44.メモのお使い、こんな所でバッタリと、そして緊急の脱出
44話目です。
ではどうぞ。
「…………」
しばらく話を聞き続けたが、どうやら本気らしい。
本気で、今夜に久代さんと来宮さんを襲う計画を立てている。
<奪うスキルを選択してください>
[候補スキル一覧]
①HP上昇Lv.2 ※施設レベルが足りません
②筋力上昇Lv.1
[候補スキル一覧]
①透明化Lv.2 ※施設レベルが足りません
②身体強化Lv.2 ※施設レベルが足りません
昨日と同じく【スキル盗賊団】で手持ちスキルを確認。
……大学生の方、スキルが増えてるな。
しかも【筋力上昇】か。
『……昨日の“報酬”で俺も強化出来た。後は君の【透明化】で隙をついて、力で押さえつけて……』
単に自分たちの欲求を口にしあうだけでなく、計画はちゃんと具体性も兼ねていた。
実現可能性はともかくとして……“報酬”?
もしかして【マナスポット】の100Isekaiのことか?
≪どうしよう、ご主人……≫
ファムの言葉は、まだ会話の盗聴は継続するか、という確認の意味の他。
この恐ろしい計画について、対応するか否かの質問にも聞こえた。
「……そうだな」
正直、どちらも端的に否と答えたい。
男どもの下衆な話はもちろん、これ以上耳に入れるのも嫌だ。
なのでそちらに関しては一度切り上げ、合流するよう指示する。
そして偶然に知ってしまったからと言って、そこに当然に責任が発生するわけではない。
余計な行動はそれだけでリスクを生む。
……ただ、必要以上の行動が求められないのであれば、話は別だ。
「――男ども二人が、欲望まみれのとある計画を立てているようだ」
ファムが戻る間に。
俺が見た情報を、ソルアとアトリにも伝える。
「……話は分かりました。ただ、どうされますか?」
「うん。聞き捨てならない話だとは思うけど……それで?」
二人が発した問いは、しかし。
もう既に答えを知っているかのような、そんなニュアンスに聞こえた。
その上で、具体的な行動の中身を聞きたいと先を促すような……。
……いや、俺、まだ何もするとは言ってないけど。
≪ただいまっ、ご主人!≫
そうして二人に説明している間に、タイミングよくファムが戻ってきた。
「……本当、特に凄い策を考えてたとかじゃないから。元々ファムに百均内に入ってもらって、情報収集はするつもりだっただろ? そのついでなら――」
そうして、一枚のメモ用紙とボールペンを取り出す。
どっちも、ドラッグストアで入手したものだ。
サラサラっと必要事項を書いて折り畳み、ファムへと持たせた。
【マナスポット】の情報を教えてもらった時、久代さんと来宮さんがファムへと持たせてくれたように。
≪――うん、OK! バッチリ仕舞ったよ!≫
ファムは受け取ったメモを、スカートに挟むようにして中に入れた。
紙の厚さ分、少し服がこんもりしてる。
一瞬、とある冗談を思い出した。
ジャ○プや、コ○コ○コミックを服の中に仕込んで腹をガードする、みたいな。
「うっし。じゃあ、潜入頼むな。運よく二人のうちどっちかに会えればそれでよし。会えなかったら……」
まあその時はその時か。
必要に応じて指示はいつでも出せるので、まあファムに関しては臨機応変に動いてもらおう。
≪ん、分かった! じゃ、行ってきます!≫
ファムが再び飛び立つのを見届け、俺たちも少し移動しておくことに。
「百均の直ぐ近くまで行こう。……それで、一旦は別行動をとろうかと思う」
歩きながら、二人にその意図を伝えた。
「あぁ~なるほど。……外にいらした場合、私たちの誰かと“会うだけ”でいいんですよね」
来宮さんや久代さんに会っているソルアは、やはりそれだけ早く理解が及んだ。
俺でも、ソルアでも、極端な話、面識のないアトリでもいい。
「ああ。話す必要もない。ただ会えば……というか、見てもらえば、かな? ――でも、あっちは久代さんじゃなく、“来宮さん”じゃないといけないけどな」
要するに、男二人の計画が頭に入った俺たちの誰かと会って。
【読心術】を持っている来宮さんに頭というか、心を覗いてもらえばいいのだ。
そうすれば、接触せずとも身の危険を伝えられる。
……いや、もちろん接触できるんならそれに越したことはないけど。
俺たちは百均の中に入っていく気まではないからねぇ。
そして同じ理由で、これは取りこし苦労になる可能性も秘めていた。
つまり、来宮さんが既に男二人のどちらかを見て、その意図・計画を見抜いているという可能性だ。
……まあそれならそれでいい。
最悪なのは、二人が何かの理由であいつらの意図を全く知らないという事態だからだ。
それを避けられれば何でもいい。
