80.第三者として、そして攻撃はそっちが先
お待たせしました。
80話目ですね。
ではどうぞ。
「すいませんっ! 誰か、誰かいませんか!?」
入口に設けられたバリケードを乗り越え。
ホームセンター内へと足を踏み入れ開口一番、大声で呼びかける。
できるだけ緊迫した様子で。
切羽詰まり、何でもいいから反応を求めていると伝わるように。
『っ!?』
『なんだ!?』
ファムと共有した視覚と聴覚。
ほぼ同時的に、自分が発した声がそこから聞こえて来た。
とても不思議な経験をしていると感じた直後、不良グループたちの反応も届いてくる。
『この声……入口の方からだな』
『あぁん? マジかよ。他にも仲間がいたってことか?』
もしかしたら他にも同じ人類の生き残りがいたのかもしれないというのに。
不良君たちの反応は概ね冷たい。
面倒くさそうというか。
せっかく自分たちの国ができたのに、そこに異物か、あるいは厄介者でも入ってきたような顔をしている。
……もし俺が本当に命からがら逃げて生き延びてきた奴だったらどうすんだよ。
お前らの反応見ただけで心折れんぞ。
≪あっ、ご主人! あのリーダーっぽい人、ご主人の方見てるよ!≫
ファムの言う通り。
グループのリーダー格がチラッと入口の方、つまり俺のいる方向へと視線を向けていた。
続く言葉というか、俺のさらなる反応を待って判断しようとしているみたいに見える。
ふむ――
「誰かぁぁ! ――……クソッ! 外が、ショッピングモールが大変なことになってるっていうのに、生き残ってるのは俺だけなのか?」
しっかりと、それもキーワードを特に聞き取ってもらえるよう。
できるだけ感情を全面に出すようにして、独り言を吐き捨てる。
ファムと共有した“もう一つの耳”の方から、遅れて俺の演技がかかった声が聞こえた。
……ほう。
こうして客観的に聞くと、まあまあ上手いこと演じれているようには感じるな。
『外が? ……ど、どうしましょう千種さん! 話、聞きますか?』
『ちょっと待てってお前! 話するっつったって、“こいつ等”いるんだぞ。“こいつ等”はどうすんだよ?』
不良の一人がそう言って、床に寝ころばされたままの人たちを指さす。
捕まった彼らも、俺の出現にピクッと反応はしていたが、それ以上の大きな動きはない。
『あっ、そっか……この場面、見られたら厄介だよな』
『厄介どころじゃねえって。……今から全員、どっかに隠すわけにも行かねえしよぅ』
そう、完全な第三者たる俺が、だ。
いきなりこの拘束された人々とご対面するとどうなるか。
……普通は、それを実行した犯人たちと協力しようとは思わないだろう。
だからこそ、不良たちはどうするか、悩み、すぐには決めかねているのだ。
さて――
『――おい、“サダ”。“クニ”を連れて、二人で様子見てこい』
リーダーの金髪が短く、そう告げた。
……へぇ~。
別れてくれるんだ、ありがたい。
『えっ? あっ、俺っすか? わかりました……』
“サダ”と呼ばれた青年が驚きながらも、素直に頷いて応じる。
リーダー含めたグループ内でも背が低く、しかし喧嘩は強そうな雰囲気があった。
……まあ【スキル盗賊団】で見た限りじゃ、大したスキルは持ってないようだけど。
『千種さん。サダが行くんだったら、俺いりますか? 絶対過剰でしょ』
こいつが多分“クニ”だろう。
逆に背は高めだが、あまり腕っぷしが強そうには見えない。
態度は凄く偉そうだけどね。
『……おい。何回言えばわかんだ。世界は変わったんだよ。今までの能力だけを過信すんな。“サダ”個人を上回る力なんていくらでもあり得んだぞ?』
それは“サダ”というメンバーへ、一定の信頼があることについては同意を示すものであると同時に。
世界が変わってしまったことを未だにわかりきってないバカな子分へ、殺気まで含んだ忠告でもあった。
『あっ――は、はい、すいません……』
それだけで“クニ”は顔色を真っ青にする。
これは真実、今の一言だけで世界が変わったと自覚を持てたから……というわけではなく。
それだけグループ内で、この“千種さん”と呼ばれるリーダーが恐れられつつも敬われているということだろう。
そうしてリーダーが二人に、俺への対処を細かく指示。
拘束されたホームセンター内の住民たちと同様、捕らえることも視野に入れられているらしい。
『……あと、攻撃してくるようなら、今までの指示は全部忘れろ。殺すことだけ考えればいい』
……らしいですよ、俺さん。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「――あっ!」
そうしてタイミングを見計らい。
ゆっくりと歩を進めていると、ちゃんと二人と初対面を果たすことができた。
俺の様子を見に来てくれた“サダ”君と、怒られてテンションダダ下がり中の“クニ”君である。
本当、作戦会議が終わるまで待ってあげるとか、俺ってチョー善人。
戦隊ヒーローやプリティーでキュアキュアなヒロインたちが、変身するのを待ってあげる怪人たちくらい良い人だな、うん。
……俺、ヒーロー・ヒロイン側じゃなくて、怪人・悪の集団の方に例えられるのかよ。
「…………」
「…………」
一方の二人はというと、表情変わらず。
警戒心と緊張感で一杯の様子で、俺をジーっと見てくる。
……うっわ~。
それ、世界がこんなモンスターだらけになってしまった後、他の生存者と出会えた時にする顔じゃないって。
“自分たちは隠していること・後ろめたいことがあります”って言ってるようなもんだよ。
「よかったっ! 俺以外にも生きてる人、いたんだ!」
そんなことは気にせず、俺は呑気に喜ぶ道化を演じよう。
まるで人類すべてが滅んでしまったと告げられた後、初めて他の生存者に出会えたようなテンションで接する。
「君たち、制服着てるってことは高校生? いや、なんにしてもお互い無事で何よりだ!」
「……ああ」
「おう」
お~い。
陰キャボッチが必死になって、陽キャでイケメンなお兄さんっぽく振る舞ってんだから。
もうちょっと受け答えというかリアクションというか、ちゃんとしろし。
……でもまあ、そりゃそうか。
直前に条件付とはいえ“人を殺していい”っていわれたんだから、精神状況グチャグチャなんだろうな。
【読心術】を使える来宮さんがいなくて逆に良かった。
読んじゃったら多分“変な行動すんなよ? マジでやめろよ? お前変なことしたらマジで殺すことになっからな!?”的なことをもっと汚い言葉でずっと考えてそうだもん。
「君たち二人かい? 随分心細かっただろう。だがもう安心してくれ」
うん、安心してくれていいよ。
俺から先に、お前たちに攻撃を仕掛けることはないから。
――攻撃してくるのは、そっちが先だしね。
そうして俺は気づかれないよう、【操作魔法】をそっと発動させたのだった。
先日、ようやく大きな私情が終わりました。
結果が出るのはまだ先になりますが、準備の時間を昨年以上に設けたからか、過去一番の手ごたえでした。
これで随分解放された気分ですね。
ふぅぅぅ……。
とにかく、更新を再開します。
また今日みたいに投稿時間はバラバラになるかもしれませんが、楽しんでいただければ幸いです。




