94.回収組の戦い、そしてレジ付近で ……■
お待たせしました。
94話目です。
事前にお話ししていた通り回収組、そして第三者視点でのお話となります。
ではどうぞ。
――― Another view ―――
「アトリっ! ハルカ様、トウコ様!!」
主人から受けた指示を伝え行動すべく。
ソルアは可能な限りの速さで通路を駆けた。
「あっ、ソルア! マスター、どうだった!? リーユ達もいないけど……」
一番に気づいたのは、アトリだ。
ボス討伐の大きな助けとなる“赤いアーミースパイダー”を倒し終え、自分も主人の元へ向かおうとしていたところだった。
「ご主人様はボスと接敵しました! 作戦Bです、リーユとカナデ様は、ですのであちらに! ――ご主人様は“このまま炭酸回収を任せる”と」
ソルアの端的な、それでいて重要な部分は省かず述べた説明に。
この場にいたメンバーたちは、直ぐ状況を理解した。
「っ! ……そっか。分かった、ソルアちゃん」
「滝深君達が時間を稼いでくれてる間に、ってことね。じゃあ急ぎましょう」
議論している時間すら惜しいという風に遥も、そして透子も告げる。
二人から感じる主人らへの配慮に、ソルアは内心で感謝しつつ。
この回収作戦でも重要な役割を担う“大切な仲間”へと話を向けた。
「――ファム! ご主人様から話があったと思いますが、目的地までの先導、お願いできますか?」
≪もちろんだよ! ――さぁフォン! ソルアお姉さん達を一緒に導こうっ!≫
その場で一回転し、後輩として可愛がっているグリフォンへ近寄って行った。
敬愛する主人以外。
ファムが何を言っているのか、分かる者はいない。
しかしそれでも。
ファムの表情、仕草、動きなどから肯定が得られたと判断。
前、天井近くを飛び始めた妖精・グリフォンを追うようにして、ソルア達も早速“炭酸回収”へと行動を開始した。
「GLISYA!」
≪っ!! ――ソルアお姉さんっ、敵だよ!≫
空からの偵察隊が、いち早くモンスターを発見。
後を追って駆けてくるソルア達もブレーキを踏む。
「数は……2、あそこの角、ですね!」
ファムと言葉が通じなくとも、ソルアは直ぐに彼女の言いたいことを読み取る。
多くはボディーランゲージ、立てている指の本数、どこに指を向けているかなど。
主人がいる際に予め両者の間で決め事をしていたおかげもあり、簡単な意思疎通が可能となっていた。
「――了解っ!」
「行きますっ!」
それを確認するかしないかの間で。
アトリ、そして遥が既に動き始めていた。
相手はアーミースパイダー。
このショッピングモールで無数に存在している内の2体だ。
「ふんっ、せぁっ、やぁっ!!」
アトリはこの“回収組”でも一番の速さ、そして瞬間火力を誇る。
主人から譲り受けた細剣を華麗に走らせた。
切り、払い、時に突き。
変幻自在、それでいて一撃の威力もあった。
そしてあまりの剣速からか、赤ともピンクともつかない目にも鮮やかな線が閃く。
瞬く間に、1体のアーミースパイダーを細切れにしていった。
「せいっ! はっ!」
残り1体、そのヘイトを買っていたのは生存者の遥だ。
透子、そして囮組にいる奏を含めた3人の中で、敏捷値が一番高い。
その足で攻撃を避け、かく乱するようにしてタンクの役割を担っていた。
「っ!! ――“糸”、来ます!!」
そして遥が、彼女だけが持つ【読心術】のスキルが。
回避の一点において、予知に近い領域へと彼女を引き上げていた。
“人”の心、考えに対してはもちろんだが、モンスターに対してもこのスキルは有用だった。
知能を持たないモンスターでも悪意・害意は有しうる。
単純な攻撃、糸による拘束はどちらも“敵を害する”という点では同じでも。
遥にとって“チクっと痛みを覚える”、“ギュッと窮屈さが増す”くらいに感じ方が違った。
それらを事前に察知しうる遥は。
自分たちのリーダーを務めてくれている青年とはまた違った形で、回避型タンクの道を開いていた。
「ZYU――」
「――りょう、かいっ!!」
そうしてアーミースパイダーの注意が遥に釘付けとなっている間に。
透子が、既に背後を取っていた。
遥からの注意で、糸の拘束も完璧にかいくぐり。
鋭い、それでいて重い蹴りの一撃がクリーンヒット。
意外に重量あるモンスターを大きく吹き飛ばした。
「っ! ごめんなさい、仕留めきれなかった!」
アーミースパイダーは柔軟でいて、外皮も案外に丈夫だった。
遥や奏以上に筋力値を上げ、異世界産のブーツも履いて威力を底上げている透子であっても。
アーミースパイダーを一撃で沈めるにはいたらなかった。
「大丈夫ですトウコ様! 私が仕留めますっ――」
だが、抜かりはない。
自陣へと飛んでくるということは、より死へと近づくことしか意味しない。
――そう言っているように、ソルアは何の気負いもなかった。
ソルアは今回、ファム達との意思疎通という重要な役割を担っている。
それに伴い、回収組パーティーでの役目は、司令塔的な立場となっていた。
……だがそれはもちろん、戦闘を行わないということではなく。
「――【光刃】!!」
