85.俺の居場所(スペース)、戦闘の振り返り、そして隠されたデメリット
お待たせしました。
やはり更新の時間帯がめちゃくちゃで申し訳ないです。
85話目ですね。
ではどうぞ。
千種たちが去り。
ホームセンター内に、平穏が一時的に戻ってきた。
そして住民たちに、一応はちゃんと受け入れられたのである。
「えっと、あの、その。君のスペースは、ここに、なるから」
「……あっ、はい、どうも」
怯えたような、あるいはどう接していいか困惑しているみたいな。
そんな30代ほどの男性に、短く感謝を伝える。
「その、で、ここのルールはさっき話した通りだから。そ、それじゃ――」
一秒でも早くこの場を後にしたいとでもいうように、男性は口早に告げて去っていってしまった。
「……まあ、良いけど」
なんだかなぁと思いながら、改めて目の前の空間に視線を走らせる。
「ふぅ~ん……」
割り当てられたのは、一人用のスペースだ。
入り口からは、比較的近い。
木材や塗料が陳列されていたであろう棚と棚の間。
その通路に、商品だったはずのソロテントがポツンと張られていた。
ブランケットも一人分ならば、寝袋ももちろん一つ。
キャンプ用の椅子だって、しっかりと一脚分である。
……そう、連れてこられたのは一人用のスペースなのだ。
『あの! ほ、本当助かりました!』
『す、凄いね! リーユちゃんとアトリちゃん、恰好って意味でもそうだけど。それだけもう【異世界ゲーム】で武器を集めてるってことだし! ぐぇへっへ!』
『へ、へぇ~! ソルアさんっていうんだ。……す、素敵な生存者名ですね! そ、ソルアさん自身も、あの、お綺麗で! えっと、す、凄く魅力的、だと思います!』
ファムからもたらされる映像では一方で。
ソルア達が、住民から大歓迎を受けている様子が送られてくる。
それほど遠くもないので、明るく盛り上がっている声が、俺の耳にも一瞬遅れで届いた。
「なるほど……そういう感じで収まったのか」
ソルアも明らかに日本人離れした容姿をしているが。
アトリとリーユに至ってはそれにとどまらず、見るからに公共の場で相応しくない恰好をしている。
……主にハレンチ警察が出動する方面で、だ。
だがそれも【異世界ゲーム】3日目となれば、何らかの【スキル】や【装備】の結果として受け取ってもらえるようだ。
リーユなんて角、生えてるしね。
あるいは、自分たちを窮地から救ってくれた恩人だ。
仮に気になる部分があっても機嫌を損ねないよう、そうした点は言及せず飲み込んでいるのかもしれない。
『本当、ありがとうな来宮。ここからは恩返しも含めて、俺がお前を守るから!』
『……う、うん。あ、あはは。ありがとう建屋君』
ソルア達に限らず。
来宮さんや久代さん、そして水間さんもまるで英雄のごとく扱われていた。
特に来宮さんは昨日に続き、素敵な騎士が再び現れたようで、完璧な愛想笑い中である。
「……皆、俺と違って英雄だもんねぇ」
そう。
千種ら不良グループに、目隠しの上で捕まっていた住民たちにとっては。
現実に自分たちを解放し。
そしてその場にいて、不良へと対峙してくれた彼女ら“6人”が、恩人であり。
『――あの、さ。あっちにいる“大学生の彼”も一応、知り合い、なんだよね?』
『でも彼、さっきは“一人で”入って来たんでしょう? 君たちが3人ずつの【パーティー】で、彼はソロ、だよね?』
『……目隠しされて見えはしなかったけど。不良たちと、大声で凄く揉めてた。怖い人には見えなかったけど……何考えてるのか分かんなくて不安だわ』
住人らの疑問が、端的に俺への印象を言い表していた。
――やはり俺氏、人数が増えても結局はボッチに見えていたようでござる!
