『探求の誓い』
(南の宿場町の冒険者協会支部。)
(エルフが二人。金髪碧眼の美男子「白刃の」ランクと、銀髪灰眼の女「見通しのいい」イシル。)
(カウンターの上には、記録器と出力板。記録器に嵌め込まれた赤い魔水晶が、くるくると回転しているのは、記録を読み込み中であることを示す。)
(読み込まれた情報が、出力板に小さな文字で表示される。二人はそれを覗き込む。……冒険者協会の特殊魔法『探求の誓い』で記録された、フオコ救難クエスト時のネイのログ情報。)
ランク「いやぁネイちゃん、意外にえげつないんやなぁ。イカを捌いて生のままなんて、食べられるもんなんや。へぇ。……こんど漁師町いくことあったら、頼んでみよかしらん。」
イシル「挑戦的ですねぇ、ランク。」
ランク「けど知らんかったわ、『探求の誓い』って、『以心伝心』で伝えた中身もログに残るんやね。」
イシル「えぇ、ふつうは味方にこっそり何かを伝達するとか、そういう使い方をする魔法ですからね。口頭の発言内容を残してるのと同じ理屈で、記録の対象にしているんです。」
ランク「うちら気ぃつけなあかんな、そこまで記録されるんやったら。クエスト中はうかつなこと口に出したらあかんのは知ってたけど、魔法での伝達も残されるんやね。」
イシル「ええ。あ、けど、ほらここ、ネイさんの『心理探査』と『以心伝心』二本立てのところは、情報量が多すぎてログが途中で切れてます。一時記憶域がパンクしてますね、たぶんこれ。」
ランク「これも凄いなぁ。こんなこと、できるもんなんやねぇ。よう思いつくわ。」
イシル「エルフの古文書には、同じ方法でこころ引剥ぎを退治した昔話が残ってたらしいです。こころがやつらの栄養源で、これをやられると餓死させることができるんですって。ギルドの研究所からの返事に、そんなこと書いてありました。」
ランク「へぇ。」
イシル「ギルドの研究所に概要報告を送ったら、なんや盛り上がったはるらしゅうて、長いお返事きましたよ。理論上も出来なくはないはずやけど、ほんまにやったのんはギルドの記録上では初めてやないか、って。」
ランク「ふふ、ネイちゃん特別報酬ゲットやね」
イシル「研究所からは生のログを、魔水晶ごと送ってくれ、って言われてるんですけど……。ハソルの子ランク、そこでちょっと、あなたに相談があったんです。」
ランク「ほぇ、え、それ、うちでええ話やの?」
イシル「ええ。……ネイさんのこと、あなたずいぶん、気にしてはりますよね。」
ランク「うん、うち、あの子のこと大好きやで。」
イシル「あたし、ちょっとびっくりしましたよ、あなたがそんなふうに嫌味抜きで、手放しで誰かを褒めることがあるやなんて。」
ランク「えー、そんなぁ。うち、みんなのことが大好きやで。」
イシル「うへぇ、よぅ言いますわ、もう。……ログのここのとこ、見てもらえます?」
ランク「はいはい、ええと。……これ、なんて読むのん? ショユゥ?」
イシル「……んー、まぁ、普通は知りませんよねこんなの。ショーユ、が正しい発音らしいです。調味料です。」
ランク「ふうん?」
イシル「よその世界から来たぁていう、ある異邦人の話によると、ある種の豆を醸して絞りだした汁、らしいのですけど。」
ランク「うん。」
イシル「その異邦人は、ショーユの味を恋しがって、ことあるごとに人に語ってたらしいんです。それをかけると全てが香ばしく味わい深ぅなる、まるで魔法のような調味料なのや、と。」
ランク「ふうん。」
イシル「造ろうとしたんですが、うまくいかんかったそうです。異邦人の彼は正確な造り方を知らず、試行錯誤はしてみたのだけど失敗ばかりで。この世界ではそもそも造ることのできないものなんやろか、って、えらい落胆した彼の日記が残っています。」
ランク「……ネイちゃん、こころ引剥ぎに叩きつけたイカの調理方法のなかで、イカをショユゥに漬けてから焼くと香ばしい匂い、って、確かに言うてはるねぇ。」
イシル「ショーユ、です。発音は。」
ランク「まぁ、どっちでも。」
イシル「彼女はショーユのことを知ってます。それも、あたしみたいにただ知ってるだけやない、香りも味も知ってはる。そうでないと、こんな言い方しません。そうですよね?」
ランク「そうやね。」
イシル「彼女いったい、何者なんです?」
ランク「……。」
イシル「……。」
ランク「なぁイシルちゃん、このログのこと知ってるのん、うちときみだけ?」
イシル「えぇ、今のところは。」
(ランク、カウンターの上の記録器から魔水晶を取り出す。取り出した魔水晶を、卵を割るようにカウンターの角にぶっつける。かしゃん。)
イシル「え、ええっ?!」
ランク「あらーごめーん、手ぇ滑ってもうたわぁ、いやぁほんますまんことで、ちゃんと弁償しますわ、おいくらになるでしょ?」
(ランク、割れた魔水晶をさらに床に落とし、念入りに踏み砕く。がりっ、がり、がりん。)
イシル「……うわぁ。」
ランク「うち、研究所の連中のこと、あんまし好かんねん。なんていうか、あの連中うちら冒険者のこと記録を集める器械みたいに扱うとこあるやろ? そんなに何でもかんでも教えてあげる義理はない、って、思うてまうねん。」
イシル「まぁ、気持ちは分かりますけど……。ほな、弁償はしてもらうにして、あたしへの口止め料も考えてくれてはるんですよね?」
ランク「ふふふー、うちら共犯者やね、ええよー。口止め料かー、ほな、うちと一日お出かけデートとか、どう?」
イシル「そういうのええですから。あ、キラキラしたものやったら、大歓迎ですよ?」
ランク「えー。」
(イシル、箒と塵取を取り出し、割れた魔水晶を片付ける。ランク、それを手伝う。)
ランク「ほな、これでどう? キラキラしたもの。(割れた魔水晶の入った塵取を揺する)」
イシル「いや、そういうのもええですから。……もう。まぁ、ええですよ、あたしもネイちゃんのこと気に入りましたし。」
ランク「せやろ? ええ子やんなー、あの子。」
イシル「われハソルの子に、ひとつ貸しあり、っと。(何か空中に書き留める真似をする)」
ランク「えー。」




