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Deadman・Fantasia〜死霊術師の悪役道〜  作者: 泥陀羅没地
第一章:獣の厄災と強欲の魔女
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不浄の掌

――ザッ……ザッ……ザッ……――


陽の昇る早朝……影を踏み、静かに進軍する者達が居た……統一感のない、凡そ軍とは呼べぬ者達、しかしその胸元には剣の形に掘られたバッチが着けられている。


「コチラ〝パーシヴァル〟、目標を認識した」

『了解、其処で待機、他の配置を待て』

「了解……どうだニア、何か分かるか?」

「パーシー、此処ヤバイよ、凄い〝汚れてる〟、日中なのに不死者が沢山出過ぎてる」

「成る程……此処に居ると思うか?」

「多分……あの教会の中が特に濃い」


多分居ると思う……その声を聞いて、皆の顔に緊張が宿る、相手は円卓で最も戦闘能力の高いガラハドすらも下した化物、ソレを考えれば当然だ。


『コチラ〝アーサー〟、全部隊の配置が整った、作戦を前進させる』


開始の声が皆の前に響く、とうとう始まる、殲滅戦が、掃討戦が、或いは死戦が……そして待つ。


『〝討伐軍(レギオン)〟、進軍せよ、〝魔術部隊〟、〝結界展開〟』


――ザッザッザッザッ!――


そして、そしてとうとう、人と人ならざる悪意の第一の戦争が始まった。



――ジ〜〜〜――



『ウェルカム?歓迎するよ、人間達(塵芥共)




●○●○●○


現実でアレコレとやる事やって、ログインした後。


――カチャッ――


「ん……美味い、相変わらずの良い腕だなベクター」

「恐縮に御座います」

「プファッ!こりゃ美味い、酒以外に美味いと感じたのは初めてじゃ!」


西の廃教会、其処に作られた新たな部屋で俺とベクター、ヴィルはお茶会をしていた……眼の前に照らされた映像を見ながら。


「包囲陣による掃討……警戒心が強いのか、中々入ってこんなぁ?」

「相手もどうやら結界を展開している様です、我々を逃さぬ気かと」

「つっても、俺等はそもそも〝本体〟じゃねぇがな!」


そう、俺達のコレは本体じゃ無い……死霊術で創り出した〝肉人形(ドッペルゲンガー)〟だ、能力は1/10に制限されるが、大した問題ではあるまい。


「雑魚は散らしたか……そろそろ中に入るかね?」

「楽しみだなぁ!俺と主が造った〝合作〟、奴さんはどうするかねぇ?」

「それでは、私が彼等を歓迎しましょうか」

「おう、行って来い」


――パチンッ――


「さてさて、〝不死者の舞台ノスフェラトゥ・ステージ〟へようこそ」


ウェルカム? 歓迎するよ人間達。



○●○●○●


――バンッ――


「ッ!?コレは……」


蹴破る様に廃教会の扉へ飛び込んだ彼等……〝アーサー一行〟はその異様に目を見張る。


「どうなってる……?」


見渡すは古くおどろおどろしい石壁、それ自体は何ら問題は無い……しかし〝広い〟、明らかに入口の構造と矛盾したその場所に、トッププレイヤーと優秀な冒険者の皆は警戒を強める。


「ようこそお越し下さいました、〝円卓〟及び〝冒険者ギルド〟の皆様」


――ッ!?――


声が響くと同時に、全員が攻撃を放つ。


「おやおや、コレは失礼、気が立っている事を失念していました」

「ッ!?お前はガラハドが会った」

「テメェ!」


攻撃と共に砂埃が舞う……だが、それは標的の男に当たることはなく、その男は静かに後ろで佇んでいた。


「ガラハド……あぁ、私が敗北した男ですか、成る程、ガラハドと言うのですか……その節はどうも、っと……申し遅れました、私は〝ベクター〟、至高の主である我が主へ仕える〝執事(バトラー)〟で御座います」


