97.弱点を突いて、そして第2形態!?
お待たせしました。
97話目です。
ではどうぞ。
「ZIAAAAAAA……!?」
血蜘蛛の、あまりの痛みに悶え苦しむような声。
炭酸水を被った付近からは、まるで酸に溶かされているかのように霧状の白い煙が立ち込める。
……もちろん、日本の炭酸飲料に本来そんな効果はない。
もしあったら、むしろモンスターではなく炭酸水に、人類は消滅の危機に遭わされていたはずだ。
「うわ凄っ! 湯気みたいな煙まで上がってる。本当に弱点なんだ……」
「ですです! 動きもなんだか遅くなったみたいで、凄く効いてる感じ……」
ボスの弱点を明らかにした探偵事務所にて、その場にまだいなかった水間さんとリーユ。
二人とも、信じていなかったわけではないだろうが。
やはり目の前で、実際に効果が表れているのを見ると実感が全然違ったらしい。
特にリーユは、とても興奮したように驚いている。
「っし! ――久代さんっ!」
今が反転、攻めるチャンスと、真剣な声で久代さんを呼ぶ。
「えっ……あっ! はっ、はい! これ、どんどん使って!!」
呼ばれた意味が一瞬だけ理解できなかったらしい。
だがすぐにハッとして、ペットボトルが入った袋をこちらに近づけてくれた。
「おっら! せぁっ! とうっ!――アトリっ、切ってくれ!!」
掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返す。
そして今度は剣速が自慢のアトリに、容器を破壊する役目を頼んだ。
「任せてっ!――やぁぁっ!!」
だが声に出してお願いするまでもなく。
アトリは俺と目が合った瞬間に、既に動き出してくれていた。
意図も、正確に読み取ってくれたらしい。
目にも止まらぬ速さで、投げられたペットボトルへ追走。
そして範囲に入り次第、切っていく。
「――ZIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」
炭酸水を一気にぶちまけられたボスの反応は、さっきの比ではなかった。
全身が耐え難い激痛に苛まれている、そんな叫び様だ。
追いかけっこの時はウヨウヨと動いていた8本の脚も、見るからに元気をなくしている。
リーユも言葉にした通り。
電池の切れかかった玩具のように、その動作はスローだった。
「っ!! 今ですっ――」
そして、ボスへ総攻撃を仕掛けるこの絶好の好機を。
ソルア達も見逃さなかった。
「私達が、兵蜘蛛を牽制します!!」
「ここはあたしと遥さんに任せて先に行ってください! ……へへっ。ここがあたしの死に場所ってわけですかぃ」
「あっ、いや、カナデちゃん? 回復しますんで、勝手に決めないで頑張ってください、です」
来宮さんは言葉通り、その素早い動きでアーミースパイダー達を押しとどめてくれる。
死亡フラグめいたことを言ってるものの、水間さんもリーユの回復を受け。
ボスへの道を切り開くことに、ちゃんと貢献してくれていた。
俺も、炭酸水砲で、ボスをその場へ釘付けにし続ける。
「ソルアっ、トウコっ、合わせて! ――せぁあ!!」
アトリの連撃に次ぐ連撃が、赤黒いボスの皮を次から次へと切り裂いていく。
「はいっ! ――【光槍】!!」
ソルアが引いた剣の先、光がどんどん集まっていき。
やがて光のエネルギーによって伸びた剣先は、まるで槍のような長いリーチとなっていた。
それを、アトリが開けた穴へと追い打ちをかけるように、一突き。
強い光は鋭く一直線に、ボスの額を穿つ。
「わかった、アトリさんっ! ――やぁぁっ!!」
ソルアの一撃で肉が見えたボスへ、久代さんがとどめの一撃。
助走をつけ、跳び、ただ純粋な蹴りを放った。
グリッと、傷跡へさらに塩を塗るかのように、力強くその足を食い込ませる。
「――ZIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」
アトリ、ソルア、そして久代さんの連携は。
見事、ボスの戦意を削りとる大ダメージを与えたのだった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「…………」
血蜘蛛は、ドス黒い液体を体から流したまま動かない。
それに呼応するように、周りに残った配下達も動きを止めた。
「……や、やったんですかね?」
「手応えというか、脚応えはあったから、ええ、やったんじゃないかしら?」
「……遥さん、透子さん。それ“フラグ”っていうんです。もしまだだったら、罰として二人でエッチなことしてください。なお、お兄さんを巻き込んでの3人でも可」
いや、水間さん、君は何を言ってんの?
