74.それでちゃんと装備してるの!? まず初めの試練は……、そして癒しの雨
74話目です。
ではどうぞ。
フロント。
衣服を脱ぐ際に生じる、衣擦れの音が聞こえてくる。
リーユが早速、手にしたばかりの“限定衣装”に着替えているのだ。
着替えて、いるのだ。
「……ねえソルア。マスター、どうしてあんな難しそうな顔をしているのかしら」
「さぁ?」
アトリさんもソルアさんも。
俺の懸念を共有してはくれなかったらしい。
クッ、仕方ない。
俺だけで立ち向かうしかないようだ。
「――あっ、あの、皆さん。着替え、完了いたしました」
リーユが恐る恐るといったように、こちらへと近づいてきた。
その歩みが止まる前に、その姿・恰好がすぐ視界へと入る。
――そして、“限定衣装ver”のリーユを見て、言葉を失った。
「…………」
「あ、あの。主、さん?」
リーユは、黙ってしまった俺を心配そうに見つめてくる。
恰好が似合ってないか心配するように、とても忙しなくキョロキョロと。
自分で自分の体を不安そうに確かめていく。
まず体を捻り、真後ろ、背中やお尻部分を確認。
ただ衣装がずれ落ちないようにするための留め具があるだけで、あとは殆ど面積のない布部分。
反対に体を動かし、リーユは腕や胸元・股関節や脚周りもその目で見ていく。
髪色と似た暗めな水色の衣類。
その水着のようなものが、胸元だけを隠している。
また指先から二の腕周り、爪先から太ももまでも、同じような色のピチッとしたアームカバーやブーツが覆っていた。
「えっと……うん、大丈夫。バッチリ、ちゃんと装備、できてる!」
確認を終えたリーユは自信ありげに。
あるいは、自分を励ますようにして呟いた。
――ちゃんと装備できててそれ!?
もう装備ってか、ビキニアーマーの次元ですよ!?
装備が体を覆う面積よりも、肌が出ている面積の方が明らかに大きいんですけど……。
「――あの、主さん。やっぱり私、どこかおかしいんでしょうか?」
俺が反応しないからか、一転して不安そうな表情に。
「えっと。マスターからどう見えてるかはわからないけれど。私から見たら全然おかしくなんて見えないわよ? むしろとても似合ってるわ!」
少し不穏な空気でも感じたのか、アトリからもフォローが入った。
――いやいや。君も同類! 同類!
アトリさん、君のサキュバス服も大概だからね!?
二人ともタイプは違えど、異性の性欲をこれでもかと刺激する格好してるから!
平時なら真っ先に痴女案件の心配される見た目だから!
「……きっと、ご主人様は心配なさってるんですよ。とても似合っていて可愛いですからね」
ここに来て、俺の気持ちを汲み取った上で場をとりなすように。
ソルアが、リーユに優しく語り掛ける。
「えっと、あの、その……!」
口下手でもなんとかソルアの言葉に答えようとするかのように、リーユは口元をもごもごとさせていた。
そんな仕草をも包み込むようにして、ソルアは微笑みかける。
自分より背の低いリーユと目線を合わせるためにか、ソルアは少し腰を折り、前屈みの姿勢に。
「フフッ。分かりますよ、リーユの気持ち。――どんな人が現れようと、ご主人様に敵う素敵な人なんていませんよね」
「はっ! ――んっ! ふんっふんっ!!」
まるで言いたいことすべてを代弁してもらえたとでもいうように。
リーユはとても興奮した様子で首を何度も縦に振っていた。
そしてそんなリーユを愛おしそうに、ソルアも優しい眼差しで――
――っていや、何の話!?
ソルアさん、俺の気持ちも代弁したみたいになってるけど、全然違うからね!?
確かにリーユの恰好的に、劣情を催す輩もいるかもとは心配してるよ?
でもそこじゃなく。
その恰好が違和感なく受け入れられてるこの空気に“異議あり!”なの!
