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45.成功、【チームワーク】、そして合流と次なるクエスト

45話目です。


ではどうぞ。




「あっ――」



 気づいた時には、【加速(アクセル)】を二人に対して使っていた。

 ファムの視界を介して、本来なら発動できないような離れた位置からだ。


 やはりファムのおかげで射程が伸びているのだ。


 一つ発動し。

 その後、間髪入れることなく続けざまにもう一回と使用した。



「うぁっ――」



 連続して【時間魔法】を使ったことで、大きな負荷がかかったのを感じる。

 疲労感、怠さ、若干の気持ち悪さ。



 だがそんな副作用を自覚した頃には、走り出していた二人の姿は既にその場になかった。

 知覚できないほどの速さを得て、一瞬のうちに見えない場所まで走り去ったのだ。



『ん? ……今、誰か、いなかったか?』


『え、えっ? ……い、いえ。いないと思いますけど。い、いたら流石に気づくでしょう』



 振り返った植野・土田コンビには、どうやら気づかれなかったようだ。

 

 特に陰キャっぽい高校生の方のリアクションが少しおかしくて、笑ってしまいそうになる。



「だよなぁ、普通そうなるよなぁ」



 バカにするつもりはなく、むしろ今の一点についてだけは共感できる部分があったためクスっと来たのだ。



透明化(とうめいか)】なんていう、他者の認識をかいくぐる力を持っているのに。

 いざ他者の存在を疑うべき場面があったら、その基準は【異世界ゲーム】以前のままなのだ。


 つまり“自分たちの気づかない内に、潜り抜けることができる特殊な力・スキルが使われたのではないか?”との思考ではなく。

“普通の人の歩く・走る速さなら、自分たちが気づかないうちにここを通り抜けるのは無理だろう”というものなのだ。



「俺も、意識的に適応していかないと……」



【異世界ゲーム】が始まって早3日。

 その間は自分なりに頑張ってきたからか、色んな価値観をアップデートできていた自信はあった。


 だが他者を見て自己を客観視することで、改めて気づけることもある。

 まだまだ超常的な力・スキルといったファンタジー要素を、自分のものとして消化できてない。


 もっと頑張ろう……。



≪あっ、いた! ――っ! もう、お姉さんたちっ、いきなりどっか行っちゃってビックリしたよ!≫



 っと。

 ファムのプンスカと可愛く怒るような声が聞こえた。

  

 どうやら俺に言ってるわけじゃなく、久代さんたちの姿を捉えたようだ。

    


 ……あっ、本当だ、いた。


 

 うわっ、この短い間に結構進んだんだな。



 ――ファム、二人を先にドラッグストアへ誘導しておいてくれ。



≪えっ? うん。ご主人は?≫



 ソルアとアトリを迎えに行ってから追いかける。

 


≪そう? 分かった、じゃあ先に行ってるね!≫       



 とはいえ。

 ファムとの視界は未だ繋がったままなので、自分も一緒に移動している感が凄い。

 

 二人を迎えに移動しながら。

 でももう一つの目では、久代さんと来宮さんを誘導しているのが見えている。


 右と左で同時に違うことをやっているような、そんな不思議な感覚だ。

 ただ昨日から練習しているだけあり、拒絶反応というか嫌な感じはもうしない。


 やっぱりこういうのは日々の積み重ねだな……。 



【チームワーク】で把握できている位置を頼りに、急いで二人を迎えに行ったのだった。


 

□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「っ! ――そこっ、先の角っ!」



 合流を果たした後、追いかけるようにして荒れ果てた道を走っていく。

 


「分かったわっ! ――せあっ!」


 

 先頭のアトリが速度を一気に上げたのは、俺の声を聞くのと殆ど同時くらいだった。


 桃色の霧が前方、角周辺へと発生。

 もうその次の瞬間には、アトリの細剣が振るわれていた。

  

 

「ZYUA――」



 しなる鞭でもクリーンヒットしたかのような。

 それでいてギロチンにでもかかって体が切断されたかのような。



 そんな華麗で無慈悲な一撃の音が聞こえたように感じた。

 


<所有奴隷“アトリ”がジャイアントマウスを討伐しました。33Isekaiを獲得しました>  

  

 鮮やかな赤ともピンクともつかない剣線。

 それが残像として見えた頃には、既に勝負はついていたのだった。



「ナイス反応でした、アトリ!」



 ファムがいないため、【索敵】一本でモンスターの位置を探りながら進んでいる。

 だがアトリは、俺が認識したのとほぼ時差なく反応し、モンスターへと対応してくれていた。

  


