表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/115

76.軽っ! クモの糸、そして無双的働き

76話目です。


ではどうぞ。


≪……OKです、ご主人。どーぞー!≫


「っし。――OK。行こう」



 ファムから合図を貰い、足音を忍ばせて外を移動。

 俺に(なら)うように、皆が後をついてくる。



 そうして大した時間もかけず、ショッピングモールを視界に捉えた。



「…………」



 だが、今の時点で中に入ることはしない。

 目的の相手は、っと――



 ――ファム。こちら、事前に話していた位置についた。どうぞー。



≪うん、見えたよ! ええっと、“赤いクモさん”だよね。ちょっと待ってね……≫



 ファムの声が一旦途絶えた。

 何もせずただ身を屈めて隠れているということに、流石に緊張感が出てくる。



「……っ!」

  


 リーユが同じように落ち着かないのか、無言ながらソワソワした様子だった。


 ……そうか。

 リーユは地球(こっち)での実戦は初めてだしな。


 

「……大丈夫だよリーユちゃん。あたしも、お兄さんもいるから」


 

 どうしようかと思案していると、水間さんがリーユにそっと声をかける。



「……カナデちゃん」


「あたしも“耐久”値は比較的高いんだ。お兄さんと一緒にゾンビ盾役、頑張るね。……またあの回復、楽しみにしてるから」


 

 良い笑顔でグッと親指を上げる。

 ……声に若干の震えが無ければ、パーフェクトなフォローだったんだろうなぁ。



「……ほれっ。肉盾ゾンビはR18。つまり成人済みの俺だけの特権だからな。女子中学生は本当の盾を持ってタンクしてなさい」



 そうして結晶の一つを具現化させ、水間さんに手渡す。



「わっとと!? ……おうふ。お兄さん、これは……盾?」 



 表面、燃え盛る炎のようなデザインが施されていた。


 盾だからというわけではないだろうが、かなり縦に長い。

 女子の水間さんが身を屈めれば、全身をも防御できそうな大きさだった。




==========

●火魔の盾 ★3


 火の悪魔の角を用いてできた盾。

 非常に軽く頑丈な造りとなっている。


 表面部分には火属性の加工がある。

 素手や、火に弱い攻撃などにはとても有効。


==========



 リーユに来てもらうために回してた、そのガチャで当てた奴だ。

 最初はソルアにでもと思っていたが、完全にタンクに徹するというのなら水間さんに渡した方がいいだろう。



「……うわっ、軽っ! 『ねぇねぇ久代さん、俺たち今からカラオケ行くんだけどさ。一緒に行かない? ってか来るっしょ』って初対面で誘ってくるナンパ学生くらい軽いですね。なお“ボウリング”でも可」



 それは凄い軽いなぁ……。



「水間さん、私の過去を見てきたのかってくらい具体性あるわね。……まあ、そういうのあったけど。何度も」



 あっ、やっぱりあるんだ。

 流石はミスキャンパス。


 伊達に筋力ばかりを上げて――



「……あ゛ん?」



 ――っとと!?


 ファムっ、ファムさんっ!?

 まだなの!?


 こちら、パーティーメンバーに人を射殺しそうな目で見られてますどうぞっ!!

 

 


≪いや、ご主人、今のはご主人が悪いんじゃ……――あっ、見つけました。ちゃんとまだ“赤いクモさん”います、どうぞー≫



 ちなみに来宮さんは『大学生と合コンやるんだけど、来宮さんもどう? 絶対楽しいよ!』との経験がベスト軽賞を受賞。

 ソルアも『今夜二人で飲みに行かないか? 疲労に効く良い薬が手に入ったんだが』とオッサン神官に誘われたことがあるらしい。


 普通にヤバそうなお誘いにしか聞こえなくて、もうね……。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「ZYUZYU……」


