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ネイのまごころ屋台  作者: もあいぬ
第六章:東の森
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東の森(1)

【ひがしのもり】

【しんこうど:3】

【じこく:ごごおそく】


 私たちは森の中、大きく切り開かれた広場のような場所に抜け出ました。

 突然ひらけた視野に出て、きょとんとしていた私に、ザイクさんが面白そうに言いました。「はは、町の跡だよ、これ。拠点(キャンプ)地に使えるようにな、定期的に人をやって、森に呑み込まれないように伐採とかしてんのよ。」

 確かに、広場の(ふち)には真新しい切り株や、境界を示すらしい石畳らしきものも見られます。


 拠点(キャンプ)地には人影がありました。別ルートで森を進んできた、同じ探索依頼(クエスト)を受注した冒険団(パーティ)でしょう。

 ええと、只人(ヒューマン)の男性3名女性1名、土精(ノーム)の男性1名、エルフの女性1名。伝統的な六人組構成(セクステット)です。


* * *


 ザイクさんが、向こうのパーティも含めて、皆に集合を促しました。


「えー、そっちと顔合わせんのは初めてだけど、俺のことはもう聞いてんのかな。依頼主(オーナー)から言付かってリーダーやってる。ザイクって呼んでくれ。いちおう改めて、クエストの達成目標(ゴール)確認させてもらうよ。」


 ザイクさんは私たちにしたのと同じ説明を、端的に話してくれました。

 ことの発端は城付き占い師の預言(ディビネーション)。森で何かが起きようとしている。領地の定期調査も兼ねて、調査クエストを発注する。大森林の最深部まで進んで、異常がないか調べてくること。2パーティでルートを分かれて進み、一度キャンプ地で落ち合ってから、また分かれたルートで互いに進んで最深部で集まる。道中の魔物(モンスター)討伐は報酬対象だか、主目的ではないので上限あり。

「まぁ、上限を超えるような魔物の発生があったら、それだけで異常事態だわな。ここは普段は静かな森なんだ。……こっちのルートでは、特に異常なしだったよ。そっちは、どうだった?」


 向こうのパーティから、派手な格好をした軽装の男が口を開きました。

「同じく異常なし、だね。ただ……」目線を後ろに向けます、「うちのエルフの(ねえ)さんは、何かがおかしい、って、ずっと言ってる。」


 一歩踏み出し、薄青い外套(ローブ)頭巾(フード)を外して現れたのは、目の覚めるような碧眼(ブルー・アイズ)銀髪(シルバー・ブロンド)のエルフの少女でした。

「うー、うまく言えない」彼女はもどかしげにそう言うと、ランクさんにエルフの言葉で何事か、ひとしきり語りかけました。なるほど、共通語があまり得意じゃないのかも。その世慣れていない(はかな)げな様子に加えて、外見も私と変わらない歳、十代の前半(ローティーン)のように見えます。


「ふんふん、なるほど」ランクさんが彼女の言葉を同時通訳します、「えー、『なにか良くないことが起きそうな予感がする、それはとてもとても強い、わたしの予感は外れない、わたしはまだ八十年も生きてはいないけど、これまでのところは外れた試しがない、でも何が起きるのかまでは分からない、分からないことはとても不安だ』、そんな感じやね。」

 なるほど……この外見で八十歳に近いのですね、他種族の歳は分からないですね……。


「姐さんの勘は、確かに当たる。俺たち何度か、姐さんの勘に逆らって、碌でもない目に遭ってきた。」派手な男が、言葉を継ぎます。「でもさ、いくらなんでも悪い予感だけじゃ、クエスト切り上げるわけにいかないよな? それで結局おれたち、ここまでは来たんだよ。」

「了解だ。道中なにごとも無かったってのも、エルフの嬢ちゃんの悪い予感ってのも、ひっくるめてあんた達の調査報告だ。有り難く受け取るよ。……まぁ、とりあえずは、だ」ザイクさんが振り返ります。「飯時だ、夕餉(ディナー)を頂こうや。」


 ザイクさんの従者、スレープさんの荷車に(しつら)えた移動式の(かまど)から、温かい湯気と美味しそうな匂いとが漂ってきます。

 スレープさんは小肥りの、物腰柔らかなおじさんです。世話を焼くことが自分の仕事だと言って、まめまめしくパーティ皆のぶんの炊事をしてくれます。(かたく)なに仕事を譲らず、特に調理についてはすべてを独りで仕切って、手伝わせてくれません。

 ランクさんが道中で狩った森の兎と鳥を、荷車から出してきた干し肉や根菜や乾燥果実(ドライ・フルーツ)を合わせて甘辛く煮たもの。生地から焼いた、出来たてのパン。焼菓子(クラッカー)を散らした熱い玉葱(オニオン)スープに、薫り高い(きっとお値段も高そうな)薬草茶(ハーブ・ティー)

 たっぷりの温かい食事をクエスト中にゆっくり味わえるだなんて、まるでピクニックです。スレープさんのほくほくした笑顔が、夕餉を介して皆に伝わってゆきました。


 * * *


 向こうのパーティの女性に声を掛けられて、私と彼女は隣り合わせで食事を摂りました。

 ヒューマンの彼女は、たぶん二十歳(はたち)前後でしょう。私が魔道士(ウィザード)だと自己紹介すると、しきりと感心した様子でした。

「凄いなぁ。わたしはステラ、いちおう楽師(バード)で登録してるけど、楽器はからっきし向いてなくって。冒険譚(サーガ)を書くほうが向いてるし好きだから、書き手(ライター)って名乗るほうが本当なのかもしれないわ……。」


 彼女は謙遜してそう言いますが、魔導書しか読まない私でさえ、『ステラの冒険譚(サーガ)集』の名前は聞いたことがあります。現役冒険者の書く等身大の物語、その界隈では近年のベストセラーだったはずです。

「わぁ、あのステラさんですよね! こんなに若い方が書いていたんですね………あっ、いえすいません、歳下の私が若いだなんて、失礼なことを」いけないいけない、ついつい年の感覚が、前世の記憶に引きずられます。


「いいよいいよ、そうね、若いといえばそうかもだけど。私が冒険を始めたのは十年前、十四の歳だったわ、ちょうど今のあなたと同じ歳ね。」、そう言って彼女は、何か眩しいものを見るように私を見て、素敵な笑顔を返してくれました。


 


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