聖剣の主
さて、アレから数時間……1000の人間がそれぞれ200組を作り教会内を彷徨っていたが、現在、ベクターの暗躍とヴィルの罠の数々で20組、更に俺のちょっかいで更に10組が消えた……しかし、流石は討伐軍と言うべきか、廃教会の八割は踏破され、終着目前と言った所だ。
「ベクターもヴィルも最後の仕上げに行ってるし、そろそろ来るか……?」
映像を眺めつつ領域を少しずつ削っていく、うん、コレなら問題無く動けるな。
――バンッ――
「ん?何だ、もう来たのか」
俺が椅子から立ち上がり、身体の調子を確かめていた最中、部屋の扉が開かれ、五人の人間が入り込む……やはり、〝こいつ等〟が残ったらしい。
「お前が……此処の主か」
「ザッツラ〜イ、ゲームクリアおめでとう、〝アーサー〟君、私の事はベクターから聞いたかね?」
――ブンッ――
「おっと、危ないね、質問に応えないのはどうかと思うがね?」
俺の問に剣で返した、その男を見る……良いね、怒り、不快感、憎悪、殺意、侮蔑……見事に真っ黒な色をしている。
「〝聖剣開放〟」
彼の祝詞と共に剣が白く光る……ふむ、この不快な感覚、聖属性かね?
「後学までに聞いておくが、その聖剣は何だね?〝アーサー〟の名を冠する通りの〝栄光と勝利の剣〟と言う認識で問題無いか?」
「答える意味は無いッ……〝聖撃〟」
彼が振るった剣、その後に続く淡く白い斬撃……それを腕で受けてみる。
――ズパッ――
「ッ!ほうほう……威力は悪く無い、というより攻撃の通りが妙だな……効きすぎる」
それに傷口が聖属性に覆われ再生出来んな。
――ブチブチッ――
「シィッ!」
「邪魔だ、今考えてる」
千切った箇所を直していると、アーサーが剣を振るう、その腕を掴み止め、蹴り飛ばす。
「………ふむ、〝魔物へのダメージアップ〟、それか〝不死者及び悪魔〟への〝特攻〟?或いは両方か、何にせよその剣は俺の心臓を貫き得る力を持っているか」
立ち上がるアーサーを見据え、俺は考える。
「〝炎槍〟」
――グニィ――
――ボオォォッ――
女の放った炎の槍は床から現れた肉壁に防がれる。
「なっ!?私の魔法が」
「さぁ、まだまだ気張り給えよ!」
アーサーの首を掴み、壁へ投げ飛ばす。
――ドゴォォン!――
「ん〜……今ので死なんか、中々タフだな」
「貰った」
「残念見えてる」
アーサーへ向き直り歩みだそうとした瞬間、背後から刃を振るう男。
――ボコォ――
「ッ!…何……?」
背中から腕を伸ばし、鋭利なソレで腹を突き刺す、が辛うじて生きてるらしい。
――ドゴォッ――
「っと……案外元気だね、アーサー君」
「気安く呼ぶな、不死者」
俺とアーサーが睨み合う中、彼の仲間が合流す……る…おや、彼処の男は。
「おぉ!ガラハドも居たのか!久しぶりだね〜?……確か三日前の夜だったか?」
「……」
「っと、久しい顔に少し浮かれていたか、アーサー君は名乗ろうとせんし、仕方あるまい、私が名乗るとしようかね」
彼等全てが見えるように位置取り、名乗りを上げる。
「それでは改めて、俺の名はハデス、この領域を造った者であり、絶対的な人類の敵に位置付けられた者、悪の魔を騙る者だ、宜しく頼むよ守護者共」
良いね、全員が全員俺へ底知れぬ敵意を抱いている、少し戦意が増してきた……体力は2割削れたか。
「チェリャァ!」
「ん?」
俺の自己紹介を聞いて直ぐ、真横から声が響いた……其処には赤い髪の勇ましい女性が立っていた。
――ガッ――
「おや君は……成る程この世界の人間か、その上で此処まで生き残るとは想定外……全く嬉しい想定外と言える」
「クゥッ!?」
「セレーネさん!」
腕を引きその人間の腹へ蹴りを入れる、そのまま壁に衝突するかと思ったが、寸での所でアーサーが間に合った。
「――が、お忘れか?此処は私の領域だぞ?」
――グニャンッ――
「グァッ!?」
壁が蠢き、其処から肉の槍が突き出される。