「一度バラけるのも、会える可能性を増やすためってことね、大丈夫。……まあ“トウコ”って人は直ぐわかるんでしょう? 何しろ凄く綺麗な人だったらしいから」
含みが凄いっスわ……。
……アトリさん、久代さんが絡むと本当何故か燃えてるよねぇ。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
≪んしょっと――うん。中、入れたよ≫
ファムの言葉を受けて、視界の共有を開始する。
「っし。こっちも直ぐ近くまで来た。準備OKだ」
昨日、一度ファムに尾行してもらっていたおかげで、俺たちも大きくロスすることなくやって来れた。
百均の周囲は住人達がちゃんと警備しているからか、特に危険はない。
ただ前方入口は見張りがいるのが分かっていたので、西・東に分かれて待機することにした。
まあファムが一番確率は高いだろうから、本当単に念のためだけれど。
「……うん。大丈夫そうか」
オークから奪った【チームワーク】のおかげで、離れていても二人の動きが何となくだが分かる。
【索敵】の仲間限定バージョンで、でもその精度がグッと増したって感じかな。
誰が別の人が来たら、二人の動きの変化で間接的にわかるだろう。
≪……おぉ~! ご主人、ただいまファム、潜入中です!≫
ファムはトイレの通気口から中へと入ったらしい。
ただそれだけで物凄いテンションの上がり様だ。
まあお使いを与えられた責任感みたいなものが、高揚感にでも繋がっているんだろう。
やはりここも電気は点いてなかったが、朝のためそこまで暗さは感じなかった。
≪では早速奥へと進んでいきます。果たしてボクは“ハルカお姉さん”や“トウコお姉さん”に会えるのか――あっ≫
どこかの探検隊のナレーションみたいに独り語りしていたが、何かに気づいたという様にその動きがピタッと止まった。
ファムの視界、スーッと下を向く。
そこは、トイレの個室の一つだった。
……人が、いる。
『……あら?』
上を、つまりファムを見上げる視線とぶつかる。
しばらく、お互いの時間が固まった気がした。
その間にも、視界を通しての情報は次々と俺に流れ込んでくるわけで……。
トイレ、個室、降ろされたスカート、ちょうど上げかけの黒い布……。
固く、それでいて凛としていて。
近寄りがたいような表情から一転、親しい相手に出会ったような優しい笑顔を浮かべる久代透子――
――アイエエエ!? 久代さん!? 久代さんナンデ!?
慌てて目を閉じ……たが、全然視界を遮断できてない。
普通に久代さんの太ももが丸見えに――ってああぁっ!
肉眼閉じても意味無いのかっ!!
視界共有の意外な弱点!
『フフッ、妖精さんじゃない。どうかしたの? 滝深君のお使いかしら……』
ギャァァァ!
普通に話しかけてきたぁぁぁ!
だがファムの言葉は俺以外に通じないし、俺の言葉をファムに話して貰うこともできない。
仕方ないのでボディーランゲージで行くことに。
ファムっ、スカートを上げ下げする動作だ!
『あらっ――きゃっ! ご、ごめんなさい、私ったら……』
≪おぉっ! 通じたよ! ご主人、ボクの意思が通じた!≫
自分の格好に気づいてくれたらしく、久代さんは可愛らしい声をあげて穿き直していた。
ファムの喜ぶ声も聞こえていたが、そこは全く気にしていられない。
……俺は何も見てないし、何も知らない。
……でも、意外に久代さん、可愛い悲鳴を上げたりするんだな。
全て、誰にも知られず墓場までもっていこうと決意した瞬間だった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
『――やっぱり。滝深君、私たちのこと、気にしてくれてたのね』
ファムから受け取ったメモ用紙を見て、久代さんは一人呟く。
『……ありがとう。丁度私と来宮さんも、タイミングを見て“百均”を出ようと話したところなの』
そうか。
じゃあやっぱり、抽象的な危険くらいは察知してたのかな。
『……じゃあ、ひとまず“あのドラッグストア”は安全で、食料もあるということね?』
メモにはただ危険だと知らせるだけでなく、一時の逃げ場についても端的に書いておいた。
この反応からだと、どこにあるのかも把握はできているのだろう。
『本当、滝深君に何もかもしてもらっちゃってる。昨日も、それに今回のことも……何も返せてない。凄く申し訳ないな』
強い無力感のようなものが、久代さんの声には宿っているように感じた。
そして言葉通り、俺へ申し訳なさを感じていることもちゃんと伝わってくる。
……俺の方こそすいません。
いや、うん。
何が、とは言えないけど。
だって俺は何も見てないし?
