52.草生えてる、コンビニ内部の把握、そして“何か”はもう得てる?
52話目です。
ではどうぞ。
「うわっ、草生えてる」
それは、コンビニがとても面白い状況だという意味ではなく。
ファムと共有した視界。
そこに映るコンビニの敷地、屋根や壁。
それらに、現実に草が生い茂っていたのだ。
「えっ、草ですか? ……それはおかしい状況、なのですか?」
ソルアが俺の言葉を拾って疑問を口にする。
「うーん……どの程度の“草”かによるけど。――えっと、アスファルトに咲く健気な一輪の花、くらいではないんですよね?」
来宮さんの出す例えに、俺はしっかりと頷いて返す。
「全然。もう本当、皆も視界に入ったらすぐわかるレベル」
ファムと一緒に見ている景色を、可能な限り言葉に直して伝える。
「なんだろうな……コンビニもそうだけど。空から見たら、駅に行くにつれて緑がより濃くなってる。もう駅付近は森かってくらい」
それこそ、これが掲示板とかだったら“草生え過ぎて森www”とか書かれてるはず。
逆に言えば、駅を中心として影響の波紋が周囲に広がっていく中。
コンビニ近辺が一番遠く、緑化効果が及ぶかどうかの別れ際のようにもなっていた。
コンビニからこちら側とあちら側では、まるで別世界のようだ。
「“森”って……。まあそれが事実なら相当おかしい状況ね」
久代さんも何となくの状況は想像できたらしい。
「人間の際限ない開発により自然は壊され。緑はほんの僅か、気休め程度にしか残されなかった現代社会。……これは、そんな強欲な人間へ神が与えし罰――」
「フフッ。滝深さん、それ、何だか有名なアニメ映画みたいですね。“生きろ! そなたは美しい!!”って奴」
あっ、来宮さん、分かってくれたんだ。
何か凄い嬉しい。
それにセリフのチョイスがまた絶妙で、かなり親近感が湧く。
見た目こそ静かでお淑やかな感じだが、実際には気さくでとても接しやすい。
……こんな美少女でその性格じゃ、そりゃ男連中から超人気出るわ。
≪あっ、ご主人! モンスター、いたよ! ……見張りだねぇ~これは≫
ファムから声が届くのと同時に、俺もその目で対象を捕捉した。
緑色をした人型のモンスター。
ゴブリンだ。
「……ただ、普通のゴブリンじゃないな」
草で緑色になったコンビニ店舗の入口前。
2体が胡坐をかいている。
上からの光景なので確かなことは言えないが……。
何となく普通のゴブリンよりも手足が長く見えた。
……ふむ。
「“モンキーゴブリン”というらしい。……猿ゴブリンってことかな?」
システム上の恩恵か、いつも通り勝手に認識出来たモンスターの名前を口にする。
名前とは、端的にその対象の性質を表すものだ。
それが認識されると、視界から得られる情報も自然に増えたように感じた。
腕や頭には多くの毛が生えており、猿っぽさがより外見に現れている。
ただ見張りとはいえ今は朝。
寝ぼけているらしく、ウトウトと舟をこいでいた。
夜型の部分は通常のゴブリンとそう変わらないらしい。
「猿……ですか。なんだかより森っぽさのある感じですね」
ソルアの感想に、完全に同意見だった。
やはり北側は、今までとは違うエリアという認識を持った方が良さそうだ。
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「わっ、本当だ……」
「……もう何十年、何百年と放棄された建物みたい」
俺含め、全員が肉眼で見える距離まで接近。
久代さんも来宮さんも、大きく驚いている。
見慣れた建物が、あまりに代わった外観となってしまっていた衝撃は強い。
「まだ3日しか経ってないよね? 【異世界ゲーム】が始まって……」
「本当、透子さんの言う通りですね。私たち、まるで数百年後の、滅んだ後の世界にでもやってきたみたい」
崩壊世界ってやつか。
人の手・管理から離れた年月があまりに長すぎて、無人となった建物・町に苔や草・蔦が生えてしまっている、みたいな。
だが一方で、振り返って歩いてきた道を見てみる。
あちこちが壊されてしまっていることを差し引く必要はあるものの。
そこはちゃんと、今まで自分たちが生きてきた町の一部だと認識できるものなのだ。
この境界線を越えるかどうかで、本当、世界が真っ二つに分かれているかのような感覚だった。
可視化された結界が張ってあるわけでもない。
踏み越える前後で、別世界に出入りしたというような実感・違和感があるわけでもない。
本当に不思議だ。
「まあ、とりあえずコンビニの確認だ。――えっと1,2,3……」
今はまだファムが内部に潜入できていない。
なので外部から、【索敵】を用いて中の様子を把握していく。
見張りがいる前方を除いて、そこから右回りに一辺ずつ、ファムに飛んでもらう。
そしてファムを中継・媒介として、【索敵】を発動。
【索敵】から放たれるレーダーを、いろんな角度から照ていくイメージだ。
「10体以上はいるな……。バックヤードに3体、陳列スペースには8体……9体? 後は事務所のスペースにもいると思う」
見張りの2体を入れると更に増える。
結構な大所帯だ。
もう完全にコンビニ店内を巣として利用してる。
「どうする? ……戦闘を避けたいのなら、コンビニは無視して先に進むって選択肢もありだが」
