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ネイのまごころ屋台  作者: もあいぬ
第六章:東の森
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東の森(2)

 拠点(キャンプ)地の夜は()けてゆきます。


 ランクさんと、ルィンリルと名乗ったエルフの少女とは、二人ならんで焚き火の前に座ってます。エルフは眠らないものだと聞きますが、ゆったりと目を伏せて弛緩(リラックス)している様子は、微睡(まどろ)んでいるようにも見えます。

 揺らめく炎に照らされる美男子と美少女、すばらしく絵になる光景です。


 クロムさんは、向こうのパーティの前衛職(ヴァンガード)ふたりと、組み手のようなことをしている様子。明日以降の予行演習、もし共闘した場合の立ち回りを確かめ合っているのでしょう。

 一見すると、激しく複雑な舞踏(ダンス)を、互いに披露しあっているようにも映ります。


 従者スレープさんは、先方の土精(ノーム)の男性に何やら話しかけられています。移動式(かまど)の仕組みについて興味を持たれたようです。

 たしかに、良くできた絡繰(ガジェット)です、なんでも火の魔法と防火の魔法とを組み込んである特注品だとか。


 ザイクさんとフオコさん、それから、ラプトルと名乗った先方のリーダーの派手な男性は、地図を囲んで話し込んでいます。

 話題は、これからの進行計画についてのようです。もしこうなったらどうしようああしよう、と、フオコさんとラプトルさんにひとしきり話させてから、最後にザイクさんが決める……多分、ザイクさんがそういう流れを作って、話を進めています。


 ステラさんは、早々にお休みになりました。厚手の外套(マント)にくるまって、私の隣ですうすう寝息を立てています。休むべきときに休めるのは、冒険者を長く続けるにあたって大事な特性ですね、きっと。

 私も、眠気を抑えきれなくなってきました。荷の中からもそもそ毛布を取り出して、我


 吾


 (あ、あれ?)


    嘯


* * *


 おとうさんが、くらいかおをして、うちにかえってきました。


 おとうさんが、おかあさんにいいました。だめだな、もう、もりじゅうにひろがっている。


 おかあさんが、かおをおさえて、わあっとなきだしました。わたしはびっくりしました。おかあさんがなくところなんて、みるのははじめてでした。


 おとうさんは、かおをくしゃくしゃにして、おかあさんとわたしを、ぎゅうっとだきました。


 こわいおとが、どこかとおくから、きこえてきました。きゃあとだれかのさけぶこえ。がつんとなにかのこわれるおと。ずしんとゆれる。しずかになる。また、ゆれる。


 だいじょうぶだよ、だいじょうぶだ、かみさまはおれたちをみてくださっている、かなしくもひもじくもない、あたたかいあかるいよいところに、おれたちはじきにゆくんだよ、おじいさんもおばあさんもおれたちをまっているよ。おとうさんはおおきなこえで、そういいました。


 こわいおとは、だんだんとちかくになります。ぎゃあ。ごりん。ずしん。ぐぎゃあ。がいん。ずしん。がぁあ。ばきばき。ずしん。ずしん。ずしん。


(……んん! これは普通じゃない、只の夢じゃない、なんですこれ? 違います、私は私、モージとララの子ネイです。 こんな光景は知りません。 彼は父ではなく、彼女は母ではなく、少女は私ではあり ま  せ  


 わたしはこわくなって、なきだしてしまいました。おかあさんもないていました。おとうさんもおおきなこえで、おいのりをしながら、ないていました。

 うちのすぐそばまで、こわいおとがきました。ばきん、とうちのかべがくずれました。そとからぬっとはいってきた、くらくておおきなかげが、ぶうんとおおきなうでをふるって、おとうさんがいなくなりました。もうひとつのかげがおしよせてきて、おかあさんもいなくなりました。もうひとつのかげがてんじょうをやぶって、わたしも


(『心理探査(マインド・スキャン)』、対象は私!)


* * *


「……っは!」


 私は、どうにか意識を取り戻しました。

 あうー、ずきずき頭が痛みます、自分自身の心を読んだ(スキャン・マインド)りするからです。……ですがおかげで、「私の心を読む私」の無限ループによる精神短絡(ショート)で、あの謎めいた災厄の光景(ヴィジョン)から脱することができました。


 仲間たちが心配げに、私を囲んでいました。

「ネイさん、地縛霊(プレイス・メモリー)に捕らわれていたみたいです」ほっとした顔で、フオコさんが言いました。「悪質なものではないようですが、とても強いものです。どうも、只人(ヒューマン)の女性だと同調(シンクロ)しちゃうみたいで……。」

 フオコさんの視線を追うと、私の隣で寝ていたはずのステラさんが、意識を失ったまま(ひど)(うな)されている様子です。向こうの冒険団(パーティメンバー)が、おろおろと周りで騒いでいます。ルィンリルさんなんかもう、泣き出してしまってます。


「揺すっても叩いても起きないらしい、尋常じゃ()ぇ。」ザイクさんが私に言いました。「寝起きで(わり)ぃが、ひと仕事を頼みたい。あんたの精神魔法で何とかならんかな。」

 皆の目線が私に集まります。ルィンリルさんは流れる涙を(ぬぐ)いもせずに私を見つめてきます。

「やってみます」

 正直なところ、頭痛は治まらないし、あの悪夢の正体は不明だし、先ほどの災厄にまた向き合うのだと思うと背筋が寒くなります……が、ザイクさんの見立て通り、間違いなく私の守備範囲の仕事です。ステラさんをほっとくわけにはいきませんし、ルィンリルさんを泣かせたままにも出来ません。

 私は深呼吸して覚悟を決めると、杖棒(ワンド)を手にとって小さく詠唱し、普段よりも丁寧に、『心理探査(マインド・スキャン)』をステラさんへと投げかけました。

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