62.フロント内部、急襲、そして堂々と利用!
62話目です。
ではどうぞ。
<――【施設】の中に入りました。※利用不可。この施設はモンスターにより占領中です。解放の後、利用可能となります>
割られた自動ドアから中に入る。
それとほぼ同時に、リサイクルショップやコンビニと同様の通知が届いた。
「っ! ……どうする?」
「滝深さん、どうしましょう……」
久代さんと来宮さんも即座に反応した。
入口近くでの、フワフワした浮ついたような雰囲気は直ぐに消え去る。
気持ちの切り替えも早く、小声で判断を求めてきた。
……本当、この短い時間で凄い成長度合いだな。
「……ちょっと待って」
手で全員を制止。
声を出さずに詳細な指示が可能なファムに、まず動いてもらう。
≪了解っ! 中を見てくるね!≫
俺の心の声に答え、ファムがゆっくりとフロント方向へと飛んで行った。
直後、その目で見た映像がファムからもたらされる。
≪モンスタ~モンスタ~……うーん、いないなぁ≫
部屋を選ぶための大きなディスプレイ画面は、ひび割れていて何も映していない。
ただ壁に埋まったままの、価値を失った真っ黒な液晶があるだけだ。
フロントの傍にあったウェルカムドリンクのケースも、無残に叩き割られている。
だが中のミネラルウォーターは無事なものも多そうだ。
プールバックのような透明の手提げ袋も、乱雑に床へと置き捨てられている。
“無料レンタル コスプレ衣装”や“シャンプー・入浴剤 ご自由にお使いください”などと書かれた紙が貼ってあった。
「…………」
「…………」
現実の俺の目前。
ソルアとアトリも、我慢強く状況を見守ってくれていた。
指示が出たり、あるいはモンスターが現れたらいつでも動けるようにと、準備も全く怠ってない。
……ありがたい。
ファムにもうしばらく見てもらって、モンスターが見当たらないようなら先に進むか。
そしてファムが受付の内部に入っていく。
受付と客が相互に顔を合わせないための半楕円形をした穴は、ファムにとっては十分すぎる大きさだ。
その後、スタッフの休憩室も兼ねた部屋が視界に入ると――
≪むむむ~……――あっ、いたよご主人!≫
――5体ものモンキーゴブリンたちが、そこにはいたのだった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
コンビニで戦った、少々厄介な奴らだ。
だが今は完全に油断しきっているというか、自分たちを脅かす危険など存在しないと信じて疑ってないのか。
椅子に深く腰かけ、その長い脚をだらしなく机に乗せ。
全員が熟睡中だった。
「――モンキーゴブリンが5体。休憩室にいる。ただコンビニの時と同じように全員寝てるな」
視覚から得た情報を言葉に直し、皆と共有する。
ただ一人だけ、それで引きつった様な表情になってしまう。
「モンキーゴブリン、ですか!? ……どうしましょう。あたしが勧めといて何ですが、やめときます?」
水間さんだ。
そもそもモンスターがいるなんて知らなかった、そんな所に連れてきてしまってとても申し訳ない。
……そんな感情がとても強く伝わってくる顔をしていた。
「いや、大丈夫。5体だし、やってしまおう――奇襲する。もし討ち漏らして逃げてきたら頼む」
ソルア達にバックアップを頼み、心配そうな水間さんを後ろに控えさせた。
そうして早速、モンスターの討伐を開始する。
――ファム、もう一つ奥の部屋、キッチンがあるだろ? その近くから部屋全体を見渡す感じで頼む。
≪えーっと……あっ、うん! わかった!≫
ファムは素早く指示を理解し、ササっと場所を移動。
位置取りも的確で、これならかなりやりやすい。
よし――
――【操作魔法】!
ファムの視界を媒介に、俺自身の肉眼では見えていない物を操作する。
狙うは、おそらく軽食用に使うのだろう食器類。
箸、フォーク、ナイフ、スプーン。
凶器になりうるものは何でも浮かせた。
『GOB……』
『GO……GOGYA』
モンキーゴブリンたちはといえば、今もとても気持ち良さそうに寝息を立てている。
やはり亜種とはいえ、ゴブリンはゴブリン。
朝、というかもうじき昼だが。
その辺りは活動時間外ということだろう。
「…………」
それに“器用”の能力値、そして【操作魔法】のレベルも上がったからか。
食器類を浮かせる動作が、とても繊細にできている感触があった。
音を立てず、優しくフワッと。
そして徐々に距離を詰める。
射程距離の圏内に入った。
「っ!! ――」
発射。
仰向け。
目玉や喉など。
いかにも耐久の薄そうな部分が、無防備にさらけ出されている。
『GOGYA――』
『GYAG――』
2匹、仕留めた。
深々と刺さったフォークやナイフ、箸は目玉を突き抜け脳にまで到達。
しかし――
『GUGI!?』
『GYA,GUGYAAA!』
『GIGI!』
3匹、殺り損なった。
今まで明らかに熟睡していて、一生起きそうになかったのに。
ナイフや箸が迫ると、まるで見えない何かに叩き起こされたかのように眠りから覚めたのだ。
――クソっ、こいつらも【危険察知】持ちか!
