82.肌で感じるカリスマ性、“情報”の誤算、そして真正面からやり合う気0!
お待たせしました。
こんな時間帯の更新で申し訳ありませんが、82話目です。
ではどうぞ。
「…………」
ファムからの映像が途切れて程なく。
千種がこちらに到着した。
「あっ……」
「ち、千種さん……」
最も頼りになるだろう味方がやって来たにもかかわらず。
サダ君・クニ君、二人の表情は揃って硬い。
クニ君に至っては、また怒られるのではと恐れるかのように真っ青だ。
……まあそれも無理ないか。
頼まれたお使いを二人がかりで達成できず、しかも頭がわざわざ現地入りする羽目になったのだ。
イレギュラーばかりだったとはいえ、暗い想像が進むのも仕方ないことだろう。
「おう、二人とも無事か……ほう?」
真っ先に手下二人の心配をしたことに、内心で強い驚きを持つ。
だがそれに引きずられる間もなく、値踏みするような鋭い視線を感じた。
……ただの闇落ちした陽キャお兄さんですが何か?
「…………」
よくわからないが逸らしたら負けみたいに思ったので、こちらも対抗して観察し返す。
長めで跳ね気味の金髪。
右耳にはピアスを付け、首元にもシルバーアクセが。
ポケットに手を突っ込んで立つ姿は隙が無く、堂々として様になっていた。
ファムの目でなく自分の肉眼で実際に見て、そして肌で初めて感じる。
……こういうのを、カリスマ性って言うんだろうな。
「なるほど――おいサダ、クニ」
千種は何か納得したというように一つ頷いた後。
俺から視線を切ることなく、部下二人に淡々と告げた。
「これは皮肉でもなんでもなく俺の指示ミスだ。悪かったな」
横暴を働く不良、それもそのトップという先入観からか。
全く想像もしてなかった言葉を耳にし、再度驚かされた。
自分の非を認め素直に謝罪できる上司……。
クソッ、やっぱり優秀なタイプの不良トップか、厄介な!
「えっ?」
「あっ、は、はい……」
二人も意外だったのか、キョトンと目を丸くしている。
……くっ、どういうことだ?
俺の危険性を察知した?
だが【スキル盗賊団】で盗み見ても、奴が俺のステータスを知ることができるようなスキルは何もない。
俺の知らない似た【施設】を持っていて、いつの間にか使ったのか?
もしくは……カリスマ性やセンスある人間がよく持ち合わせる第六感、的な?
俺みたいな陰キャボッチは【影が薄い】【存在感無し】みたいな雑魚プレイヤースキルしかないのに。
やっぱり持ってるやつはどんな社会的立場でも持ってるもんだな、チクショウ。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
『敵は二人……立って監視しているのがそう!』
『了解です! 無力化、しますね――』
ファムのもたらす映像から、あちらでも状況が動いたことを知る。
一番年上、なおかつ視野も広い久代さん指示のもと、ソルア達が現場に突入していた。
『なっ、何だ、敵か!?』
『クソッ! おい、女だけだからって油断すんなぁ! それでヘマしたら千種さんにぶっ殺されんぞ!?』
あちらに残っていた不良二人も、混乱はしながらも状況を把握した様子。
しかし人数、そしてリーダーを減らしただけあって、やはりソルア達が優勢で立ち回れているように見える。
「……チッ。あんたはやっぱ陽動か――」
俺の【操作魔法】によって起きた落下物の衝突音が、あちらでも拾えたように。
あっちで交戦が始まったことによる騒音も、千種には聞こえたようだ。
「おいサダ、クニ! あっちへ加勢して来い。急げっ」
――判断が早い!
思考補助系のスキルがあるわけでもないのに。
千種はとにかく判断が早い。
鬼になった妹が人を食った時、即行で妹殺しそう。
それでいて理性を完全になくすでもなく、しっかりと過ちは認め部下に謝罪もできる。
……うん、やっぱり危険人物だね!
