表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/115

57.外から見ると……、中から見ても、そして驚愕のお値段!

57話目です。


ではどうぞ。


「着いた。ここ……のはずよ」


 

 自信なさ気に久代さんが指さした先。


 複数ビルが立ち並ぶエリアの中の一つ。 

 そこには4階建てのビルが、まだ辛うじて残っていた。



「……あちこちヒビだらけ。隙間から植物も生えちゃってる」



 目的のビル……だった物を見上げ。

 来宮さんも呆然とした様子だった。  

 


「その“探偵事務所”ってのも4階、で合ってる?」


「ええ。窓ガラスに、事務所の名前が分かるよう紙が貼ってあったんだけど……」


 

 しかし、久代さんの言葉は、その先が続かなかった。


 どの階数にも窓枠は4つずつ。

 だがそのすべてが割られ、吹きさらし状態となっていた。

 


「……どの階に何のテナントが入ってたか、外からじゃ全然わかんないな」



 大体は入口付近に、それを表示するプレート群があるもんだが。


 少し中に近づいて確かめてみる。

 ……ダメか。


 壊されたのか持っていかれたのか、そこには何も残っていなかった。



「とりあえず、中に入ってみますか?」



 ソルアの提案はもっともだった。

 ここで立ち往生してても何も始まらない。 



 久代さんの記憶・証言を頼りに行くしかないだろう。



「だな。――ファム、上に飛んで見てきてくれるか?」 



 内部の偵察もかね、先にファムに飛んで行ってもらうことにする。

 


≪ん! 了解しました! とうっ!≫


 

 可愛らしく敬礼のポーズをとる。

 そして元気よくファムは空へと飛びあがった。



 何の手がかりも無ければ1階から一つずつ上へ。

 ローラー作戦みたく、潰していくことになる。


 だが今回は久代さんの情報提供があるため、いきなり4階へと目指してもらった。

 幸い窓は壊れているため、ファムが中を覗き見るのに困ることはない。



≪むむむ~ん! 到着! ……うわっ、荒れてるねぇ≫



 言葉通り、ファムは5秒とせず4階の高さへと辿り着いた。



「……本当だな」



 共有した視界に映ったのは、嵐でも過ぎ去った後のように荒らされた室内だった。


 事務机や安っぽい椅子はボロボロに破壊され。 

 使い古して革が剥がれたソファも、更に見るも無残に切り刻まれている。


 衝立(ついたて)も床へと倒され、穴が開いている始末だ。

 そしてその床は所々が剥がれ、足首ほどの高さの草が生えていた。

 

 ……ここも、モンスターの襲撃と緑化からは逃れられなかったらしい。

 


「どう、マスター? 何かわかったかしら?」


「えっと――」

 

 

 アトリに問われ、どう答えたものかと一瞬悩む。

“何かの事務所”なのは確かだが、“探偵事務所”と断定できる情報はなかった。


 そもそも“探偵事務所”のイメージって、(かたよ)ってるからなぁ。

 空手が凄く強い女子高生や眼鏡の坊やがいるくらいしか浮かばないんだよ、これが。   


「とりあえず、危険はなさそう。モンスターの姿は今のところ見当たらない」 


「じゃあやっぱりソルアの言う通り、入ってみるしかなさそうね」

 


 そうだな……。


 ファムにも中へと入ってもらって。

 それで事務机の近辺でも調べてもらえば、何か出て来そうにも思うんだが。


 事件関係の書類は、流石に情報管理のリスク上そんなところには無いだろう。

 ただ探偵事務所かどうかを示す事務書類の一つや二つは、あってもおかしくないんじゃないかな……。



≪えっ、中? 入ればいいの? ……じゃあ入るよ~っと――≫



 あっ、いや、今のは“中に入ってくれ”って意味じゃなくて。

 ただのとりとめのない思考の一部なだけで――



<――【施設】の中に入りました。これより、当該施設を利用することが可能です>




 あっ。


 止める間もなくファムが4階の室内へと入ったと同時に。

【施設】の存在を知らせる通知が届いたのだった。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「わっ、本当……酷い有様ね」



 ファムのおかげで“探偵事務所”と判明する前に、ここが【施設】なのだと知ることができ。

 改めて全員で4階へとやってきた。

 


