59.グリフォン、首輪の挑戦、そしてボスの正体
59話目です。
ではどうぞ。
「GUOOOOO‼」
≪わぁっ、ひゃぁぁ!≫
ファムが逃げるように飛んで戻ってきた。
それも翼をもつモンスターを背後に連れて、である。
「えっ、何、嘘っ!? “グリフォン”!?」
アトリの驚きにつられるように、俺も自分の目でその姿を確かめる。
「グリフォン……確かに。通常のモンスターとは一線を画す風格は感じるな」
伝説上の生き物や、ゲームで特別な役割を振られる存在として知られている。
モンスターは猛獣のような胴体や四肢に、鳥の頭を持ち。
黄緑色に見える翼で、ファムのように自由自在に飛んでいる。
一方で羽ばたく翼の音に反して、そこまで大きな体ではなかった。
サイズがデカ目の犬くらい……子供だろうか?
ファムさん……。
とりあえず経緯の説明ぷりぃず。
≪うぅぅ~ごめんなさい。ただお空を楽しく飛んでたら、鳥さんのテリトリーに偶然入っちゃったみたいで≫
あぁ~。
地上とは違い。
空には“ここからは私たちの住処です”なんてことを教えてくれる、可視化された境界線などない。
空を飛べるファムだからこそ、エンカウントしちゃったということだろう。
逆に言えば陸上を主体として活動していれば、まず出会えない相手といえる。
運が良いのか悪いのか……。
「GFUOOOO! GLISYAA!」
グリフォンは怒ってはいるが、俺とアトリを気にしてか今すぐに襲い掛かってくることはなかった。
一方で仮にファムを差し出せば、簡単に様子見の状態を解くだろう。
そうしてパクっと行っちゃう雰囲気がありありと感じられる。
≪はうぅぅ~ご主人、ごめんなさいぃぃ! 差し出さないで! お願い、これからもちゃんと良い子にするからぁぁ!≫
いや、相手の様子を掴むための単なる例えだから。
実際にしないって。
「えっと、とりあえずファムを追って来たモンスターってことでいいのかしら?」
ここまでのやり取りが一切聞こえておらず、アトリは自信無さ気に確認してきた。
「ああ。で、どうするかだが――」
そうは言っても。
冗談で告げたように、ファムを差し出して手打ちに、なんて選択肢はありえない。
かといって逃げれば済むかといえば、そう単純に話が終わるとも思えず。
“探偵事務所”のビル内に逃げれば、逆に逃げ場なく追いつめられるし。
じゃあ別の所へと逃走すればと思えるが、それだとソルア達は置いていくのか、となる。
「――結局、戦うしかないってことか」
念のためにと武器を持ってきておいてよかった。
そうして剣を構え、魔法を発動するタイミングを窺う。
そこで――
「あっ、そうなの? ――じゃあさ、マスター。ちょうどいいから、“魔隷の首輪”、使ってみたら?」
アトリから、思わぬ提案が出てきたのだった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「GLIIISYAA!!」
相手も牽制のし合いに痺れを切らしたのか。
俺とアトリがいることも構わずに突進してきた。
「――【魅了】!!」
アトリはそれに慌てることなく能力を発動した。
自慢の剣捌きではなく、サキュバスとしての力を最大限に発揮する。
それは“倒す”ことよりも“無力化”させることに主眼を置いた対応だった。
「GFOOO――」
ピンク色をした霧状の気体に、グリフォンは真正面からあてられてしまう。
途端に怒りの感情は完全に鳴りを潜めた。
フラフラと危うい飛び方で地面に着地。
そうして切な気な甘い吐息を漏らしだす。
「よかった、メスでもちゃんと効いてるみたいね!」
えっ、このグリフォン、メスなの!?
衝撃の事実。
凄いねアトリさん、見ただけでわかるんだ。
「――さっ、マスター。試すなら【魅了】が効いてる今の内に! 使わないなら倒しちゃうけど」
判断を求められ、すぐにハッとなって切り替える。
“魔隷の首輪”は、何度も試せるものじゃなく。
1度失敗すればそれで終わりの消費アイテムだ。
なので使うかどうか。
そして使うとして、そのタイミングをどうするかは慎重に考えないといけないと思っていた。
だが“グリフォン”はゴブリンやコボルトなどとは異なり。
ファムが偶然にも連れてきてしまったもので、そう何度も出会えるモンスターじゃない。
こういう機会に思い切って使わないと、何か小さな懸念を取り上げて一生使わない気がする。
「――やるっ! だから倒すのは、失敗したときまで待ってくれ!」
アトリが桃色の臭気を発し続けるのを確認して、こちらも直ちに行動へと移る。
黒と紫色でできた首輪を用意。
そして一度限りのチャレンジを確実なものとすべく、勝負に出ることに。
「――【加速】!!」
全身からエネルギーがグッと減った実感と同時に、視界に映る物の動きすべてがスローになった。
アトリから出ていくピンク色の空気もそうだ。
まるで自分だけがその物理的な動きを把握できているかのように、その流れが全部この目で見えていた。
「後は――」
【操作魔法】で、“魔隷の首輪”を操作。
ただ単に腕で投げてぶつけるだけよりも。
“魔力”の能力値と、Lv.3となった【操作魔法】の威力が上乗せされるほうが、少しでも成功率が上がると思ってのことだった。
黒と紫色をした首輪が、半透明な紫一色のエネルギー体に包まれて飛んでいく。
首輪がグリフォンの首付近に命中。
「おっ――」
すると、いきなりその直径が大きく広がった。
そうしてサーカスで猛獣に輪っか潜りをさせるのとは逆に動くように。
巨大化した首輪がグリフォンの首回りへと転移する。
次の瞬間には狙いが定まったのを確認したかのように、首輪は縮まり。
スポッとグリフォンの首にはまった。
「どうだ……行くか?」
首輪はまるで心臓が鼓動を刻むかのように収縮を繰り返す。
今正に、モンスターが隷属させられるかを試行している最中のようだ。
そうしてギュッ、ギュッ、ギュッ……と数度、従属への挑戦が行われた後――
「あっ――」
パチンッと軽やかな音を響かせ。
首輪はグリフォンの首にピタッとくっついた。
そうして物理的な形を持つ首輪が消失し、それと引き換えるように。
その首回りには黒と紫でできた模様がついていたのだった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「あっ。お帰りなさいませご主人様――」
その後15分経ったのを見計らい、ビルの4階にまで戻ってきた。
しかし出迎えてくれたソルアは、俺の顔を見るなり何故か言葉を途中で途切れさせる。
「うっす。……えっと、どうかしたか?」
「あの、いえ、その……。休憩の時間を、お過ごしになられたのですよね? その割には、少し、さっきよりも疲れていらっしゃるな、と」
ソルアはどこか遠慮がちというか。
核心の部分にはできるだけ触れないようにと配慮しているような、そんな雰囲気があった。
「滝深さんが、休憩時間から疲れて帰って来た!?」
「……それもアトリさんと二人きりの休憩時間で、ね。一体どんな休憩をして過ごしてきたのか。とても気になるところね」
いや、“休憩(意味深)”じゃないから!
