49.出発、ランクアップ報酬の具現化、そしてスクロール
49話目です。
ではどうぞ。
「じゃあ、出発しちゃうけど、大丈夫?」
ドラッグストアで再び補給を済ませ、一度離れることに。
久代さんと来宮さんに確認を取ったが、二人が首を横に振ることはなかった。
「うん。本当なら何も考えず、ただここで閉じこもってたいって気持ちもあるけど……そうもいかないでしょ」
「はい。この世界じゃ強くないと……何も、守れないんですよね? 自分自身でさえも。ですから、大丈夫です」
どちらも本音を語ってくれている気がした。
それだけに、なんだか申し訳なくも思う。
特に来宮さんはまだ女子高生、つまり成人していない女の子だ。
そんな少女が戦う決意をしないといけない状況ってね、もう本当、何なんだって感じだ。
……でもそう考えると、そもそもソルアとアトリも来宮さんとは同い年なのか。
年長でもあるし、今まで以上に俺も頑張らないと……!
「少なくとも、今までより危険なくは戦えると思う。だからまあ、気負わず、出来ることからお願いします」
あまり茶化したりする場面ではないと感じたので、思ったその通りのことを口にした。
「……はい! 最初は多分、足手まといになっちゃう、と思います。ですが、必ず滝深さんたちのお役に立つようになります。なので、よろしくお願いします」
余り気負わずにと言った傍から、来宮さんは少し声を震わせつつ決意を口にする。
……この子、凄く真っすぐというか。
責任感もあって、しっかりとした芯のある女の子なんだろうなぁ。
自分が足手まといになるだなんて、普通は誰しも口にしたくないし認めたくもないことだ。
でも来宮さんはそれを受け止め、その上で乗り越えようとできる強さがある。
凄いねぇ。
物語とかラノベの世界だと、絶対に主人公とか重要なポジションになる子だよ。
「ん。その時は遠慮なく頼らせてもらうよ。――じゃ、行こうか」
来宮さんの覚悟はしかと受け止めたが、これ以上この話を続けるのは得策ではないと出発することに。
……このままだと、更に自分で自分を追い込む発言しちゃいそうだからなぁ。
「…………」
まず中継地点というか、仮に設定した目的地として、アパートの自室を目指す。
そこから改めて北へと向かうつもりだった。
北はコンビニや駅、それにショッピングモールもある。
強いモンスター達がいる気配も見えたため、その探索までは少しでも体力を温存したい。
≪……うん。大丈夫、今、ゴブリンたちはこっちに全然気づいてないよ≫
そのカギとなるのは、やはり情報収集を一手に担ってくれているファムの存在だ。
「よしっ――大丈夫。さっ、今の内に」
手短にファムの言葉を通訳し、皆に進むよう伝える。
「……それにしても、本当に凄いよね。妖精さん。滝深君にだけはお話してくれるんでしょう?」
モンスターをやり過ごした後、久代さんが感心したように口にする。
「ええ。お話してくれるっていうか、マスターとだけは会話ができるみたい。……それでも喜怒哀楽が分かりやすいし、無邪気だから。とても接しやすい子だわ」
アトリの言う通り、ファムは無邪気な子供みたいな性格をしている。
……ただその分、思ったことを直ぐ言っちゃうけどね。
アトリさんと初対面の時なんかは、普通にあなたのこと『エッチな格好のお姉さん』って言ってましたから。
まあもちろん俺からそれを伝えることはないけども。
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≪……むむむ≫
「……むむむ」
アパートまでもう少しというところまで来た。
だが今、ファムとまるでシンクロするように唸っている。
「ご主人様……どうかされましたか?」
足を止め考えこんだため、ソルアが声をかけてくる。
少し心配するような表情だったため、そこまで深刻な事態じゃないと伝えた。
「いや、細道に入れば近道なんだが……モンスターが丁度いるから、どうしたもんかと」
ファムと共有した視界には、人一人が通れるくらいの道にモンスターが立っていた。
昨日・一昨日には見なかった、新種のモンスターだ。
「これは……木? 木のお化け……みたいなやつが通せんぼうしてる」
「遠回りする? それか私が倒してきても良いけど」
狭い通路、1対1が強制されるような場面。
