53.不意の一撃、相手からも、そして集団戦
53話目です。
ではどうぞ。
「…………」
ファムから送られてくる視覚情報を頼りに、【操作魔法】を発動する。
ウトウトと、夢の中へ旅立っているゴブリンの見張り。
その2体が持つ武器を、そーっと宙に浮かせた。
比較的重い物を二つ同時に、だ。
それにもかかわらず、操作を困難に感じることは特になく。
“魔力”の成長や“器用”が少し上がったのも影響してくれているんだと思う。
≪オーラァイ、オーラァイ……はいOK!≫
……いや、工事現場か駐車場にいる警備員かよ。
原始人が使っていたような石でできた斧。
それらがファムの誘導に従い、眠るモンキーゴブリンたちの頭上高くへと移動した。
「…………」
よし、行けっ!
石斧が勢いをつけて、無防備な脳天へと直撃。
「GYABU――」
「GUHYA――」
ガツッと鈍い音が、ほぼ同時に2回。
自分の腕を使って振り下ろしたわけではないのに、しっかりと頭を叩き割った感触があった。
<モンキーゴブリンを討伐しました。40Isekaiを獲得しました>
<モンキーゴブリンを討伐しました。40Isekaiを獲得しました>
<モンキーゴブリンを討伐しました。パーティーポイントを5P獲得しました ※リーダーを務めているため、獲得ポイントが8Pになります>
<モンキーゴブリンを討伐しました。パーティーポイントを5P獲得しました ※リーダーを務めているため、獲得ポイントが8Pになります>
<パーティーレベルアップ! ――Lv.3→Lv.4になりました。 詳細:パーティー加入時 全パーティーメンバーMP+1 魔力+1 容量+1>
またパーティーレベルが上がった。
これでMP・魔力・容量が全部+3になる。
パーティーを組んでなかったら更に筋力・敏捷の+1もないわけだから、大きな違いだ。
加えて自分だけでなく、他のメンバーも同じ恩恵を受けられているというのがデカいな。
「……よし。じゃあ中へ突入だ」
倒した見張り2体が、光の粒子となって消えていくのを見届ける。
それからファムと供に、先導するように中へと入っていった。
<――【施設】の中に入りました。※利用不可。この施設はモンスターにより占領中です。解放の後、利用可能となります>
ドラッグストアと同じだな。
ここもやっぱり【施設】だったか。
「っ!」
「…………」
背後、来宮さんと久代さんも反応する気配があった。
だが潜入中ということで声は出さず、自分たちの中だけでとどめている。
≪じゃあご主人、気を付けてね≫
ファムこそな。
今までの外の戦闘とは違い、今回は店舗内での戦いとなる。
どこまでも天井のない自由な空と異なって、逃げ場は限定的だ。
狙われたら遠慮なく外へと逃げるよう言ってあった。
ファムはフワフワっと店内の中央、その天上付近に陣取るようにして飛んでいく。
一点ではなく全体を、俯瞰するように見るためだ。
「――っ!」
そのファムの動きが完了する前に、異変を察知した。
【索敵】で、モンスターが動く気配があったのだ。
クソッ。
おい、中の奴も寝てるんじゃないのか!?
「……来るぞっ」
入口のレジ付近。
まだ外へと逃げられる位置だ。
慌てず静かに口にする。
「えっ? ――あっ、はい!」
「っ! 分かったわ!」
ソルアとアトリがすぐに反応。
一瞬遅れて、久代さんと来宮さんも構える。
狭い空間内での戦闘だ。
分散するのではなく、出来るだけ固まって対処する。
間もなく――
「――GOGYAA!」
「UGYAAIII!」
左の通路、衛生用品や雑誌コーナーの列から2体。
そして正面奥、弁当や総菜コーナーの角からさらに2体。
計4体のモンキーゴブリンが、襲い掛かってきた。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「前は俺がっ!」
端的にそれだけ言って、武器を構える。
【チームワーク】から直ぐ、ソルア達も動いたのを感覚として把握。
そしてファムと共有した視界からも、遅れて情報が入ってきた。
やはり4体が襲い掛かってきている。
だがその声に釣られるように、他の寝ているモンスター達も目覚め出していた。
チッ、寝てろよ……!
