名もなき小劇場(3)
【ひがしのもり】
【しんこうど:2】
【じこく:ゆうがた】
黒髪の魔導士少女:
(木の根元に座って、ぼおっとしている)
半人の修道士:
「……お疲れですか?」
黒髪の魔導士少女:
「あ、いえ、大丈夫ですよ。……この前に行った小鬼退治のクエストの時は、クロムさんとランクさん森の中を駆けていくから、付いていくのに精一杯でしたけど。今回は、私にもまだ余裕がありますね。」
半人の修道士:
「今回は、調査が目的のクエストですからね。むしろ余裕を持って進まないとっ(話しながら少女の隣に座る)、意味がないですから。……(小声で)僕たちにうってつけのクエストですよね、大森林の深部まで進んで、何かおかしなことがないか調べる、だなんて。」
黒髪の魔導士少女:
「(小声で)ええ、うってつけすぎるくらいです。」
半人の修道士:
「これって『彼女』の意思なんでしょうか?」
黒髪の魔導士少女:
「どうでしょう……。彼女の、というよりは、世界の意志のように思えます。あの真銀の海と、同じように。」
半人の修道士:
「なるほど。」
黒髪の魔導士少女:
「実際どうなのかは、わかんないですけどね。」
半人の修道士:
「……あの、もしよかったら、彼女の、というかその、『前世』のネイさんのこと、聞かせてもらえますか?」
黒髪の魔導士少女:
「ええ、いいですよー。何が聞きたいです?」
半人の修道士:
「(あ、そんなにあっさりなんだ……)そうですね、じゃあ、どんなところで生まれ育ったのか、聞きたいです。」
黒髪の魔導士少女:
「わかりました、そうですね(言葉を探す)……。私の町は、大きな港から山をひとつ越えたところにありました。港といっても軍港で、鉄の軍船がたくさんいます。砦くらい大きなものとか、海の中に潜れる船とか、色んなのが居ました。」
半人の修道士:
「へぇ。じゃ、ネイさん船旅は初めてじゃなかったんですね。道理でなんだか、馴染んでるような気がしましたよ。」
黒髪の魔導士少女:
「ふふ、ばれてましたか。……あとは、そうですねぇ、山の中に広い公園があって、小さな頃はよく祖母に連れられて遊んでました。花畑とか、大きなゴジ……んっと、竜の滑り台とかがあって。」
半人の修道士:
「え、ドラゴンも居るんです?」
黒髪の魔導士少女:
「いいえ、造り物ですよ。私の居た世界には、迷宮も竜も、おとぎ話の中にしか居ませんでした。」
半人の修道士:
「ふうん……。あの、ネイさん。」
黒髪の魔導士少女:
「はい?」
半人の修道士:
「……戻りたい、とか、考えますか?」
黒髪の魔導士少女:
「え? あぁ、『前世』に戻りたいかってことですね? んー、どうかなぁ……。戻る、っていう発想が、そもそも無かったですねー。この世界は何もかもが新鮮で、知らないこと知りたいことが沢山あって。そりゃあ、不便なことも大変なことも沢山ありますけど、うん。」
半人の修道士:
「うん。」
黒髪の魔導士少女:
「まだまだ、この世界で冒険してたいですね。戻りたいとは、特に思わないです。」
半人の修道士:
「そうですか。……良かった。」
半人の修道士:
「(少し近付く)」
黒髪の魔導士少女:
「(驚く)」
半人の修道士:
「あなたのことを、もっと知りたいです。僕も、……僕もまだまだ、あなたのお側にいられたら、嬉しい、ですね。」
黒髪の魔導士少女:
「(少し離れる)んー、どうでしょうね? がっかりさせちゃうかもですよ、知ってみたら別に普通だったなぁ、って。」
半人の修道士:
「いえいえ。『凡庸で居られることの貴重さを心せよ』って、僕たちの信仰する神の教えにもあるんですよ、実際。」
* * *
老年の騎士:
「なぁ、あれってさ、あの二人。あれなの?」
赤毛のドワーフ娘:
「何よ、あれって。」
エルフの魔剣士:
「何でもないわよー。今はまだ。」
老年の騎士:
「ほーん。……まぁ、あれだな。青春だな。」
エルフの魔剣士:
(微笑む)
赤毛のドワーフ娘:
(顔を顰める)
老年の騎士:
「で、あんたらはどうなんだい。ずいぶん古馴染みなんだろ?」
赤毛のドワーフ娘:
「……はア?」
エルフの魔剣士:
「(大口を開けて、声を出さずに笑う)」
赤毛のドワーフ娘:
「うーわ。なにそれ。あたしら皆んなに、そんな目で見られてたの? うわ。気持ち悪。無理、無理。」
エルフの魔剣士:
「ふふーん。何でもないわよぅ、い・ま・は・ま・だ、ねー。(ドワーフ娘に手を伸ばす)」
赤毛のドワーフ娘:
「(無言でエルフの手を払い除ける)そんなんじゃないわよ、腐れ縁よ。ザイク、あんたが生まれるより百年も前から続いてるような、しつこい腐れ縁だよ。」
老年の騎士:
「そうかい、そうかい。俺ァてっきり、あんたら昔いい仲だったとか、そういうのかなって思ってたよ。」
赤毛のドワーフ娘:
「勘弁してよ……こんな優男なんかより、樽いっぱいの蒸溜酒と添い遂げるわよ、あたしは。」
エルフの魔剣士:
「この子、自分と同い歳のウィスキー樽もってはんねん。高山に預けてんの。うち、昔ちょこっとだけ貰ってんけどな、ほんま絶品やねん。あぁ天国は此処にあり、ってくらいの。」
老年の騎士:
「ふぅん……。(やっぱりこいつら、いい仲なんじゃねえのか?)」
* * *
小肥りの従者:
「夕餉の支度ができましたよー(すりこぎで鍋の裏を叩く)」




