現実発、ファンタジー行き。切符はこちらです。
今回の短編、主人公の目線で書きましたが、主人公自身の1人称(私、僕、俺など)が最後まで一切出てきません。主語がなくても成立するあたり、日本語って面白いですね! また、性別を示すような表現もなるべく避けたつもりです。
この物語の主人公は、自分自身でも、友人や家族、大切な人でも、好きな人を思い浮かべて楽しんで頂けると幸いです。
なお、なんか良い感じのハッピーエンドを迎えますので、嫌いな人をわざわざイメージする必要はないかと思います。でもまぁ、好きに楽しんでいってね!
がらんどうの駅構内。
だあれもいない。
耳をすませば、雑踏と喧噪も……聞こえなくなっていた。
どうしたんだろう? ストライキかな?
けっこう大きなターミナル駅のはずなのに、お客さんも、駅員さんも、見当たらない。
おかしいな。どうしたのかな。
しかし、日々の習慣とは恐ろしいもので、当たり前に流していく。
電力会社さんはがんばってたみたい。
券売機はきちんと動いている。なら問題ない。
しかし、駅員さんがいないためか、売っている切符はひとつだけ。
現実発、非日常行き。往復券を1枚買った。
改札を通り、ホームへ向かう。
電車は既に停まっていて、乗り込むだけだ。
駅員さんも運転手さんも、だあれもいない。
電車が動くわけもなく、座席でしばし休んだのち、立ち上がる。
電車を降りて、改札口へ。
「ありがとう」と印字された切符を、改札機に入れた。
†
世界は奇跡に満ちている。
ただ蒼いだけの空が、ただただ輝いてみえた。
こんなに眩しかったっけ? そんな疑問も空に解けてった。
うつむいてなんていられない。気付けば背筋が伸びていた。
よどんだ空気を吐き出して、清浄を取り込んでいく。
身体と、心と、思考と。いずれも力が満ちていく。
人々が行き交う道をゆく。
すれ違う人たちは、どこに向かうのだろう?
先ゆくひとりが、道をそれた。
そう思えば、別のふたりが、この道へやってくる。
きっと目的は違うけれど、ひとりじゃないことが嬉しくて。
信号は赤だ。立ち止まる。車が横切る。
ダンプカー、アスファルトのにおい。近くで工事かな?
なにげなく踏みしめるこの道も、作ろうと言い出した誰かがいる。
予算や資材をかき集め、人も集めて、作って伸ばして、痛めば直して。
その繰り返しの営みの中で、世界の果てまで続きそうな道ができる。
青信号。前へ。ちょっとしたルールを守ること。
みんなが上手くやっていくための、さりげない工夫。
自動で色が変わる仕組み。音が鳴る。目が見えない人への配慮もある。
視線を下げれば点字ブロック。これも誰かの優しさだ。
すこしでも、だれとでも、この道をいけるように。
あ、子供が転んだ。泣いた。母親があせる。
どうしよう、絆創膏ぐらいならあったかな?
そう思った矢先、通りすがりの学生さんが駆け寄る。
カバンの中身におどろいたのか、子供が泣き止む。いたいのいたいの、とんでった?
消毒薬に綿とピンセット、ガーゼにテープ。どうやら看護学校の実習生らしい。
かなしいこともあるけれど、いずれはきっと立ち上がる。
そして、また道をゆく。その道は、交わったり、分かれたり。
なんだか、無性にうれしくなって、笑みがこぼれる。
なんてことない奇跡にあふれた世の中が、そこにあることに。
その中のひとりであることが、妙に誇らしかった。
用事を済ませ、帰り道。さあ、おうちに帰ろうか。
夕暮れが世界を染める。また駅に向かう。
心地よい疲れ、なんか充実感?
悪くないね、こういう日々。
行きに比べて、帰りは早い。もう駅に着いてしまった……。
†
がらんどうの駅構内。
だあれもいない。
財布から帰りの切符を取り出し、改札口へ。
動かない電車に乗って、降りて、戻って……。
「あたりまえ」と印字された切符を、改札機に入れた。
†
くたびれた身体を引きずって、気付けば家に辿りつく。
ああ、今日は本当に疲れた!
なんか色々とあった気はするけれど、珍しいことでもないような気もした。
繰り返されるだけの、当たり前の日々だ。
夕飯を食べて、風呂に入る。寝るまでに、あとすこし。
疲れと眠気がない交ぜになる時間。
気に入りの1杯でリラックス、なんか幸福感?
ありふれた1日がまた終わっていく。
水底の澱のように降り積もっていく日々だ。
歯を磨いて、あくびをひとつ。そろそろ寝るとしよう。
明かりを消して、身を横たえる。
おやすみなさい。また明日……。
†
そして、きっと明日も駅に行く。
そこは、奇跡が当たり前になる、そんな場所だ。
最悪魔王「何を良い感じのラストにしているのだ!? かくなる上は――」
???「うわなにをするやめ(ry」
最悪魔王「くくく、ふふふ、はーっはっはっは! 残業続きの作者の精神など、乗っ取ることは容易いわっ!」
???「こ、この世は金が全て……?」
次回、『それいけ!キャピタリズム号』敬老の日、休日を捧げよ!(びしっ ……とのことなので、なるべく近日更新したいと思います、はい。
あとがき下のところから、評価を頂けると作者のテンションが爆上がります。よろしくね!^^