『【魅了】!』
『≪癒しよ、かの者の過剰な力を、奪い取れ……≫――【脱力】!』
――しかし、あちらの状況はおそらく、千種の想定外の速度で進んでいた。
俺にとっても嬉しい誤算だったのはアトリはともかく、リーユが相手の無力化に大きく貢献していることだ。
『はぁ、はぁ……』
異性の、それもエロいことしか考えてないような年頃の不良相手に。
アトリというエロの権化・劇物は正に効果抜群だろう。
興奮が治まらないような荒い呼吸。
目も獣のように見開き充血し、アトリのこと以外考えられないというような顔だ。
……本当、アトリさんって“エロ”って概念を実体化させたみたいな存在だからねぇ。
『や、やべぇ、力が……全然入んねぇ』
そしてリーユの魔法が更に追い打ちをかけていた。
さっきは“肉弾戦では全くお役に立てませんよ~!”みたいなこと言ってたくせに……。
水間さんや久代さん、来宮さんをその癒しで蕩けさせたことの延長なのか。
魔法を受けた不良は、まるで全身から力が抜けきったかのように腑抜け、床に座り込んでしまっていた。
“数”という点でもそうだが。
“質”という意味でも、あちらでは覆し難い差があったようだ。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「良いのかい? 俺にだけ構っていて」
あちらの状況を認識できていることからくる親切心、ではもちろんなく。
ここにいて欲しいがための逆張りのような思いで問いかける。
「……あんたに自由に動かれると困んだよ。俺が直々に、サシで相手してやっから有難く思いな」
空元気でも見栄を張っている感じでも全くなく。
絶対の自信、揺るぎない自分を持っている者の強さみたいなオーラを感じた。
……本当、こういう状況じゃなきゃ、絶対に相手したくないなぁ。
コイツ多分、年下でこれなんだろう?
俺が高校生の時なんて存在感無く教室の隅で、ずっとボッチ飯食ってた思い出しかないわ。
……いや、大学生になってもボッチ飯なのは変わってなかったね、うん。
「そっか」
だがそれでも。
俺の心理的優位は揺らがない。
ここで、判断力の差ではなく。
その判断をするのに必要な“情報”の差が大きく出た。
《えっ? ――了解! ソルアお姉さんに伝えるね!》
『……ファム、どうしました? ――っ! もう二人、来ます!』
こちらは離れていても会話が可能なファムを通じて、最新の情報を随時やり取りすることができるのだ。
もちろんファムは俺としか言葉を話せないが、予めボディーランゲージで決め事をしておけばいい。
こうして簡単なことならば、ソルアが把握して即座に対応してくれる。
「こっちは親切心で言ったのになぁ……四天王方式でやられなきゃいいね」
善意というのは真っ赤な嘘だが。
四天王方式でやられるかも、というのは真実そう思っている。
つまり一度に4人で挑めばワンチャンあるかもなのに。
逐次投入で戦力が分散し各個撃破されるかもというものだ。
『わかったわ、ソルアさん! ――水間さん、来宮さん! アトリさんとリーユさんの援護を継続して!』
『うぃっす! 了解しやしたぜ、透子の姐さん!』
『はい! ……いや、あの、奏ちゃん? なんでそんな下っ端みたいな返事の仕方なの?』
そして戦力の評価という意味でも、千種は情報不足だったようだ。
“判断力”は目を見張るものがあるが、やはりその前提となる“情報”の量・質の点では俺の方に軍配が上がったらしい。
「……その前に、俺があんたを片付けて合流すればいい」
挑発にあえて応じてか。
千種の圧が静かに、だが一気に増した。
「――ちょうど出来る生存者相手にさぁ、ガチで殺り合いたいと思ってたところなんだわ」
おぉ~怖っ。
お前、俺が闇落ちした陽キャお兄さんだったからよかったものの。
同学年のただの陰キャボッチ君だったらどうすんだ、今のでビビッて漏らしてるまであるぞ。
「そっか奇遇だね。俺も全力を出せる相手が全然いなくて退屈してたところだったんだ。……本気で潰し合おうか」
――そんなつもり、1ミリたりとも思ってない真っ赤な嘘だけどね!
バトル物でありがちな、強者同士が語って戦意を高め合うみたいな展開を演出しながらも。
心の中では真正面から戦う気全くゼロで、早速【スキル盗賊団】と【パーティー機能】を呼び出したのだった。
長らくお待たせしていたにもかかわらず、温かいお言葉を沢山いただけて本当に嬉しいです。
やっぱりですね、復帰したときどういう反応が来るかが怖くて書けない、という心理もあるはずですから。
こうして優しく出迎えて下さると、復帰率・継続率も上がってくると思います。
今後も楽しんでいただけるよう頑張って行きます。
当作品をよろしくお願いいたします。




