46.ボッチの真価、パーティー申請、そして誠実さへの好感
46話目です。
ではどうぞ。
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12 差出人:【異世界ゲーム】運営
件名:新機能“パーティー”を解放・実装いたしました
生存者の皆様。
【異世界ゲーム】も3日目を迎えましたね。
より充実した生存をお送りいただくため、新たな機能を提供いたします。(理由は同上)
同時にお送りしましたメール“ワールドクエスト”についても、この機能を利用いただける方のみ参加可能となっております。
ぜひ奮ってご活用ください。
●【パーティー】機能 詳細
メニュー画面に追加後、全ての生存者が利用可能。
他の生存者にパーティー申請をして、パーティーを結成することができる。
メンバーが戦闘に勝利した場合、他のメンバーも経験値やIsekaiを獲得可能に。
他にも“パーティーレベル”・“パーティーランク”に応じて様々な恩恵を受けることができる。
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「【パーティー】機能? ……あっ、本当だ」
一つ目のメールに素早く目を通した後、いつもの画面に視線を移す。
すると直ぐ、該当する項目を見つけることができた。
[【パーティー】(New!)]
●生存者ネーム:TOKI
●パーティーLv.1
●パーティー申請
●パーティーメンバー:――※現在、パーティーを組んでいません
「ふぅ~ん……」
これだけだと分かることは殆どない。
パーティーレベルが1だということ。
そしてパーティーを組む場合使われるのは“滝深幸翔”という本名ではなく、生存者ネームだということぐらいだ。
「あっ、来宮さんもそうだった? じゃあ皆同じ中身なのかしら」
「ですね……。本当に今正に追加されたばかりって感じかな」
目の前では、久代さんと来宮さんが同じく【パーティー】機能に関する情報交換を行っていた。
……いや、うん、そりゃあまあそうするよな。
二人がどういう関係性なのかは知らないが、隠し立てすることなく普通に教え合っていた。
俺も聞けば教えてもらえるかもしれないが……ちょっと躊躇い中です。
「…………」
ソルアとアトリ、そしてファムがいるから、大きな問題なくこれまでやって来られた。
だが厳密には、彼女たちは全員、生存者という枠ではない。
だから【パーティー】機能を使おうにも、相手がいないのだ。
……ここでプレイヤースキル【ボッチ】が発動されようとは。
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「へぇ~“パーティーランク”がないと使えない【施設】もあるんだ。……うわっ、ドラッグストアの【施設】、全部買い占められてる」
二人は既にパーティーを結成したようで、【パーティー】機能を使わないと得られない恩恵の確認もしているようだ。
……いいなぁ、俺もパーティー機能使いてぇ。
「これ……“TOKI”って、滝深さんのことですよね? 【マナスポット】獲得のメールも確か“TOKI”ってあったし」
俺が【状態異常耐性】先生を獲得するに至った、ドラッグストアの【施設】を見ていたらしい。
そこで視線が上がり、久代さんと来宮さんがジーっとこちらを見てきた。
「ああ、まあ、うん。そうだけど――あっ、そう言えば。【マナスポット】の情報、ありがとう。あれのおかげでヒントが得られる【施設】を見つけられた」
お礼を言うと、二人は表情を和らげコクリと頷く。
……だがそれはそれ、これはこれと、話は直ぐに戻されてしまった。
「滝深さん……確か下のお名前、“幸翔”さん、で合ってましたよね? “TOKI”……とき?」
ドキッ!
えっ、来宮さん、何で俺の下の名前知ってるの!?
ってか不意打ちで名前呼びしないで!
君は俺の年下彼女か!
