89.外の異変、一体誰が、そしてショッピングモールへ!
お待たせしました。
89話目です。
※前話、間違って“88話”なのに“89話”ってしてましたので、修正しておきました。
ではどうぞ。
「あっ、滝深君!」
「マスター、どうだった!?」
久代さん、そしてアトリが俺に気づいて駆け寄ってきてくれる。
「うっす。……ん~まあ大丈夫だろう」
同じく待っていてくれたソルア達にも、かいつまんで報告しておく。
「ちょっかい出すにしても先ず“俺に”だと思う。――だからソルアも、来宮さんも。今のところは安心してくれていい」
モテる男は辛いなぁ~。
いや、どうせならそりゃ男なんかじゃく、美少女にモテたかったけどね。
あまり深刻そうに話すのも違うだろうと、さっきまでのチャラい雰囲気を醸しつつ告げる。
「そう、ですか……」
「…………」
しかし、皆からの反応は薄い。
俺を褒めて伸ばしてくれるタイプのソルアさんでさえ、まさかの無言である。
……えっ、嘘っ、やっぱり俺のチャラ男キャラってスベってる!?
「あの、それって、でも、滝深さんが命を狙われるってこと――いえ。やっぱり何でもありません。ありがとうございました」
何か言いかけた来宮さんだったが、それは言葉にされず飲み込まれる。
……まあ気づいてはいるけど、この場で言うべきことじゃないって思ってくれたのかな。
「……私も、ありがとうございます、ご主人様。その分【ワールドクエスト】のモンスター戦、頑張りますね!」
ソルアも口を開くまでに少し間があった。
何かしら思うところはあったらしいが、同じようにそれは表には出さず。
こうして明るく眩しい程の笑顔で答えてくれた。
……うん。
こんなにも優しい二人の懸念を、不安を。
少しでも取り払えたのなら良かった。
「……滝深君。さも“これですべての問題は解決したぞ”的な顔してるけど。私、まださっきのこと、聞きたいんだけどなぁ~――特にあの“透子ちゃん”呼びについて」
うわぁぁ~忘れてたぁぁ!!
「ごめんなさい! 久代さんのいうこと何でも聞きますから許してください!」
心の中で誓ったこととはいえ、男に二言は無いですぜ姐御!
「な、何でも!? そ、それなら――」
す、凄い食いつきだな。
これは順番待ちしてるアトリの分も大変なことになりそう……。
「もちろん取ってこいって言うなら“プロテイン”だって取ってくるし、“サラダチキン”だって探してくる! あっ、“ゆで卵”が欲しいなら、流石に既製品を見つけてくることに――」
「おいっ」
ひぃっ!?
“透子ちゃん”だったのが、“透子の姐さん”とお呼びした方が適切な声に!?
「なぜ滝深君の中の私は“筋肉命!”みたいな女なのか。……本当、私だって甘い物とか、普通に食べるのに」
あっ、久代さん、後半は“透子ちゃん”にお戻りになられた。
……そんな拗ねたように可愛い声出さないでよ、普段のクールな感じとのギャップで萌え死にさせる気か。
そうして久代さん、さらにアトリへどうご機嫌取りをしようか考えていたところに。
≪――ご主人、報告だよっ! 外っ、凄く大きな音が!≫
ファムからの連絡が入る。
そこで思考を即座に切り替えたのだった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
『――ZIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
聞き覚えのある音。
というか絶叫だった。
痛みに悶え苦しむかのような。
その原因の相手を絶対に許さないと、強く強く恨み言を叫んでいるかのような。
そうした“ボス蜘蛛”の声が、接続したファムを通して耳に届いてきたのだった。
「……“赤いクモ”が、倒されたみたいだ」
俺の言葉に、弛緩していたその場の空気が直ぐにピリッとしたものに。
告げられた内容、出て来たワードの重要性。
誰もがそれをちゃんと理解し、瞬時に切り替えたのだった。
「さっき俺たち自身で見ただろ? あの赤い火の玉みたいになって、ショッピングモールに入っていく奴。――あれの後の、ボスの叫びが聞こえて来た」
「なるほど。……じゃああたし達以外の誰かが倒したってことは間違いなさそうですね」
この中でリーユと並んで最年少、水間さんが真っ先に状況を整理する。
……本当、肝が据わってるというかなんというか。
こんな世界になって。
誰しもが嫌でも心を強くせざるを得なくなった。
そうじゃないと生き残れないから。
そう考えると水間さんの様子は。
仲間としては頼り甲斐があり嬉しい反面、一大人としては複雑な心境でもあった。
「アトリさん達は言うまでもないけど。生存者の私達でも束になれば倒せなくはない魔物って感じだったわよね? ……でも弱くもなかった」
「はい。……もしかして、私達以外で、【ワールドクエスト】攻略を目指してる生存者が?」
来宮さんの推測はありえそうな線だろう。
だがそれを肯定するだけの情報はまだ手元にも、そしてファムからもたらされる光景にもない。
5分ほど様子を見ていると――
≪あっ! ご主人、まただよ!≫
『――ZIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
ファムの言葉が聞こえたかどうかというタイミングで、二度目の咆哮。
今回はファムに注視してもらっていただけあり、ショッピングモールの様子も窺えた。
赤いアーミースパイダーの死体、火の玉のような光の出所は分からない。
だが空気が、残っていた窓ガラスが。
その声に怯えるようにビリビリと強く振動する様は、ちゃんと目に映った。
「――間違いないな。俺たちの見えない場所で、誰かが“赤いクモ”を狩ってくれているらしい」
俺の言い方、表現の仕方で納得がいったというように、リーユが口を開いた。
「あっ。そっか、では別に悪い話ではない、です?」
それに頷き返し、状況を整理する。