「…………」
ビシッと人差し指を突き付けて、ソルアさんに物申したい。
だが今、こちらに背を向け……どころか形のいいお尻をも向けているソルアにそれをするとヤバい。
俺がセクハラで物申される。
ソルアさんが一番大きい布面積の服を着てるから、一番安心な相手かと思ったらとんでもない。
むしろ着ているからこそ、油断したところにトラップが仕掛けられているのだ。
「あ、あの、わた、し。リーユ、です。よろしくお願いいたします」
「はい。私はソルアです。フフッ、よろしくお願いします。一緒にご主人様をお守りしましょうね」
和やかに後輩と先輩で自己紹介し合う中。
ソルアさんは未だ少し前屈みの姿勢を崩していない。
……そのせいで、とても丈の短いスカートが少しずつずれ、俺に別の布が見えそうになっている。
普段隠されているからこそ、見えそうになった時の破壊力、チラリズムのパワーは計り知れない。
――結論。3人ともタイプは違えど、とてもえっちぃことに変わりはないようです。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「お兄さんの旅の仲間に、またドエロい少女が加わっていた件について」
「おい」
水間さんは合流して開口一番に何を言い出すのかね。
「いや、アトリお姉さんもほぼ下着レベルのドエッチな恰好ですけど。あの子なんてもう薄々の水着じゃないですか。ほぼTバックですよ。はぁぁ……薄いのはゴムだけにして欲しいもんです。――ねぇ~遥さん」
いや、だから君は本当に中学生か!?
「ほぇっ!? えっ、ご、ゴム!? さ、さ~て。わ、私、何のことかわかんないかな~?」
来宮さん、さっきも興味津々に室内のエッチな自販機見てたじゃん。
その反応はもう知ってるってゲロってるようなもんですぜぃ?
目がこれでもかってくらいスイミングしてますからねぇ……。
「何のことかわからない!? ……恐ろしい。ゴムなんて知るか、お兄さんを絶対にパパにするんだという強い意志がこれでもかと感じられます」
いや、俺もちょっと何のこと言ってるかわかんないです。
……水間さん、俺は君の方が恐ろしいよ。
「――あ、あの! わた、し。リーユ、です! よ、よろしく、お願いいたします!」
リーユは何を思ったか、意を決してというように最初に水間さんへと声をかけた。
「えっ? ――あっ、はい。これはどうも、ご丁寧に。水間奏です。ピチピチの15歳です。よろしくです」
水間さんもそこは茶化さず、ペコリと頭を下げ自己紹介に応じた。
“ピチピチ”という表現を使うこと自体、女子学生としての鮮度を自分で汚してるように思えるが……。
――あぁ、なるほど。
リーユが入りたてだろうと判断して、あえて馴染みやすいように振る舞ってたんだろう。
……こういうところは本当、ちゃんとできる子なんだよなぁ。
「あっ、同い年――あ、あの! 何か困っていること、ありますか!?」
クワっと食い気味に。
リーユは水間さんへと単刀直入に尋ねていた。
……リーユはリーユで、場に何とか溶け込もうとしてる、のかな?
水間さんは比較的、この中では積極的に話をしている。
その水間さんにまずは認められようということか。
「へっ? 困ってること? あの、いや、現在進行形で困ってるけど……」
おお、凄い。
あの水間さんが押されている!
リーユの失う物は何もないというような純粋なアタックが、どうやら水間さんには効いているようだ。
「他、です! 何か、私に、できること、ありませんでしょうか?」
「えーっと……あっ。ちょっと、まだ疲れが抜けきってないというか。頭がボーっとしてるかな。体も全身が少しダルめだし」
何か一つでも言わないと解放されないと悟ったらしい。
水間さんは諦め、額に手を当てて疲れてますアピールをする。
……やっぱり、仮眠程度じゃ、ダメだったか?