君もさっき死亡フラグっぽいこと言って、リーユに“何言ってんだコイツ”って顔されてたじゃん。
そういう女子の罰ゲームに、童貞ボッチ巻き込むの良くない。
後でネタバラシされた時、一生モノのトラウマになるからね。
「で、でも勝ったら“モンスターは消える”、ですよね?」
リーユが誰とは無しに、だが恐る恐る確認するように告げる。
その一言で皆も、半ば解きかけていた警戒を再び強めた。
「……ですね」
「まだ“ボスの体”が消滅してないってことは――」
……うん。
ソルアやアトリの言う通り。
つまり、まだ終わりじゃない。
【異世界ゲーム】の仕様を理解していたからこそ、戦闘がまだ継続中だということをちゃんと認識できた。
「――ZIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
――それを示すように、弱っていたはずの血蜘蛛が、再起動し始めたのだ。
「っ!!」
ショッピングモール全体どころか、外のホームセンターにさえ届くのではないかと思えるほどの叫び声。
止まっていた時間が再び動き出したかのように、手下の兵蜘蛛達も続々と活動を再開する。
――かと思うと、こちらには見向きもせず。
大口を広げて待つボスの元へと、一直線に集まっていった。
「えっ? ――うわっ!!」
「ひっ――」
それは、グロい物を間近で見たというような、女性陣の率直な反応だった。
――仲間を……配下達をバクバクと食らってやがる。
「ZIA,ZIA,ZIA……」
炭酸水がかかって溶けてしまったような皮膚はもちろん。
ソルアやアトリ、久代さんが作ってくれた大きな傷も。
手下のモンスターを食らうたび、次々と癒えて行ってしまう。
こちらが妨害、邪魔しようとする暇すらないほど。
ボスは何の躊躇もなく食らうし、配下は配下で何の疑いもなくボスの口へ自ら入っていくのだ。
全快した後も、更に食事は続けられ――
「ZI――ZIAAAAAAAAAA!!」
余分なエネルギーは、更なる強化へ回されるというように。
血蜘蛛の全身が強く光り出す。
――あっ、これ、あれだ。
“我は変身を残している。第2形態、全力の我にて相手をしてやろう”的な展開だ。
第2ラウンド、それ自体はまだいい。
予め定められたダメージを与える、あるいはHPに到達したらそうなる。
レイドボスではありがちな内容だ。
「……っ!」
だが、パワーアップは何としても避けたかった。
最悪の想像が頭を過る。
仮にも【スキル】を有した生存者である4人の男が。
何もさせてもらえず、何が起きているかさえ理解できないまま殺された。
あれは部外者、ワールドクエストの非参加者を排除するための緊急措置だとわかっていても、考えてしまう。
……あんな悪夢が再来するなら、即撤退も視野に入れないといけない。
最悪の場合は【時間魔法】、【修羅属性】を使ってでも俺が足止めを買って出よう。
「ZIA――」
そして、血蜘蛛がその溜め込んだ力を解放しようとしたその時――
「――ZIAAAA!?」
――7つある目の内の左上、ついさっき真っ赤になったばかりの眼球から、大量の血が吹き飛んだ。
「えっ!?」
「い、一体何が!?」
俺達も、想像していた展開が起こらず、むしろ相手は大きなダメージを受けたようで、強く混乱した。
だがすぐに。
それが“もう一つの弱点”と関連していたのだと気づいたのだった。
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