「GYAOOO!」
目の前にいたのに。
そして真上、ファムの目をも使っているのに。
1体のモンキーゴブリンが、まるで正に今。
不意に現れたように、目による警戒をかい潜ってきた。
「っ!」
分かっていたはずなのに、なぜか不意を突かれたような一撃。
ナイフで切られた感触。
さらにその武器には何かが塗られていた。
“毒”という文字が一瞬にして浮かんだ。
頭の中で勝手に警報が鳴り響く。
「GISYA!」
そこに追い打ちをかけようと、もう1体が。
だが――
「っせぇ!」
もちろん“毒”が回って動けなくなる、なんてこともなく。
前蹴りでモンキーゴブリンを押し返す。
絶対反撃されることはないと高をくくっていたかのような、あり得ないという表情が見えた。
「はんっ」
……残念だったな。
どんな毒を塗ってるか知らないが、こっちには【状態異常耐性】先生がいんだよ。
そして反射的に切られたと思った箇所にも、傷跡はない。
[旗を立てし者 代替旗]
残量:95/100
称号の【旗を立てし者】の効果だ。
<奪うスキルを選択してください>
[候補スキル一覧]
①不意打ちLv.3 ※施設レベルが足りません
<奪うスキルを選択してください>
[候補スキル一覧]
①危険察知Lv.1
【スキル盗賊団】で目の前の2体を鑑定する。
――どっちもスキル持ちか!
「――ソルアさん! 前の奴っ、【不意打ち】のスキル持ってる!」
「っ! ありがとう、ございますっ!」
だが俺が注意喚起するまでもなく。
もう一方から攻めてきたゴブリンたちへも、ちゃんと対処がなされていた。
久代さんが【鑑定】を使ってくれたんだ。
「っ――アトリっ!」
俺に使ったように、あっちでも【不意打ち】のスキルが使用された。
だが久代さんの注意が間に合い、間一髪、ソルアが木の盾で弾き返す。
「せぁぁっ!」
スキルによるものではない、純粋な速度・敏捷値の高さがなす不可視の一撃。
アトリがカウンターで、一匹ゴブリンを沈めた。
うわっ、凄っ。
「っし――あっ、クソッ」
勢いに乗って行こうとした矢先。
寝ていたゴブリンが2体、完全に覚醒したのが上の目から見えた。
早く数を減らさないと、どんどん増えてくる……!
「GYABU!」
目の前、【不意打ち】を仕掛けてきた1体が、またこちらへと突っ込んでくる。
長い手足で四足歩行するように、またフェイントを入れるように器用にジグザグと。
床を押し凄い速さで進んできた。
「っ!」
ゴブリンが跳躍。
剣、振るえば――いや、間に合わない。
だが、あえて対処せず。
むしろ握っていた“ただの剣”を手放しさえした。
組み付かせたところで【操作魔法】を発動。
――おいサル。背中、がら空きだぞっ!
「らっ!」
まるで意思により動く不可視の手に操られるように。
落下寸前だった“ただの剣”が宙でストップする。
そしてファムの視界を頼りに、“ただの剣”を【操作魔法】という第三の手で振るった。
「GYA――」
無防備な背後から、完璧な一撃が決まった。
【操作魔法】によって振り下ろされた剣は、モンスターが耐えることを許さない圧倒的な威力となる。
これも“魔力”をちょっとずつでも上げているおかげだ。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「次――」
組み付いたゴブリンが光となって消滅。
肉眼に、そしてファムの視界に入ってきた情報を急いで処理する。
追い打ちをかけようとした残りの【危険察知】持ちが、再び突っ込んできてる。
【不意打ち】のゴブリンの死は無視、他の仲間が来ると分かってるからか。
「あっ――」
――違う、俺じゃなくて、来宮さんに来てるんだ!
背後。
久代さんとともに、ソルアとアトリのサポートをしていた。
あっちの方が早くに4体が追加されていて、その対応に追われている。
「マスター以外に、触らせる、わけないでしょうっ!」
「その、通りです! はぁっ、やぁっ!」
俺が第1タンクなら、ソルアが代役的に第2タンクとなり。
久代さんがブーツで蹴ったり、あるいは木杖で突いたり殴ったりして押し返す。
来宮さんは武器や、落ちていた商品を投げつけてけん制しサポート。
その間にアトリが1体ずつ潰していくという構成だった。
来宮さんの立ち位置は出入口に一番近くはあるが。
それは同時に、俺たちの中で最後尾であることをも意味していた。
こっちへの視線は丁度切っていて、そこを襲おうということか。
「GYAAA!」
獣の欲望を隠そうともしない、興奮しきった様子。
店内、手前から2列目。
タイミング良く援軍の2体が駆けてくる。
今さっき。
正にゴブリンに組み付かれたことが、一瞬にして脳裏に浮かんだ。
「GISYAAA!」
「GYABAAA!!」
それが複数体で。
しかも欲情を煽るような、飛び切り魅力的な雌相手になされるとどうなるか。
それは来宮さんだけにとどまらず。
止められなければソルア、アトリ、そして久代さんに対してもなされるだろう、おぞましい行為となる。
――いや、やられる前に殺るだけだ!