「でも、うん。間違いない。ここが、私が言ってた場所で合ってる」



 荒れ果てた室内をゆっくりと眺め。

 久代さんはあまり感情を感じさせない声で口にした。



「えっと、透子さん、大丈夫ですか?」



 来宮さんも逆にそこが気になったらしく、心配気に声をかけていた。



「ええ、ありがとう。大丈夫よ。そもそも別に良い思い出がある場所じゃないし。これを見てショックを受けたとかじゃ全然ないから」



 そこに空元気のようなものはなく、久代さんは真実、何とも思ってないように見えた。

 ……まあ言われてみればそれもそうか。

 

 探偵事務所を利用しようとする状況なんて、大体は何か問題を抱えている場合だ。

 久代さんに限らず、明るい思い出として記憶されることは少ないか。



 それよりはもっと抽象的な。


 つまり……例えば。

 久しぶりに故郷に帰ったら、見ない間に自分の知っている場所が違う店に代わっていたとか。


 要するに、自身を構成する要素の一部が、世界から永遠に消え去ってしまった。 

 そうしたことへのちょっとした寂しさ・喪失感的なものだろう。



「そっか。――とりあえず目的の場所について。そうして推測通りここは【施設】だった」    


“探偵事務所”そのものの話を長引かせれば、それだけ久代さんの過去を深く掘り下げることに繋がってしまう。

 今は久代さんもそれを望んではいないだろうと判断し、現実的なことへと話題を戻す。



「ええ。――で、マスター。結局はどんな【施設】だったのかしら? 12時にクエストが開始なんでしょう? だったら、少しでも早く確かめましょう」



 アトリの言う通りだ。

 時刻は既に10時を回っている。


 12時にスタートするクエストの攻略ヒント。

 それが仮にここで得られるとしても、そこからまたその場所に向かわねばならない。


 結構ギリギリだ。


 ……そもそも運営は、ヒントなんて見つかりっこないと高をくくってたのか?

 いや、その前にまず“ヒントがある”と気づくことさえ無いと思ってたのかもしれない。



「ああ――」



 そうしてアトリに答えながら、直ぐ【施設】について確認を始めた。


 

[施設 情報屋:○○探偵事務所]



 情報 :????Isekai ……残り3回



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「新聞販売店の時とは微妙に違うな……」



 情報を購入するという形は同じだろう。

 だが質に差を設け、それに応じて値段も上がるという形式になってない。

 

 選択できる項目は一つのみだ。



「……とりあえずやってみるか」



 幸い“残り3回”とあった。

 理屈としては最悪でも俺、久代さん、そして来宮さんの1回ずつ利用できると思う。

   

 

 さっきのソルアの言葉じゃないが、結局は試して確かめてみるしかない。 



<【施設 情報屋】で“情報”を購入します。購入する“情報の内容”を特定してください>



 一つしかない項目をタッチして選択すると、対象の特定を求められた。

 生存者(サバイバー)ネームを決めた時の様に、目の前の宙空に半透明なキーボードが出現。


 これで文字を打って、欲しい情報を示せということか。



「これは……検索ワードのチョイス並みにセンスが求められそうですね」



 来宮さんも同じところまで進めたのだろう。

 ゴクリと唾を飲んで緊張した様子だ。


 ……いや、そこまで肩に力入れなくても良いと思うけど。



「とりあえず……次のクエストのボス、だよな? 知りたいのは」


「はい。できれば詳細な達成条件、あるいはボスの急所・弱点が知れれば」

 


 ソルアが俺の呟きを拾い、思考を補助するように具体的なことを口にしてくれる。



「だな。――え~っと“ワールドクエスト ボス 正体”っと……」



 一先ず、といった感じで文字を打つ。

 その後2,3秒待つと、応答がある。



<“ワールドクエスト ボス 正体”の情報 ですと1000Isekaiで購入することになります。よろしいですか?>


「うわっ、1000Isekaiいるってよ!」



 流石に声を出して驚いてしまう。

 つまり新聞販売店の【酒屋】でいう“情報 上”に当たるクラスの質だということだ。


 

