75.仲良くね、モンスターに負けるということ、そして“見ればわかる、赤い奴や!”
75話目です。
ではどうぞ。
≪うにゅ~。ここもダメだね。糸でグルグル。入れなさそう≫
ファムから報告があり、一時的に切っていた視界を再び共有する。
目の前にはショッピングモールの入り口の一つがあった。
「うわっ。凄いな……」
思わず現実に声を出してしまう。
視界に映った入り口は、とても頑丈そうに塞がれていたのだった。
それはガラスの自動ドアではなく。
クモの糸によって編まれた、白い防壁だ。
「とすると……今のところ、まともに入れそうなのは西側の出入り口か」
ファムとフォンで、東西南北グルっと回ってもらったが。
西以外は同じように、クモによる糸の壁が構築されてしまっている。
もちろん壊そうと思えば強引に行けるのかもしれない。
でも、それは時間がかかってリスクがあるので次善の策になる。
「……あの、ソルアさん、カナデちゃん。主さん、どうしちゃったんですか? 独り言を言い始めちゃいましたけど」
「あぁ~えっと。“ファム”って子と今、お話してるんですよ」
「ですです。お兄さん、脳内彼女と会話できる特殊なスキル持ちなんですよねぇ」
そこ、ソルアの説明に乗じて100%の嘘つかない。
ソルアが本当のこと言った後だから、なんかマジっぽく聞こえちゃうでしょう。
「あっ――」
おいっ、リーユ。
なんだその“聞いちゃいけないこと聞いちゃいました、私!?”みたいな顔は。
全然問題ないから。
画面から出てこない恥ずかしがり屋な彼女とかじゃなく、ファムは実在してるから。
「……というわけだ。誤解ないように」
水間さんの嘘を正し、ファムが遠隔通話できる魔導人形だと説明した。
「そ、そうでしたか。すみません。……ただ魔導人形は色々と見たことありますけど、妖精タイプはまだないので。会うの、楽しみです」
さっきの失態を誤魔化すように。
あるいは前向きな姿勢を示すかのように、ギュッと握り拳を作り。
リーユは可愛らしく鼻息をむすっと吐く。
……へぇぇ。
「まあ俺以外とは言葉を話せないようだけど。明るい奴だから。仲良くしてやってくれ」
「はい!」
ファムは会話ができなくても、普通にソルアやアトリたちともコミュニケーションが取れている。
リーユも会えば自然に親しくなれるだろう。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
『ZYUUUUAAA!!』
『ZYU,ZYURU!』
ファムの視界。
移動して、唯一、今のところ簡単に出入りできそうな西口まで来る。
そこでは、ちょうど複数のモンスターが観測されたところだった。
「……こいつらだな、配下のクモ型モンスターってのは」
大きく膨らんだ腹。
細長いことに反して、硬質そうな8本の脚。
全体としては人間の大人と少なくとも同じか。
もしくはそれ以上の大きさに見えた。
「“アーミースパイダー”……軍隊アリならぬ、軍隊グモ?」
目にして自然と分かったモンスター名をそのまま口にする。
それに一番に反応したのはアトリだった。
「うわっ、アーミーかぁ~。やっぱり面倒な相手ね。数が多いから、慎重に行った方がいいわ」
あっ、そうなの?