大事を取ってということか、アトリが進んで手を上げてくれる。
もちろん、どっちの選択肢もありだ。
……あっ、ちょっと待てよ。
だがここで一つ、試しておきたいことを思い付いた。
「久代さん、来宮さん。――“G+ランク”になって使えるようになった【ヒール(小)スクロール】、出すだけ出していい?」
二人は何事かと不思議そうな顔をするも、頷いてくれる。
そもそも“出す”ということがまだイメージできていないから、それはもう任せるという表情にも見えた。
「これかな……?」
[【パーティー】]
●パーティーランク:G+
→ヒール(小)スクロール……本日残り 1回 使用可能
一番下、“●パーティーランク:G+”という項目に触れる。
するとさらに展開され、新たに使えるようになった機能が表示された。
初日や二日目【ジョブの種】を具現化させた時のように、画面を更にタッチすると変化が。
<【ヒール(小)スクロール】を具現化させますか? はい/いいえ ※具現化後:残り 0回 >
“はい”を選択。
「おっ、出た出た」
すると、手元に一枚の古い紙が現れた。
経年劣化による黄ばみ以外に、閉じ込められた魔法の性質を示す様に薄っすらと白色をしている。
それが筒の様に丸められて、そして紐で閉じられていた。
これが【ヒール(小)スクロール】だろう。
<【ヒール(小)スクロール】:消費アイテム。回復魔法である“ヒール(小)”が収納されているスクロール。封の役割をする紐を解くことで発動できる>
「あっ、へぇ~。こうやって出てくるんだ」
「これなら明日以降もとりあえず出しておけば、後は使いたい人が使えますよね」
1日1回ということだからね。
これで二人も“出し方”は分かっただろう。
なので、次は“使い方”ということになるが――
「……ケガはまだ誰もしてない、よな? ――じゃあ、“違うスクロール”で使い方、試してみようか」
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<【加速スクロール】:消費アイテム。時間魔法である“加速”が収納されているスクロール。封の役割をする紐を解くことで発動できる>
「これは昨日の内に作っておいた奴で……でも今は使わないから、こっちだな」
そうして【ヒール(小)スクロール】とともに、灰色を帯びたスクロールもソルアに持ってもらう。
今必要なのは、道を塞ぐ木のモンスターに試す、有効そうな攻撃手段だ。
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●空のスクロール ★2
魔法を収納しておくための特殊な紙。
一つだけ魔法を蓄えておき、それを後から発動できる。
魔法を使えない人・種族でもこれで魔法を扱えるので、魔法を収納した後のスクロールは異世界では特に需要が高い。
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「これをまず具現化して――」
アトリをゲットするために回したガチャで得た、二つのうちの残り一つだ。
もう一つは昨日の寝る前に、【時間魔法】で使った。
フッ、ソルア、そしてアトリよ。
君たちみたいなとても魅力的でドがつくほどえっちぃ美少女に挟まれ、どうして俺が我慢して爆睡できたと思う?
……いや、臆病者の陰キャボッチだから、とかじゃなくて。
もちろんそれも無きにしも非ずだけどさ、そういう回答は求めてないの!
【時間魔法】という一番疲れる力を寝る前に使って、スクロールを作っていたのだ!
フフッ、爆睡するのにも理由があるのだよ、理由が。
「……なぁ~んか、マスターがまた変なこと考えてる気がするわね」
「……申し訳ありませんご主人様。ちょっと、今回はアトリに同意です」
酷いっ!
二人とも、ジト目、ダメ、絶対!
うん、語呂の良い標語になりそう。
「これが、魔法を使えば、この【ヒール(小)スクロール】みたいになるんですね?」
来宮さんは察し良く。
俺が持つ物と、ソルアの手にあるスクロールを交互に指さした。
そして口ぶりからするに、もう“魔法”という超常的な現象にも適応できている様子だ。
なら話は早い。
「そうそう。で、これから作って見せるから――」
むんっ!
