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92.赤光と目、時間稼ぎ、そして走るの一旦止め!

お待たせしました。


92話目です。



ではどうぞ。


≪――ご主人っ、そっち行ったよ!≫



 どうやってボスの隙を突き、リーユ・水間さんと合流するか。

 そう思考していた時、短くファムの声が聞こえた。



「っ!?――」



 一瞬何のことかわからず。

 もしや他のモンスター達がボスの加勢に来たのか、と早合点する。


 ――しかしその意味は、目の前の事象と相まって直ぐに理解できた。

 


「あっ! “火の玉”来ました、です!」



 ――あぁ、“赤いアーミースパイダー”の!

 


 今さっき、アトリが倒してくれたと音声で通知されたばかりだ。


 そしてリーユの声に合わせたように。

 赤く輝く光が飛来する。

 

 光は初めからそうあるよう決まっていたかの如く、正確無比にブラッドスパイダーへと接近し――

 


「――ZIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」



 7つある目の内、黒目の左列、その一番上に命中。

 ボス蜘蛛の絶叫が、ショッピングモール内を駆け巡った。


 同時に、あまりの痛みに悶え苦しむかのように、ブラッドスパイダーの動きが止まる。



「っ!! ――リーユ、水間さん、今っ!」  



 とても分かりやすい隙が出来て、こちらも一瞬だけ思考が停止しかける。

 しかしこれを逃す手はないと、反射的に二人へ呼びかけた。 



「はっ、はい!!」


「うおっ、やばっ、鼓膜ブチ破れるかと思った……」



 動きを止め痙攣(けいれん)したボスの横を、二人は勇気をもって駆け抜ける。

 ……いや、水間さんは“処女”とか“ゴム”とか、何から連想したのかわからないワードをブツブツ言ってるけど。


 とにかく。

 思わぬ展開続きだったが、ちゃんと合流を果たせたのだった。

 

 

「よしっ、じゃあ――おっ? ……なるほど」



 3人で(まと)まったのだからこの場に長居は無用、と思った矢先。

 更に、あることに気づいた。



「“目の色”が……変わってる!」

   


 さっきまで左列3つはどれも“黒”目だったはず。 

 だが今はその一番上、赤い光が命中した部分が、“赤”目になっているのだ。


 右一列の3つも変わらず、血が充満したように真っ赤っか。 

 そしてショッピングモールに入る前に倒された“赤い蜘蛛”も3体。


 つまり――



「倒した“赤い奴”と、ボスの7つある目の色は対応してる――っと!」



 流石に硬直がずっと続くわけではなく。

 再び、ブラッドスパイダーが動き始める様子を見せた。


 もう少し考察を深めたいところだが、これでも十分な成果だと切り替える。



「リーユ、水間さん――」


「はい!」


「ええっ、お兄さん!」


 

 3人で、阿吽(あうん)の呼吸のごとく―― 



「――逃げるぞっ!」


「逃げる、ですっ!」


「ずらかりましょう!」


 

 ――ブラッドスパイダーから離れるようにして、一斉に走り出した。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□


 

「ZIAAAAA,ZAAAAAAAAAAAAA!!」  

  

   

 ボス蜘蛛も“はっ!? ちょっ、待てよ!”みたいな感じで、一瞬だけ躊躇(ちゅうちょ)したものの。

 その後は我に返ったように、ガタガタと音を立てて追いかけて来た。



「うわっ、来たぞっ!?」


「ひっ、ひぃぃ~です!」


「ぎゃぁ! 脚キモッ、ウヨウヨと、動いてますよ!」



 それぞれ悲鳴に近い反応をしながらも、追ってきてくれて内心助かっていた。


 

 ――そう、ソルアに伝えたプランBとは要するに“囮作戦・時間稼ぎ”が主目的だからだ。



「でもっ、ウヨウヨ動いてるところが“見える”ってことは! 俺達でも対応できる相手だってことだ!」



 水間さんの言葉を拾って、自分自身を励ます意味でも思ったことを口にする。


 そうだ。

 さっきの“無敵状態”を見ている分、むしろプラス面の方が沢山あるように感じてきた。


 現にこうして、相手を気持ち悪がれること自体、精神的な余裕が出ている証拠でもある。

 ……そう、今の(アレ)が、本来の能力・姿なんだ。

 


「はっ、はっ、はいぃ~!」


「いや、リーユちゃん、無理して受け答えしなくていいから、走ること、集中!」



 おそらくモールの南側、ファッションやブランドコーナーを駆け抜ける。

 ソルア達は北側通路、つまり俺達とは反対を経由して東、食料品コーナーへと向かったはずだ。



「ちっ、やっぱ他の雑魚モンスターもいるか――」


 

 走る中、視界にアーミースパイダーがちらほら映る。

 こちらには気づいているようだが、ブラッドスパイダーの姿を見て攻撃を控えていた。

 

 ……俺達が止まったら、いつでもボスの加勢ができるようにという感じだろう。



「ZI,ZIA!」


「っ!! ――二人とも、“糸”来るぞっ!」


 

 ステータスの身体能力関連で一番余裕のある俺が、追ってくるボスの攻撃に、口頭で注意を促す。

 今度もやはり予備動作、そして発射が目で追えるほどの速度になっていた。



 ――うん、ちゃんとボスとして対応できるレベルに収まってくれてる!



