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40.中の再探索、“他に何も穿いてない、だと!?”、そしてこの世界ならではの食べ方

40話目です。


ではどうぞ。



「よしっ、無事に戻って来れたな」


 

 レンタルビデオ店を出発して、日が暮れ切る前にネットカフェへと帰還した。



「お疲れ様でした。今日はもうここでお休みにしますか?」


「うーん……そうだな」 



 新聞販売店まで行った時とは違い、そこまでの距離を移動したわけじゃない。


 だが折角休めると思って気が抜けたばかりだ。

 またここからアパートにまで戻ると考えると、少し気分が憂鬱(ゆううつ)になる。



「念のためもう一回中を確認して。それで何も問題なかったら、もう休んでしまおうか」


「分かったわ。じゃあ早速行きましょうか」


 

 アトリはまだまだ余裕があるという様に、笑顔で答えていた。


 凄いな……。


 戦闘ではアトリの方が動き回ってるだろうに。 

 俺の方がもしかしたら、そのアトリよりも疲労しているかもしれない。


 昨日1日ですっかり【異世界ゲーム】の世界に適応できたとばかり思っていた。

 だがやはり、こうした非日常的な出来事の経験値は、まだまだアトリとソルアの方が上らしい。

 


「シャワールームもちゃんとあるな。お湯は……まあ無理か」



【索敵】で内部を探索中、水回りも見ておくことにした。

 開放されており、脱衣スペースには無料のバスタオルも置いてある。



「シャワー! ではご主人様、今日も体の汗を洗い流してもいいんですか!?」

  

 

 ソルアは昨日シャワーの魅力を体験しているからか、凄く前のめりになって聞いてくる。

 


「あ、ああ。いや、もちろん良いけど……」


 

 でもね、ソルアさん。

 異性相手にシャワーがどうとか、あんまり言わない方が良いと思います。

 

 だってシャワーってつまり、裸で浴びるものでしょう?


 ソルアが一糸まとわぬ姿でシャワーを浴びる光景を、嫌でも想像しちゃうわけですよ。

 生まれたままの姿はついさっきも闇空間で見たけどさ……。


 やっぱそれとこれとはまた話が違うっていうか。

 ぶっちゃけ凄くグッと来ちゃうから、ゴクリと生唾飲み込んじゃうから、はい。

 


「シャワー……あれよね? マスターに召喚してもらって直ぐ、私が逃げ込んだ場所にもあった奴」


「そうです! どうですアトリ、水がこの沢山ある細い穴から出てくるんです! 水浴び、凄く快適で気持ちいいんですよ?」



 ソルアは本当に昨日の1回で、シャワーの魔力に()りつかれたらしい。

 アトリをシャワー教へと入信させようと、どれだけ開放的で気持ちいいものかを力説しまくっていた。


 ……なんか言葉にすると微妙にエッチさを感じるな。


  


「へぇぇ……ここがネットカフェのキッチンスペースか」



 またしばらく歩き回り、今度はスタッフスペース付近へと移動。

 もうこの段階になると【索敵】でモンスターがいないだろうことは再確認できていた。


 後は夕飯のこととか、あるいは今後もここを第2拠点とするかどうか判断しないといけない。

 そのために、色々と下調べをしておこうという趣旨だ。 


 

「わぁ~広いですね」


「ええ。それに綺麗ね。私、調理場ってもっと雑多で汚いイメージしかなかったわ」

  


 二人は、自分の異世界での知識と比較して。

 そうして地球のキッチンスペースが大きく、そして清潔感があることにとても感心していた。

  


「だな」



 俺もである。


 いや、ネットカフェの調理スペースなんて見る機会なかったから。

 勝手に、もっと狭くて汚れてるものとばかり思ってた。



「冷蔵庫も業務用でデカいな。食料は……っと」


 

 足元にあった大きな冷蔵庫を開けて、中を見る。

 フードメニュー用の食材が多数そこには収納されていた。

 

 業務用のフライドポテトやたこ焼き。

 袋に入った唐揚げやウィンナーもある。



「うどん……ラーメン……」



 だがそのほとんどが要加熱の食品ばかりだ。

 レンジでチン、あるいはフライヤーで揚げなくてはいけない。


 電気がダメになっている以上は傷んでいないかも問題になる。



「……基本的には手を付けないのが無難かな」



 俺は【状態異常耐性】先生がいるから、ダメになってても行けるかもしれない。

 でも調理を要する食べ物を調理無しで食べるのは、味・マズさという意味でちょっと手を付け辛い。


 

 今日は大人しく、入口付近にあるカップ麺とお菓子を頂くことにしよう。

 そうしてまたあのカップルシートへと向かい、完全な休憩時間に入るのだった。


 