強く光り輝いた剣が振るわれ、眩いほどの黄色い光が飛ぶ。
それは透子によって見事に蹴り飛ばされ、抵抗する術を奪われていたモンスターを綺麗に一刀両断した。
「……ふぅ。終わりました。先を急ぎましょう」
自分が状況を俯瞰し、必要な時に必要な動きを即応して行う。
能力のバランスもよく、オールマイティーなソルアだからこそ。
この場の全員から信頼され任された役割だった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「……着きましたね」
途中、同じような先制からの戦闘を繰り返し。
一行は、目的地である食料品売り場、その近くへと到着した。
「ファムちゃん達のおかげで、戦闘で苦労はしませんでしたから」
「……妖精さん達をこっちに預けてくれた滝深君に、本当感謝ね」
遥や透子の言葉に、ソルアもアトリも強く頷く。
4人の連携も、相互の信頼に裏打ちされ隙が無く、敵を圧倒する要因の一つではあった。
しかし空から事前に相手の位置・数が分かってしまうというのは、戦闘においてとても大きなアドバンテージをもたらしていた。
双方の間での連絡要員、という意味は理解していたが。
それでも、ファムをこちらに送りだしてくれた青年に、遥達は強く感謝していた。
「……さて、ここから“飲料コーナー”を目指すって話だけど」
アトリが、遥の作った簡易地図を見ながら目的地を確認する。
【異世界ゲーム】が始まる前、平時なら、案内図やそれを示した紙などがどこかには必ずあっただろう。
しかしモンスターの目を避け、戦闘がいつあるかわからない今、それらを参照したり探したりする余裕はない。
そうした状況において、遥が事前に作っておいた略図は極めて情報量も多く正確であり、一行を大いに助けていた。
「ええ。……あっ、ちょっと待ってアトリさん。“レジ”に先に寄りましょう、すぐそこだから」
一瞬、同意しかけた透子だが。
目的地へと到着したその先を想像して、ストップをかけた。
「えっ、“レジ”?」
「……ああ、“会計場所”、ですね」
最初、異世界組には意味が通じなかったものの。
ドラッグストア、あるいは正に今日訪れたコンビニエンスストアでのことを思い出す。
それで“レジ”の意味を直ぐ記憶から引っ張り出してきた。
「そう。……“炭酸飲料”を回収するっていうのが目的だけど、持っていけるだけ持っていくんなら、それを入れる“袋”が欲しい」
透子の言葉を聞いて、同じ生存者・地球人たる遥が直ぐ理解を示した。
「あぁ~なるほど。“レジ袋”、あるいは“カゴ”があれば持ち運び、便利ですもんね」
一本で足りるならまだしも。
ボスへとぶつけ弱体化させることを意図しているのなら、本数は多ければ多いほどいい。
だが一方でかさばる以上、両腕で抱えて運搬する、というのは現実的じゃなく避けたい。
その間、動きが制限されるという意味でも、ただ抱えるという案は無しだった。
そうした理由で、透子は一度床に置いてもばらけない“入れ物”は必須だと考えているのだ。
「カゴより、レジ袋の方が使い道が多いから。袋は開けない状態ならかさばらないし、それ自体の持ち運びだってできるでしょう」
網目のある買い物カゴも、もしかしたら盾の代わりにはなるかもしれないが。
今回はとにかく利便性という点を重視し、レジ袋を選択することに。
「これ……ですよね? “大”とか“小”とか、大きさがあるようですが」
壊され、荒らされたレジが並ぶ会計ゾーン。
そこに、床へと無関心に放置されたままのレジ袋を発見する。
付近には“レジ袋削減にご協力ください”や“マイバッグ デザインコンテスト”、“持続可能な環境作りにご理解いただきありがとうございます”などの紙・ポスターが無残にも落ちていた。
「……“特大”は破れてる、か。じゃあ“大”を、持っていけるだけ持っていきましょう」
ソルアの確認に、透子が一瞬考えて答える。
遥も異論はなく、拾ってアトリにいくつかを渡した。
そうしていよいよ、目的である“飲料コーナー”へと向かおうとした時。
≪っ! ――今までより、大きいの、いたよ!≫
偵察してくれていたファムからの、警戒を促す合図があったのだった。
次まで、第三者視点が続く予定です。
この時間帯という点や久しぶりだったのもあって、ちょっと疲れました。
また、滝深君と水間さんが揃って囮組の方にいるのもあり、ネタや茶化す空気が入る余地すらない……!
誰だ、二手に分かれる時の構成をこうしたのは!!(目逸らし)
それと、14日のイベントはやはり私とは無縁でしたね。
皆さんはいかがお過ごしでしたか?
異性(※家族を除く)・パートナーと甘い一時を過ごした、なんて方はもしや……いませんよね?(圧からの懇願)
感想やいいね、いつもありがとうございます。
少し疲れたな、と思ってダラダラしてしまっていても、おかげで執筆の際とてもやる気をいただいております。
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今後とも当作品をよろしくお願いいたします。