「はっ、はいぃ! ――っ!!」


「うぃっす! ――んしょっ!!」



 二人とも事前に知りえただけあり、きちんと回避に成功。

 水間さんの方が、どちらかというと余裕があるように見える。



「っと! ――中央に出たか」



 時間にすれば1分あったかどうか、しかし体感では数分以上の濃密な逃走劇。

 7階までが空洞で貫かれた、中央スペースに出た。


 1階は物販や演奏会、新人アイドルのミニライブなど、催事(さいじ)に利用されていたらしい。

 


「はぁっ、はぁっ……」


「うわっ、これは……正に“蜘蛛の巣”って感じですね」



 本当なら足を動かし続けたいところだが、目に飛び込んできた光景のインパクトに、一瞬だけ動きが止まる。

 水間さんが口にした通り、今では中央スペースは完全に“蜘蛛の巣”と化していた。 



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



 あちこち糸が張り巡らされている。

“もうすぐハロウィーン!”、“仮装コンテスト”、“お菓子 無料配布”などと書かれた吊りポスターは、本物の糸によって絡めとられていた。

 

 かと思うと、糸でグルグル巻きにされた大小様々な球体、おそらく(まゆ)が無数に存在していた。

 店内を彩るはずの黒・紫・オレンジなど、ハロウィーン色をした紙は、繭の隙間へと無残にも巻き込まれている。



「…………」



 ――そして最も目を引くのは、この中央スペースの中でも更にド真ん中。

 

 天井へと向かう梯子(はしご)のごとく、7階まで伸びた一本の太い太い糸だ。


 ショッピングモール全体がボスのテリトリーではあるのだろう。

 だが特に中央(ここ)、そして階層を上下するあの巨大な綱のような糸が、ボスの本当の生活拠点みたいに見えた。

    

 

 ……できるなら、何度も通り抜けたい場所じゃないな。

 


「――ZIAAAAAA!!」


「っ!!」



 追いついてきたブラッドスパイダーが、威嚇の声を上げる。

 自分の巣へ、住処(すみか)へと足を踏み入れた侵入者を、最大限に怯えさせようとするかのように。



「走れっ!」


「はっ、はいっ!!」


「合点承知の助!」 

 


 追いつかれた際のファーストアクションが、攻撃ではなかった。

 それを見逃さず、逃走を再開。

 こっちは別に、わざわざ敵の陣地真っただ中でやり合う気などないのだから。



「っ! こっちだ――」


 

 そして逃げる方向を間違わぬよう先導する。

 ファムの視界を通して、ソルア達が北通路を駆け抜けたことは確認済みだ。

 

 なのでまず北通路へと走り、そこからソルア達とは反対、逆走するようにして西へ。

 つまりスタート地点へと戻るようにした。


 

 これで回収組からは確実に引き離せる!



「ふっ、はぁっ!」    


「よいしょっ、よっと!」 


 

 そうして三角形の辺上を走り続けるように。

 ダッシュ、回避、またダッシュと命懸けの鬼ごっこを続ける。


 放置された死体はもちろん、散乱した服やバッグに足を取られぬようにも気を配らねばならない。


 俺、そして水間さんは……まだ大丈夫。

【パーティー】機能、“来宮さん”の恩恵で“敏捷値”に上乗せがあるのも大きい。

 

 だがリーユは――



「――はぁっ、はぁっ、んぐっ……はぁっ、はぁっ」


 

 既に、息が大きく上がり始めている。


 リーユは異世界人で、【パーティー】機能の恩恵に(あずか)れない。

 

 そして非常に強力な癒しの力を持っているため忘れそうになるが、リーユは今日“地球”へとやって来たばかり。

 言い換えるなら、つい数時間前まではずっと“異世界”にいた。

 それも“絆欠片(リンクス・フラグメント)”が見せてくれた光景では、身動き取れないよう固く拘束され、牢に繋がれていたのだ。


 どれだけ回復が得意でも自分を対象に。

 しかも元の最大値が低い場合には、有効性があまりないのだろう。

 


「大丈夫か、リーユ!?」


「はっ、はぃぃ~! あっ、主さん、私、は大丈夫、ですぅ」

      


 全然大丈夫そうには聞こえない。

 空元気だろうことが直ぐにわかる。

 水間さんも同じ思いらしく、言葉なく首を横に振って来た。


 ……うん。

 むしろ予想以上に頑張ってくれた。


 そもそもリーユが活躍してくれるのは、ここからなのだ。



「――リーユ、水間さん、止まって! 戦闘、一回挟むぞ」



 リーユのスタミナ回復のためにも、いつかは止まって戦闘することは想定していた。

 それが今、このタイミングだと判断して指示を飛ばす。




「えっ? んぐっ――は、はい!」


「うぃっす! ……お兄さん、次また走り始める時、リーユちゃんを抱っこしてあげたらどうです?」

    


 一瞬、冗談のようにも思えたが、水間さんの提案は案外悪くないと判断。

 そうすればリーユは倍、呼吸を落ち着けるための時間が取れる。



「戦闘後、俺の余裕が、あればだけどな! ――行くぞっ!」



 そうして時間稼ぎ作戦の開始後、初めての戦闘へと突入した。  

おそらく次、あるいはその次くらいにソルア達“炭酸回収組”の視点を挟むと思います。

第三者視点でするか、あるいはソルアや久代さんなど誰かの視点で書くかは未だ考え中ですが、書く際は分かるように事前に“前書き”で触れるようにします。


感想、やはりいただけるだけで大変嬉しく感じます。

短くても、簡単なリアクションでも大歓迎です。

拝見する際、いつもこちらが楽しませてもらっています。


いいねやブックマーク、ご評価ともども、お気軽に!


本当にすべて、執筆の継続にとって、とても大きな励みとなっております。

今後とも当作品をよろしくお願いいたします。


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[良い点] 「――逃げるぞっ!」 「逃げる、ですっ!」 「ずらかりましょう!」 三十六計逃げるにしかず 戦術的撤退
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