「ありがとう。でも全然、大したことじゃないわ。さぁ、早く行きましょう」


 

 成果を誇るでもなく、当たり前のことをしたとでもいう様に。

 アトリは再び進みだす。


 ……本当、1対1でアトリが負ける姿は全く想像できないよなぁ。



 

 目的地の半分くらいまで進んだ。

 もう一つの視界では、既に久代さんと来宮さんが“ドラッグストア”入りを果たしていた。


 やっぱり、ファムが空から周囲を見てナビゲートしてくれる恩恵って凄いんだな。

 改めて今、それがないこととの大きな差を実感する。



「っ! 後ろっ! 右の方から、1体来るぞ!」


 

 予期せぬ方向から、モンスターの接近。

 別に戦闘自体に手こずっているわけじゃない。

 

 だがやはり戦闘のある・なしでは時間のかかり具合が全然違う。



「私、行きますっ!――」



 今度はソルアが即応する。

 まるで俺が正に今、モンスターの接近を口にすると予見していたかのように。


 ソルアの動きは無駄なく的確だった。



「――【光刃(ライトスラッシュ)】!!」

 

 

 飛び出してきた大きなウルフへ。

 攻撃も回避も間に合わぬような、完璧な先制を与える。

 

  

 刀身が強く光り輝くと、一閃。

 

 

「GARU――」 



 次の瞬間には、ウルフの体は真っ二つになっていたのだった。 



<所有奴隷“ソルア”がシルバーウルフを討伐しました。38Isekaiを獲得しました>  

  

 

「流石ね、ソルア。隙のないとても良い動きだったわ」



 今度はアトリが、ソルアの戦いぶりを褒め称える。

 

 ……うん。

 お互いがお互いを認め合っている感じがして、凄く良い関係に思えた。



 二人の動きが、というより反応がいい理由は、多分【チームワーク】だ。

 このスキル、単に俺が二人の大体の位置を把握できるだけじゃなくて。


 連携が必要な場面で、意思疎通がいつも以上に軽くできる感じがするのだ。

 これは良いスキルをゲットできた……。 

 


「ありがとうございます。ただ、私自身が何かパワーアップしたって感じじゃなくて……」


 

 ソルアは照れるようにはにかみながら、チラッとこちらを見る。

 ……何ですか?



「何だか、ご主人様と深く繋がっている――そんな気がして」


 

 え゛っ。


 

「あっ、やっぱり!? 私もなの! マスターと大事な部分で深く繋がれてるっていうか、言葉がなくてもわかり合えてるっていうか」


 

 いや、うん。

 だから、それ、【チームワーク】の効果だからね!?

 

 

「ですよねですよね!? 良かったぁ……勘違いだったら恥ずかしいなと思ってたので、嬉しいです!」


「ええ! マスターと一緒に繋がってるって感覚、ソルアと共有できて私も嬉しいわ!」



 だから!

“俺と繋がってる”とか、そういうこと堂々と往来の場で言わないで!

 

 何か言われてるこっちの方が凄い恥ずかしいし、変な気分になっちゃうから! 


 

 だが絶好調な二人のおかげで、こっちは楽させてもらってる身だ。

【時間魔法】の連発があって、出来るならあまり動きたくない。

 そんな中なので、本当に助かってる。

 

 だからそこまで強くは言えず、大人しく二人からの無自覚なセクハラ口撃に(さら)されるのだった。  



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「へぇぇ、ここが“どらっぐすとあ”なのね……」



 ソルアとアトリの活躍もあって、想定以上のスピードでドラッグストアへと到着した。

 ちなみにアトリは初ドラッグストアなので、物珍しそうに入店している。



「フフッ。アトリ、“どらっぐすとあ”ではなく。“ドラッグストア”ですよ?」


 

 そして先輩ぶって、ドラッグストアの発音を教えてあげてるソルアさん可愛い。

 昨日俺から教わったことを、さも自分は元から知ってましたよという風に、ね。


 ソルアもしっかりしているようで、案外可愛く抜けてる部分もあるんだなぁ。



「――あっ、滝深君」


「ど、どうも」


≪ご主人、お疲れ様!≫



 そうして奥へと向かうと、先に着いていた相手を見つける。

 久代さんと来宮さん、そしてファムだ。



「……っス。お疲れっス」

    