 ここで一度“いいえ”を選択。



<【施設 情報屋】で“情報”を購入します。購入する“情報の内容”を特定してください>



 するとまた“情報の内容”の特定からやり直し。

 しかし“残り3回”と回数は変わってないので、購入を確定するまでは何度でも検索できるらしい。



「わわっ! “ワールドクエスト ボス 弱点”だと1500Isekaiでした! これ、つまりボスの正体よりも重要機密ってことですよね!?」



 来宮さんの方で検索してくれた内容は、衝撃的だった。

 一度で1500Isekaiとは、今までで最高値になる。



 ――だがそれは同時に、俺たちの当初の見立て通りということをも意味する。



「……でも、逆に言えば――」


「1500Isekaiを払えば。ボスの弱点はやっぱり事前にわかるってことよね?」



 久代さん、そしてアトリが、まるで考えがシンクロしたように、俺の言いたいことをそっくりそのまま口にしてくれる。



「ああ。……で、どうする? 流石に1500Isekaiだと、ポンと出せる額じゃない」


 

 慎重な判断を要するため、そう皆に問いかけた。

 しばらく沈黙が下りる。


 急かすことじゃないので、俺も一人考え事をして間を繋ごうとした。


 

「あの……弱点、の前に良いですか?」



 ソルアが恐る恐るに手を挙げた。



「ん? 何だ? もちろん、遠慮せず。何か気になることがあったらどんどん言ってくれ」


「はい。……先に“どこに出るか”・“クエストの場所はどこなのか”を知った方が良くはないでしょうか?」



 あっ。



「……そうだな、うん」



 仮に弱点を知ることができたとして、そのクエスト中、全く見当はずれの場所へ向かってしまったら目も当てられない事態になる。

 

 折角1500Isekai払っても、クエストが行われている場所に着けず参加できないとか、本当に意味ないからな。



<“ワールドクエスト 開催場所 最寄り”の情報 ですと500Isekaiで購入することになります。よろしいですか?>

            


 おっ、意外に安い。

 いや、先に1500Isekaiを見てるから、そう感じるだけか?


 とにかく、情報の質によってやはり値段は上下する。

 しかし【酒屋】とは違い、得られる情報の幅にはかなり自由度があるようだ。

 


「【パーティー共用 施設利用カード】は“正体”とか“弱点”とか。そっちに使おう」 

  


 この情報の500Isekaiは自分の現金から出すことにした。

 そして購入するのが俺になるため、手続きも俺がして。



「おっ――」


 

 なので変化が起きたのも、俺の目の前でということになる。

 

 

[情報 “ワールドクエスト 開催場所 最寄り”:詳細]



 へへっ。


 旦那ぁ。

 あっしを見つけるたぁ、相当優れた腕をお持ちとお見受けしやすぜ。


 いただくものもいただきやしたし。

 早速旦那の知りたいこと、お教えしやすぜ?



 ……へぇぇ。


 

 次の大規模儀式が行われる場所、ですかい。



 そいつぁ簡単なことでさぁ。

 あっしを舐めてもらっちゃぁ困りますぜ。



 旦那の居場所からすると……徒歩じゃあ30分もかからないですねぇ。



 あそこはデカい。

 とにかく大きくて、初見じゃああっしでも中で迷子になるくらいでさぁ。


 あらゆる商人が軒を連ねてますからねぇ、そりゃ嫌でも人が大勢集まりますわなぁ。

  

   

 ただし、屋上は関係ないですわぁ。

 あそこに行っても、訳の分かんねぇ乗り物が沢山停まってて、気味が悪くなるだけですぜぃ?



今回はあんまりクイズ感ないかもですね。

場所の特定よりはボス・そして弱点を事前に知ることの方がメリットがある展開ですので。


日間ランキングは何とか6位にランクインできてましたね。

未だに上位でランキングを気にしていられる位置にいること自体、恵まれた本当にありがたいことだと思います。


いつも読んで、そして応援してくださり本当にありがとうございます。


今後も是非、ブックマークや広告の下にある★★★★★のボタンの方、していただけますと大変嬉しく、また執筆の際のとても大きなモチベーションになります。


よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ボス「最寄りの大型デパートで僕と握手!」
[良い点] よかった、見た目は子供頭脳は大人の探偵が出てこなくて [一言] 屋上がミニ遊園地のデパートは今でもあるのかなぁ…
[良い点] なんだこのテンプレな小物の情報屋感は [一言] 探偵事務所にはアホな元刑事はいても空手少女とか怪しいメガネ小学生はいないとおもう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