「私が持ってる【鑑定】で滝深君の情報、名前以外は出なかったから口頭で伝えたの。だから、視覚的に見た私は何となく想像つくけど……」
やっぱり【鑑定】は使われてたんだ。
でも、名前以外の情報は見えなかったらしい。
もっと万能なスキルのイメージがあっただけに意外だ。
そうして久代さんは、俺の名前を逆から読んでつけたとの推理を披露する。
「……他にも理由はあるけど、おおむねそれで正しい」
「はぁ~なるほど」
来宮さんも納得したように頷き、そして今度は申し訳なさそうな表情で告げる。
「……私、【読心術】って能力を持ってて。あっ、でも、全然、滝深さんの心って見えなかったです」
これも意外な告白だった。
俺の心もてっきり筒抜けだったのかと。
【鑑定】もそうだが【読心術】も、決して全てを見通す全能な力ではないようだ。
「――えーっと“ソルアちゃん”、でいいのかな?」
今まで“生存者”に関する話ということで一歩引いていたソルアに、来宮さんが意を決したように話しかけた。
「……ごめんなさい。ソルアちゃんの心は。昨日初めて会った時、覗いちゃって」
「そうでしたか……。ですが私は特に気にしていませんので」
ソルアが含みのない純粋な笑顔で答えたことで、それが真意だということはちゃんと伝わったようだった。
「あっ……うん。ありがとう。――私、来宮遥って言います」
「えっ? あっ、あぁ……私はソルアです。よろしくお願いしますね、ハルカ様」
互いの間を隔てる問題は解消できたという様に、来宮さんとソルアは自己紹介後、直ぐ仲良くなっていた。
ソルアの穢れなさや内に秘めた強さを、心を覗いて直に感じられたことが大きいんじゃないだろうか。
ファムの存在、そしてソルアと来宮さんとが打ち解けたこともあり。
到着した時より、随分と店内の緊張感は和らいだように感じる。
「――あの、さ。滝深君」
そんな様子を察してか、久代さんが思い切ったように声をかけてきた。
「お願いが、あるんだけど」
それは、クールで他人と群れない久代さんのイメージからは、とても想像できない声だった。
一世一代、自分の秘めた想いを何とか言葉に。
そんな、ありったけの勇気を振り絞って出したような、震えみたいなものがあった。
「滝深君、に。【パーティー】の申請、しても、いい?」
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「えっ――」
あまりに予想外のことに、一瞬思考が停止する。
いや、“お願い”って言葉から、てっきりもっと重い・深刻な話が出てくるものとばかり。
それに久代さんの態度、凄いただならぬ様子だったからさ。
「あっ、いや! 本当、形だけというか、1回お試しだけでも――……ごめんなさい、もちろん無理にってことじゃなくて。滝深君の都合もあるだろうし、全然、断ってくれて構わないから」
俺が直ぐに返事をしなかったことを、否定的なニュアンスだと受け取ったらしい。
久代さんは既に断られる前提で、早口に言葉をしゃべっていた。
なんか凄いチグハグな印象を受けて、少し笑いそうになる。
“お願いがある”と言われたから、俺が何かの行動を求められるのかと思えばそんなことはなく。
またこの会話内容も、なんだか高嶺の花である久代さんが、百ある告白の一つを受けた後みたいな。
それを俺が、フラれる言葉を聞きたくなくて被せてるのではなく。
その久代さんこそが、答えを先延ばしたいというように話しているのだ。
……久代さんって、クールビューティーというか。
完璧っぽい見た目に反して、案外に不器用な女性だったりするのかな?
「…………」
念のため、チラッとソルアとアトリへ視線を向ける。
「!」
「…………」
意向確認のためだったが、二人ともあっさり頷いてくれる。
【チームワーク】がここでも機能しているのか、二人の意思がその動作・仕草だけで理解できた。
パーティーを組んでも問題ないらしい。
「あぁ、いや。意外な申し出でビックリしただけ。むしろそれは俺の方こそ助かる。俺と【パーティー】組んでも大丈夫なの?」
本当、大丈夫?
“タキミ菌入れる奴なんかとは遊んでやらね~!”って友達に言われたりしない?
だがそんな心配は無用だったようで。
前向きな意思を感じたためか、久代さんはとても分かりやすくホッとしていた。
「大丈夫もなにも。私たち、滝深君にお願いする立場だから。――あっ、滝深君の方から申請する形が良ければ、もちろんそっちでも良いから」
そうして久代さんは来宮さんを呼ぶ。
「一回パーティー解除でいい?」
「あっ――はい。滝深さん、よろしくお願いします」
全てを察したような表情の後、来宮さんも改めて頭を下げてきた。
……この子、礼儀正しいというか、所作がなんか良い所のお嬢さんみたいだな。
<パーティー申請を行います。申請したい相手を視界の範囲内に入れて、パーティー申請を行ってください>
“●パーティー申請”の項目をタッチすると、メッセージが現れた。
言われた通り二人を見て“パーティー申請をする”と念じると、メッセージが更新される。
<ただいまパーティー申請を行いました。受諾・拒否の判断が行われるまで、しばらくお待ちください……>
「あっ、来た」
「受諾っと……」
二人の元にちゃんと申請が行ったようだ。
……だが結果が視覚的にわかるまで、これ、凄いドキドキするわ。
<パーティー申請が受諾されました>
[【パーティー】]
●生存者ネーム:TOKI
●パーティーLv.1
●パーティー申請
●パーティーメンバー:
①TOKI:リーダー
②CLEAR CASTLE:メンバー
③Spring Nuts:メンバー
④――
計:3/4
●パーティーランク:G(New!)