「ZYU! ZYU,ZYUAA!」



 ファムの視界なしに、肉眼でとらえられる距離まで来た。

 赤いクモの存在がハッキリと見える。



「うげっ……お尻から糸バンバン吐いてる」


「……まだ思ってたほどのグロ映像じゃなくてよかったじゃない」



 水間さんに、久代さんが軽口で答えていた。

 ……さっきの奴、水間さんも俺の道連れでちょびっと恨まれてるっぽいね。



「……本当。マスターの言う通り、普通にいるわね。“赤い”アーミースパイダー」



 アトリも疑っていたわけではないだろうが、自分の目で見て納得してくれたみたいだ。

 


 黒色をした、普通の個体も一緒にいる。

 見た目は……うん。


 色以外の違いは無いと言っていいだろう。


 

 そいつらが、マーキングか何かでもするように。

 ホームセンターの建物へ、熱心にクモの糸を吐き続けていた。


 

「ここまで来ると、他のモンスターもいる。――今のうちに行こう」  

          


 先陣を切るように前へ一歩進み出る。



 ――そうして【操作魔法】を発動した。



 投げナイフ5本を同時に宙へと浮かし、発射。

 これまた“絆欠片(リンクス・フラグメント)”を貯めるために引きまくったガチャで当てたものだ。



「っし!――」



 一本一本。

 まるですべてに自分の意思と支配が及んでいるように。


 ナイフは思い描いた軌道通りに飛んで、黒のアーミースパイダーに命中。

 だが5本全部が刺さっても、あまり大きなダメージにはなってない様子。


 硬くはないが、致命傷になるような部位・器官でもなかった、と。



「ZYURU!?」


「ZYUZYU!」



 ――流石に気づかれた!



「っ! 出ますっ!」


「カナデ様、お願いします!」



 すかさず水間さんも前に。

 その盾を頼りにするように、ソルアも続く。


 タンクができる二人で1体を、確実に足止めする。



「ZYU!」


「うわっ、糸飛んできたっ! ――っと!」

  

 

“赤い”アーミースパイダーの尾部、糸が放たれた。

 水間さんが構えた盾に触れる。


 その瞬間、ジュワっと何かが溶けるような音とともに、糸は消滅した。



「おっ、凄っ! ――お兄さん、こっち、行けます!」


「はっ、やぁっ! ――こちらはお任せください!」

 

 あの盾が、とても上手く機能してくれたようだ。

 さらにソルアが、防御と牽制のバランスを非常に上手くとってくれている。


 これで数的にも圧倒的有利に――



「――っ! マスター、ごめんなさい、私、こっちの対処を先にっ」



 アトリが何かに気づいたというように、反転。

 俺たちが仕留めるべき黒のアーミースパイダーとは別の方へと走る。


 

 ――あっ、新手のモンスターかっ!



「HIAAA!」



 それは、ホームセンターの壁に糸で絡めとられていた、()のようなモンスターだった。



「クソッ、なんだそりゃ――」 

 


 元はアーミースパイダーたちが捕獲したのを、糸を消して解き放ったのだ。

 そしてその蛾は何故かアーミースパイダーに感謝して俺たちを敵と認識。

 

 そりゃ誰か対処しないといけなくなる。


 チッ、なんで餌にしようとしたモンスターに服従するかね!!




□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



 ――ファム! フォンに言って、アトリのサポートを!



≪んっ! 直ぐに!≫



 グリフォンの羽ばたきを耳にした後、自分の目の前へと集中する。 

  


「っ!? もう、どうやって今糸から解放したの!?――アトリさん、分かった! 滝深君は私と来宮さんでサポートする!」



 久代さんの申し出は非常にありがたいし心強い。

 ただ状況が変わっただけに、俺のやることはやはり害悪肉盾ゾンビ戦法だ。


 時間稼いで、アトリ達の合流を待ち、そうして数の力でゴリ押しである。



「ソルアさん、カナデちゃん! 回復、します!! ≪癒しの力よ、かの者たちに安らぎを与えよ≫――【ヒール】!」



 リーユが最後尾で、とてもよく戦況を把握してくれていた。

 こちらにまで届きそうな大きな光が、ソルアと水間さんを包み込むのが横目でも見える。



「ヤバかったら、スクロールも使っていいから!」



 水間さんに限らず、久代さん・来宮さんへも伝わるよう叫ぶ。

 