「まあそうだよね……」
水間さんが誤解したのと同じだ。
今回は服装や日本人離れした容姿をしているかどうかという類似点で。
生存者・異世界人それぞれの【パーティー】だと、見事に分けられた。
「……ソルア達のことも“生存者”の【パーティー】だと勘違いされているようだけど」
結局は。
女性が圧倒的に多い中、男がそこに一人だけいたら。
どうしてもそいつを省いた上での“チーム・グループ”なんじゃないのかと、先入観を持つのが普通だ。
ただあえて、その勘違いを正さず。
久代さんたちには“3人パーティー”だという前提で振る舞ってもらっている。
その方が自然に見えるなら、わざわざ俺が目立つような形にもっていかなくてもいいだろう。
「でも、これはこれで逆の意味で目立ってるか……」
俺だけが。
彼らの解放シーンに直接、関わっていないのである。
そうすると、目隠しされていた住民たち視点の俺は――
――うん。いきなり大声出して喚き散らしてるわ! 乱れる現代の若者、その象徴みたいな奴だね!
そりゃ一人だけ別の区画に、隔離っぽく連れてこられるわ……。
「折角ソルア達が好意的に受け入れられているんだ。気落ちすることもないな、うん……」
誰かに好かれたいと思ってやったわけじゃない。
この後のワールドクエストを邪魔されないのなら、それだけで十分だ。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「さてっと――」
気持ちを切り替え、一人で出来ることを進めていく。
……いや、女性陣がいないからって、変なことはしないから。
脚の部分がX字に展開された、安っぽいキャンプ用チェアに腰掛ける。
物は考えようだ。
一人のスペースだからこそ、こうして落ち着いて確認作業ができる。
……それは良いけど、せめて背もたれ付きの椅子くらいは欲しかったな。
[旗を立てし者 代替旗]
残量:8/100
「うわっ、もう一桁しか残ってないのか……」
改めて先ほどの戦闘を回想。
回避と耐久に振りまくってた俺の代替HPを、一戦のみで約90も削った千種を褒めるべきか。
あるいはその戦闘特化型なバトルジャンキーから、ステータス上のHPを何とか守り切った【マナスポット】の恩恵が凄いと捉えるべきか……。
「……どっちにしても、“代替旗”の恩恵はないものとして、ワールドクエストには臨んだ方がいいな」
一日経てば、再び100まで回復してくれるらしいが。
でもそれは3日目が終わってしまっていること、つまりワールドクエストが失敗してしまうことを意味する。
それは本末転倒もいいところだろう。
「で? そうしてくれた張本人さんはっと――」
<【修羅属性】:スキル。発動することにより、自己の攻撃に修羅属性を付与することができるようになる。
また①発動・解除を所有者の任意に行うことができる。スキルの発動・継続にはHP消費が伴う。
②発動すると、HP・MP以外のステータス値が倍上昇する。
③修羅属性はあらゆる属性の上位属性、すなわち他の属性にとっての弱点属性となる>
「はっ? ……何だそりゃ、エグっ」
長文で、全体を理解するのに少し時間を要した。
だが、スキル【修羅属性】の効果が頭に浸透していくと、その破格の強さに思わずといった声が出てしまう。
やっべ、語彙力なくなるわ、これ。
「なるほど……そりゃ強くなるわ」
千種が戦闘中、いきなり最初とは異なるキレとスピードになったのは②の恩恵だろう。
一方でやはり俺が想像したようにデメリットもあった。
それが①の後半部分か。
「“あらゆる属性の上位属性”……ってことは【破壊属性】も弱点になっちゃうってことか」
未だ習得はしていないものの。
【危険察知】や【耐久上昇】と同じく、リーユのガチャ時に得た結晶の一つだ。
他にもファンタジーで定番の“火・水・風・土”、あるいは“光・闇”の属性でさえも【修羅属性】とは相性が悪いことになる。
「正に“侍”って感じだな」
諸刃の剣。
肉を切らせて骨を断つ。
……いや、刀は片側にしか刃ないし、むしろ“侍”って切らせたらダメみたいな戦い方だと思うが。
でもこのスキルのニュアンスというか、イメージはそんな感じだった。
「“解除”も任意って話だし、とりあえず試してみるか――」
ガチャで手に入れたスキルだって、何だってそうだ。
試せるときに試しておく。
それがこの【異世界ゲーム】を生き残る上で重要なコツだと思う。
「行くぞっ、はっ――」
体が勝手に理解していた【修羅属性】の発動。
それを気合を入れつつ念じると――
「いぎっ!?」
――全身に、激痛が走った。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「いづうぅぅっ――」
崩れ落ちるように床へと倒れ込む。
咄嗟に、用意されていたブランケットを噛んで声を抑える。
自分が出したことのない、獣のような声を出していたことに。
気にしたり、驚く余裕すらもない。
――痛い痛い痛い痛い!
