43.出発、空の戦闘、そして百均と不穏な会話……
43話目です。
ではどうぞ。
「じゃあ、とりあえず。一度“百均”に寄る、あるいはファムに向かってもらうってことでいいか?」
ネットカフェを出発前、簡単に今後の打ち合わせをしておく。
まだ早い時間なので、食事はお菓子や持ってきていたサプリで軽く済ませた。
……さて、私が今朝食べたのは、おいしくてつよくなる乳酸菌クリームが入ったビスケットです。
朝飯でビスケットってのは初めての体験だったが、新鮮で美味かった……。
「はい。一度ご主人様のお部屋に戻ると遠回りになるんですよね? ならここから直接向かった方が良いですもんね」
ちなみにソルアさんは、ポッキりと折れそうなチョコのかかったスティック菓子を可愛らしく食べてましたね。
可愛すぎ……ただの癒しかよ。
「ああ。【マナスポット】発見のヒントをもらったのもあるし。他の生存者の様子も一応見ておきたい」
「ふーん……まあ、私はマスターについて行くだけだから。構わないわよ?」
……含みのある言い方だなアトリさん。
何、そんなに俺がタケノコ教だったのを怒ってるの?
いいじゃん、自分は美味しそうにキノコ食べてたんだし。
……って、いや、深い意味はなくて、お菓子な?
それに、別に久代さん単体を目当てに行くんじゃないって。
久代さんや来宮さんに限らず。
俺が【マナスポット】を取ったことで、全生存者が100Isekaiを入手したはずだ。
そのことで何か動きがあるのかないのか。
それが少し知りたいだけだ。
「この後の方針にも関わってくるからな」
本当は今日、できれば北に向かいたい。
アパートの自室を軸に考えると、ドラッグストアやホブゴブリンがいたスーパーは全部東方向にある。
北方向はコンビニ、それにもっと行くと駅やショッピングモールなどがあったはずだ。
ちなみにここと百均は中間、北東辺りと言える。
「……アパートの北は、確か強いモンスターがいそうな気配がしていたんですよね」
「そうなの?」
アトリの確認に頷いて返す。
初日に【索敵】を検証した時、そしてパソコン教室を発見する前。
アパートの3階から見た光景、北方向は明らかに火の気が他より多く、危険な雰囲気がしていた。
なので避けて東へ向かったが……。
「アトリが来てくれたからな。それに俺やソルアの戦力も充実してきたし、行ってみても良いと思うんだ」
リスクが大きい分、リターンも多いだろうとの判断だ。
大型の複合商業施設は、それだけで沢山の物資があるはずだからな。
食料や道具類に困っているわけじゃないが、行動範囲を広げて選択肢を確保しておくのは大事だ。
「あっ……うん、任せて!」
自分が頼りにされてると察し、アトリは誇らしそうに胸を叩いて請け負った。
……うわっ、凄っ。
何がとは言わないが、プルンって揺れたぞ。
「ああ。――じゃあ、百均に行って、何もなかったら北に向かうってことで」
[ステータス]
●称号
施設の王
旗を立てし者
――だから絶妙なタイミングと距離で視界に入るなって!
何か起こるフラグなんて立ててないと自分に言い聞かせて、一夜を過ごしたネットカフェを後にしたのだった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
≪――あっ! ご主人、空っ、ダメ! モンスターいる!≫
出発して早速、上空のファムからSOSが飛んでくる。
視界を共有すると、確かに大きな鳥型のモンスターが2体いた。
……いや、ファムの視界で見てるから大きく感じるだけか?
「でもこれじゃあ仕方ないな――」
昨日は運よく近くを飛んでなかったが、流石にずっと避けては通れないか。
カラスを巨大化させたような黒い鳥たちは、まるで獲物を狙う目つきでこちらを見ている。
……いや、鳥から見たら、ファムが蝶か美味い餌にでも見えるのか。
≪ご、ご主人……僕が、蝶って。あ、あはは。綺麗とか言われたら、照れるな――ってうわっ、来たっ!≫
褒めてないから!
あっ、ファムを完全に狙ってやがる。
クソッ……倒すか。
――【操作魔法】!
「撃ち落とすから! 頼むぞっ!」
ソルアとアトリに、短く声をかける。
「ブラックバードを、ですか!? 撃ち落とすって――あっ! 分かりました!」
ソルアがすぐに理解してくれたのを感じた。
アトリはまだピンとは来ていないようだったが、俺が物を操作し始めたのを見て納得する。
「行けっ――」
操ったのは、何本ものボールペンの芯。
ドラッグストアやネットカフェで入手した物である。
軽くて持ち運びしやすく、先端が尖っていて、本数も簡単に入手可能。
飛ばした芯の弾丸が、ロケットのように上空へと向かっていく。
≪あっ、わっとと! ――おっ、ご主人、見えたよ!≫
追いかけっこの要領で逃げていたファムから声が届く。
丁度、ファムの視界からも俺が飛ばした芯が映った。
逆に俺の視力では限界が来て、映らなくなる。
なので、ファムの目を借りてターゲットを狙う。
つまり、ファムを介して射撃の射程がグッと伸びたのだ。
「…………」
【索敵】、そしてファムの目で回避能力を大幅に引き上げるように。
今度は命中と射程という攻撃性能へと応用する。
回避能力の際も、膨大な情報量を処理する必要性から一気に疲労したが。
今回も通常の視力では届かない場所で、ファムの目だけを頼りに、動く的と弾を追い続ける。
そのせいで脳が物凄い速さで回転し、熱くなっているような感覚があった。
「――ここだ!」
まるで自分が、一瞬のタイミングの攻防をしているスナイパーかのように。
今が狙い時だと、直感で判断出来た。
「GUEEE――!?」
大きなカラスの様な鳥に、先ず一本が命中する。
空を縦横無尽に飛んでいた所に、いきなりその胸へと芯の矢が刺さったのだ。
……モンスターよ。
ボールペン、意外に殺傷力、あるだろう?