情報収集して敵戦力を把握したうえで、この後の行動について意見を募る。
「……見張りの数はカウントしなくても大丈夫かと。私か、アトリか、それかご主人様でしたら直ぐに処理できるので」
ソルアが冷静に告げると、アトリも同意を示すようにコクッと頷く。
……俺もカウントされてるのか。
まあ行けると思うけど。
「じゃあ実質、問題は中か。……久代さんと来宮さんは、どう?」
話を向けられ、二人は何とも言い辛い微妙な表情になる。
「どう、って言われても。うーん……普通のゴブリンとは違う種類なんでしょう? 役に立てるかどうか、ハッキリ言って自信はない」
「すいません。良くて同数相手くらいです」
つまり、久代さん・来宮さんが相手をするのは2体以下として計算した方が無難ということか。
「いや。盛られるより、正直な所を言ってもらった方が助かる。むしろ最悪でも同数を二人に任せられるかも、って思えると随分楽だ」
過大申告を信じていざ実戦に入ったら予想外に動けない、って方が焦るしね。
それに久代さんと来宮さんが戦闘で育ってくれれば、後で俺たちが楽できる。
直ぐじゃないにしても、ゆくゆくは二面作戦とかできるようになるかも。
パーティーのメンバーだって後1枠あるんだ。
久代さん・来宮さん、それにもう一人で1チーム。
俺たちでもう1チーム。
もちろんチーム内のメンバー構成はそれと違っても良い。
そうなるとグッと生存戦略の幅も広がるよねぇ……。
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「じゃあ、後は私たち次第かしら。……マスター。“コンビニ”の内部って、空間が区切られてるって話よね?」
アトリから質問を受ける。
このコンビニを一番多く利用したのは俺なので、中の様子をできるだけ思い出して詳細に説明する。
「今さっき言ったように、商品の陳列部分が一番スペースは大きい。後はバックヤード、事務所って感じで別の空間がある。トイレもあるが……あそこは省いていいだろう」
ここでバイトしたわけじゃないから、事務所・バックヤードの内部を見たことがあるわけじゃない。
でも【索敵】で大体の幅や大きさ、それに奥行きなんかは伝えられる。
「そうですか……あっ! その陳列部分はどうですか? あの、ドラッグストアと同じ風な並びと考えてもいいんですかね?」
ソルアの質問に頷いて返す。
それだけでなく、横から久代さんの捕捉が入った。
「基本的には狭いスペース内に、沢山の種類・数の商品を陳列するの。で、それぞれのカテゴリーというか種類別に固まって置くから、棚で区切って……」
これは、今後のことをも考えての解説だと思った。
ソルアに対してだけでなく、アトリにも向けられたものなのだと。
生徒思いの教師が、ただのその場限りの知識で終わって欲しくなくて。
優しく基礎概念から、考え方が身につくように教えていく。
久代さんの一連の過程は、そんな風に見えた。
「あっ、そうなんですね……」
「へぇ~なるほどねぇ」
新たな知識に触れ、自分が成長しているのを実感できている喜び。
そんな風な感情が、ソルアとアトリの表情に浮かんでいるような気がした。
「…………」
俺は年齢=彼女も友達もいない歴なだけあり、ボッチが性根に染み付いてしまっている。
その分だけ、思考が自己完結してしまうことも多い。
会話の経験値も多くないから、久代さんや来宮さんみたいな人気者と比べたらそりゃ口下手でもあるかもしれない。
なのでこうして、俺のボッチからくる不足部分を二人が補ってくれていることを、とてもありがたく思った。
ソルアとアトリには、ただモンスターと戦うためだけに来たわけじゃないと思える“何か”を得て欲しかった。
ソルアは来宮さんと気が合うようだし、アトリは何だかんだ久代さんと良くしゃべっている。
二人にとって、来宮さんや久代さんがその“何か”となればいいな、と。
一人で勝手ながら、強く強く思ったのだった。
「――その、“滝深さん”に、出会っただけで。もう二人は“何か”を得たと、思いますよ?」
「えっ?」
あまりに意識してない時に、意識してないことを言われ。
思わず聞き返してしまった。
「い、いえ、何でもありません、何でも! ――さっ、さーって! 私も頑張るぞぉー!」
だが当の来宮さんには、明らかにはぐらかされてしまった。
なので今耳にした言葉が、そっくりそのまま言われたものなのか。
あるいは俺が勝手に聞いたものとして、脳内で無意識に補完して作られたものなのか。
確かめることはできなかったのだった。
……えぇぇ~。
日間ランキング、8位にまで一気に落ちたり6位に戻ったりでまた心が休まる時がなかったですね……。
ただまあ夜中テンションなので、今はあまり深く考えてないというか、考えることに割く思考や体力がもうないっていう感じですかね……(白目)
ただこういう状態の時の方が執筆の際、普段より頭に浮かぶ語彙とか表現が増えてくれる感じがあるので、一長一短です。
……今はもうスリープモード寸前ですけどね!
こうして変わらず執筆を続けていられるのも、同じように変わらず作品を読んで、そして応援してくださっている皆さんのおかげです。
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