61.警戒は直ぐに……、自己紹介、そして話せる場所へ
61話目です。
ではどうぞ。
「…………」
駅の向こう側へと繋がる地下通路。
そこには、一人の少女がいた。
ブレザーの制服姿。
気怠そうな目をしてこちらを見ている。
あるいは警戒心も混じっているのかもしれないが、どちらかといえばやはり面倒くさそうな雰囲気が強かった。
「あっ――」
すると、背後から声が。
来宮さんのものだ。
相手を見て思わず上げたといった感じだった。
「えっと、“水間奏”ちゃん、だよね?」
「っ!? ……なんで、私の名前、知ってるんですか?」
目が隠れるか隠れないかくらいのショートボブ。
そこから覗く目に、強く警戒心が宿った。
「あっ、私、来宮遥っていうんだけど。わからない? あなたの学校の生徒会と交流会したとき、会ってると思うんだ」
来宮さんの言葉で、水間さんの緊張は一瞬にして緩む。
大きく息を吐いて、腕をダラッとさせた。
「あぁ~なるほど……。でもよく覚えてましたね? ウチの中学、確か3回くらいしかそちらに行ってないはず。それにあたしが“書記”として行ったのも1度きりなのに」
とりあえず来宮さんのおかげで話し合う空気にはなったようだ。
……と、思ったら。
「……うわっ、凄っ。ガチのレイヤーさんですか? 剣士のお姉さんも凄いけど。そっちのサキュバスコスのお姉さん、ドエロいですね」
水間さんはソルアとアトリにいきなりド直球で言及してきたのだった。
「えっ? あっ、ありがとうございます……?」
「どっ、ドエロい……かしら!?」
驚きながらもちゃんと応じていた。
……いや二人とも、疑問符を浮かべながら俺の方を見ないで欲しいんですけど。
「あるいはどこかの【施設】で装備でも購入できたんですか? ――あぁ、いや、すいません。深く聞くつもりじゃなかったんで。今のなし。気にしないでください」
申し訳なさそうに謝る姿は、演技や嘘の雰囲気を感じさせなかった。
ソルアやアトリについて触れた時もそうだ。
どちらかといえば好奇心や好きな物を褒めているみたいな、好意的なニュアンスの方が強かったと思う。
「あ、あはは。――えっと、それで、ひとまずどうしようか? 話せる場所に移動したいけど……」
相手と繋がりがある来宮さんが、主導して話を進めていく。
「あっ! それなら、地下通路でも大丈夫ですよ? 長居するのはともかく、一時的な話であれば」
疲れたような表情から、少し明るい笑顔が覗いた。
……あっ、この子、笑ったら凄く可愛いんだな。
今の一瞬の仕草だけで。
久代さんや来宮さんに負けないくらいの、とても高いポテンシャルがあるように感じたのだった。
「ここ、何て言うか……モンスターたちの行動範囲のちょうど及ばないところみたいなんですよ。さっきからここで10分以上休んでますけど、未だに一度も来ない――」
そこで声と笑顔が凍り付く。
壊れた機械がギギギと音を立てて動くように、ゆっくりとこちらを指さした。
……えっ、何、俺?
「ちっ、違っ! ――」
自分に向けて指さしてみたが、水間さんはブルブルと首を振る。
あっ、違うらしい。
だが水間さんの指先はやはりこちら側を向いていて……。
「――もっ、モンスター! 後ろっ、お兄さん後ろっ!!」
切迫して片言のようになった声。
それにギョッとして思わず背後を振り返る。
そこには、なんと――
「GSYAA? GRIRI!」
――大きめな犬ほどの体をした、グリフォンがいたのだった!!
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「いや、マジで終わったと思いましたよ。まさかお兄さんが従えてるなんて、普通は思わないじゃないですか!」
水間さんは頬を膨らませ、可愛らしく怒りを表現してくる。
「いや悪い悪い。……そうだよな。普通はそう思うよな」
今後も他の生存者と出会う可能性は十分あるのだ。
【テイマー】なり【召喚士】なり。
モンスターを扱うジョブの概念が浸透するまでは、フォンをどう紹介するか慎重に考えた方がいいな。
「……まあ、良いですけど。――えっと、それで? 滝深さん……お兄さんと、久代さんがオナ友、ってことで合ってますか?」
「おいっ」
久代さんのドスの効いた声!
目がっ、目が笑ってないよ久代さん!
相手は中学生だから、ねっ、ねっ!?
「……えっ、違うんですか? “同じ大学の友達”――略して“オナ友”。あたし、変なこと言ってます?」
「言いまくりだ」
久代さんは“オナ友”が別な、恥ずかしい意味を持ってそうな造語にも聞こえてしょうがないらしい。
照れ隠しもあってか、赤い顔でムスッとしつつ訂正を入れる。
「……私と滝深君は、友人関係だったわけじゃない。ただお互い一方的に知ってたってだけ」
「はぁ~。“大学生”ってそんな感じなんですか? あたし、まだ中学生だからよくわかんないです」
学内で一番といってもいい有名人を、俺が知っていたのはともかく。
久代さんはどういう経緯で俺を知ってたのだろう……私、気になります!
