58.場所と弱点、そして首輪の正しい使い方!?
58話目です。
ではどうぞ。
「『……気味が悪くなるだけですぜぃ?』――とまぁ、こんな感じだ」
得られた情報をそっくりそのまま音読。
背後にある雰囲気も伝えられるようにと、できるだけ情報屋っぽい口調も再現した。
すると――
「フフッ、フフフッ……」
「ま、マスター、や、やめて、苦しくなるから……フフフッ」
やった、ウケたぜ。
ソルアさんもアトリさんも珍しく爆笑中である。
そんなに俺と三下臭する口調がマッチしてましたか?
……まあ、それだけ笑顔になってくれるんなら良いけども。
「フフッ。――それで、“ワールドクエスト”の場所に関してなんだけれど」
「これはもう、一つしか、ないですよね?」
久代さんと来宮さんも、同じようにクスクスと笑ってくれていた。
それを何とか抑えながらも、お互い目を合わせて確信し合っている。
かくいう俺も、目的の場所について見当はついていた。
市内で生活していれば、誰しも一度は利用したことがあるはずだ。
「――“ショッピングモール”だな」
「“ショッピングモール”よね」
「“ショッピングモール”、ですね!」
別に意図したわけではないが、心が通じ合ったかのように声がシンクロした。
答えも揃い、“こうだろう”という推測の域から“これに違いない”との確信へと到る。
これで“ワールドクエストの場所”は確定だろう。
問題が一つ片付いて心がスッと軽くなるのを感じた。
「えっと、“しょっぴんぐもーる”、ですか?」
「ああ、えっと……駅向こうにある大きな複合商業施設だ。要は沢山のお店が入るくらい大きな土地・建物があって。で、そこに行けば大体なんでも揃うって場所だな」
ソルアの可愛らしい発音から“ショッピングモール”の説明がいるだろうと判断。
俺の言葉を聞き、ソルアだけでなくアトリも何となく納得したように頷いていた。
まあ百聞は一見に如かず。
行って見ればわかるだろう。
「あそこなら大きなモンスターが入っても動き回れるくらいの広さはあるものね」
「ええ。納得です。――で、ボスの弱点ですけど、どうしますか?」
場所が分かり、更に本題のそのまた核心へと話が進む。
お試し的に一度情報を買ってみて、やり方もわかった。
“残り2回”へと購入できる回数が減っていることもあり、本格的にどうするかを考えなければならない。
「……俺は買おうと思う。ただ、買ったからって、絶対戦わないといけないってわけじゃない」
情報を得て、それでヤバそうなら素直に“ワールドクエスト”には参加しない。
そういう選択も含めてできるように、この情報は買うべきだと意見を述べた。
「ありがとう滝深君。そう言ってもらえると心が軽くなるわ」
「ですね。それに1500Isekaiなら【パーティー共用 施設利用カード】の使い道も決まって丁度いいですしね」
二人とも前向きな意見だった。
やはり“買う・買わない”が“クエストに参加する・しない”と直結するわけじゃないと言ったのが大きかったようだ。
別に“Isekai”に限った話じゃない。
お金を使って何かを購入したら、“なのにやめてしまうのはもったいない”という精神が働く。
良し悪しあるが、それで撤退・やめるという選択が制限されるのはかえって自縄自縛だろう。
「じゃあ、今回は私がやってみるってことで、良いの?」
合意が形成され、改めて購入をすることに。
決済の【パーティー共用 施設カード】は3人の誰でも使えるので、今回は久代さんに手続きをしてもらった。
「ああ。誰がやっても同じだろうから」
だからむしろ同じ人が複数回するより。
他の人も、初めてこの手続をやってみるという経験を持った方が良いだろう。
「分かった。直ぐやるから――」
そうして久代さんが宙へと指を動かしていく。
しばらく待っていると、久代さんの手がピタッと止まった。
「えっ――」
予想外のことが起きて、思わず出たというような声。
何事かと視線を向けると、困惑したような表情が返ってきた。
「――えっと……『こいつぁあっしの一世一代、最も危険な命懸けの仕事になりますぜぃ。……ちょいとばかし時間をくだせぇ姐さん』って。で“15分待て”って」
久代さんの三下演技という、とても希少な光景を見ることができたと同時に。
思わぬ形で休憩時間ができたのだった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
≪わぁ~い! 森だぁ、自然だぁ、大空だぁ!≫
「フフッ。ファム、やっぱりここの辺りが好きそうね。凄く生き生きとしてるわ」
15分という長くはないが短くもない空き時間ができ。
ファム、そしてアトリを連れて、気晴らしに外へと出た。
「あんまり遠くへは行くなよ~。ソルア達、まだ上に残ってるんだからな」
情報の購入者となった久代さんはもちろん。
来宮さんも一緒に休んでもらっている。
“百均”から脱出して以来、ちょくちょく休憩時間は取ってきた。
だが先ほどのコボルトやポイズンフラワーとの戦闘で、かなり奮闘していたように思う。
それはもちろん悪いことじゃないが、一方で。
頑張った後って、自分が思っている以上に疲労しているかもしれない。
そういう配慮からだ。
