87.やっぱり!? そして面倒臭そう!
お待たせしました。
日は跨いじゃいましたが、何とか87話目です。
ではどうぞ。
二人から手厚く、一方で人に言うのは憚られるようなマッサージを受け。
さっきまであった体の強い痛み・疲労感は随分楽になった。
それはいいのだが……。
「…………」
「…………」
「…………」
俺に割りあてられたスペース、ソロテントにて。
さっきとは違った沈黙が、この空間内を支配していた。
……いや、うん、あんなことがあった後だしね。
コミュ力お化けの陽キャ主人公でもあるまいし、何を話せばいいか分かんないって。
「あ、あはは。あの、流石にちょっと恥ずかしい、ですね。ご主人様のお顔、直ぐには見られません」
「で、ですねソルアさん。私も、ちょっと、主さんの顔、今は直視できないです」
気を利かせてか、顔を赤らめながらも二人はそう口にする。
やはりやっていた自分たちも、強く羞恥心を感じることをしていた自覚はあるらしい。
「そうか……」
だがそれは裏を返せば、だ。
照れや恥じらいは一旦飲み込んででも、それだけ俺のためにと尽くしてくれたとも言える。
……なら俺が一人、気まずさを覚えて黙っているのは違うだろう。
「よしっ! 二人のおかげで元気一杯だ! 体もスッキリして立ち上がれる――」
そうして勢いよく起立し。
この場の空気を変える意味でも、ワールドクエストについて力強く宣言しようとしたピッタリのタイミングで――
「――あっ、いたいた、お兄さん! リーユちゃんも一緒で……えっ?」
水間さんが、通路の角を曲がって顔を見せたのだ。
どうやら二人と同じく俺の様子を見に来てくれたらしい。
だが何故か、驚愕で目を見開き、言葉を失っている。
……どうしたの?
「わっ、きゃ! ……あうぅぅ~奏ちゃん、いきなり止まると危ないよ。どうかしたの?」
そして、更にその後ろから来宮さんも登場。
建屋の弟君の前では見られなかった表情豊かな様子が、ここではちゃんと戻っていた。
「あっ、それはごめんなさい。――ってそうじゃなくて!」
自分で自分にノリツッコミを入れるみたく、水間さんは切り替え早く動く。
そうして固まったままの俺たちに、ビシッと人差し指を突き付けて来た。
「男性であるお兄さんが“二人のおかげで元気一杯だ! 体もスッキリして立ち上がれる”と証言! さらにその行為がどんなものであったかを示すように、ソルアお姉さんとリーユちゃんの表情が物語っていた!」
さっき不良二人を混乱させるため、かすってはいるが的外れでもある推理をあえて披露した時のように。
水間さんの、これから述べることは全て確信しているというような、自信に満ち溢れた勢いある言い方に。
……どこか、とても嫌な予感が湧いてくる。
「今は証拠隠滅されてキョトンとした表情になっちゃってるけど。あたしは見逃さなかった、あの一瞬を!」
水間さんが言葉を続ける度に、頭の中のアラームが強まっていく。
……いや、【危険察知】さん、こんなところでも活躍してくれんのか。
「どこか照れや恥ずかしさが混じった赤らんだ顔! でもそれが女として誇らしい・飛び切り嬉しいことでもあるように漏れた、くすぐったそうな笑み! これが示す真実はただ一つ――」
「ゴクリッ……」
来宮さーん!
生唾飲み込むほどの大層なことなんてなかったから、そんな興味津々そうにしないでぇ~!
君、本当に建屋の前と全然違う、いい表情するねっ!!
「――どうやらあたしたちは、お子様厳禁の大人なことが行われた直後に来てしまったみたいですぜぃ、遥さん。……フッ、ここは大人しく空気を読んで去りましょうや。大人だけに、ね」
あばばばば!
やっぱり変な勘違いしてるぅぅ~!!
いや水間さん、何を君は格好良さ気に“上手いこと言ってやったぜ”感出してんの?
全然違うからね!?
「あ、アダルティな!? え、エッチなことを、滝深さんやソルアちゃんたちが!? は、はわ、はわわ!!」
来宮さん、君の反応も良くない!
真っ赤になった顔を手で隠しながらも、指の隙間からチラチラこっちを見てるの、バレバレだからね!?