 どう声をかけた物かと迷った挙句、ファムの言葉に返す形で挨拶することに。

 二人も立ち上がりはするが、そこから先はどうしたものかと迷っていた。


 するとファムが自分のみに向けられた返事と受け取り、フワフワと浮いて俺の元へと戻ってくる。



「あっ――妖精さん、ここまで連れて来てくれてありがとう」


「ファムちゃん、ありがとう」 


 

 ファムの動きがきっかけになり、微妙に硬さを含んでいた雰囲気がフワッと緩んだ気がした。

  


≪いえいえ、どういたしまして!≫



 久代さんと来宮さんからのお礼を、ファムは笑顔で答えた。


 ファムの言葉こそ聞こえていないものの。

 自分たちの言葉に応じてくれたということは、ちゃんと二人にも伝わったみたいだ。 



「滝深君。今回は、というか。今回“も”というべきかしらね。――本当にありがとう。助かりました」


「あ、あの! ありがとうございました、滝深さん」



 腰が曲がるくらい深く頭を下げた二人からは、純粋な感謝の気持ちが伝わってきた。

 前回に限らず今回のことも、どうやらとても大きな恩に感じているようだ。

  


「あ、いや、うん。まあ、とりあえず無事でよかった。――だ、だよな。ソルア、アトリ」


 

 自分がとても大きなことをしたような感覚ではなかったが、一応は頷いておく。

 ここで否定して変に時間を使うよりも、話を変えた方が早い。


 そう思って、ソルアとアトリに話を振った。



「えっ!? あっ、あぁ~はい、そうですね……ねぇ、アトリ?」

  


 あっ、ソルアさんもアトリに投げた。



「ふぇ!? わ、私!? ま、まあそりゃぁ、何かあるよりはよっぽど良かったと思うけど……」


 

 そこで、雰囲気が一気に変わったのを察する。

 アトリが久代さんを見て、それで久代さん・来宮さんの視線もアトリに集中する。


 ……お互いがお互いに初対面だからなぁ。



「……へぇ~。本当、聞いてた通り、凄く美人なのね」


「? 聞いてた通り?」

 


 一瞬だけ、久代さんの意味深な視線が俺に来るが、直ぐにアトリへと戻る。

 そしてアトリの格好に今気づいて照れるような表情をして、少し視線を外す。



「……へぇぇ~。とてもセクシーな格好をしてるわね。滝深君って、こういうエッチで可愛らしい女の子がタイプなのかしら?」


  

 え゛っ。



「んなっ!? せっ、セクシー!? えっ、エッチって!? わっ、私のこと!?」



 ……いや。

 それは流石に、この場でアトリさん以外いないでしょうよ。

   

 その体とサキュバス服でエロくないはもう端的に嘘だから。


 というか自覚ないの?

 大丈夫か?



「……俺のタイプがどうこうなんて、誰も興味ないだろうから。それは置いといて――」


「えっ?」


 

 えっ?


 ……ソルアさんが何故か“ご主人様、置いておくんですか!?”という切実な表情でこちらを見ていた。

  

 いや、置いとくよ。

 拾うなよ?


 いいか、絶対だからな?

 フリのやつじゃないぞ、マジだからな?



「で、だ。これからどうするかって話だが――」



 軌道修正して本題へと入ろうとした、正にその時だった。




<新たなメールを受信しました。新着メール:2件>



「あっ、メール」


「私もです」



 自分だけじゃなく。

 久代さん、そして来宮さんも同じタイミングで受信した。

 

 ……つまり、運営からか。



=====


13 差出人:【異世界ゲーム】運営


件名:ワールドクエスト開催の告知


=====


12 差出人:【異世界ゲーム】運営        


件名:新機能“パーティー”を解放・実装いたしました


=====



日間ランキング、久しぶりに3位にランクインできてましたね。


こうして未だに上位のランキング争いを続けていられるのも、この作品を読んで、そして応援してくださる皆さんのおかげです。

本当にありがとうございます。

次の更新のためにも、大人しくこの後は直ぐ寝ようと思います……。


今後も是非、ブックマークや広告の下にある★★★★★のボタンの方、していただけますと大変執筆の際の励みになります。


よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ファムから言葉での報告がされていたことがバレマシタネ。 秘密にしている(つもりの後ろ暗いことを)がバレてしまうのも、きっと時間の問題でしょう(笑
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