えっ、嘘っ!
何これ!?
俺、今、体ちゃんと残ってる!?
「痛い、マジで痛い……」
しばらく感じたことのなかった、泣き言を上げたくなるほどの激しい痛み。
しかも全身だ。
体が同時にバラバラにされていく、そんな錯覚にさえ陥ってしまう激痛だった。
それを何とか耐えながら、自分の体を出来るだけ素早く観察していく。
「体……ちゃんとある。あの“青黒い光”……も、あるな」
つまり正常に【修羅属性】が機能しているということだ。
“体は異常だらけ”なのが“正常”とは、これ如何に。
[旗を立てし者 代替旗]
残量:8/100
「代替……はされてないのか」
[ステータス]
●能力値
Lv.11
HP:39/47
MP:43/69 (※パーティーレベル+7→50/76)
クソッ、実際のHPが減ってる。
発動にHPが必要、とは前もってわかっていたが。
「……いや、今はそっちは良い――」
【修羅属性】を必死の思いで解除。
そうしてようやく、あの全身を苛み続けた痛みから解放された。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
――はぁ!? 何あれ、人が感じていい痛みなの!?
俺もう冗談抜きに死ぬかと思ったんだけど!
「えっ、千種、あいつ【修羅属性】使いながら笑ってなかった!? 満面の笑みだったよね!?」
あの痛みを感じながら?
笑顔をキープしつつも全力で戦ってたの?
何それ怖い、あんなドSっぽい感じで、実はドMなの!?
それかいつでも笑顔を絶やさないよう訓練でもしてるのか、スク〇ルアイドル的な何かなの!?
こんにっちは~! 皆のアイドルぅ~、たきみんだよ~!
でもっ、こんなの全然可愛くないですっ!
……いや、本当、俺は何を言ってんだろう。
あまりに感じたことない痛みで、ただいま頭がおかしくなっております。
「どんなメンタルしてんだ。年下で、高校生だろ? バケモンかよ……」
もしくは“同じ痛み・苦しみを味わえクソボッチ野郎!”的な感じなのかも。
だから奪われた【修羅属性】に、何の未練も感じさせず去っていった可能性が微レ存。
本当、何の執着もないような、爽やかさすら感じる去り際だったからな……。
「……これ、平常時や雑魚戦なんかには使えないな」
今でも呼吸は荒く、嫌な感じの汗がダラダラと流れてくる。
ただでさえ代替HPが使えず、こうして激痛に苦しめられるのだ。
さっきみたくアドレナリンが湧き出るような激戦、あるいはボス戦みたいな場合に限定した方がいいだろう。
【時間魔法】のような切り札的運用が適切か。
「そりゃ、そんな上手い話無いよなぁ……。どんなことにも、リスクは付き物か」
さっき千種に勝った後、せっかく腰を下ろして休んでたのに。
立ち上がり、もう一度キャンプチェアに座り直すのも辛く面倒なほどで。
「よいしょ、んっしょ……」
這い進み、敷かれていた寝袋に到着。
もうこのまま横になって仮眠してしまおうか。
瞼も重くなってきた。
――そんな時である。
「あの、ご主人様? ――っ! どうかなさいましたかっ!?」
「えっ、あ、あの、主さん!? だ、大丈夫ですか!?」
ソルアとリーユが。
ちょうど俺のいるスペースにやって来てしまったのだった。
すいません、イチャイチャは次話になりますね。
まあ要は、頭もまともな状態じゃないほど疲弊してんなら、美少女たちに献身的に介抱(意味深)してもらえってことです、はい(血涙)。
返信は出来ておりませんが、感想いただけてとてもありがたく思ってます。
長短関係なく、いただけるだけで執筆の励みになります。
評価もブックマークも同じく、ちゃんと執筆の燃料になっております。
今後も当作品をよろしくお願いいたします。