「3匹、避けられた! こっち逃げてくる!」
手短に、要点だけを伝える。
「……はい」
「ん、分かった!」
ソルアとアトリが応じる。
動揺したような様子は一切なく。
これから訪れるどんな状況にも対応しきって見せるという、確たる自信が感じ取れた。
「……来たっ!」
「っ! 大丈夫、私も行けます!」
久代さんの指摘通り。
3体が、まるで何かに追い立てられるように、フロント方向から駆けてきたのだった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「GYA!? ――……GYAIII!!」
モンキーゴブリンたちは最初、俺たちの姿を見て驚愕の表情。
しかし直ぐに、その顔が醜く暗い笑みへと変わる。
一番近くのポジションにいるソルアやアトリはもちろん。
久代さんや来宮さん、そして水間さんを見ていく。
極上の雌達を舐めるように、その視線がネットリと撫でていった。
襲撃で2匹、同胞を失った。
だがその埋め合わせは目の前の雌共で十分以上にできる。
さて、どいつから、どうしてやろうか――
「――はぁぁっ!」
――そんなおぞましい想像が現実になるようなことは、もちろんなく。
「GIGYA――」
何をされたのか。
モンキーゴブリンの1体はそれがわからないままに、アトリによって串刺しにされていた。
「【光刃】!!」
ソルアが持つ“普通の剣”が光り輝き。
そうかと思った次の瞬間には、やはり光の刃が飛んでいた。
モンキーゴブリンは【危険察知】で予知した危険を回避すること叶わず、体が真っ二つになっていた。
「GYAIAAA!!」
最後の1匹も、自棄になったようにして来宮さんに襲い掛かった。
「ふんっ!」
しかし、来宮さんはまったく怯まず。
むしろ返り討ちにする勢いで強く武器を振るう。
「GUGYA――」
――なんと、それをモンキーゴブリンが回避した。
明らかに攻撃のモーションに入っていたのに、である。
なんて身軽さだ。
「せぁっ!」
――だが、久代さんがそこを突いた。
モンスターが何とかギリギリ、攻撃を回避した直後。
絶対に避けられないだろうタイミングだった。
【筋力上昇】により強化された脚の力。
それが乗った“ただのブーツ”による蹴りが、見事にクリーンヒットした。
「GUGI――」
手足が細長い分、全身の脂肪もそれだけ薄く。
久代さんの蹴りがあばらの浮いたような胴体にめり込み、そして壁に叩きつけられた。
そして二度と起き上がってくることはなく……。
「ふぅぅ……」
これで勝負は決したようだ。
で、水間さんは大丈夫だろうか――
「うわっ、エグッ……って言うか透子さん、黒か。凄いセクシーな下着履いてるんですね」
「っ!? み、水間さん!? ちょっ、な、なに言ってるの!?」
全然余裕そうだった。
戦闘自体にはドン引きしていたが。
キックの際にスカートから覗いたセクシーなお下着を見る余裕があるんなら……うん、大丈夫だろう。
<【施設 宿屋】が解放されました。これより【施設 宿屋】を利用することができます>
<新たなメールを受信しました。新着メール:1件>
ちょうど、施設が解放されたことを告げる通知も来た。
これで晴れて、俺たちは堂々とラブホテルを利用することができるようになったのだった。
……いや、堂々とラブホ利用できるってなんだよ。
この言い方だとまるで俺がゲスい奴みたいじゃないか。
日中にもかかわらず、美人・美少女揃いのソルア達を侍らせてラブホ来ました、的な?
……それが【異世界ゲーム】の時じゃなく、平時の時だったらどれだけ良かったか。
「あ、ほっ、ホテル……利用、できるようになりましたね」
来宮さんはまた恥ずかしさ・羞恥心に耐えるようにもじもじと。
そして独り言を呟くようにして言う。
あえてホテルに“ラブ”という頭文字を付けないところが、かえって自分たちのいる場所がどんなところなのかを強く想像させてしまう。
「そ、そうね」
久代さんもどことなくだが、入る前のソワソワした感じに戻ってしまったように見えた。
さっき“久代さんセクシーお下着チラ見え事件”があったからか、そういう空気にあてられたのかもしれない。
「…………」
誰もそこから先を言い出さない。
モンスター退治には一致団結できなのに。
まるで誰が次の言葉を言い出すのか、疑心暗鬼に陥っているかのような。
――いや、どうすんの、どうすんのこれ!?
「……あ~。皆さん。とりあえず部屋に行って、ヤることヤっちゃいますか?」
――えっ、やることやっちゃう!?
水間さんの発言に、思わずオウム返しで聞き返しそうになった。
しかしその目が少し悪戯っぽい、小悪魔な雰囲気を帯びていたのに気づく。
……あぁ~なるほど。
「……そうだな。とりあえず、部屋に行って、話すべきことを話してしまおうか」
「あっ――ちぇ~っ。お兄さん、流石は大人ですね。やっぱりこういう時、経験がある人は動揺しないなぁ」
悪戯がばれたようなバツの悪そうな表情。
だが俺は俺で、内心バツが悪い感じで一杯だった。
――えっ、誰が経験済みだって?
「えっ……ご主人様?」
「そう、なの? マスター?」
――いや、俺以上にソルアさんとアトリさんが動揺した表情してるぅぅ!?
その後、二人の誤解を解くのと引き換えに。
俺の大事な大事なプライバシー情報が一つ失われたのだった。
モンスターの刺客の皆さんが次々と倒されてしまう……!
なので、主人公がこの【異世界ゲーム】で死ぬ可能性が高いのは、今現在だと“誰かに刺される”が一番濃厚説!
やっぱり極限状態のサバイバル環境だと何が起こるかわかりませんからね、ええ!
というか何か不幸なこと起これ!(血涙)
日間ランキングは6位にランクインできてました。
また変動はあるでしょうが、未だにこうして上位のランキングにいられること自体大変ありがたいことだと思います。
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