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ネイのまごころ屋台  作者: もあいぬ
第五章:銀砂の海
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北回り航路(2)

【きたまわり こうろ】

→【いきさき:ひがし の みなとまち】

 →【ていきびん:3にち】

  →【ぎんか20まい/ひとり】


 キャラバンは翌日の午後早くに、予定通り無事に西の港町へと到着しました。

 商隊長の髭おじさんと別れの挨拶を済ませ、受け取った手形を冒険者協会(ギルド)に持ち込んで報酬を精算したあと、ちょうどもうすぐ出港の船便があるからもう乗ってしまおうかと、私たちは港に向かいました。


 吹き抜ける潮風、白い海鳥、青い空、柔らかに波打つ波止場の海、ちいさく揺れる大きな船。


 船旅は、今世では初めての体験です。二泊三日の船旅なんて、前世でも経験ありません。

 思案する私の様子が不安げに見えたのでしょうか、フオコさんが船を指して、旅程について説明してくれました。

 「ほとんど大陸沿いに進むだけですし(と手持ちの地図を指し示す)、公国の海軍船も通る航路で魔物や海賊の心配もないですし、(にっこり)今の季節は天候も落ち着いてますからねー。退屈だけが敵の、気楽な船旅になりますよ」。


(ある意味では、そのときのフオコさんの予想は、ばっちりと的中しました。退屈だけが敵……。)


* * *


 波止場に着けた大きな帆船から、どやどやと一群の冒険者らしき団体が降りてゆきました。彼ら彼女らは、きっと塔の跡迷宮(ダンジョン)を目指すのでしょう。

 顔見知りでもあったのか、すれ違いざまに一人のドワーフが、クロムさんと軽い挨拶を交わしていきました。


 乗り込む旅客は、どうやら私たち四人だけのようです。船賃は先払い、フオコさんが手早くまとめて会計を済ませます。

 乗組員(クルー)のひとり、しっかりと日焼けした若い男が、乗船した私たちに一通りの案内をしてくれました。旅客用の寝台の場所、食事と水回りのルール、立入禁止の場所(「てか今ご案内したとこ以外は立入禁止だと思っててください」)、転落注意(「誰か海に落ちても船は止めませんからね、泳ぎに自信がなけりゃ(へり)には近づかんでください」)。

 大人しく荷物になっていろ、ということですね。もともと輸送用の定期便に無理やり旅客スペースを作ったようなもののようです、仕方ないでしょう。


 乗組員たちが慌ただしく動き回る気配がして、程なく船は、ゆったりと揺れながら波止場を離れました。

 フオコさんに誘われて、私も甲板に出てみました。大きな帆が風を掴み、ぐんぐんと船を進める(さま)は、見ていて気の晴れるものでした。白い海鳥が何羽か、船にぴったり付き従って飛んでいるのは、だれか餌をやる人でも当てにしているのでしょう。


* * *


 この(フオコ)もそんなに詳しいわけじゃないですが、知っている限りの船についてのあれこれを、ネイさんに聞かせてあげました。

 昔はこのサイズの船でも漕いで動かしていたのだとか、乗り物嫌いのドワーフたちに細工物を教わった只人(ヒューマン)たちが帆船の技術を編み出したのだとか、そんなような話です。


「ネイさんは、船に乗るのは初めてですか?」と僕は尋ねてみました。彼女に関する情報は、どんなものでも僕には宝物です。

「いえ私はもっと、」とネイさんは何かを言いかけて、言い淀んで、言い直しました。「……そうですね、もっと小さな手漕ぎの渡し船しか、乗ったことはないですね。辺境の境の川を、一度だけ往復したことがありました。」


 なんだろう、何かを隠したようなその話しぶりに僕は、その隠されたところを聞きだしたい気持ちをぐっと堪えて、辺境の境の川のことを話題にしたのでした。

 まだ今の僕には、隠された彼女の中に分け入っていくには早いような、そんな気がして。


* * *


 フオコさんに問われて私が思い出していたのは、横須賀の軍港クルーズでした。前世の父と母に連れられて、小さいころに一度だけ、港をぐるっと回る船に乗ったことがあったのでした。

 原子力で動くという、アメリカ軍の巨大な船の上に、戦闘機が並んでいるのが小さく見えました。日本の自衛隊の船に付いている、ミサイルを撃ち落とすための小さなミサイルだとか、一分間で何千発もの弾丸を打ち出す対空砲塔だとかのことを、クルーズ船のおじさんがマイク越しに解説してくれたものでした。

 たぶん、あの自衛隊の船のうちの小さめのものであっても、いま私が乗るこの中世ふうの帆船に比べたら、よほど大柄だったのでしょうね。


……そう、前世の記憶が完全に戻ってしまったので、何かを尋ねられると今の私はふつうに前世の話をしてしまいそうになります。

 けっこうこれ、日常生活のうえでストレスになりますね。冒険団(パーティ)のメンバーには、前世のことも含めて話しちゃったほうがいいかと、何度も思っては思いとどまっています。


 今さら秘密にしていても仕方ない気もしますが、話したら最後、彼ら彼女らを取り返しのつかないところにまで引き込んでしまいそうな、そんな気もしてしまって。




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