机に手を広げ、その指の間をタンタンタンタンと刺していく遊び。
あれ、ミスって指に刺しちゃったことあるけど、凄い痛いんだよなぁ……。
……えっ、あれって友達とやるんじゃなくて、ボッチでもできる遊びだよね?
≪やった! ご主人っ、ドンドン行っちゃぇ!≫
ブラックバードの1体は突如として自らの制御を失ったかのように、宙でフラりとよろける。
仲間の1体がそれに気づき、急停止した。
何が起こったのかわからない、そんな様子だった。
「っし!」
その隙を逃さず連撃する。
耐久の薄そうな翼部分を集中的に突き刺していった。
「GUE,GUAAA――」
一本、また一本と命中するごとに、モンスターたちは声を上げ。
そしてダメージと比例するかのように力を無くし、空から落ちてくる。
「やぁぁぁ!」
「せぁぁぁっ!」
攻撃が命中する高さまで来て、二人が待ってましたと言わんばかりに大きく跳躍する。
そして空へと逃げることを許さず、一撃で切り倒したのだった。
<所有奴隷“ソルア”がブラックバードを討伐しました。45Isekaiを獲得しました>
<所有奴隷“アトリ”がブラックバードを討伐しました。45Isekaiを獲得しました>
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
≪こっちこっち~! この道はモンスターいないよ~!≫
空の戦闘も制することができ、ファムのナビゲートはさらに安定性を増した。
「モンスターのいるいないが事前に分かれば、やっぱり進むスピードが段違いだな」
【索敵】も使えば、空からは見えず、地表近くで潜んでいる敵にも対処できる。
つまり否応無しに戦わないといけなくなるイレギュラーが減り。
逆に戦闘をするかしないかの選択権を得られるようになるのだ。
「急ぎたいときは急げばいいし。戦いたいときはこっちが先制できるものね」
戦闘ができないことで自分の役割が減る分、不満かと思いきや。
アトリはそれはそれで全然問題ないらしい。
「えっ? まあ、でもその分、必要な時に力を集中できるってことでしょう? その方が生存率が上がるのなら、喜んでそうするわ」
アトリは強いからといって、ただただ戦いを欲するバトルジャンキー脳ではなかったようだ。
「……なぁ~んか今、マスターにバカにされた気がするんだけれど?」
うぐっ!?
い、いや、バカにはしてないって、うん!
……えぇぇ、来宮さんだけじゃなくてサキュバスにも【読心術】ってあるの?
――ということは逆説的に、【読心術】を使える来宮さんは実はサキュバスだった!?
あんな清楚で可愛らしい美少女高校生みたいな感じで、その本性はサキュバス……凄いえっちいな。
≪あっ! ここっ、覚えてる! ご主人。ボク、もう一人ででも百均、行けるよ!≫
そうして進み続けるうちに、ファムが見覚えある道へと出たようだ。
昨日、俺がナビゲートした辺りだもんな……。
「じゃあ、先にファムに向かってもらうか。様子を見て、それから俺たちもどうするか決めればいい」
ファムに先行してもらって、こっそり中を覗いてもらおう。
それで視界と聴覚を共有して情報を得て。
で、俺たちが行っても問題ないようだったら行く。
逆に行く必要がなかったり、あるいは行かない方がよさそうな場合はファムもろとも引き上げだ。
「はい、それでいいと思います」
「うん。……ただ、私は一目、その“トウコ”って女性を見てみたいわね」
……アトリさん、凄い久代さんのこと意識してるよね。
分かんないけど、同じ女性として何か感じるところがあるんだろうなぁ。
そうしてファムが一人飛んでいくのを見送り、数分待った。
≪――ご主人。男の人が二人、こそこそ内緒話してるよ? 昨日見た、あの二人だと思う≫
「……ん、了解」
ファムから連絡が入った。
二人にも同じ内容を伝え、直ぐに聴覚を共有する。
『……う、植野さん。ぼ、僕、もう、我慢できませんよ』
『ああ、うん。陰キャ君。気持ちは痛いほどわかる。流石に俺も、そろそろこの獣欲を発散したくなってきた頃だよ』
確かに、聞こえた声は、昨日聞いた大学生と高校生の物だった。
久代さんや来宮さんと一緒にいた、確か……高校生の方が土田君だっけか?
『……こ、今夜、もう、良いですよね? やりましょう』
『……あぁ。やろう――お互いが狙う相手とやれるように。ガッチリ協力しあおうじゃないか』
……凄ーく嫌な予感というか。
絶妙なタイミングで、ファム、盗み聞き出来ちゃってない?
『……ふ、ふふふ。やった、ようやく、ようやくあの皆のアイドルだった来宮さんと。この僕が、出来るんだ!』
『……男中の憧れの久代さんとやれるとか。力が全て。強者がルール。【異世界ゲーム】最高かよ』
あ~ああ。
男どもよ、マジで勘弁してくれぇ。
日間ランキングはギリギリの4位でしたね。
上がったり下がったりでやはり心の休まる時が中々ないですが、それでも4位にランクインできたのは純粋に嬉しいです。
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日頃からコツコツと頂けたもの積み重なっての大台突破だと思います。
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