名もなき小劇場
【へんきょう の まち】
【ぼうけんしゃギルド】
【じこく:あさ】
土精の受付嬢:
「(溜め息)」
老年の騎士:
「どうしたい、浮かない顔して。」
半人の修道士:
「クロムさんが冒険団を組んだのが、気に入らないみたいですよ。」
土精の受付嬢:
「いえ、気に入るとか入らないとか、そんなんじゃないです。はぁ(溜め息)。」
老年の騎士:
「ほぅ、なるほど、あこがれの赤毛ちゃんを横取りされちまって御冠ってぇ訳かい。」
半人の修道士:
「そうそう。これまでみたいにクロムさんが単独行なら、受付担当と冒険者とは一対一の親密な関係、ですからねー。」
土精の受付嬢:
「ちーがーいーまーすー。パーティの構成がアンバランスで、あれじゃ足手まといになって戦力ダウンじゃないかって、それを心配してるだけですー。」
老年の騎士:
「赤毛のドワーフ娘と、黒髪の小っちゃいのと、だろ? 面白ぇ組み合わせだよな、あれ。」
半人の修道士:
「あの子じたいも面白いですよ、お悩み相談の屋台やってるんです。」
老年の騎士:
「なんだいそれ。辻占いみたいなもんかね。」
半人の修道士:
「どちらかというと、教会の告白室に似てるようです。秘密厳守で悩みを聞いてくれて、追加料金で精神魔法を掛けてもらえる。」
老年の騎士:
「へぇ。教会は敷居が高いと思うような連中なら、そっちのほうが気軽なのかもなぁ。(土精の受付嬢に向かって)じゃあ、悩めるノームの嬢ちゃんも、お話を聞いてもらっちゃあどうかね?」
土精の受付嬢:
「もう、だから違いますって。クエストの依頼を捌く当方の立場としましては、ですね、冒険者の方々の戦力強化も、大事な務めのひとつなんです。貴重な戦力が足手まといを抱えてるのは、困るでしょう?」
老年の騎士:
「若手の育成、って考えても、いいんじゃねぇの? 誰しも始めは若造なんだ。ベテランと組むのは悪くない、長い目で見りゃ、ちゃんと戦力強化になるだろうに。」
土精の受付嬢:
「それは、そうですけどね。できれば今ほしいんですよ、荒事を任せられる戦力が。」
老年の騎士:
「えっ、それ、さっきの話に繋がるのかよ? いや、いくら屠竜経験者だっつったって、ありゃあ単独じゃ厳しいだろう、そもそも。」
半人の修道士:
「ぼくたちが戻るのを待てないんです? ひと月もかからないと思いますけど。」
土精の受付嬢:
「やっぱり、それしかないでしょうかね……。ただでさえ遅れてしまった案件だから、なるべく早く片付けたいんですよね、なにか目に見える被害の出ないうちに。」
小肥りの従者:
「(入り口から首を突っ込み、声をかける)旦那様、そろそろ出発なさいませんと。(半人の修道士に向けて)ヒギンズ様も、お早く。(顔を引っ込める)」
半人の修道士:
「あ、はーい。……ま、いま町には他にも冒険者がいるでしょ? 即席でパーティに追加のメンバー入れてもらうとか、クロムさんに頼んでみたらどうです? じゃ、ほら行きましょ騎士さま、遅れますよ。(退出する)」
老年の騎士:
「すまんの嬢ちゃん、またな。ご両人の幸せを祈っとるよ。」
土精の受付嬢:
「怒りますよ!」
老年の騎士:
「(笑い)(後ろ手に手を挙げて挨拶をし、退出する)」
土精の受付嬢:
「もう。」
土精の受付嬢:
「(独り言を呟く)いーじゃないですか別に、あこがれても。クロムお姉さま、すっごく素敵ですもの。」
土精の受付嬢:
「(どこか遠くを見ている)凛とされてて。めっぽう強くて。でも時折かいま見せる淋しげな表情。そして、あの低い甘い声……。」
赤毛のドワーフ娘:
「(ずかずかと入ってくる)よう、さっきそこで騎士さまとすれ違ったよ、受付嬢によろしく言っといてくれとさ。」
土精の受付嬢:
「はにゃあぁっ?!」
赤毛のドワーフ娘:
「……?」
土精の受付嬢:
「あ、うぇ、え、いえ、えと、失礼。……こほん。」
赤毛のドワーフ娘:
「なんか、取り込み中だった? 出直そうか?」
土精の受付嬢:
「いーえぇ、とんでもない、丁度ご相談したいことがあったんです、ご本人が急においでたものだから、わたくし申し訳ございません吃驚しちゃって(笑い)」
黒髪の魔導師少女:
(後ろから二人の様子を見ている)
エルフの魔剣士:
「(するっと入ってくる)まいどー。あらー、クロムちゃーん! ネイちゃーん! おはようさんですー。」
赤毛のドワーフ娘:
「げ。」
黒髪の魔導師少女:
「あっ。先日はありがとうございました。」
エルフの魔剣士:
「いいえーこちらこそー、って、いやんネイちゃん、早速その小剣を使うてくれてるんやー。うち、嬉しいわぁ。」
黒髪の魔導師少女:
「恐縮です、すいません、結局いただいてしまって。この剣に見合うよう、努力します。」
土精の受付嬢:
「(なにか考えている)めいっぱい魔力付与済みの、エルフ造りの直刀小剣、しかも真銀製。それ、ランクさんのですよね?」
エルフの魔剣士:
「あら、受付嬢ちゃん、さすがお目が高い。うん、うちがプレゼントしてん。お悩み相談のお礼。」
黒髪の魔導師少女:
「釣り合わないと、お断りしようとしたんですが……」
エルフの魔剣士:
「(割り込んで)なーに言うてんのん、神業やったで、ネイちゃん。百年来の悩みが、吃驚するほどすっきりしたわよ。うちにしたら、それでも足りひんて思うくらいや。大丈夫よ、あんたはん剣も筋がええから、すぐに使いこなせるよ。」
赤毛のドワーフ娘:
「エルフの言葉には気を付けなよネイ、エルフの『すぐに』は只人の一生、っていうからね。まぁ、けど、似合ってるよそれ、本当に。」
黒髪の魔導師少女:
「ありがとうございます、そう言って頂けると嬉しいです。」
土精の受付嬢:
「お三方、ずいぶん仲良くなられたんですね。」
エルフの魔剣士:
「うん!(いい笑顔)」
赤毛のドワーフ娘:
「(エルフの魔剣士を見て、少し顔をしかめる)」
黒髪の魔導師少女:
「えぇ、おかげさまで、仲良くさせてもらってます。」
赤毛のドワーフ娘:
「(土精の受付嬢に向かって)それで、あたしに相談って、何?」
土精の受付嬢:
「ええ、クロムさん。それに、ランクさん、ネイさんも。ちょっと、一緒に話を聞いていただけませんか?」
【あたらしいクエストがあります▼】