ベルトに挟んでいた【加速スクロール】を抜き取って発動。
同時に、視界に映る全ての光景がスローモーションになる。
スクロールでの発動のため、いつものような術後疲労で思考が鈍ることも無い。
「らっ!」
フェイントを入れて俺をかい潜ろうとした、目の前のモンキーゴブリンへ蹴りを入れる。
一瞬だけ、ゴブリンの視線がこちらへ向きかけた気がした。
【危険察知】が機能したのか?
……だがそれも、攻撃に反応できなければ意味がない。
本当、何をしれっと、横を通り過ぎようとしてんだよ。
「で――」
次にすべきことを瞬時に判断。
ファムの視界からもたらされる情報も、今はとてもゆっくりとして見えていた。
バックヤード、1体出てくる。
合流させないよう【操作魔法】を展開。
――もう1回寝てろっ。
清涼飲料水・アルコールドリンクのコーナー。
缶ビールやコーヒーの缶を適当に浮かせ、背後から襲わせる。
「GOB――」
素早いモンキーゴブリンも、これには全く反応できずに命中。
倒れていく。
「次っ――」
援軍の2体。
挟むようになっている左右の棚から無作為に。
何でもいいのでとにかく残っている商品を、次々と操って崩れ落としていく。
文房具類、カップ麺、そして棚そのものも。
今は身動きできない時間が少しでも作れればそれでいい。
「最後――」
残り僅かな時間。
蹴とばし、“温かい飲み物”コーナーへとぶつかった直後の個体。
そいつへと、【加速】が切れる前に出来る最後のことをやっておく。
<使用するIsekaiを決めてください>
[使用Isekai]
□342Isekai
成功率……92%
現在保有Isekai:3342
【危険察知】を対象に【スキル盗賊団】を発動。
寝ていたと思ったのに侵入直後で正に起きたのも、このスキルのせいだと思う。
この後の処理のためにも、奪っておくに越したことはない。
「行けっ――」
銀弾が次々と命中していく。
モンキーゴブリンの緑色をした体毛まで、全部が銀一色に染め上げられた。
<結果報告――スキルの奪取に成功しました! 詳細:【危険察知Lv.1】>
【スキル盗賊団】の奪取成功とともに、【加速】の効果が切れるのを実感する。
直後、援軍2体の通路で物が次々と落下していく音。
「――っ! 透子さん、こっち!」
「うん!」
久代さんと来宮さんがそれに気づき、直ぐにカバーへと来てくれた。
「ソルアっ、今っ!」
「はいっ! ――やぁぁぁ!!」
向こうも大勢が決しようとしていた。
アトリがタイミングを告げ。
ソルアもそれに合わせて、タンクからアタックへと切り替える。
二人で攻勢に出て、あちらにやってきた最後の2体を倒しきった。
「――っらぁっ!」
それら全てを、ファムからもたらされる映像で確認しつつ。
俺も勝負を決める一撃を放つ。
“ただの剣”の柄を逆手で持ち、スキルを奪ったばかりの個体へと投げつけた。
この攻撃は剣術ではなく投擲に当たるからか、【剣術】スキルのサポートは働かなかった。
だが別に問題はない。
変な軌道を進もうとするのを、【操作魔法】で無理矢理に修正。
「GOB――」
グサッと剣は突き刺さり、モンキーゴブリンのその薄い胸板を易々と貫通した。
「ふぅぅ……な、なんとか倒せたわね」
「身動きできなかった所をボコッ、グサッ、ですけどねぇ……」
久代さんと来宮さんも、棚の下敷きになった援軍2体を仕留められたようだ。
残り、缶の襲撃を受けて気絶した1体と。
そしてこの騒ぎにもかかわらず事務所スペースで爆睡していた3体を、順次始末していった。
こうしてコンビニ店内での集団戦で、無事に勝利を収めたのだった。
完全に戦闘回でした。
戦闘描写も中々に大変な感覚はありますが、やはり大変さという点ではステータス更新に軍配が上がりますね。
なのでそこまで疲労感なく出来た気がして、気持ちよくグッスリ眠れそうです。
日間ランキングはまた5位にランクインすることができました。
常に変動がありうるものとはいえ、やはり一時的でも嬉しいものは嬉しいです。
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