そう恭しく礼をするベクター、しかしアーサーは敵意を込めて問う。


「貴様等の目的は何だ?」

「〝人類を減らす〟事……と言うのは建前ですね、我が主の目的は〝愉しむ事〟です」

「何?」


人類を減らす……そう聞いた瞬間、全員が殺気立つ……しかしその後に続いた言葉に、皆が怪訝な顔をする。


「言葉通り、主様はこの世界を愉しむ事を目的としています、世界に破滅と混乱を撒き、その中で起きる悲劇、喜劇、惨劇、破滅、復讐……その物語を楽しむ、それが主様の目的」

「巫山戯るな、そんな事を許すと思うのか?」

「許す許さないではなく、行うのですよ、円卓の長、アーサー殿……さて、挨拶も程々に、私は消えるとしましょう、それでは人間の皆様、どうぞこの〝不死者の舞台〟をお楽しみ下さい」

「ッ待て!」


その言葉は、既に消え去ったベクターに届く事は無かった。


「………リアナ、通信は?」

「申し訳ありません団長、妨害され外部との通信が取れません」

「ッ!おい!入口がねぇ!」


その声に殆どの者が背後を見やる、其処には入口として有った筈の扉が消え、薄暗い石壁だけが存在していた。


「進むしかない、行くぞ」


唯一冷静さを保っていたアーサーが指示を出す……こうして、彼等の地獄は始まった。



●○●○●○


「よ〜し、1000人ちゃんと入ったな……」


何十ものパーティーの映像を流し見て紅茶を啜る……現在は俺以外は出払っており、二人が二人のやり方で彼等を殺していく。


「ま、此処に入った時点で詰みなんだがね?」


後はこの肉人形を壊すだけでこの異常空間……改め〝無有融合領域型死霊ノスフェラトゥ・ラビリア〟(ヴィル命名)は崩壊し、天井や地面が崩れ、全生命を押し潰す……ソレをしないのは単につまらないからだ。


「まぁ俺達は死なんが………精々彼等の絆を見させて貰おうか♪」



「願わくば、俺の元まで辿り着いて欲しいがね」





○●○●○●


「チッ!どうなってんだよ此処はッ」

「駄目だ、やはり外への発信は出来ない」


四人組のパーティーが、通路を進む……薄暗闇に仄明るい照明を頼りに。


「ボスとの通信は?」

「駄目だ、どうやったか知らねぇが、誰とも連絡が取れない」


――ドコンッ――


「ッし!壁は硬くねぇぞ、コレなら外……へ?」


話し合いの最中、一人がその剛剣を壁に押し付けた……その刹那壁は破砕音と共に砕け、砂埃を舞わせる、それを見た男は口角を吊り上げて進もうと足を伸ばし……その後の光景に眼を奪われてしまう。


――ギロォッ――

――グチュチュッ――


壁の先は……暗い闇と、悍ましい肉が有った……其処から彼等を見つめる一つの眼が、じっと、じぃっと彼等を見据えていた。


「『器物破損とは関心しないな?』」


影が蠢き、口を造る……すると口はその言葉を紡いだ。


「『それに立ち尽くすのも悪手だな、ベクター』」


――トンッ――

「主様、既に終わっております」


背後から響いた男の声、それを聞き、振り返ろうとした瞬間。


――ドスッ――


喉を貫く刃に、男は倒れ伏した。



〜〜〜〜〜


「さて、初めの脱落者が出たな……コレで此処の事も少しはバレるか」


まぁその程度は大した事ではない、で……ヴィル……は……?