「――≪火よ、勢い増して、我が障害を燃やし尽くせ――≫」
こっ恥ずかしい詠唱を、最小限のボリュームで。
【時間魔法】と違い、【魔術師】のジョブで得た【火魔法】は発動に詠唱を必要とした。
だが今この時点では、詠唱の有無は特に問題とはならない。
……後に黒歴史が1ページ増えることを気にしなければ、だが。
「――【ファイア】!」
掌から溢れんばかりの火が出る。
ゴウゴウと燃え盛り、このまま自分の腕ごと炭にしてしまうのではないかと思うくらいの勢いだった。
“魔力”の基礎能力値が“パーティーレベル”によってさらに上がったことも、確実にこの威力へと影響している。
だがそれは周囲や自然へと猛威を振るうことはなく。
「あっ、吸い込まれてく!」
「凄い、すっぽりと紙の中に……」
久代さんと来宮さんがそれぞれ言葉にした通り。
発動された【ファイア】は、空のスクロールへと吸収されていった。
火が全て紙の中へと納まると、スクロールはいきなり自動でクルクルと巻かれていく。
そして全てが巻き終わり筒状になると、何もない場所から紐が出現。
キュッと結ばれ封をした。
「これで完了っと――じゃあ、来宮さん。使ってみる?」
薄っすらと赤く変色したスクロールを、一連の流れを見守っていた来宮さんへポンと手渡した。
「へっ、あっ、えっ!?」
「……強くなるんなら、モンスターへ攻撃当てて。倒すのが一番手っ取り早いよ?」
一瞬驚き混乱した来宮さんはしかし、俺の短い言葉で直ぐに意図を理解してくれた。
「あっ――はい。ありがとうございます。ぜひ、使わせてもらいます!」
来宮さんが使う決断をしたのを確認し、早速ファムに案内してもらった。
≪あそこだよ。じゃあハルカお姉さん、頑張ってね!≫
「……よし!」
ファムの声かけが聞こえたわけじゃないだろうが、まるでそれに答えるように来宮さんは気合いの入った声を出す。
「……ソルア。もし何かあったら、そのスクロール、使っていいから」
「はい」
ケガの無いように最善は尽くすが。
いざとなれば、ソルアに渡した【ヒール(小)スクロール】も惜しまない。
「……あるいは、久代さんが使ってみる?」
「……ソルアさんに任せる。具現化させたんだから、そこは【パーティーメンバー】かどうかにこだわらず、一番速い人が使えばいいと思う」
とするとアトリ……は、何かあった時のモンスター討伐要員か。
じゃあやっぱりソルアが妥当だな。
「――やぁっ!」
来宮さんが、スクロールを掲げた。
赤いスクロール、それに巻き付いた紐がプツっと千切れる。
「URRRUUUUU――」
木のモンスターは石垣間で身動きを取らず。
だが姿が見えた来宮さんを警戒して、その枝先を徐々に伸ばし始めた。
≪あっ、行ったよ!≫
一番傍で見守っているファムが、声と視界とでその状況を教えてくれる。
スクロールから、入れたてホヤホヤだった火が勢いよく飛び出す。
小石や空気を焼く音を立てながら、一直線にダークツリーへと向かう。
「BUUUAAAAA――」
――命中。
火は一瞬にして木全体へと移り、その身を燃やしていった。
鎮火するような気配は一切なく。
全身を火が飲み込んでは、その命を容赦なく奪っていく。
ジリジリと燃えている枝先を伸ばし、僅かな抵抗の意思を見せるも――
<パーティーメンバーの“Spring Nuts”がダークツリーを討伐しました。同じパーティーのメンバーとして10Isekaiを獲得しました>
<パーティーメンバーの“Spring Nuts”がダークツリーを討伐しました。同じパーティーのメンバーとしてパーティーポイントを3ポイント獲得しました ※リーダーを務めているため、獲得ポイントが4Pになります>
しっかりと一撃で、道を塞ぐモンスターを倒しきり。
そして同時にスクロールの使い方などを、実際に試すことにも成功したのだった。
もう次で50話ですか……。
色々と感慨深いですね。
日間ランキングの方は何とか4位でしたね。
次々と新しい作品が生まれてはランキングで上がってくるのが常の中、こうして今でも上位にランクインできているのは本当にありがたいことだと思います。
できれば感想の返しや疑問点・質問点への回答も本当はしたいんですが、やはり今はもう日々1話書くだけで精一杯でして……。
すいません、全く余力を残せず。
ただ日々頂ける感想やブックマーク・いいね、そして評価には本当に力をもらっています。
ありがとうございます。
今後も引き続き、ブックマークや広告の下にある★★★★★のボタンの方、していただけると大変執筆の力になります。
よろしくお願いいたします。




