化されたかねぇ?」
――――――――
【ハデス】LV:2
【人間】
【死霊術師】
生命力:150
魔力 :175
筋力 :60
速力 :60
物耐 :60
魔耐 :75
信仰 :60
器用 :60
幸運 :60
―――――――――
―――――――――
〈外道〉
世間一般で外道と評される行為を躊躇無く行った者に与えられる称号
条件:一定以上の外道的行動
効果:通常NPCの心象低下
―――――――――
「ふむ……大した称号では無いな」
しかしやはり、魔力と魔耐は上昇率が良いな、信仰は知らん……そもそも死体弄くってる奴に信仰を説くのが間違ってるな。
「さぁて、ドキドキ・ワクワクのドロップは〜?」
―――――――
〈魂魄:人間〉
死霊に関した者にのみ集められる素材、人間の魂魄、死霊を作る上で欠かせない素材
―――――――
―――――――
〈死肉:人間〉
人間の死骸、死霊…主に屍人の作成に必要不可欠
―――――――
―――――――
〈骨:人間〉
人間の骨、主にスケルトンの作成に必要不可欠
―――――――
「ほほ〜う……中々、悪くない……?」
そいじゃまぁ、サクッと作るか。
「〝死霊作成〟」
言葉と共に俺から魔力の抜ける感覚がする……ソレと同時に取り出した素材が瘴気に呑まれる。
『ウァァァァ』
瘴気が晴れた……その場所には、凡そ世間一般の言うゾンビと寸分違わぬ存在が居た、君……何か腐ってない?一応新鮮フレッシュな死肉を使ったんだけど?
「元の質が悪かったのか?……能力値も……低、いな」
そんな始めての下僕第一号君のステータスハイドン。
―――――――――
【無名】LV:1
【屍人】(弱体化1/2)
生命力:50
魔力 :50
筋力 :30
速力 :10
物耐 :30
魔耐 :20
信仰 :10
器用 :20
幸運 :20
【保有能力】
〈悪食〉LV:1
〈痛覚無効〉LV:1
〈状態異常無効〉LV:1
〈聖属性脆弱〉LV:10
【保有称号】
〈ハデスの下僕〉
――――――――――
「よ、弱いな……ん?抑制状態?ナニソレ」
―――――――――
〈弱体化〉
死霊に適さない時間、場所な為、能力が制限されています
効果:全ステータス半減
――――――――
「………ごめんなさい」
「アァ……ウァ」
俺が素直に頭を下げると、心なしか屍人が狼狽えた様な気がする……いや、本当にごめん、雑魚とか言ってたけど無茶苦茶弱体化食らってたよ……ごめんよ我が下僕。
「しかし、弱体内容が半減って事は弱体化無しだと倍?……ならバチクソ有能では?」
足の遅さはちょこ〜っと、ほんのちょこ〜っと気になるけど
「取り敢えず〝ベクター〟、まずは戦って強くならねぇとな!」
「ウアァァァ?」
「お前は今日からベクターだ……え?不満?もしかして俺ネーミングセンス無い?」
表情も感情も分からないベクターはそのまま俺を見つめている……問題無いよな?
「良し、取り敢えずだ!ベクター!この平原のプレイヤー……殺して行こう!」
「ウアァァ」
序でに闇魔術も試すかねぇ……クフフッ♪
「ウア……ウアァァ」
『個体名:ベクターは〈ネームドモンスター〉を獲得しました』
○●○●○●
「ハッハァーッ!ベクター!脚狙え!〝闇球〟」
「ウアァァァ!!!」
「は!?不死者……がぁ!?」
素晴らしい、素晴らしいぞベクター!お前は理想的なタンクだ!