「わかりました――きゃっ!」



 来宮さんの返事が、自身の小さな悲鳴によってかき消された。

 黒、通常のアーミースパイダーもまた、攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

 やはり糸を、しかも連続して放ってきた。

 

 

 腕で受け止める。

 粘着質のある、不快なネバネバがまとわりついてきた。

 

 行動を制限されそうになった途端、変化が。



 さっき水間さんの盾で聞いたように、ジュワっと溶けるみたいな音。

 直後、瞬く間に糸は消失していたのだった。


 

 ――あっ! 【状態異常耐性】先生!!



「っ! 最悪……腕、ネチャっとして、動かないんだけっど!」



 久代さんの同様に腕で防いだようだ。

 しかし状態異常にかかったらしく、腕が拘束された状態に。


 

「ごめんなさい! 私、右脚、やられました!」



 来宮さんの短い報告に、一瞬ヒヤッとした。

 だが目視で確認すると、太ももから靴までが白い粘性の液体でベットリと濡れているだけだった。


 

 ……いや、それも絵面的にはヤバいけど。


 脚が折れたとか、切断されたとかじゃないだけ全然マシだ。



「――あっ! ネバベト、治します! 少しだけ耐えてください」



 リーユの声。

 その言葉で、状態異常にも対処可能と判断。


 身動きし辛そうな来宮さんには、投擲での援護にスイッチしてもらう。


 

「腕がダメでも、私には、脚が、あるわっ!」 

         


 久代さんは腕を拘束されても問題なく。

 主な戦闘スタイルが蹴り・キックなため、気にせず走る。



「久代さんっ! 俺効かないから! 俺の後ろ!」


「わかった!」



 言葉短くとも、意図は伝わった。

 


「ZYU――」



 クモは再び、尻をこちらに向けてくる。

 糸か!


 

 だが俺には通じない――




「――【紅閃(スカーレット・フラッシュ)】!」



 突如、アトリの声。

 

 それが聞こえたと認識した次の瞬間には、鮮やかな赤が視界の端でチカッと光る。

 と思ったら、目の前のクモは真っ二つに切れていたのだ。


 スパンッという剣の鋭い音が遅れて聞こえた。



「ふぅぅ……遅れてごめんなさい。あの飛ぶ奴、片づけたから。――後は、ソルア達の援護ね」



 そういうと、アトリはまた目にも止まらぬ速さで駆け出した。

 アトリの去った跡には、赤い線が走ったような残像が残る。


 スキルか……ただただ速いな。 


 

「……なんだか私、ただ拘束され損なんだけど」



 アトリが“赤い”アーミースパイダーの方へと向かう姿を見ながら。

 久代さんは少しだけ不服そうに唇を尖らせ、つぶやいていた。


 ……いや、うん。


 俺もなんか恥ずかしいわ。

 時間を稼いで、アトリ達の合流を待つという作戦その通りに運んだのだ。

 

 だが――



 ――“俺、状態異常効かないぜ!”“久代さん、俺の後ろに!”的な感じで、ノリノリに走ってたやつがいたらしいぜ。



 なぁにぃ~? 

 やっちまったな!


 男は黙って……うん、黙ってるのが一番!



 それから時間はかからず。

“赤い”アーミースパイダーも、アトリさんの無双的な活躍によって討伐されたのだった。



 


クモさんたちよぉ。

まず真っ先にアトリさんの動きを封じてエチエチな絵面にしないと、そりゃそうなりますぜ……(遠い目)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 白くてベタベタしたものでネチャると ふむ…続けたまえ
[気になる点] いつものお金ドロップとかのアナウンスは?あれ好きだったのに
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