≪うん、分かってる! 空を飛んで、楽しむだけだから大丈夫だよ≫
ファムは言葉通り、俺とアトリの目が届く範囲で空中散歩を満喫していた。
本当、楽しそうに飛んでるなぁ……。
俺たちもせっかく出来た時間だから、のんびり過ごすかねぇ。
「――あっ、そうだ。アトリ。良い機会だから少し聞いておきたい」
「えっ? な、何かしら?」
いきなりだったからか、アトリは身構えるように少し固くなっていた。
「いや、大したことじゃない。……どうだ、調子は? 聞くまでもないかもだけど、ソルアとは上手くやっていけそうか?」
昨日ネットカフェでソルアにしたように。
アトリにも個別に面談をすることにした。
「あっ――なんだ、そういうことね。驚かさないでよ……」
あからさまにホッとしたように胸を撫でる。
……その呼吸一つでも凄い上下するじゃん。
どんだけえっっっっな胸なんだよ。
いや、アトリさんは胸とか脚とか以外に、そもそも存在そのものがエロいけどね。
「……うん。良いんじゃないかしら? もちろん、ソルアとは凄く息が合うっていうか。凄く私に優しくしてくれるのが分かるし。これからも何の問題もないはずよ」
それは俺やソルアに気遣っての建前ではなく。
本心からそう思っているというのがちゃんと伝わってきた。
やはりソルアも、そしてアトリも。
お互いにちゃんと、相手との仲が良好だと感じているということか。
それは俺にとっても嬉しいことだ。
せっかく得た縁だし、どうせなら上手くいってくれるに越したことはないからな。
「そっか。わかった。……で、後なんだったかな、まだ言っとく事があったはずなんだが――」
それは久しぶりにあった親戚のおじさんが、姪っ子との会話を何とか繋ぐための建前的な間ではなく。
本当に、アトリへ話そうと思っていたことがあったための言葉だった。
そしてその思考自体が呼び水となって、記憶がパッと蘇ってくる。
「――あっ、そうだ! これっ、アトリにも一つ、渡しとくな」
そうして手渡したのは、コンビニの【万屋】で購入したアイテムだった。
「えっ、これ……首輪?」
<魔隷の首輪(下):アイテム。使用することで、モンスターを隷属させることができる。相手のレベル、ステータス等により成功率が変わる。※基礎成功率:1.0倍(【施設の王】→2.0倍)>
「ああ。アトリに使ってもらおうと思って」
俺や来宮さんが、【剣士】のジョブを持たずして【剣術】のスキルを有しているように。
【テイマー】なるジョブが仮にあったとすると、これはそれを持たず。
アイテム単体で、モンスターを従えることを可能にするもののはずだ。
で、従属の成功率を左右するのは【スキル盗賊団】と同様に考えればいい。
つまり俺の【加速】やアトリの【魅了】が生きるだろう。
……という趣旨なのだが、受け取ったアトリはというと。
「わ、私にっ!? そ、そっか……へ、へぇ~。マスターが、私に」
なにやら顔を赤らめ、もにょもにょとよくわからないことを呟いていた。
……何?
「マスターが、そういう趣味なら、別に、私も、構わないけれど?」
趣味?
……いや、だから何の話?
「首輪をして、所有されてるってこと。形から分からせられちゃうんだ……」
うーん?
まあ、そういうことなんだろうけど。
なぁ~んか噛み合ってるような、噛み合ってないような……。
「んっ――」
だが何を考えているのか、それを聞こうとする暇もなく。
――黒と紫色で出来た首輪を、アトリは自分の首へと持っていこうとした。
「――いや違う違う! それ、だからさっきゲットした奴! “魔隷の首輪”だって!」
そこに至ってようやく、アトリがどういう意図でその首輪を受け取ったのかを理解。
そして物凄い勘違いをしていると察し、慌てて止める。
「えっ――」
俺の静止で、アトリは一瞬フリーズ。
時間の経過に伴い、言葉の意味が徐々に頭の中へと浸透していく。
そしてそれに比例するように、アトリの顔も見てわかるくらい赤くなっていった。
真っ赤に染まったタイミングで、再起動。
「もう~っ! そうならそうと早く言ってよ!! 凄くエッチな勘違いを――あっ! い、いや、やっぱ無し! 違うの、私も最初からそうだと思ってたわよ、えぇ!」
アトリさん、それ以上はもうしゃべるな!
しゃべればしゃべるだけ墓穴になるから!
そうしてお互いが冷静になるため。
しばらくくすぐったいような、落ち着きないような時間を経た後。
改めて“魔隷の首輪”について説明する。
今度はちゃんとその趣旨を理解してくれた。
そうして早めになるが、ソルア達のいる“探偵事務所”へと戻ろうかという時。
≪わっ、わわぁ~! 鳥さんやめて、こっちに来ないでっ! ボク、美味しくないよ~っ!≫
近くを飛び回って遊んでいたはずのファムの、全く余裕がないような声が聞こえてきたのだった。
日間ランキングは本当ギリギリで、何とか10位で踏みとどまってるという感じでしたね……。
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体力的にも流石にお休みが欲しいなと思う時もしばしばです。
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