「何で……平原に……不死者が?」
「そりゃ、ベクターは俺の下僕だからなぁ、今は無駄話に興味ねぇし、ささっと素材落としてくれよ」
ベクターに指示し、首を掻き切らせる……コレで15人目だな。
『人間を殺害しました!』
「しか〜し、此処まで来ると死霊術の難点も見えてくるなぁ?」
「ウアァァァ」
俺とベクターの経験値配分、純粋に2人分の経験値が必要になる手前、下級死霊を育てるのは余程余裕がある時以外は厳しい、使うにしても物量の圧殺……しかしそれも物資量的に地獄。
「そ〜なって来ると経験値効率の良い獲物が欲しくなる……だが人間の魂を稼げる内に稼いでおきたいのも心情……ふぅむ、なぁベクター」
「ウアァ?」
死霊作成の際、ベクターの場合は1つしか素材が無かったのとお試し感覚だったんで素材量は少なかったが、作成にはかなりの量を使って高コストな死霊も作れる……さて、此処で1つ、現在ベクターのレベルは10、道中の魔物含め素材は2桁程有る、人間のは少ないが、それでも多少は賄えよう。
「少し、俺に改造されてくんねぇか?」
「ウア」
俺の問いかけに、短くそう返すベクター……そこそこの付き合いだ、大体何を言ってるか……は分からんが、抵抗の意思は無いのだろう。
「ありがとな、そんじゃあ、始めましょうかねぇ」
インベントリから今まで集めた人間素材を全て取り出し、品質が低いがコレまた希少な魔石を全て吐き出す……そして。
「〝死霊作成〟」
その一言と、俺の中の魔力がゴッソリ持ってかれる……ソレは渦を巻き屍を包む瘴気と成る。
「ベクター、入ってくれ……中にはそれなりの数の魂と死肉が有る、お前の自我が消える可能性も有る……自己を保てよ」
「………ウア」
俺の言葉を聞いて、瘴気に潜り込むベクター……さぁ、実験を再開しよう。
「〝俺は望む、俺に仕える忠臣を〟」
この実験はズバリ、ベクター……否、既に生を得た魔物そのものが死霊作成に干渉し得るのか、そして術者の思念がその作成結果に反映されるのか。
「〝俺は願う、我が従僕の新たな階位を〟」
瘴気が膨張し、胎動する……今まで見たことのない反応だった。
「〝不浄の徒、屍の従者、我は問おう、今至る貴様の名は?〟」
俺の問い掛けに、瘴気は胎動を一転、渦巻き収縮を始める。
「『私の名は〝ベクター〟、至高の主へ仕える、死霊の執事で御座います、我が主』」
その声と共に、瘴気は霧散する……その中心には、黒い執事服に身を包んだ、老人が佇んでいた。
『個体名ベクターが特殊個体へ進化します』
『屍人が〈下位執事屍人〉に変異しました!』
『〈死霊術〉のレベルが上がりました!』
『〈死霊術〉に〈死霊改造〉が追加されます』
「気分はどうだ?ベクター?」
「日中故本調子とは言い難いですが、概ね問題無く、我が主」
俺の問に流暢にそう返すベクター。
――――――――――
【ベクター】LV:1
【下位執事屍人】(弱体化1/2)
生命力:150
魔力 :150
筋力 :100
速力 :100
物耐 :125
魔耐 :100
信仰 :150
器用 :125
幸運 :100
【保有能力】
〈鑑定〉LV:1
〈体術〉LV:1
〈剣術〉LV:1
〈礼儀作法〉LV:1
〈生活魔法〉LV:1
〈聖属性脆弱〉LV:10
【保有称号】
〈ハデスの忠臣〉、〈ネームドモンスター〉、〈ユニークモンスター〉
――――――――――
――――――――――
〈ハデスの忠臣〉
プレイヤー:ハデスに忠誠を誓った証、それはただの忠誠と呼ぶには余りに固く、たった一人にのみ仕えると決めた、もはや信仰の域に到達した者へ与えられる称号
効果:ハデスから命を受けた際、その命を果たすまでの間全ステータスを微上昇
――――――――――
――――――――――
〈ネームドモンスター〉
その者の力を象徴するで無く、ただ個体として認められた者へ付く証
効果:無し
――――――――――
――――――――――
〈ユニークモンスター〉
この世に一人しか存在しない種族に与えられる称号、この称号は同じ種族が誕生すると消える
効果:無し
―――――――――――
「ほほ〜う……強くね? 俺より強くね?」
いや、部下が強くなるのは良いんよ、でも初期のスペックが圧倒過ぎない?ユニークだから?ユニークだからですかコノヤロウ。
――ガシッ――
――っと、イケナイイケナイ…落ち着け俺…個々人の格差等今に始まった事じゃない。
「オーケー……落ち着いた落ち着いた……まぁ何にせよ、ベクター……ちょっと前に殺した奴の言葉覚えてるか?」
乱れる思考を慌てて処理し……そのままベクターへ向き直り俺は問うた。
「無論で御座います、『何故此処に不死者が……』と」
「イエスッ!つまりこの周辺に不死者が頻繁に発生するエリアが有る!」
「其処で主様の手駒と成る素材を集める……と言う事ですね?」
「流石ベクター、良い読みだ、正にその通り……死霊の使えん塵芥共にみすみす狩らせるのも勿体無い、其処に居る不死者も、人間も須らく平らげるぞ」
「了解、我が主」
「と、言うわけで情報収集!その辺のプレイヤーに殴り込みだ!」
夕暮れまでまだ時間が有る……平原を進めば所々にプレイヤーらしき影が……どうも〜!ぶぇッ!?テメェ攻撃してきやがったな!?殺す!でも不死者のエリア教えて?はは〜ん西の廃教会?オッケーありがとう、じゃあ死ね。




