東の森(2)
拠点地の夜は更けてゆきます。
ランクさんと、ルィンリルと名乗ったエルフの少女とは、二人ならんで焚き火の前に座ってます。エルフは眠らないものだと聞きますが、ゆったりと目を伏せて弛緩している様子は、微睡んでいるようにも見えます。
揺らめく炎に照らされる美男子と美少女、すばらしく絵になる光景です。
クロムさんは、向こうのパーティの前衛職ふたりと、組み手のようなことをしている様子。明日以降の予行演習、もし共闘した場合の立ち回りを確かめ合っているのでしょう。
一見すると、激しく複雑な舞踏を、互いに披露しあっているようにも映ります。
従者スレープさんは、先方の土精の男性に何やら話しかけられています。移動式竈の仕組みについて興味を持たれたようです。
たしかに、良くできた絡繰です、なんでも火の魔法と防火の魔法とを組み込んである特注品だとか。
ザイクさんとフオコさん、それから、ラプトルと名乗った先方のリーダーの派手な男性は、地図を囲んで話し込んでいます。
話題は、これからの進行計画についてのようです。もしこうなったらどうしようああしよう、と、フオコさんとラプトルさんにひとしきり話させてから、最後にザイクさんが決める……多分、ザイクさんがそういう流れを作って、話を進めています。
ステラさんは、早々にお休みになりました。厚手の外套にくるまって、私の隣ですうすう寝息を立てています。休むべきときに休めるのは、冒険者を長く続けるにあたって大事な特性ですね、きっと。
私も、眠気を抑えきれなくなってきました。荷の中からもそもそ毛布を取り出して、我
吾
(あ、あれ?)
嘯
* * *
おとうさんが、くらいかおをして、うちにかえってきました。
おとうさんが、おかあさんにいいました。だめだな、もう、もりじゅうにひろがっている。
おかあさんが、かおをおさえて、わあっとなきだしました。わたしはびっくりしました。おかあさんがなくところなんて、みるのははじめてでした。
おとうさんは、かおをくしゃくしゃにして、おかあさんとわたしを、ぎゅうっとだきました。
こわいおとが、どこかとおくから、きこえてきました。きゃあとだれかのさけぶこえ。がつんとなにかのこわれるおと。ずしんとゆれる。しずかになる。また、ゆれる。
だいじょうぶだよ、だいじょうぶだ、かみさまはおれたちをみてくださっている、かなしくもひもじくもない、あたたかいあかるいよいところに、おれたちはじきにゆくんだよ、おじいさんもおばあさんもおれたちをまっているよ。おとうさんはおおきなこえで、そういいました。
こわいおとは、だんだんとちかくになります。ぎゃあ。ごりん。ずしん。ぐぎゃあ。がいん。ずしん。がぁあ。ばきばき。ずしん。ずしん。ずしん。
(……んん! これは普通じゃない、只の夢じゃない、なんですこれ? 違います、私は私、モージとララの子ネイです。 こんな光景は知りません。 彼は父ではなく、彼女は母ではなく、少女は私ではあり ま せ
わたしはこわくなって、なきだしてしまいました。おかあさんもないていました。おとうさんもおおきなこえで、おいのりをしながら、ないていました。
うちのすぐそばまで、こわいおとがきました。ばきん、とうちのかべがくずれました。そとからぬっとはいってきた、くらくておおきなかげが、ぶうんとおおきなうでをふるって、おとうさんがいなくなりました。もうひとつのかげがおしよせてきて、おかあさんもいなくなりました。もうひとつのかげがてんじょうをやぶって、わたしも
(『心理探査』、対象は私!)
* * *
「……っは!」
私は、どうにか意識を取り戻しました。
あうー、ずきずき頭が痛みます、自分自身の心を読んだりするからです。……ですがおかげで、「私の心を読む私」の無限ループによる精神短絡で、あの謎めいた災厄の光景から脱することができました。
仲間たちが心配げに、私を囲んでいました。
「ネイさん、地縛霊に捕らわれていたみたいです」ほっとした顔で、フオコさんが言いました。「悪質なものではないようですが、とても強いものです。どうも、只人の女性だと同調しちゃうみたいで……。」
フオコさんの視線を追うと、私の隣で寝ていたはずのステラさんが、意識を失ったまま酷く魘されている様子です。向こうの冒険団が、おろおろと周りで騒いでいます。ルィンリルさんなんかもう、泣き出してしまってます。
「揺すっても叩いても起きないらしい、尋常じゃ無ぇ。」ザイクさんが私に言いました。「寝起きで悪ぃが、ひと仕事を頼みたい。あんたの精神魔法で何とかならんかな。」
皆の目線が私に集まります。ルィンリルさんは流れる涙を拭いもせずに私を見つめてきます。
「やってみます」
正直なところ、頭痛は治まらないし、あの悪夢の正体は不明だし、先ほどの災厄にまた向き合うのだと思うと背筋が寒くなります……が、ザイクさんの見立て通り、間違いなく私の守備範囲の仕事です。ステラさんをほっとくわけにはいきませんし、ルィンリルさんを泣かせたままにも出来ません。
私は深呼吸して覚悟を決めると、杖棒を手にとって小さく詠唱し、普段よりも丁寧に、『心理探査』をステラさんへと投げかけました。