――カランカランッ――
「ふぅむ……見てくれはやけに煌びやかな剣、刀身は白銀、赤い宝石が嵌め込まれた装飾剣だが」
――ボシュンッ――
「〝魔物・悪魔〟の俺が触れると触れた箇所が崩れる……中々厄介な剣だ」
「〝爆炎〟!」
――ボガアァァァン!!!――
魔術師の女が杖を向ける、その瞬間部屋全体が震える程の爆炎が俺の目先で発される。
「当たった!コレなら――」
そう確信する女の声が聞こえる……だが、残念な事に。
「オイオイ、この領域を創るのに一体どれだけ掛けたと思ってる? 領域の維持も大変なんだぞ?」
「………は?」
蠢く肉の繭を解き、俺は女を見据える、全く…もう必要無いとは言っても人の物を破壊するのはマナー違反だろう。
「で、君等はまた同じ手か?」
「「ッ!?」」
爆炎の余韻の中、煙と共に背後から接近する勇者君と女傑を吹き飛ばす。
「ん………はぁ」
「〝空絶〟」
ガラハドが放つ飛刃を弾く、なんというか、想定した以上に。
「うん、つまらん」
「「「「は?」」」」
「つまらんなぁ、お前等……折角此処までの舞台を用意して、到達した奴を楽しみにしてたのに、何なんだお前等? そこの女傑以外は動きも悪いし、機転も効かん、同じ動きの繰り返し、勇者に至っては〝恵まれただけの鈍ら〟ときた、守護者とはどいつもこいつもこんなのばかりか?」
俺の言葉に守護者共が憤怒を浮かべる、だがなぁ
「怒った所で正直………〝不愉快だ〟」
「グッ!?」
「「「「ッ!?」」」」
俺は少し殺意を流しながら全員を睥睨する……やはり、女傑以外は膝を付いたか、本当につまらん。
「与えられた力に甘んじ、研鑽を積まない、ただ偶然手に入れた力を十全に使い切れぬ癖に、さも自分が至ったと思い込み、自身が最強だと驕る、その癖に一丁前に正義を語り、自己を正義と自惚れ、挙げ句無意味で浅い絶望に打ち拉がれる………女神とやらも聖剣自身も、選ぶ勇者を間違えたな……なぁ、女傑殿……確かセレーネと言ったか」
俺は唯一俺を睨むセレーネへ微笑みかける、敵意と殺意、しかして胸中に微かに感じる愉悦を〝視る〟。
「お前等はもう良い、サッサと〝去ね〟」
――ドシャアッ――
俺はそう言い四人全ての首を刎ねる……領域に残るのは俺とセレーネただ独り。
「999人を殺した、俺本来の目的は此処で終わり……後はこの肉諸共領域を崩壊させれば君も殺せて終わり……だが」
――ピィィンッ――
「それではつまらん、故にこうしようか」
「ッ!」
俺は声と共に扉を移動させる……教会の入口の扉を。
「今現在、此処以外の領域は崩壊させた、領域維持ももはや不要となった、彼処の扉と俺を同調させる……脱出条件は俺を殺す事だ、分かるか?」
――ガッ――
「こういう事……だろ?」
「素晴らしい」
俺の言葉と共に彼女が殴り掛かる……それを止め、蹴りを放つ。
「チィ!」
「フッ」
――ブンッ――
――ドシャアッ!――
彼女の腕を掴み壁へ投げ飛ばす、その勢いのままに壁へ激突する。
「グ……ッ!?」
「フハッ♪」
――ドゴォッ――
一瞬の差で彼女は追撃を逃れる、全く良い判断力、益々欲しい。
「決めた、セレーネ……君が俺に負けたなら仲間になれ」
「ハッ!嫌だね!」
「決定事項だ!」
「やってみろ!」
一瞬の空白、接近……そのまま至近距離での肉弾戦が始まる。
「クゥゥラァァァ!!!」
彼女が殴り、蹴る、対応して弾き、躱す……拳を、脚を、技を全て。
「ハッハハハッ!」
とても愉快だ、殺意が、敵意が、裏表のない純粋な〝戦意〟と成って、戦いに生きる者全てが抱く〝愉悦〟を感じさせながら俺へ向けられる。
「クッ……フフフッ!」
「愉しいだろう、そうだろうさッ」
彼女の顔が愉悦に歪む、とても恐ろしく、無邪気に、狂気的に、美しく艶めかしい笑みを、きっと俺も同じ顔をしているのだろう、いやともすれば彼女よりも悍ましく、醜く――。
――グシャァッ――
「ガ……フッ……」
