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95.素早い判断、乱れぬ連携、そして追求し続ける“速さ” ……■

お待たせしました。


95話目です。

これで第三者視点は一応終わりですね。

※前話でも入れていましたが、第三者視点だと分かりやすいようにサブタイトルの最後に“……■”を入れています。


ではどうぞ。



 

 レジから少し移動した場所。

 元は総菜コーナーだった比較的大き目のスペースに、そのモンスターは存在した。



「“コマンダースパイダー”……。要は“一般兵(アーミースパイダー)”たちの“指揮官”ってとこね」



 透子が視界に入れ、生存者(サバイバー)として自然に認識できた情報だ。

  

 脚の本数は変わらず。

 しかしその大きさ、存在感はアーミースパイダーのそれとは一線を画していた。



「……ブラッドスパイダーよりは小粒ですね」


  

 この中で唯一、ソルアはボスを視認している。 

“ショッピングモールの(ぬし)”と“一エリアを任されている中ボス的存在”、両者を冷静に比較した上での意見だった。



「わっ、ソルアちゃん何かカッコいい。……でも、“指揮官”ってだけあって、兵蜘蛛(アーミースパイダー)が周りにいるね」



 遥はソルアへと絶大な信頼を置く一方で。

 目に入ってくる客観的な情報を踏まえ、油断もしない。


 視線の先、一回り大きな指揮官蜘蛛(コマンダースパイダー)を囲い守るように。

 4体のアーミースパイダーが、等間隔で周囲を警戒していた。



「計5体か……」



 アトリの呟きは、特に気負いも緊張も感じさせない。

 どうやったら目の前の課題を解決できるか、それを頭の中で冷静にシミュレートしているかのような頼もしさがあった。


 

「中央、“コマンダースパイダー”は【麻痺属性】と【毒属性】のスキルを持ってる。戦闘するなら状態異常には気を付けて」  


 一行に追加情報をもたらしたのは、透子の【鑑定】によるものだった。

   

 囮組、特に状態異常に強い青年や、治癒魔法を扱えるリーユがいない分。

 回収組が事前情報として相手のスキル構成を知れるのは、とても大きな意味があった。

 それが状態異常に関係するものなら、なおさらである。


    

「OK,ありがとうトウコ。……どうするソルア?」


 

 より多くの情報は、それだけ判断の質を高めてくれる。

 アトリはそうした意味でも透子に感謝を述べつつ、最終的な決定はソルアに委ねた。



「…………」



 戦闘するか、あるいは回避・迂回(うかい)して飲料コーナーへと向かうか。

 また戦闘するにしてもどういう作戦で、この一帯を任されている中ボスたちを退けるか。


 ソルアは今までの情報を素早く頭の中で整理し、結論を出す。

 


「――ファム。少しでいいです。最初、フォンと共に注意を引けますか?」



 ソルアが下したのは、戦闘の判断だった。

 こちらが見つかってない今なら迂回も可能だったが、後々のことも含めると処理しておく方が良いと考えたのだ。 



≪ちょっとでいいの? なら任せて、それだったら楽勝だよ!≫

 

 

 笑顔で強く頷き、ファムが胸を叩く仕草をする。

 ソルアは了承を得られたと解釈し、直ぐ他の仲間へと向き直った。



「ハルカ様、トウコ様。ファム達の陽動後、【スクロール】をお願いできますか?」


 

 ソルアが確認したのは、【パーティー】のランクアップにより使用可能となったものだ。

 Fランクで【火魔法】。

 F+ランクで【水魔法】のスクロールが。

 

【パーティー】内の共用で、1日1回ずつ使用できた。



「大丈夫。滝深さんからも、クエスト前に許可は貰ってたし」


「ええ。今のところ……滝深君も水間さんも、使ってないようだから」



 結果、装備がブーツで両手の空いている透子が、スクロールの発動役になる。



「アトリは中央、コマンダースパイダーをお願いします。……先制で1体減らせなかった場合、私が兵蜘蛛(アーミースパイダー)2体引き受けます」


「ん、分かった」

 


 1対1の場面さえ作れれば、アトリなら何とかしてくれる。

 そうした強い信頼の元に立てられた作戦だった。


 アトリもまたそれを重荷とは感じておらず。

 むしろ仲間から頼られることを誇り、嬉しくさえ思っていた。



「――では、行きますっ!」



 そうした作戦を、可能な限り素早く組み立て。

 ソルア達はすぐさま実行へと移した。

 

□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□

      


≪フォン、行くよ~! えいやぁっ!!≫


「GLISYAA!!」



 ファムが子グリフォンの背に乗って、勢いよく敵へ突っ込んでいく。

 フォンも、先輩妖精を護衛する以外の役目を貰えて、(いき)に感じたように乗り気だ。 

 


「ZYUZYU!?」


「ZYUA!」



 警戒の薄い空、天井すれすれからの奇襲。

 前方、それも下方を見張っていた2体は発見が遅れ、慌てたように糸を吐く。 

 


≪ほっ! 次右っ、上昇っ! ――よしよしっ、フォン、ナイスだよ~!≫



 ファムとシンクロしたようにグリフォンはその指示に合わせ、見事に糸を連続で回避。

 また兵蜘蛛(アーミースパイダー)たちの注意を、上空へ向けさせることに成功した。

 