□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□ 



「ふぅぅ……凄くサッパリした。シャワー、凄いわね」


「でしょう! フフッ、アトリがシャワーの魅力をわかってくれて凄く嬉しいです」

   


 部屋に残り一人横になって待機していると、しばらくして二人がシャワーから戻ってきた。

 


≪ご主人、ただいまっ! 水浴び、凄く楽しかったよ! 一回だけ(おぼ)れ死にそうになったけど≫



 凄い楽し気にとんでもないこと口にするね。

 そりゃファムの体の大きさじゃ、人間用のシャワーは土砂降り以上の雨が落ちてくるようなもんだろうからなぁ……。


 

「おう。二人ともお帰り――」 


 

 そこで、言葉を失う。



「? ご主人様、どうかなさいましたか?」  


「……マスター、大丈夫? またさっきのレンタル店の時みたいに、何かあったのかしら?」



 二人が心配そうに屈んで、俺の顔を覗き込むように近づいてくる。

 見っ、見えそうっ――

 


「い、いや! 何でもない! 今のは普通にただのフリーズだから、うん。フリーズドライ」



 自分でも何を言ってるのかわからないが、とにかく誤魔化す必要があった。

 


「ふりぃずどらい、ですか?」

   

「……怪しい。なぁ~んかマスター、誤魔化してる気がする」



 ギクッ。



「えーっと……――あっ、そうだ! 二人とも、服、違う奴着てるんだな! リサイクルショップの奴だろ、それ」


 

 ギャァァァ! 

 話を逸らすフリして何故か核心部分を聞いてしまってるぅぅ!!


 

 ――そう。二人はリサイクルショップで見つけたあのニットの服を着ているのである。



 いや、ニットの服“だけ”を着ているのだ!



 今しゃがんだ拍子に服の中がチラッと見えてしまったが……多分、二人とも穿()いてない。  

 こっちが寝転がっている体勢なため、余計簡単に見えちゃったのである。


 即ち風呂上り、未だ濡れた髪に色っぽさを残し。

 その上に肌着一切なしの、裸エプロンならぬ裸ニットなのだ!



「あぁ、これですか? 今日着ていた衣類は洗って乾かさないと、ですから」 


「ええ。だからその間はこっちを身に着けているの。凄く肌にピッタリで、着心地もいいわよ?」


 

 ――やっぱりニット以外何も着てない穿いてないの無い無いずくしぃぃ!



 ……おいおい。

 こんな格好の美少女二人と、同じ部屋で一晩過ごせってのか?


 くっ、俺の意思よ、保ってくれ最後まで! 

  


「……まあ肌にチクチクしないとかなら良いんじゃないか? ――それで、二人がシャワーの間に、ご飯の準備を進めておいたんだが」



 次こそはと何でもない風を装い、話題の転換に成功する。

 実際に、食事の準備はしていたのだ。



「あっ――申し訳ございません。普通なら私たちがご主人様のお食事の準備もしないといけないのに……」


「いや、そこはもう全然気にしないでいい。……ただ、二人の口に合うかどうかは保証できん」   



 そう言って、3つあるうちの一つを手に取って、二人へと示す。



「マスターが用意してくれたものだから大丈夫だと思うけど……これは?」


「カップ麺だ。……だが通常お湯で調理するところ、今回は水でやってみた」



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□ 



「お湯を入れて待つ本来の場合だと3分で行ける。だが今回は水だから。二人が向かってから既に作り始めてた」



 一応スマホの時計機能で計っているが、大体15分くらいは経っている。

 お湯で麺を柔らかくするのが普通のため、水だとどれほどの時間で調理できるかは正直わからない。


【魔術師】のジョブ習得と同時に覚えた【火魔法】を使うことも考えた。

 しかし湯を沸かすためには、コンロのようなどこか火を継続して燃焼させ続ける場所がないといけない。


 ガスもダメな以上たき火を作ることが真っ先に思い浮かぶ。

 だがそれだと外で狼煙(のろし)のようになって、モンスターが寄ってこないとも限らないから結局その案は却下した。


 

「だから、俺が先に毒見というか。自分の分で実験するから――あっ、これは二人に待たせて自分だけ先に食べる意地悪をしてる、とかじゃないからな?」



 二人はそんなことは分かっているとばかりに強く頷いた。



「それはもちろん。ですが、それならむしろ私が先に口にしましょうか? ご主人様に一番美味しい状態を食してほしいですから」


「ええ。私も、そこまで食べ物に拘りは持っていないわ。私も先に食べていいわよ? マスターに実験役をさせるなんて気が引けるもの」 


  

 二人の心遣いがちゃんと伝わってきて、とても嬉しく感じた。

 だがこれは、二人を地球(こっち)へと呼んだ俺が果たさねばならない責任だと思った。


 いきなり知らない土地に来てもらって、そうして慣れない環境で生活してもらっている。


 少しでも良い食事をとってもらいたい。

 