「ですね。1体1体、個の強さは普通ですが、複数体が揃うと途端に厄介になります」
ソルアも同意見らしい。
『ZYURU』
『ZYUZYU』
2匹が1組となって行動している。
その中の何組かは、その背に何かを載せていた。
自分たちが尾部から吐き出しただろう糸で、しっかりと固定されている。
ファムに頼み、そーっと近づいてもらった。
「っ!――」
――死体だ。
このクモたち、死体をショッピングモール内へと運んでいるんだ。
それは大人の男性だったり。
あるいは老人だったり。
老若男女問わず、モンスターたちはせっせと駐車場内にある死体を回収していた。
……餌、なんだろうなぁ。
モンスターたちに負けることが、どういうことを意味するか。
改めてファムの目を通して実感したのだった。
「……滝深さん、その、大丈夫ですか?」
「主さん、顔色、良くないです。……何か、ありましたか?」
来宮さん、そしてリーユが真っ先に心配して声をかけてくれた。
そこまで顔に出ていただろうかと、一瞬自分が情けなくなる。
だが来宮さんは【読心術】持ちだし。
それにリーユは何というか、マイナスの心情に敏感だ。
“絆欠片”で見た過去で、リーユ本人が強くマイナス思考だったのを思い出す。
なら……まあそういうこともあるか。
一瞬失いかけた自信を持ち直した。
「いや、大丈夫。ちょっとグロ映像見ちゃっただけだから」
そうだ。
むしろ、現実の生々しい部分を見たのが俺だけだったと安堵すべきだろう。
「グロですか……流石に3日もこんな世界で生きましたから、ある程度の耐性はできましたけど。いきなり見せられると多分“うっ”ってなっちゃいますね」
水間さんも俺をフォローするようにそう言ってくれる。
自分の今の思考過程を肯定してもらえたようで、大分心が楽になった。
「だよなぁ。俺も――んっ?」
ありがたく話に乗せてもらおうとした、その時だった。
ファムの視界に、見過ごせない物が映ったのだ。
『ZYUZYUZYU……』
『ZYUUU,ZYUZYU』
今までと同じように、糸で背に餌を巻き付けて運ぶクモたち。
――その中に、普通に“赤いクモ”がいた。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「うわっ、いた!」
何の前触れもなく。
特別な規則性や法則性があったわけでもない。
他の黒いクモたちと同じ仕事をこなすようにして、何でもない一場面のように存在したのだ。
「うぇっ、えっ、何が!? Gですか、G!?」
俺がいきなり驚き、しかもただ“いた!”とだけ口にしてしまったからか。
水間さんがギョッとした顔で慌てて立ち上がる。
「いや、違う違う。Gじゃない」
昆虫フィールドっぽくなってるから、確かに奴がいてもおかしくはない。
だが今のところ、人類共通の敵はまだ姿を見せていなかった。
「“G”、ですか? 何でしょう……じーっ」
いや、リーユさん。
“G”っていうのは、ドエッチな水着を着た美少女のジト目なんていう可愛い要素一切ない存在だから。
「じゃなくて――“赤い奴”がいた。しかも普通にいるわ……あっ、また1匹見つけた」
普通に複数体、何でもないようにいてやがるのな。
腹や頭の部分にとどまらず。
8本ある脚も鮮やかな赤色をしている。
見ればわかる、赤い奴や!
「“赤”っ!」
「えっ、滝深さん、そんなに簡単に見つかったんですか!? もっとこう、隠しステージにいるとか、謎を解かないと出てこないとか……」
キーワードが出た途端、皆の反応が一瞬にして変わった。
再度引き締まったような雰囲気の直後に、ちょっとだけ拍子抜けしたという感じで。
「赤? えっと、あの……」
「リーユ、これはですね、これから倒そうとするボスの弱点で……」
来たばかりで情報の共有ができていないリーユに、すかさずソルアがフォローを入れる。
その間にも観測は怠らない。
……外にもいるな。
「……なあ。もう一つ、敷地内に大きな建物あるだろう。あそこって確かホームセンターだったよな?」
誰にともなく、知っている人がいればという感じで口にする。
「あ、はい。ちょうど西の出入り口付近から歩いて……1分としない場所ですよね。滝深さんの言うように、ホームセンターです」
一番ここら辺に詳しい来宮さんが、やはりこれについても答えてくれた。
「そこの近くにも1匹いるんだ。ずーっと止まってる。外、駐車場だし、ショッピングモール内に入るリスクはない。……どうする?」
その問いかけに対しては、それほど時間がかからず一つの合意にいたったのだった。
総合のポイントが40000ポイントに到達しました。
まさか、一度も日間ランキングで1位になったことなくここまで来られるとは全く思いもしませんでした。
ですがそれでもここまで来られたのは今までの頑張りが報われたようで本当に嬉しく、また同時にとても誇らしいです。
ここまで読んで、そして応援下くださった皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます。
今後もこの作品をよろしくお願いいたします。