アダルティーな黒い布とか、久代さんの生足とか?
うん、全然、これっぽっちも知らないから。
……ということで、返してもらってるということにしたいんですが、どうでしょう?
だがもちろんこんなこと言えないし。
言えたとしても今ファムを通しては伝えられない。
『もう、百均にい続けるのは難しいわよね……。来宮さんを連れて、“百均”から出なきゃ――』
久代さんは切り替えが早く、そしてそこからの動きはもっとスピーディーだった。
男二人の意図を白日の下にさらして、相手を追い出すのではなく。
直ぐに自分たちが出ていくとの判断を下す。
『ドラッグストアまでの道は、あなたが誘導を? ……ありがとう妖精さん。成功したら必ずお礼はするわね』
そしてファムを自分の服の内側に隠すと、トイレを出て店舗部分へ。
『おっ、透子ちゃん! お帰り。早かったね』
『……はい』
聞こえたのは、50代くらいの男の声だ。
元からの知り合いではないと直ぐにわかったが、それにもかかわらず嫌に馴れ馴れしく感じる。
……トイレから戻った女性にその言葉はどうなんだ。
だが運命共同体みたいな生活を始めると、嫌でもこんな感じで気軽になるのだろうか。
『…………』
最低限のやり取りだけ終え、直ぐ離れる。
それからも、2人別の男がやってきて、似たような世間話がなされた。
大学生・高校生のコンビとは違う、他の住人である。
「ああ、なるほど……」
結局、あのコンビの件は、ここを出る決断の後押しに過ぎないのか。
あのコンビの悪事を言って追い出した所で、第2・第3の可能性がありうると判断したのだろう。
図らずも、久代さんがガイドのようになって。
当初の目的だった他の生存者の様子を知ることができたのだった。
『あれ? 透子さん、お帰りなさい――』
『――来宮さん。ちょっと一緒に外の空気、吸いに行きましょう?』
周囲に自然に映り、でも当人に対してだけは分かるようなニュアンスで。
そんな風に来宮さんを誘い出した。
『あっ――はい』
応じた来宮さんの声は固く。
一瞬で久代さんの言いたいこと全てが伝わったように、何も言わずついてくる。
――あっ、【読心術】使ったんだ。
それくらい、以心伝心のような間の速さだった。
『あれ? 二人とも、どうしたの?』
入口。
外に出る。
見張りが気づき、声をかける。
『ちょっと外の空気を吸いに。来宮さん、顔色悪そうだったから』
『すいません……』
実際、来宮さんは様子が良くなさそうだったのだろう。
それだけで不審がられず通された。
≪もういいよね? じゃあ、ここからはボクが――≫
ファムが久代さんの服からススっと外へ出る。
そして空高く飛んで二人の誘導を開始しようとした。
≪あっ――≫
『っ!』
丁度、角を曲がろうとしたところだった。
――その先にいたあの大学生・高校生と、鉢合わせそうに。
相手二人は後ろを向いているが、今にも振り返りそうで。
うわっ――
それを目にした時。
一瞬にして色んなことが脈絡なく、次々と頭の中に浮かんだ。
どうする、ファムが囮に、いや意味ない、二人が走り出してる、でも間に合わないかも。
【操作魔法】、攻撃、ケガさせる、野蛮か、何を、でも魔法は良い線行ってる――
「あっ――」
何かがカチリとはまる音がした。
そんな感覚を自覚する前に。
走り出していた二人へ、ファムの視界を介して。
――俺は【時間魔法】を使っていた。
すいません、42話のしわ寄せ的に詰め込んだ感じになりました。
どこかでのんびりしちゃうと、やっぱり別の所に影響しちゃうんですね……。
ランキングは何とかまた4位でしたね。
未だこうして頑張れているのは、やはり読んで応援してくださっている皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます。
引き続き、ブックマークや広告の下にある★★★★★のボタンの方、していただけますと大変執筆の際の励みになります。
よろしくお願いいたします。