「今っ――【ファイア】!!」



 状況を見誤ることなく。

 透子がこれ以上ないというベストなタイミングで、“火”のスクロールを発動した。


 魔法を収めた紙から、火が勢いよく飛び出す。

 直進するごとに火勢も増し、大きな音を立てて命中。


 前方を警備する2体を、そのまま火の渦へと引きずり込んだ。


    

「っ! ――後ろ2体、私と透子さんが!」


 

 とても効果的な先制パンチを、それも複数体へと当てたものの。

 数を減らすまでには至らなかったことを素早く把握し。


 遥は反射的に、ソルアへの配慮からそう申し出た。



「あっ――分かりました! ありがとうございますっ!」



 ソルアは炎に包まれた2体へと走りながら、遥の状況判断と気遣いに短く感謝した。


 指揮官を除く数が4体のままな場合、自分が複数体を一時的に受け持つ。

 つまり遥と透子は奥、同数ながらも無傷の2体と戦うということだからだ。

 


 自分はそのため、一時的に数的不利を背負うものの。

 幸い、透子の放った【ファイア】により、手前の2体はダメージがかなり入っている。

 そして火に纏われて動きも鈍っていた。



「っ! ――【光打(ライトスマッシュ)】!!」

 


 ソルアは、そのチャンスを逃さない。


 走りながらに剣へと集中していく光。

 その輝きが最大へと達した時、それを2体の間へと解放するように叩きつけた。


   

「ZYU――」


「ZYUZYA――」 



 強く床に打ち付けられた光は、そのまま衝撃波となり。

 横へ大きく広がって、火だるまになっていた蜘蛛2体を飲み込んだのだった。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「せぁっ! はっ! やぁっ!!」 


  

 一行の立てた作戦通り。

 アトリは敵の主力、指揮官蜘蛛(コマンダースパイダー)との一騎打ちへと持ち込めていた。



「ZYUZI!! ZYU――」



 敵も、他の一般兵とは異なる見た目・強さなだけあり。

 動揺は見せず、襲い来るアトリへと対処する。


 また“指揮官”という名は持つものの、あえて後ろ2体の護衛へ“自分を守るよう”命令は出さなかった。


 遥と透子が今正に相手している無傷の2体。

 彼らを巻き込んで3対3の形にしたところで、一時しのぎにしかならない。


 アトリ一人だけが、個の力が違い過ぎると瞬時に見抜いた。

 そのアトリによって、1体1体葬られ、結局は数的不利になるのを待つだけ。



 そうした野性的な勘から、自分がアトリとの戦闘を長引かせ援軍を待つべきと判断したのだ。 



「ふんっ! ――っと! “糸”もだけど。その“爪”は食らわないっ!」


 

 ……だがアトリは、そんなことに真正面から付き合うつもりはない。

 

 そもそも、その耐久作戦の核となるべき状態異常。

 アトリはそれを事前に、【鑑定】を用いて見抜いていた透子から注意するよう言われているのだ。


 圧倒的速さで敵を切り裂くアトリなら、来るのが分かっている攻撃を回避することなど朝飯前だった。

        

 

「マスターたちのためにも、グズグズしてる暇なんてないの――」

 

 

魅了(チャーム)】が発動され、桃色の霧が漂う。

 指揮官蜘蛛の思考を、判断力を、簡単にかき乱した。



「はっ!――」


   

 ――それは一瞬だけ見ることが許された、攻撃への溜めだった。

 細剣をダラリと垂らしたかと思うと、次の瞬間にはそこにアトリの姿はなく。



「――【紅速(スカーレット・スピード)】」



 そこから、紅く細い一本の線が走った。

 死へ導く定めが引かれたかのように、一直線に指揮官蜘蛛(コマンダースパイダー)へと到達。

 

 アトリが今できる極限まで引き上げた速度。

 敵が本来なら防御・回避へと回すはずの思考は乱されていて、そのため致命的なまでに遅れた対処。

 

 両者が相まって初めて、それは神の如き領域へと近づくまでの速撃に。

  


「ZYUI――」



 指揮官の体、その中央にいつの間にか。

 紅い線が入っていた。 


 そう思うと、次の時には線を中心に体がズレ始め。

 最終的に、蜘蛛は完全に真っ二つに両断されたのだった。




「――アトリっ! こっち、終わりました!」



 ちょうどソルアも、手負い2体の始末を終えたところであった。 



「了解っ! ――トウコっ、ハルカっ! 今行くわ!!」



 それを確認、合流し。

 二人で残党の処理に加勢する。



 そうして最大の障害を片付け。

 一行は目的の飲料コーナーへの道を開いたのだった。



――― Another view end―――    

すいません、昨日はどうしても書けないなと思ったのでお休みしました。

「……あっ、これダメだ。ストーリー・イメージは頭にあるのに、まったく文章が頭に浮かんでこない」って感じで。

自分で思っていた以上に疲れていたようなので、その日はもう寝て。

切り替えて今日、更新という感じになりました。


次からは主人公、滝深君視点に戻ります。

おふざけ禁止・真面目チームから解放される……!


変わらず感想を送っていただきありがとうございます。

いいねやブックマーク、ご評価もいただけて本当にありがたく、執筆を継続するうえで大変大きな活力となっています。


今後とも当作品をよろしくお願いいたします。


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[一言] 休憩は大事! 他者視点面白かったです。
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