「オイオイ……マジ?」


映し出された複数の映像……至る所に仕掛けられた〝罠〟の山……この広範囲に途轍もない、それも致命的な罠を一人で撒いたのか……。


『見てんだろ?主?中々良く出来てるだろ?』

「『流石だな、ヴィル……其処がお前の狩場か』」

『おう、今から人間が来るのが楽しみだなぁ?』

「『ん〜……おぉ、3組が近くに来てるな、通路通って合流しそうだ』」

『ソイツは良いな、慌てる奴等が楽しみだ!』




●○●○●○


「おい、出口まだかよ〜?」

「うるせぇ!テメェもちゃんと探せよ!」


道を掛ける五人組……彼らの名は〝戦風の狼〟、冒険者ギルドでそこそこの腕を持った〝Cランク〟パーティーであり、討伐軍に報奨金目的で参加したこの世界の人間であった。


「さっきからずっと見られてる……いつ襲われるか分かったもんじゃない……だから討伐の参加は嫌だったんだ」

「あぁ!?俺が悪いってのか!?テメェは何も言わなかっただろうが!?」


凡そ数十分と続く移動、絶えず纏わりつく視線、淀んだ空気と悪臭……そのすべてが少しずつ、少しずつ、彼らの〝理性〟を蝕んでいく、視野は狭まり、冷静さを取り除いていく、憤怒が溜まり、罵声を吐き、さらにストレスを貯める悪循環……故にほんの少しの〝サイン〟を見落とした。


――プッ――


「黙れ!今は早く――」


――バカッ――


「「「ッ!?」」」


罵声は突如、床が開き落ちるという異常によって遮られる……そして。


――ドスッ――


頭蓋を、腕を、腹を、脚を……底に生え並んだ槍によって彼等は悲鳴も、絶望も無く、無情に刹那的に殺されて逝った。


――グチュチュ――


壁は動き、屍を取り込んで行く……開いた穴は埋められ、その場にはまた、悪寒のする不穏な静寂が鎮座していた。


『先ずは一組』


同時刻、またしてももう一組が、その悪意の罠へ捉えられる……。



〜〜〜〜〜〜


「クソッ!?どうなってやがる!?」

「ッ!?声だ!おい!お前等!」



通路を駆け抜け、広場へ出た……今までと異なる状況で、現れ出たのは2組の人間達、守護者の一組と住民の一組。


「無事だったか!」

「ッお前等!」


敵地の真ん中、精神を啄む不変の景色、絶えず響く仲間の悲鳴、そんな最中漸く出会えた生きた仲間、それを見て、互いに安堵の表情を浮かべる。


「俺はクレイル、アンタは?」

「俺はヤクシャダイコン!守護者だ」


互いに合流しながら、情報交換を行う。


「―――……取り敢えず、此処の脱出ないし、此処の支配者の無力化を目的に動く、俺は脱出派だ」

「俺もそれに異論無い……決まりだな」


小休止を終え、皆で残りの通路へ向かう。





○●○●○●


原住民と合流した後、脱出の為に通路を進む……未だ敵性存在が来る事は無いが、徐々に精神が擦り減るのを感じる……早く離脱しなければ。


「アリー、どうだ?」

「クレイル、問題無い、敵の気配も罠の気配も無い……進もう」


原住民の斥候がそう告げる……こう言った場所だとやはり頼りになる、俺達も斥候をパーティーに組み込むべきか?


――カッ……カッ……――



通路を進み暫くして……俺達は脚を止めた。


「行き止まりか……?」


俺達の視線の先には、通路を断つ様に大きな穴が空いていた……とても渡れそうに無い。


「……仕方ない、一度戻――」


――ドンッ――


その瞬間、俺達は背中を押され、崖に身を投げ出した。


「なッ!?」

「悪いな守護者、俺達はこうするしか無いんだ」


冷たく見下ろし、クレイルはそう告げる……どういう事だ?


「守護者は不死身なんだろ? 悪いが生贄になってくれ」


その問いを返す事も出来ず、俺の意識は闇に呑まれた。





――グズズズッ――


「……行くぞ、出口だ」


穴が塞がり、道を進む……その先には、見覚えのある教会の扉が鎮座していた。


仲間が歓喜の声を上げて駆け出す……そして教会の扉に手を掛け、開き、俺達は外へ飛び出した……。



「いやぁ、やはり裏切りはいつ見ても愉快だなぁ?」


その、筈だった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] うん、解らん。 運営が如何いう意図で悪性勢力以外のプレイヤーを「守護者」という設定にしたのがマジで解らん。 第一話で称号を持ってるからNPCにあった直ぐに殺されたのでNPCの行動は当…
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