96.もう一息、意外な活躍、そして合流
お待たせしました。
ここからまた主人公視点に戻ります。
96話目ですね。
ではどうぞ。
「“今、炭酸を回収中”ってファムから連絡が来た。リーユ、水間さん、もう直ぐだ!」
血蜘蛛達と、命が懸かった追いかけっこを続ける中。
頑張ってくれている二人を鼓舞するために、報告された内容を即座に伝える。
「あっ――はい! も、もう少し、頑張る、です!」
「遥さん達が合流してくれるのは助かりますが……。リーユちゃんはもしかしたら、まだまだ鬼ごっこを続けたそうですね」
腕の中、縮こまりながら収まっていたリーユの体が。
図星を指摘されたかのようにビクッと動いた。
……えっ、そうなの?
俺は今すぐにでも、この終わりなき争いに終止符を打ちたいんだけど。
「あぁっ、うぅ~、いえ、その、違くて、ですね!?」
リーユはしどろもどろになって、弁明になってない弁明をしてくる。
……リーユさん。
こんな可愛らしくて大人しそうな見た目してる癖に。
実は案外バイオレンスな性格なのん?
刺激が欲しいお年頃なのかな……。
とはいえ、申し訳ないがそれには答えられぬ。
命あっての物種だからねぇ。
「っと! ――水間さん、1匹、前っ!!」
今もなお途絶えることなく増え続ける、敵の援軍。
天井から吊られるようにしてあった真っ白な繭から。
新たな蜘蛛が、次々と生まれ飛び出てくる。
「うぉっ!? りょ、了解です!――」
虚を突かれながらも、水間さんは慌てず走り続ける。
握りしめた“火魔の盾”をやや斜め上に構えると、オーラ・エネルギーのような膜が盾全体を覆った。
「トリックオア……――トリートっ!!」
季節・時期的な感覚からか。
独特な掛け声でタイミングを取る水間さんの一撃は、見事に落下してきた兵蜘蛛を捉えた。
そして、まるで筋力モリモリ久代さんにでも蹴り飛ばされたかのように。
蜘蛛はそのワンプッシュで、通路を転がるように大きく吹き飛ばされたのだった。
……あっ、何か寒気が。
ゴメン、やっぱ今の例え無しで。
3秒ルールだからセーフでしょ、ねぇ!?
「おぉ~ナイスプッシュ」
「どもども~。……それはそうとお兄さん、今変なこと考えてませんでした? 透子さんのこと内心でイジってた、とか?」
ギクッ。
く、久代さんには黙っててね?
ただでさえ“透子ちゃん”事件で和解交渉が難航したばっかりだからさ。
それに加えて新案件まで受注しちゃうと、ほら、もう、ね?
色んな意味で“お兄さんはおしまい!”略してお〇まいになっちゃうから。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「ZIAAAAAAAAAAAAAA!!」
何度目かとなる、その場で止まっての戦闘行為。
ボスは未だ無傷でピンピンしている。
一方でこちらも、回復の鬼たるリーユがいるため、そこまで大きな怪我や被害は出ていない。
先ほどソルア達から“こちらに向かい始めた”という報もあり、戦意はむしろ上がっていた。
「ウェイッ! ウェイウェイウェ~イ!!」
――そして圧倒的な数的不利状況で善戦できている、その大きな要因として水間さんの活躍があった。
前線を張る俺の脇を抜けた兵蜘蛛、その悉くを“盾”一つで弾き飛ばしまくっているのだ。
「カナデちゃんっ、次は左からです! その次は右っ!」
「オーケェ~イ! フゥ~!」
リーユの指示に合わせ、謎なハイテンションのまま盾を振るう。
まるで自分の体の一部のごとく、自由自在に操る姿は非常に頼もしくあった。
「どうだモンスター共っ! これがっ、【スキル】を買い占められる“金”の力! そして大人の汚さの源泉だぁ!!」
水間さんの心の叫びに一部同意しつつも。
改めて水間さんが持つジョブ【商人】、そしてスキル【買付け】の実力を思い知る。
水間さんがこの逃走劇の間にやったことと言ったら単純明快。
その場にいずとも【施設】の商品を購入できる【買付け】スキルで、“ホームセンター”に再入荷したスキルを購入したのだ。
……そう。
図らずも、千種達がしようとしていた【施設】利用者の排除、それがさっきの男4人の死によってなされた結果となったのだ。
「カナデちゃんっ、調子良いです! 回復、フォローは私がするので、引き続き、です!」
「んっ! 何かわかんないけど【施設】に空きは出来るし、あたしは盾で無双しちゃってるし……! ――お兄さん、リーユちゃん。あたし、今なら空も飛べそうな気がする!!」
うん。
流石に君が購入したっていう【装備術】や【装備強化】のスキルに、飛行能力まではないだろうから。
勘違いだね、諦めて。
「ZIAAA!!」
「おっと――」
一方で手詰まりなのか、それともこちらが選択肢から外した術だと思ったのか。
再びブラッドスパイダーも糸を吐いて拘束、そして硬直した戦況の打開を狙ってくる。
それを、反射的に回避した。
……あっ、いや、【状態異常耐性】先生がいるから、避ける必要なかったな。
「水間さんっ! そっち、流れ弾行った!」
気づいてるだろうが、それでも反射的に注意を促す。
リーユが巻き込まれる可能性も、あるにはあったからだ。
「大丈夫ですっ! それにしても、糸で拘束しようだなんて、不届き者めっ――」
心配はやはり懸念だったようで。
ちゃんと盾を構え、表面を覆う火で糸を焼き尽くしてくれた。
そしてどうだと言わんばかりの顔で、血蜘蛛へと言い放つ。
「――リーユちゃんの、拘束SMプレイが許されるのは! お兄さんだけですよっ!!」
いや、何を堂々と宣言してんの君は!?
