56.複雑な思い、【危険察知】でさらなる害悪の高みへ! そしてそれぞれの成長
56話目です。
ではどうぞ。
≪うわ~! 自然が沢山! ご主人、ボク、何だか生まれ故郷にでも来た気分だよ!≫
再び出発して駅近くを目指す際中。
先行してくれているファムは、視界に映る情報に自然が多いことを、特に気に入っている様子だった。
「ファム、ルンルンですね」
「マスター。ファム、何かいいことでもあったのかしら?」
まるで空で舞踏会でも行われているように、ファムは優雅に舞っている。
それを見てソルアとアトリも、微笑ましそうに目元を緩めていた。
「あ~えっと、まあ見える景色に自然が多くて嬉しいってさ」
通訳しながらも、自分の推測を絡めて話す。
「ファムは、妖精がモデルというか、元にしてるっぽいだろ? だから森みたいな所にどこか親しみでも感じてるんだと思う」
「あ~なるほどです」
「へぇ~そう」
二人が納得してくれたのはいい。
だが内心では、素直にこの話に区切りをつけられずにいた。
ファムが日本の町に親しみを持ってくれているという部分だけ切り取れば、確かに聞こえはいいが。
“自然が多い”ということが理由となれば、それは話が変わってくる。
即ち、それだけ“元の町”、つまり俺たちの知っている世界からは乖離してしまっていることを意味するから……。
ファムはもちろん何一つ悪くないが、それを想うと流石に複雑な感情だ。
≪あっ、ご主人、モンスターだよ。どうする?≫
明らかにモンスターがいるだろう大通りは避けてきたが。
流石に全く戦闘無しでたどり着けるなんてことはない、か。
でも、逆に考えれば。
これを乗り越えると、目的地までもう少しだと思う。
「……花がモンスターになったみたいな奴が2体。後はこん棒を持った緑色のコボルトが3体」
ファムと繋がっている視界から得た情報を、すぐさま言葉にして皆に伝える。
……それはいいんだけど、なんで異種のモンスター同士で一時共闘してるかねぇ。
本当、こういうの良くあるよね。
違う種族なのに、モンスター同士で手を組んでるの。
見た目的に絶対相容れない存在同士だろう、お前ら。
もっと生存競争激しく同士討ちしろよ。
「んーっと。俺がコボルト3体面倒見るから……後は任せていいか?」
※注意:倒すとは言ってない。
訳:害悪肉盾ゾンビ戦法で時間は稼ぐので、その間に数減らしてくださいお願いします!
「……では、私が花のモンスター1体受け持ちます。アトリとハルカ様、トウコ様は遊撃でお願いできますか?」
ソルアも第2タンク的な役回りをするということか。
ソルアは状況判断もできるし、場合によっては攻撃に転じることも可能だ。
適役だろう。
「うん、任せてちょうだい!」
「……わかりました。ちょうど【剣術】スキルもゲットできたので、頑張ります!」
「分かった。……滝深君のことだから大丈夫と思うけど。一応は滝深君の方にも気は配っておくから」
一人3体を受け持つ負担を考えてか、久代さんが何気なくそう声をかけてくれた。
……おい、やめろよ。
そんな美人で、しかも気も利くとか、何なの?
そして言葉の中にさり気なく“あなたのこと、私は信頼してますよ”的なニュアンス含ませるとか。
童貞の陰キャボッチに効き目抜群の、超高等テク使ってくんなし。
「……ん。じゃあ、頑張ろう」
だがもちろん、そんなことは顔や態度には出さず。
この後どうやったら、コボルト3体からこん棒でタコ殴りにされないかを考えるのだった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「――行くぞっ!」
大通りから一つ逸れた道。
“交番だった残骸”がある傍で、戦闘が開始した。
――【操作魔法】!!
モンキーゴブリンたちの残した武器、中でも軽いナイフ類。
それらが一斉に宙へと浮き、一つの方向性をもって勢いよく飛んでいく。
「KOBO!? ――KOBU!!」
コボルト目掛けて飛んだナイフ群はしかし、3体の内最もデカかった1体によって弾き落とされてしまう。
――えっ、嘘ッ!?
完全な不意打ちだったんだけど!?
アイツ勘が良過ぎない!?
【スキル盗賊団】で調べたら、やはり奴も【危険察知】のスキルを持っていた。
しかもLv.2だ。
「KOBU!?」
「KOBO,KOBUBU!!」
残り2体は今ようやく気付いたという様に、慌てて何かを叫んでいた。
後先、そして周りを見ず、俺に向けて突っ込んでくる。
クソッ、やっぱりあの1体だけ別格なのか。
「はぁっ! やぁっ!――アトリ、そっち、お願いします!」
「任せてっ! ――せあっ!」
あちらも開戦したらしい。
ファムが上空から送ってくれる情報では、アトリが次々と植物の蔓を切り落としていた。
4枚の大きな花びらがついたモンスターは、どんどん攻め込まれている。
「アトリさん、ソルアさん、気を付けて! その“ポイズンフラワー”、その伸びる蔓が主な攻撃手段! それで敵を捕まえて攻撃するから!」
久代さんの声が飛ぶ。
詳細な情報は【鑑定】して得られたものだろう。
……うん、触手とか蔓の攻撃は気を付けないとね。
美少女と触手系統の攻撃は、ある意味で相性が良すぎるので“混ぜるな危険!”だもん。
後は衣類“だけ”を溶かす液体攻撃とかね。
――っと!?