「えと、あの、これはその……」
「あうぅぅ~主さん? 私達、えっと、どうすれば……」
困惑したソルアとリーユの様子も相まって、状況は収拾がつかないレベルに。
……まあ、なんかもう、皆が元気一杯でいられているのなら、それでいいです。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「はぁ、なるほど。お兄さんの体が結構大変だったから、ちゃんと健全なマッサージを二人でしてたってことですね?」
何とか、全体が少しでも落ち着くタイミングを見計らい、改めて状況の説明を行う。
水間さんも早とちりこそしてしまったが。
それはこのように理解力があり、頭の回転が速いからこそでもあるのだろう。
「ああ、その通りだ」
「そ、そうでしたか……すみません滝深さん。変な勘違いをしてしまって」
来宮さんも申し訳なさそうに謝罪してくれる。
……未だに残っている頬の赤みは、勘違いしてしまった自分への恥ずかしさから、と取って良いんだよね?
案外に来宮さんってムッツリだからなぁ……。
「いや、もう済んだことだから。――で、二人は? ソルア達みたく、住人にハブられた俺の様子でも見に来てくれたの?」
これ以上この話題を続けるのは、お互いにとって得策でないと判断。
即座に自虐もできる話へと切り替える。
「ははっ、まあそれもありますね」
「あの、滝深さんの意見を伺いたくて。……建屋君達のこと、どうしましょう?」
来宮さんの話は単に、建屋からやってくる自分へのアプローチについて相談している感じではなかった。
「建屋君“達”?」
他の住人も含めたこのホームセンター内にいる俺たち以外全員を指している、というニュアンスとも違う気がする。
「えっと、その、どう言えばいいか……今、透子さんとアトリちゃんが対応してくれていて」
それだけ聞いてそういえばと、この場にいない残り二人のことに思い至る。
そして更に今、視界を共有していないファムも、おそらく二人の傍にいるだろうと当たりを付けた。
「なるほど。ちょっと待って――」
何となく会話の流れを察し。
その方が都合がいいだろうと、ファムと情報共有することに。
≪――んにゅぅ~! ご主人、お疲れ様! 体は大丈夫なの?≫
視界・音が接続された直後、ファムからこちらを心配する声がした。
あぁ、すまん、ソルアとリーユのおかげでもう大丈夫だ。
先ず映ったのは眼下、見下ろす形で人が4人。
――Oh! ファムさん床の4人Watch……カワイイカワイイね。
《えっ? い、いやぁ~ご主人、いきなりそんな“可愛い”だなんて! ボク、照れちゃうよ~えへへ》
あっ、いや、今のは……まあいいや。
訂正するのも何だし、そのまま見える光景に集中する。
久代さんとアトリの存在はすぐにわかった。
「もう二人は……あぁ、話題の建屋と。後は住人の一人かな」
40代かそれ以上。
生活習慣の改善を強く勧めたい、運動不足気味な会社員っぽい男だ。
……そういえば、不良達に蹴られる場面で見たかも。
「そうですそうです。で、その二人が要は“ちょっと”――あー、すいません、嘘つきました。“かなり”面倒臭くて」
俺の言葉を拾い、水間さんはすぐさま状況を把握。
そのうえでうんざりした顔をしながらも、更に補足してくれる。
そしてそれは、ファムからもたらされる映像で、実感を持って納得できた。
『――ねぇ、久代さん。いいでしょ? 兄貴のよしみでさ。久代さんの【パーティー】に入れてよ。俺、来宮を傍で守りたいだけなんだ!』
『あ、アトリさん! お、俺もさ、一人の大人として、男として。君たちを助けたいんだ! 特にそ、ソルアさん、どこか儚気で、女性だけは危ない感じがする! お、俺が君たちの【パーティー】に入って、命懸けで守るから!』
……うん、かな~り面倒臭そうな状況だね。
あまり文字数は意識せず、更新速度の方を重視で行って、何とか書けました。
更新を再開して、また慣れて来たというのもあるかもしれません。
明日も頑張ってみますが……あまり期待はしないでください。
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更新を頑張って数字や感想などで反応が返ってくるのが、本当に一番の執筆の励みになります。
今後とも当作品をよろしくお願いいたします。