「おぉ~」
やはり複数の生存者の存在が前提とされる機能だけあり、パーティーを組んでから得られる情報はさっきと段違いだった。
この感じだと2人以上から組めて、今のところ限界は4人までってことだろう。
そして、現実の久代さんの頭上には[CLEAR CASTLE]との文字が。
また、来宮さんも同じように[Spring Nuts]の文字が頭の上にあった。
二人の生存者ネームも、パーティーを組めば分かるということだろう。
「良かったわね」
「はい!」
久代さんも来宮さんも、あからさまに安堵したというか、肩の力が抜けている。
それは【パーティー】の機能がちゃんと働いていると確認できた、その喜び以上のものがあるように見えた。
「あっ――」
そこで、ふと気がづいた。
二人はつい今しがた、百均という拠点を失ったばかりなのだ。
代わりになりうるドラッグストアへと辿り着きはしたが、それでも心細さ・不安は絶えなかっただろう。
つまり、何か分かりやすい心の後ろ盾というか、目に見える安心が欲しかったのではないか。
この世界では絶対の価値となる“力”。
それを持つ俺に、心の安心を求めたのではないか。
「?」
「どうか、しましたか?」
「いや……」
それを理解すると、不思議そうに首を傾げている目の前の生存者二人に、純粋な好感が持てた。
本当なら我が身可愛さに、もっとガツガツとパーティーを組むことを求めていたとしてもおかしくなかっただろう。
だが久代さんも、そして来宮さんも。
あくまで俺の意思を尊重し、そして無理を押し付けることはしなかった。
「ははっ、ちょっと感動してた。あの久代さんと。それに俺が高校生の時だったら絶対縁がなかっただろう来宮さんみたいな美少女と。まさかパーティーを組めるなんてって」
嘘ではないが、今この場なら冗談や軽口だと受け取ってもらえると、あえてそう言葉にする。
その間にも、思考は止まなかった。
二人が【鑑定】や【読心術】のことを自分から口にした、その意味も今では納得がいく。
【スキル盗賊団】で俺は既にその存在を知っていたが。
【鑑定】や【読心術】が俺に通じなかったのなら、もちろん“俺が知っている”とは知らないはずだ。
つまり自分たちがどんな能力を持っているか。
それをあえて進んで提示しておくことで、俺にパーティーを組むかどうかの材料をくれていたのだ。
組めなかった場合に備えて手札を隠して、なんてすることなく。
誠実に、正直に。
「びっ、美少女だなんて! そ、そんなこと、ないです……」
「さっき、えーっと、“アトリさん”だっけ? ……からも同じような話があったけど。滝深君は一体私たちのことどういう風に見てるのか。じっくり聞いてみたいところね」
「うん、アトリでいいわよ。……マスター、そう言えば“トウコ”は飛び切りの美人だって。“学校の全男子”の憧れの的だろうって言ってたかしら。……あれ? マスターも“学校の全男子”ってカテゴリーに入るんだっけ?」
――アトリさんの確信犯的な独り言が、俺を襲う!!
いや、アトリさん!?
君、あれだけ良くわかんないメラメラ燃やしといて、普通にその久代さんと手ぇ結んでんじゃん!
女子って本当、謎だらけだよね……。
そうして俺という生贄を捧げることになりながらも。
ソルアやアトリ、そしてファムとはまた違ったカテゴリーでの仲間ができたのだった。
日間ランキングは5位で何とか踏ん張ってましたね。
もう少しで50話に届きそうな中でも、こうして未だに他の作品と上位のランキング争いをできているということ自体、とても恵まれた幸運なことだと思います。
日々この作品を読んで、そして応援してくださる皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます。
今後も是非、ブックマークや広告の下にある★★★★★のボタンの方、していただけますと執筆を続ける上で大変大きな励みになります。
よろしくお願いいたします。
今日はいつもよりちょっとだけ早く更新できたので、その分また次の更新に向けて早く寝るようにします。
おやすみなさい……。