「っ!」
「KOBOOO!!」
突如、脳や全身にビビッと電流が走ったような感覚。
その直後、緑色をしたコボルトのこん棒が飛んできたのだった。
うわっ、投げやがった!?
健康そうな体色に反し、迫ってくるこん棒は明らかにドス黒い色に変色しきっていた。
人を、あるいは生き物を、沢山手にかけている。
そんな血を吸いに吸ったような色だ。
「っと!」
それを、上がった身体能力を生かして回避する。
こん棒の同じシミになるのはゴメンだ。
うーん……ちょびっとばかり反射神経が良くなってるか?
来宮さんのおかげで“敏捷”も少し上がり、何より【危険察知】が上手く機能してくれた。
「KOBOBO!」
もう1体、強くない方の残りが、手にこん棒をもって襲ってきた。
この時も、微弱だが頭にアラームが鳴り続ける感覚があって、危険を俺に知らせてくれる。
「ふんっ!」
そして回避すると、まるで目前の危険が去ったことを教えてくれるかのように、アラームは弱まるのだ。
助かる。
ファムによる張り付きでの情報取得がなくてこれだ。
これにファムの視界情報が加われば、回避性能は相乗効果でさらに上がるだろう。
フフッ。
これでますます肉盾ゾンビ戦法が害悪さを増すぜ。
――でもだからって、ゾンビみたいな死んだ目ボッチとかいうの禁止な!
体は【身体硬化】でカッチカチでも、心は豆腐でやわやわだからね!
さて――
「KOBU……」
【危険察知】持ちの個体は。未だ様子見をしてくれている。
さて、後どれくらい時間を稼げばいいか――
「――マスター!」
「滝深君っ、無事っ!?」
そこでタイミングよく、心強い加勢の声が届いたのだった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
向こうでは、“ポイズンフラワー”はもう1体になっていた。
アトリが早々に沈めたらしい。
「――【ショット】!!」
そしてその1体を、ソルアと来宮さんのコンビで相手をしていた。
“ただの盾”で防御に専念しているかと思えば、ソルアは【光核】を使って遠距離攻撃もしている。
光の光線が次々と飛んでは、花のモンスターにダメージを与えていた。
「はぁ! やっ、せぁっ!」
そして反撃にと伸びてきた蔓を切る役目は、来宮さんが担っていた。
とても素人とは思えない武器捌きは【剣術】、それもLv.2によるものだろう。
ただ、静かで大人しい印象の彼女からは想像できないような、強い気迫が籠っていた。
「KOBO――」
そうした戦況を、ファムの視覚情報から得た一瞬の間で。
こちらの状況も直ぐに一変した。
1対3から、3対3という対等な数での戦いに。
それはつまり1対1を3つ作れるということを意味する。
「っ――」
久代さんは武器による殴り合いが相手に分があると判断すると、直ぐに手に持つ杖を放棄。
身軽になった状態で駆け、ウッドコボルトの間合いに跳び込む。
うわっ、凄い度胸――
――【操作魔法】!!
久代さんが落とした木の杖をすぐさま操作し、サポートする。
俺が担当する“こん棒投げつけコボルト”、その落ちているこん棒をも同時に浮かせて発射。
「KOBO!?」
こん棒持ち個体が、すかさずその武器で防御。
視界が塞がれた隙に久代さんが攻めた。
「やっ、せぃやっ!」
純粋に、ただ思いっきり重い蹴りを見舞ったのだ。
「KOBO――」
それは単に、誰もが見惚れるような美人の一攻撃、ということのみを意味せず。
異世界装備であるブーツを履いて、脚の攻撃に威力を持たせ。
また【筋力上昇Lv.2】でその底上げがなされた。
そんな久代さんの華麗な蹴りは、重量あるコボルトを吹き飛ばすに十分なものとなっていたのだ。
「――【魅了】!」
――そしてアトリに、1対1で戦える状況を作った時点で、俺たちの勝ちだった。
「KOBO!? KOB――」
桃色の気体に包まれ。
【危険察知】持ちの個体は、一瞬にしてその動きを鈍くした。
「はっ、せぁっ、やぁっ!」
どれだけ危険をその身で感じようと。
それへの対処を圧倒的に上回る速度で攻められれば、なす術もない。
「はぁぁっ!!」
鮮やかな赤ともピンクともつかない、華麗な剣線。
その攻撃のヒット時には破裂音にも似た、どこか小気味良い音が聞こえて来るようにすら思えてしまう。
それくらい、アトリの一撃一撃はキレが抜群だった。
「KOBOO――」
ほどなく。
一番厄介だったろう個体は、アトリによってあっさりと倒される。
それで残った1体、さらに久代さんが蹴とばした1体も戦意が喪失したらしい。
ソルアと来宮さんの方も、直に終わるだろう。
そうして“探偵事務所”への道を塞ぐモンスター達を、難なく倒しきることに成功したのだった。
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