一番若く体力あるだろう中学生とはいえ、こんな事態には慣れているはずもない。
それも仕方ないか……。
「“疲れ”! ――それっ、いけます! 私、癒すの、自信あります!」
リーユは、まるでそのワードが出るのを待ってましたと言わんばかりに興奮した様子。
細身な体にしては形よく豊かな胸。
その前で両手を握り拳にして、むふんっと鼻息を一つ。
……凄い自信だな。
あの“絆欠片”に見せてもらった、自分を全く信じられないでいたリーユとは大違いだ。
きっとあの“限定衣装”、リーユの両親が、リーユの自信になってくれているのだろう。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「いいですか? ≪癒しの力よ、雨となりて、その疲れを溶かせ――≫」
リーユが詠唱を始める。
その足元、周囲に魔法陣が出現。
それと同時にリーユの体、特にその“ビキニアーマー”全部が共鳴するように光り始める。
「――【ヒーリング・レイン】!!」
屋根のある建物内。
にもかかわらず、水間さんの頭上から、ポトッ、ポトッと雫が落ち始めた。
「あっ、凄っ、雨だ!」
まるで外で突然の雨に降られたように、水間さんは手のひらを上に掲げる。
その体を、光でできた雨粒が次々と打っていく。
「――あぁ~ヤバい、なんか、凄いです。沁みるぅぅ……本当、体の中から疲労感がスゥーって溶けてく感じ」
水間さんは真実、疲労感がどんどん軽減されていってるのだろう。
その表情が何よりも、リーユの魔法の威力を物語っていた。
「……カナデったら。あれだけ色んな事言っておいて。今、自分がどれだけ蕩けた顔してるんだか」
「……服も濡れて透けちゃってるのに。水間さん、まったく気づいてないみたいね」
アトリと久代さんが言うことも耳に入っていないようで。
水間さんはとても気持ちよさそうに……。
端的に言うと、とても色っぽさを感じる表情をしていた。
……うん、なんかマッサージを受けてるときみたいな無防備さとえっちさがあるな。
「あっ、服は大丈夫、です。癒しの雨が降り終わったら、すぐ自然に乾くはず、ですので」
魔法の終わりが近づき、リーユが補足するように水間さんへと告げる。
それで初めて、水間さんは自分のことを言われているのだと気づいたらしい。
「……えっ? 服? ――うわっ、えっ、あっ、濡れてる!? ってか透けて――」
ササッ。
「……お兄さん、見ましたか?」
「……はて、何を?」
中学生にしては大胆な色の布を身に着けてる、なんてこと。
全然、まったく、これっぽっちも。
拙者知りませぬゆえ、これにて御免――
「……まあ、お兄さんなら、良いですけど」
えっ、良いの!?
……いや、俺は何も知らないからね。
良いも悪いもないな、うん。
「――リーユちゃん、ありがとう。本当、凄い気持ちよかった。体も3連休ずっと寝て過ごしたくらいに軽いよ」
「ほ、本当ですか! よ、よかった、です……」
自信はあったようだが、水間さんに改めて言葉にしてもらい、リーユはとてもホッとした様子だった。
「いや、本当マジでヤバかった。危うく何もしてないのにお兄さんにアヘ顔ダブルピースを晒す所だった。……今度は遥さんと透子さんにも是非オススメしたいくらい」
「あ、アヘ? ……それが何かはよくわかりませんが、喜んでもらえたのなら、嬉しいです」
同時に、リーユは言葉通りとても嬉しそうだった。
これをきっかけに、リーユと水間さんの距離がグッと縮まったように思う。
友達が全くできなかったはずのリーユはしかし。
地球に来て、すぐ同い年の友人を得られたのだった。
前話、あれだけ、あれだけ注意深く書いたはずなのに。
――水着がバレてた!
あれだけ巧妙に隠したはずなのに。
シリアスの中にソッと、何でもない一文のごとく書いておいたはずなのにぃぃぃ!!
……いや、もちろんリーユの大事なお話だから神経を使って疲れただけですよ?
そんな、ドスケベ衣装と気づかれないためにあれこれ必死に悩んで書いた、なんてあるわけないじゃないですかぁ~(目逸らし)
本当、感想もいただけると嬉しいですしありがたいです。
総PVも300万を突破しました。
本当にたくさん読んでいただいてるんだな、と実感しています。
ありがとうございます。
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