「もちろん。【ワールドクエスト】のボスを横取りされるってなると話は変わってくるが。……でも今の時点では、むしろ楽させてもらってるってだけだ」
「その分だけ“ボス蜘蛛”が弱体化されるってことですもんね。……でも誰が?」
ソルアの疑問は、やはり分かるのであれば誰もが知りたいことだった。
――そこに水間さんから、閃きの呟きが落とされる。
「あっ、もしかしてさっきの不良たち?」
それはこの限られた情報量の中では、一番納得のいく答えだった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
それから必要な準備を整えた後、話し合いも経た上で急遽外へと繰り出した。
「……うわっ、凄っ。モンスター、来た時より、何かかなり減った印象ありますね」
水間さんの感想通り。
広大な駐車場はやって来た当初よりも、随分と空きの空間が目立つようになっていた。
言い換えるなら、モンスターの数が少なくなっているのだ。
倒されたのか、別の要因でいなくなったのか……。
「だねぇ~。赤い蜘蛛さんだけじゃなくて他の虫さんたちも、不良さんたちが倒してくれたんだよ」
来宮さん、“虫”だけじゃなく“不良”にも“さん”付けって、育ちの良さが出てるなぁ。
「……あれから“ボス蜘蛛”の叫び声は一度もなかった。もしかしたら赤いのの打ち止めに合わせて、他の雑魚モンスターも一定数いなくなる仕様なのかも」
警戒は怠らない中で、別に当たっていることを期待もしていない推測を口にする。
ホームセンターを出る前、きちんとファム・フォンによる偵察も行った。
そっちでも“赤いアーミースパイダー”はやはり二度と姿を見せなかった。
「かもしれないわね。外に出てくる数が決められていて。その一定数が倒されたらボスが警戒して、護衛のために中に引っ込む、みたいな?」
アトリもアトリで前方への集中力は切らさず、思考の足しにと自分の思った意見を口にしてくれる。
「まあ何にせよ、ありがたいことに違いはないわ。これでホームセンターに長居せず、さっさと【ワールドクエスト】に挑めるんだから」
久代さんの言う通りだ。
そしてそれは、“あの男たちがいる空間からさっさとおさらばできる”という意味も含んでいるだろう。
「…………」
今ファムとフォンには、ホームセンター入口への偵察を担ってもらっている。
だから急に“ショッピングモールへと向かう”と告げて出て来た俺たちを、誰かが尾行してきても。
どこにいるか、正確に把握することはできない可能性があった。
……でも、それならそれでいいとも思う。
狙われるなら俺だし。
それに“俺があいつら”なら、どれだけ憎くても“格上だと思っている相手”に真正面から仕掛けたりはしない。
……多分俺が一人か、あるいは少人数でモンスターと戦闘になった時に行くかな。
だからとりあえず、追ってくるかもしれない生存者のことは無視でいいと思った。
「――それにしてもあの不良たち、良い活躍ですよ。結果的にホームセンターに寄ったのは正解だったみたいですね」
水間さんは今回は茶化す感じではなく、本心からそう思ってるような言い方だった。
千種たち、というか千種はホームセンターを去り際“安全な場所へと移動するためには外のモンスターと必ず戦うことになる”と言っていた。
ショッピングモールの広大な敷地内、その中にあるホームセンターから脱出しようとしていたのだ。
そりゃ意図してかせずかは分からないが、“赤いアーミースパイダー”と戦闘にもなるだろう。
……そしてあの千種がいれば、一般モンスターに負けることはあるまい。
「だな~」
「“だな~”って……何を呑気に。懸命に働いてくれた不良たち、その頭領を倒したのはどこの誰ですか?」
今度は逆に呆れたような、ジト―っとした目で俺に問うてくる。
……いや、うん、俺だけどさ。
「あっ、それ私も思いました! 最後、あの“千種”って男の子を見た時、凄く迫力というか、オーラみたいなものを感じて。“でもそんな相手が戦意喪失するほどに勝っちゃうって、滝深さん凄い!”ってなりました!」
おっ、やった。
意図してないところで何か知らんが、来宮さんの好感度がかなり上がってた。
……すまんな建屋の弟君。
来宮さんの好感度を大きく左右するのは、やはり千種がカギだったらしいぜ。
勝つか、捕まって転がされてるかではそりゃ印象違うか。
「それでは僭越ながら、私が今の遥さんの言葉を翻訳させていただきますね。……『キャー! 滝深さん、カッコいい! チョー好き、抱いてっ! 私と子供作って幸せな家庭築いて!』――らしいです」
いや、君は何を神妙そうな顔で、全く似てもいないモノマネしてんだか。
……まあ、そろそろショッピングモールの入り口が見えて来たから、緊張を解そうって意図だろうけども。
「えっ、か、奏ちゃん!? 何で翻訳しちゃうの!? ――あっ、いや、滝深さん、今のは違くて! “翻訳しちゃうの!?”っていうのは今の奏ちゃんが言ったこと、私の気持ちを肯定したわけじゃなく、うぅぅ~!!」
来宮さんは声は抑え気味だが、目を回してあたふたと否定する。
……やっぱり千種に勝とうが好感度が上がろうが、そりゃそんだけで俺が惚れられるわけないよね。
うん、ボッチわかってた。
……だから来宮さん、そんなに真っ赤になってまで強く否定しないで欲しいなぁ。
ボッチ、とても悲しくなります。
<――【施設】の中に入りました。※利用不可。この施設はモンスターにより占領中です。解放の後、利用可能となります>
そうして適度に力を抜き、適度に緊張感を保って。
占領された【施設】、【ワールドクエスト】の地、ショッピングモールへと到達した。
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内容も何度も読み返してしまうほどありがたいもので、今でも舞い上がっております。
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