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ネイのまごころ屋台  作者: もあいぬ
第四章:お喋りハーフリング
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『探求の誓い』

(南の宿場町の冒険者協会(ギルド)支部。)


(エルフが二人。金髪碧眼の美男子「白刃の」ランクと、銀髪灰眼の女「見通しのいい」イシル。)


(カウンターの上には、記録器と出力板。記録器に()め込まれた赤い魔水晶が、くるくると回転しているのは、記録を読み込み(ローディング)中であることを示す。)

(読み込まれた情報が、出力板に小さな文字で表示される。二人はそれを覗き込む。……冒険者協会(ギルド)の特殊魔法『探求の誓い(クエスト・オース)』で記録された、フオコ救難クエスト時のネイのログ情報。)


ランク「いやぁネイちゃん、意外にえげつないんやなぁ。イカを(さば)いて生のままなんて、食べられるもんなんや。へぇ。……こんど漁師町いくことあったら、頼んでみよかしらん。」


イシル「挑戦的(チャレンジャー)ですねぇ、ランク。」


ランク「けど知らんかったわ、『探求の誓い(クエスト・オース)』って、『以心伝心(テレパス)』で伝えた中身もログに残るんやね。」


イシル「えぇ、ふつうは味方にこっそり何かを伝達するとか、そういう使い方をする魔法ですからね。口頭の発言内容を残してるのと同じ理屈で、記録(ロギング)の対象にしているんです。」


ランク「うちら気ぃつけなあかんな、そこまで記録されるんやったら。クエスト中はうかつなこと口に出したらあかんのは知ってたけど、魔法での伝達も残されるんやね。」


イシル「ええ。あ、けど、ほらここ、ネイさんの『心理探査(マインド・スキャン)』と『以心伝心(テレパス)』二本立てのところは、情報量が多すぎてログが途中で切れてます。一時記憶域(ワーキング・メモリ)がパンクしてますね、たぶんこれ。」


ランク「これも(すっご)いなぁ。こんなこと、できるもんなんやねぇ。よう思いつくわ。」


イシル「エルフ(うちら)の古文書には、同じ方法でこころ引剥ぎ(マインドフレイア)を退治した昔話が残ってたらしいです。こころがやつらの栄養源で、これをやられると餓死(うえじに)させることができるんですって。ギルドの研究所(ラボ)からの返事に、そんなこと書いてありました。」


ランク「へぇ。」


イシル「ギルドの研究所(ラボ)概要報告(サマリ・レポート)を送ったら、なんや盛り上がったはるらしゅうて、長いお返事きましたよ。理論上も出来なくはないはずやけど、ほんまにやったのんはギルドの記録上では初めてやないか、って。」


ランク「ふふ、ネイちゃん特別報酬(ボーナス)ゲットやね」


イシル「研究所(ラボ)からは生のログを、魔水晶ごと送ってくれ、って言われてるんですけど……。ハソルの子ランク、そこでちょっと、あなたに相談があったんです。」


ランク「ほぇ、え、それ、うちでええ話やの?」


イシル「ええ。……ネイさんのこと、あなたずいぶん、気にしてはりますよね。」


ランク「うん、うち、あの子のこと大好きやで。」


イシル「あたし、ちょっとびっくりしましたよ、あなたがそんなふうに嫌味抜きで、手放しで誰かを褒めることがあるやなんて。」


ランク「えー、そんなぁ。うち、みんなのことが大好きやで。」


イシル「うへぇ、よぅ言いますわ、もう。……ログのここのとこ、見てもらえます?」


ランク「はいはい、ええと。……これ、なんて読むのん? ショユゥ?」


イシル「……んー、まぁ、普通は知りませんよねこんなの。ショーユ、が正しい発音らしいです。調味料です。」


ランク「ふうん?」


イシル「よその世界から来たぁていう、ある異邦人(エイリアン)の話によると、ある種の豆を(かも)して絞りだした汁、らしいのですけど。」


ランク「うん。」


イシル「その異邦人は、ショーユの味を恋しがって、ことあるごとに人に語ってたらしいんです。それをかけると全てが香ばしく味わい(ぶこ)ぅなる、まるで魔法のような調味料なのや、と。」


ランク「ふうん。」


イシル「造ろうとしたんですが、うまくいかんかったそうです。異邦人の彼は正確な造り方を知らず、試行錯誤はしてみたのだけど失敗ばかりで。この世界ではそもそも造ることのできないものなんやろか、って、えらい落胆した彼の日記が残っています。」


ランク「……ネイちゃん、こころ引剥ぎ(マインドフレイア)に叩きつけたイカの調理方法のなかで、イカをショユゥに漬けてから焼くと香ばしい匂い、って、確かに言うてはるねぇ。」


イシル「ショーユ、です。発音は。」


ランク「まぁ、どっちでも。」


イシル「彼女はショーユのことを知ってます。それも、あたしみたいにただ知ってるだけやない、香りも味も知ってはる。そうでないと、こんな言い方しません。そうですよね?」


ランク「そうやね。」


イシル「彼女いったい、何者なんです?」


ランク「……。」


イシル「……。」


ランク「なぁイシルちゃん、このログのこと知ってるのん、うちときみだけ?」


イシル「えぇ、今のところは。」


(ランク、カウンターの上の記録器から魔水晶を取り出す。取り出した魔水晶を、卵を割るようにカウンターの角にぶっつける。かしゃん。)


イシル「え、ええっ?!」


ランク「あらーごめーん、手ぇ滑ってもうたわぁ、いやぁほんますまんことで、ちゃんと弁償しますわ、おいくらになるでしょ?」


(ランク、割れた魔水晶をさらに床に落とし、念入りに踏み砕く。がりっ、がり、がりん。)


イシル「……うわぁ。」


ランク「うち、研究所(ラボ)の連中のこと、あんまし好かんねん。なんていうか、あの連中うちら冒険者のこと記録を集める器械(ロギング・マシーン)みたいに扱うとこあるやろ? そんなに何でもかんでも教えてあげる義理はない、って、思うてまうねん。」


イシル「まぁ、気持ちは分かりますけど……。ほな、弁償はしてもらうにして、あたしへの口止め料も考えてくれてはるんですよね?」


ランク「ふふふー、うちら共犯者やね、ええよー。口止め料かー、ほな、うちと一日お出かけデートとか、どう?」


イシル「そういうのええですから。あ、キラキラしたものやったら、大歓迎ですよ?」


ランク「えー。」


(イシル、(ほうき)塵取(ちりとり)を取り出し、割れた魔水晶を片付ける。ランク、それを手伝う。)


ランク「ほな、これでどう? キラキラしたもの。(割れた魔水晶の入った塵取を揺する)」


イシル「いや、そういうのもええですから。……もう。まぁ、ええですよ、あたしもネイちゃんのこと気に入りましたし。」


ランク「せやろ? ええ子やんなー、あの子。」


イシル「われハソルの子に、ひとつ貸しあり、っと。(何か空中に書き留める真似をする)」


ランク「えー。」

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