 だから、カップ麺の硬さの味見は俺自身がやろうと思う。


 

「……まあお互いに意見を言い合ってる間に、20分になってる。もしかしたらもう良い頃合いかもな」



 そう言いながら、自分のカップ麺の蓋を開ける。

 この互いに譲らぬ議論は、前提として“全然柔らかくなってないカップ麺を食すリスクを誰が負うか”という点にあった。

 

 でも20分も待てば、そのリスクは結構軽減されてるんじゃないかと思う。


 

「おっ! あっ、かなりいい具合だ! ……若干まだ硬さが残ってるかな」 



 カップ麺につきものの湯気こそ立たないものの。

 蓋を開けた時の見た目は、お湯を入れて3分待った時とそこまで大差ないと感じた。

 

 備え付けの割り箸を袋から出し、二つに割って箸を作る。  

 中をかき混ぜると、ちゃんと麵がほぐれてくれた。

 


「ずるっ、ずずっ……」



 うん……全然悪くない!

 むしろキャンプの中で食べる食事みたいに、特別感がでてかなり美味く感じる。


 やはりまだちょっと芯の部分に硬さみたいなのはあったが、全く気にならなかった。

 水のスープもこれはこれで飲めるし、普通に美味しい。 

 

 


「うん……イケる! 二人はいきなりお箸は難しいだろうから。そっちのフォークを使えばいい」



 スペースにあった網かごの中に、スプーンとごっちゃになって置かれていたものだ。

 自分の分も含め3つ持ってきたが、俺は箸の方が慣れてるからなぁ。

 


「あっ、はい。っと……」

 


 ソルアは直ぐに慣れた手つきでフォークを指先で持った。


 

「こう……で合ってるわよね?」



 一方のアトリはというと。


 異世界とこちらとで、食器の使い方に違いがあるかもしれないとの懸念からか。    

 恐る恐る、壊れ物にでも触れるかのようにそっとフォークを握っていた。


  

「フフッ。そんな作法どうこうを気にする奴はここにいないし、何よりそんな小さなことを気にしてられるような世界じゃなくなった。好きに食べればいい」


「あっ――ええ!」

    

 

 そうして改めて、二人は初めてのカップ麺を口の中へと運んでいく。

 ……どうだろう、気に入ってくれるだろうか。



 数度、口の中で麺を噛み。

 そして、目が見開かれる。

 


「ずるっ……あむっ、むぐっ……あっ!」


「んぐっ――凄い、美味しいわ、これ!」



 お世辞でなく、心からそう思ってくれていることが伝わってきた。

 どんどん箸、じゃなくてフォークが進んでいく。


 二人はみるみるカップ麺を平らげ、最後にはスープまで飲み干してしまった。


 

「ふぅぅ……凄く美味しかったです。幸せな味でした」


「はふぅぅ。私も、満足。まさか食事でここまで満たされる日が来るなんて思いもしなかったわ」


  

 ソルアは言葉通り幸せそうな表情だ。

 アトリも、こんなに美味しいものがこの世にあるなんてと言いた気な顔で、空になったカップを未だ不思議そうに見ていた。


 

「……そうか。それは良かった」



 本当に。

 心の底からそう思う。


 レンタルビデオ店でも話題にしたが、こんな世界になってしまった以上メンタル管理は特に重要だ。


 食事は人が生きていくうえで欠かせない要素である。

 日に2・3度あるその過程で癒しを得られるのなら、これ以上のメンタルケアはない。



 そうして少しでも二人の心に安らぎを与えられたのだと、俺自身も満足感を覚えるのだった。


   

カップ麺に限らず、袋めんでも水戻しで食べられるようですね。

興味がある方はぜひ一度試してみてください。

一度でも経験しておくと、災害時や何かあった時何かの役に立つかもしれませんので。



日間ランキングは何とかしぶとく5位にランクインしておりました。


最近忙しい日が続いており、執筆しようとパソコンを開く気が中々起きない時もしばしばあります。

ですが日々いただける感想や増えていくいいね・ブックマーク、そして評価にとても大きな力をもらって執筆を頑張れています。


ここまで読んで応援してくださる皆さんのおかげです。

本当にありがとうございます。


今後も是非、ブックマークや広告の下にある★★★★★のボタンの方、していただけますと大変執筆の際のモチベーションになります。


よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] カセットコンロは、先に出ているので ヤカンとかに火魔法を付与するとか 武器に付与魔法を使うシーンが出てないので 出来ないのかも知らんけど 逆に出来ると人によっては冷蔵庫とかが あと、電気止ま…
[良い点] カセットコンロは持ってきてないのか残念 とりあえず何でもある一〇〇円ショップは有利だったのね
[一言]  ドラッグストアでガス缶なかった?あとリサイクルショップ探せばガスコンロありそう。
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