そんな心地良い夢の中で、ふと現実に引き戻される……気が付けば室内は凄惨を極め、彼女の腹には俺の腕が突き破っていた。
――ガッ――
「〝神落〟」
「ッ!フフッ♪マジかッ!」
死に体で腕を掴み、ソレを支えに俺の頭へ振り下ろされる、〝神を引きずり下ろす拳〟。
――グシャァッ――
ソレを避けること無く頭に受ける、そして俺の頭は弾け飛んだ。
「『……俺の勝ちだな?セレーネ』」
「あぁ、クソッ……ホントにどうなってんだよ、アンタは……何で頭を吹っ飛ばされて生きてんだ」
悔しそうに、不愉快そうに……しかし、それ以上に満足そうに彼女は言葉を並べる。
「『いや、正直危なかった……後一撃受けてたら死んでたよ……この身体はな』」
「結局は死なないのか……勝ち目は無かったのかい?」
「いんや、君一人なら俺を殺せないまでもそれなりに削ってたろうな、アンタが四人いれば殺れただろう……俺本体はこの3倍程度しかないからな」
「過大評価だね……後十人位必要」
「そうか?……まぁ何にせよ、楽しめたかね?」
俺の問にセレーネは瞳を瞑る。
「……私は、生まれたときから喧嘩が好きだった、戦いが大好きだった」
何処か切なげで、酷く退屈そうにそう言う。
「戦って、戦って、勝って、強くなって……また強い奴と戦う……それが楽しくて、面白くてさ、だから女がどうとか言う奴等をぶっ飛ばして、神様に仕えるなんて御免だって叫んでさ、冒険者になったんだ」
「楽しかった、初めて見る魔物、初めて戦う相手、1日で終わる戦い、何日も続いた戦い、何度も死にかけて、その度にまた戦いたいって思って……気付いたら〝Aランク〟だとか言われたよ」
「何時からか、私に擦り寄る奴等が増えた、自分達の力を誇示する為に、自分達の権威を示したいが為に、金目当てで素材目当てで、引っ付いてきてうんざりした」
「魔物も私を見て逃げる奴が増えた、向かってくる馬鹿も居たが面白く無かった……知ってるか?この依頼を受ける数時間前に、私はこの街を出るつもりだったんだぜ?」
「そうなのか」
「この依頼を受けたのも、馬鹿みたいに強い不死者が居るって聞いたからだ……最初は誇大表現だと思った、でも最後の賭けも悪く無いって思ってさ、受けたんだよ………そして」
「そして、俺に出会った、と?」
俺の言葉に可笑しそうに頷くセレーネ
「初めて遭ったあの瞬間、震えたよ……〝底が知れない〟って、昔戦ったどんなやつよりも、アンタより強い奴も居た、アンタ本来の強さ以上の奴も、でもソレ以上に、アンタは〝強い〟……そう思った、結果はこの通り、予想通りだったよ」
セレーネはその赤い瞳を俺へ向けて言う。
「私の負けだ……〝好きにしな〟、〝アンタに付いてく〟」
そう言うセレーネの顔は、とても可愛らしい少女の様に見えた。
「……いかんな、セレーネ」
「ん?何がだい?」
俺はセレーネを見つめてそう言うとセレーネは困惑げにそう聞き返す。
「何と言うか、お前のさっきの顔、凄く可愛かったぞ」
「………は?」
「………うん、やはり可愛いな」
「……は?」
「駄目だ、頭が腐った……悪いが死んでてくれ、後でまた新しく創り直す」
「は――」
――グシャッ――
「………何だったんだ? さっきのは」
――ガタガタガタガタッ――
でもまぁ、目的も、良い拾い物も出来たし、結果は上じょ――。
――――グシャァッ――――
〝Fantasia・Another・World〟
全員がプレイヤーがその情報を耳にし、目を疑った。
現在最高峰のプレイヤーと冒険者で編成された討伐軍凡そ千人、たった二人の不死者を討伐に向かい。
――壊滅――
冒険者ギルドはその報告を受け、既存の情報と守護者が持ち帰った情報を鑑みて。
不死者〝ハデス〟を危険度Sに認定、ソレを耳にした冒険者の内Sランク冒険者が〝西の廃教会〟へ向かうも。
其処には半壊した廃墟と、無茶苦茶にされた墓地だけが残っていた。