来宮さん、顔真っ赤にして“男女が二人で疲れるような休憩……ゴクッ”とか“15分で……ひゃぁぁ!”とか言ってるよ。
多感なお年頃ってのはわかるけど、違うからね?
「はぁぁ……まあ、ある意味疲れる休憩時間だったよ。――ファム。連れて来てくれ」
現実に声を出し、それを心の声とリンクさせる。
≪はーい! 今行くねぇ~。――ほらっ、“フォン”、行くよ?≫
応答が届いてから殆ど時間をかけず。
4階、吹きさらしとなった窓枠付近にファムがやって来た。
「――えっ、あっ、グリフォンですか!?」
そしてソルアが真っ先にその存在に気付いたように。
ファムには、従えることに成功したばかりのグリフォンがついて来ていた。
「ああ。こいつとちょっとバトってた。でももうちゃんと服従させたから。――グリフォンの“フォン”だ」
「GLISYAA……」
ファムとともに中へと入ってきて、フォンは穏やかな声で鳴いてみせる。
「わっ、可愛い……女の子かな?」
「グリフォン、か。イメージよりは小さいのね。子供?」
来宮さんと久代さんも最初こそビクッと怯えたような反応を見せたものの、すぐに警戒心を解いていた。
二人とも、やっぱり度胸がついて来てるんだろうなぁ。
……ああいや、度胸の“胸”ってのは、心の器の話ね?
来宮さんとか久代さんがお持ちの立派な物にかけて言ってるわけじゃないからね?
「――それにしてもグリフォンだから“フォン”って。……滝深君って、ネーミングセンスがなんていうか、独特よね。フフッ、子供ができても変な名前とか付けそう」
こぉ~ら、久代さん。
そんなマズい料理の感想を求められて“うーん……独特なセンスで、良いんじゃないかしら?”みたいなリアクションされると、流石に俺も傷つくゾッ。
というか、“子供ができたら”みたいな話しないの。
変な想像しちゃうでしょ、もう!
「GLIII!」
「でもこの子、凄く滝深さんに懐いてますね。……ついさっき仲間にしたんでしょう? 全然そんな風には見えないくらいです」
来宮さんの言うように、フォンは甘い声を出しながらこちらへと頭をこすりつけてきた。
多分、アトリが【魅了】を使って状態異常にさせた中で、従属させることに成功したからだと思う。
そうじゃないと、いきなり好感度が高い理由なんて見当もつかないからねぇ。
ギャルゲーじゃないんだから。
「GFUUUU……」
≪ふふん。フォン、良い? これからはボクが君の先輩だからね。お空の偵察の時は、ちゃんと先輩のボクを守ってよ?≫
もちろんそういう点でグリフォンが貢献してくれればとの思いはあった。
ファムがモンスターから危害を加えられるのを防ぐ抑止力に、と。
……ただファムさんや。
さっきまでその後輩に食われるかもとビクついてたのは、記憶にございませんの政治家答弁ってことでOK?
まあ仲良くしてくれるんならそれでいいけども。
「――それで。滝深君。“ボスの弱点”がわかったわ」
購入者となった久代さんが、頃合いを見て話をそちらへと移す。
「凄くラッキーなことに、“ボスの弱点”の情報の前提として“ボスの正体”も同時に書かれてた。――ボスは蜘蛛のモンスターよ」
突如お休みしてすいませんでした。
パソコン、色々試してようやく書ける状況になりました。
いつも使ってるメインのユーザーアカウントがもう亀か牛さんの歩みくらいのろくて何をやってもダメだったんですが。
再起動やら何やらを試しに試した後、ダメ元でサブのアカウントを使ってみたらなんかいけました。
「えぇぇ~。じゃあなんで逆にメインの方はおかしくなってんの?(首傾げ)」
こういう時本当にPC音痴なのが辛いですね……。
ただ執筆に限らずリアルなどで必要なデータ類はまめにUSBなどでバックアップとってたのが幸いでしたね!
メンタルはなので結構無事です!




