小さな牧場のキセキの馬
ブリーダーズカップ・クラシック
アメリカで毎年持ち回りで開催される「ブリーダーズカップ・ワールド・サラブレッド・チャンピオンシップ」のメイン競争であり、名実共に世界一のダート馬を決めるレース。
この話は、小さな牧場出身のあの仔が世界一のレースに挑戦する。それを綴る物語
3月15日、まだまだ雪が降る牧場であの仔は産まれた。
父は昨年のリーディングサイアー、母は米国のG1競争を2勝してる名牝・ホワイトペッパー。
いわゆる「良血馬」というやつだ。
牧場も誕生をまだかまだかと待っていた、「期待の仔」
しかし、その仔は同世代の子達と比べても目立つような存在ではなかった。
少しヒョロリとした体型に、青鹿毛の馬体、額には小さく星型の流星がある、男の仔。
目立つところといえば、すごく人懐っこいところだった。
そうだ、この物語は、私……瀬戸怜子の基本一人称で動いていく。
私は、この仔が産まれた牧場で昨年から働き始めてる、新人だ。
私にとって、「初めてのお産」がこの仔だった。
数日後には初めての放牧をして、母馬の元ですくすくと育っていく。
そして、親離れをするんだ。でも、私はこの仔が心配で仕方ない。
ずーっと母馬にべったりなのだ。人間にも甘えるし、母馬にもとことん甘える、甘えん坊だった。
気付いたら牧場内では「甘くん」と呼ばれるまでに……
一気に話は飛ぶが、甘くんは無事に親離れも終えて、セレクトセールに出される事になった。
当歳としてセレクトセールに上場する。
代表の青嶋さんは、「買い手が付くか…」と震えた声で甘くんを送り出した。
結果、甘くんは日本では有名な馬主さんに2000万円で落札された。
まずは、第一歩、競走馬としてデビューする為の一歩が踏み出せた事に私は安堵した。
そういえば、普段苦虫を噛みつぶしたような顔ばかりしてる青嶋さんも、なんだか笑ってたような気がする……
第一章はこのくらいにしておこう。
これを綴っていくうちに、私はなんだか眠くなってきてしまった。
あの仔も、もう眠いだろう。