まあでも。
確かに俺も、中学くらいの時はそんなだったかな。
大学が何をする場所か、どういう人間関係が形成される場所なのか、全然わからなかったと思う。
……実際に大学生になっても、まったく人間関係なんて形成されませんでしたけどね。
「――で、剣士のお姉さんとサキュバスのお姉さんが、お兄さんの愛人と……」
「おい」
今度は俺がツッコミを入れる番だった。
……水間さん、この子実はわざとだな?
「愛人、ですか……愛人……」
ソルアさん?
何をちょっと“良い響き……アリ、かもしれません”的なニュアンスで呟いてんですか?
「う、うぅぅ……愛人じゃないもん。私は、普通のお嫁さんがいいもん」
アトリさんも、ギャップを感じさせる凄い可愛らしい感じで、一体何を言ってんですかね!?
それはあれだよね、一般的な話をしてるんだよね!?
だがこうした冗談を交えた自己紹介もあってか。
出会ったばかりでも、水間さんはかなり接しやすく話しやすい相手だとわかったのだった。
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「――ちょうどいいです。MPも回復してきたので。ここよりも安全な場所に移動しましょう」
水間さんもこちらにある程度は気を許してくれたのか。
俺たちと距離を置かず移動を共にする。
「これは……【施設 宿屋】が、もう少し行ったところ、繁華街の方にあるみたいですね。込み入った話はそこでしたいと思いますが、大丈夫ですか?」
何か考え事をしている、あるいは俺たちには見えない“何か”が見えている。
そしてそれをそのまま口に出ている。
そんな風に、水間さんは自ら情報を無自覚に開示していく。
「いや、そりゃそれでいいけど……」
ソルアや久代さんたちへ確認の視線を向けるが、皆同じような感想を抱いたんだろう。
多分、水間さんのことを不思議に思いながらも、それぞれ頷き返してくれた。
「…………」
ただ、唯一相手を以前から知っていたという来宮さんだけは違って。
表情を変えず、じーっと水間さんを見つめていた。
来宮さんは来宮さんで【読心術】を使って、俺たちには見えない“心”を見ているのか。
あるいはただ純粋に思うところがあってのことなのか……。
≪……うん、今っ! ご主人、今だよ!≫
『GFOO!』
地下通路を進んだ向こう側の地上に出て。
水間さんの先導する方へと足を進めていく。
その際ももちろん、ファムとフォンのコンビによる安全確保も忘れない。
「はぇぇ~。凄いですね、お兄さんとグリフォン。それと……妖精ちゃん? ……まさかここまでモンスターとエンカウントせず進めるとは思ってませんでした」
水間さんも最初は半信半疑だった。
しかし俺が言った“戦闘を回避できる”との言葉通りに進んでいることを実感したようだ。
今では純粋に感嘆と素直な称賛の声を上げている。
「まあ“フォン”の存在を成り行き上でも教えちゃったからな。ファムの存在も、もう隠す必要もないだろう」
モンスターを連れていることを知ったのだ。
なら妖精を連れていることはそれよりも受け入れやすいだろう。
「そうですか……――あっ。【施設 宿屋】の場所は、あたしが持つスキルを使って分かったんです。なんで、嘘とかじゃないですから」
俺が相手を信用する証的に、ファムたちのことを教えたからか。
水間さんもそこから何かを感じてくれたらしく、お返しにとまたさらに自分の能力を話してくれた。
そもそもは俺からスタートしたわけじゃなく。
水間さんが最初に【施設 宿屋】の存在を教えてくれたことが始まりなんだが……。
何か利益や恩を受けたら相手に返したなる――そんな法則があった気がする。
必修の心理学の授業でなんか聞いた覚えがあるが、なんだったかな……。
「別に疑ってないから。……で、それはどこなんだ?」
「いや、ホテル名とか、店の名前や場所とかが具体的にわかるんじゃなく。何て言うか……」
水間さんはうんうん唸りながら、適切な表現がないかを考えていた。
そして何とか絞り出したといった感じで口にする。
「地図の中である一点だけがピコンピコンって光るんです。それに向かってる感じです」
それで、俺は何となくだが分かった。
あれか。
【施設 酒屋】の“情報 上”で【マナスポット】の場所がピンポイントにわかったみたいな。
あんな感じか……。
そうして10分ほどして――
「あっ、ここです。ここ」
本来なら人通りが絶えないだろう繁華街の中。
今は生者の気配など全くない、細い道に二つほど入った所で、目的地に到着した。
「――えっ!? こ、ここ!?」
「は、はぅぅ!」
久代さんと来宮さんが目の前の建物を見上げ、真っ先に動揺した反応を示した。
特に来宮さんはさっきまでの無表情が嘘のように、照れや羞恥を一杯に含んだ真っ赤な顔に。
そこには――
“料金 100分:1980円 3時間:3980円 フリータイム:5980円”
“コスプレ衣装3着まで無料!”
“18歳未満のご利用お断り”
などが書かれた看板が複数あった。
そしてホテル名が書かれたものにはハートマークが多用されており――
――ってラブホテルですやん!?
異世界風のえっちぃ神官剣士コスの美少女と、サキュバスコスのえちえち美少女と一緒にホテルに入りたい人生だった……(遠い目)
日間ランキングは久しぶりに7位にランクインできてましたね。
もう投稿して2か月、60話超えて未だにこの位置にいられることはとても幸運でありがたいことだと思います。
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