「あっ――ですっ! 主さんだけ、です!!」
そしてリーユさん、何で感動したような表情で同意してんの!?
君、水間さんの言ってる意味わかってないで頷いてるでしょ!
俺、いいの!?
……あのね。
俺の名前出せば何でも“はい”って言っちゃう子だと思われちゃうから、ちょっとは周りを疑おう?
≪――ご主人、取って来たよ!!≫
そして。
時に奮闘し、時にお互いを支え合い、ようやく。
続けて来た囮役の報われる時が今、やって来たのだ。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「ご主人様っ、お待たせしました!!」
ファムやソルアの声が聞こえたのを皮切りに。
回収組の皆が、続々と合流を果たしてくれる。
「お待たせっ、滝深君!」
久代さんも再会できたことを喜ぶように無防備な、それでいて魅力的な笑みを浮かべている。
……よかった、色々と、うん。
脚での攻撃が主体だからか、久代さんが運搬役を担ったらしい。
炭酸水ペットボトルが一杯に詰まった袋を、片腕に2つずつの計4つ分。
腕に紐が食い込みながらも持ってきてくれたのだった。
「うっす。よっと――」
後ろに大きく跳ね、ボスたちと適度な距離を取る。
相手も俺達の合流に警戒してか、こちらの動きを注視していた。
「――で、どうしましょうか?」
動きを止めた蜘蛛達から視線を逸らさず、来宮さんが誰とは無しに尋ねてくる。
合流できた喜びも束の間。
ここからが本当の戦いだと、全員が改めて気を引き締め直したように感じた。
「……久代さん。1本貰うね」
「1本と言わず、何本でも使ってもらっていいけど?」
そうした軽いやり取りで、お互いの調子を確かめつつ。
受け取った500mlのペットボトルを。
そして落ちていた、ひと際大きなガラス片を拾い、敵の方へ向けて強く投げつけた。
――ただし、両方とも狙って大暴投するような形で。
「えっ!?」
「ちょっ、お兄さんっ!?」
投げたことそれ自体ではなく。
やはり絶対に命中しないだろう方向に投擲してしまったためだろう。
来宮さんや水間さんから驚愕した顔で見られる。
……フフッ。
想定内の反応だな。
「ZA,ZIII?」
ブラッドスパイダーも。
自分の頭上、天井近くを通り過ぎていくペットボトルを、そしてガラス片を。
悠然と見送る。
更に俺達、特に想定外という来宮さん達の反応を見て、その姿には余裕すら感じさせた。
“何やってんの? プークスクス!”……みたいに言われてる気がしてならない。
……若干イラっと来ました。
「――えっとね。“敵を騙すにはまず味方から”って言葉、知らない?」
誰にとはなく、そう口にしながらも。
【操作魔法】を発動する。
大きなガラス片、ペットボトルの両方を操り。
互いに互いが引かれ合うようにして急接近させる。
――そして強引に衝突させ、液が噴き出すようその容器を破損させた。
「ZYUAAAAAAAAAAAAAAAAA!?――」
そしてその効果は。
完全な不意打ちで炭酸水を浴びた、ボスの反応を見れば明らかだった。
感想送っていただき、ありがとうございます。
体も気遣っていただけて、本当に嬉しいです。
疲れた体に沁みますね……。
ブックマークやご評価もしていただけて、大変助かっております。
感想やいいねと合わせ、本当に執筆の励み・活力になりますので。
今後とも当作品をよろしくお願いいたします。




