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35.面談、不幸(?)な事故、そして“アトリさん何やってんですか!?”

35話目です。


ではどうぞ。



「わぁ~。スリッパ、凄く新鮮な感じです。フフッ、歩くの、ちょっと変な感じがしますね」



 隣のソルアは初めてのスリッパで、とても楽しそうにネットカフェ内を歩いていた。



「そっか。この中はモンスターもいないようだし。今の内に(くつろ)げるだけ寛いでくれ」 


「はい!」 

 

 

 本当に楽しそうだな……。

 そんなにスリッパ気に入ったの?


 何気なしに、ソルアの足元へチラッと視線をやる。

 いつも履いている、太もも周りまで覆うロングブーツはなく。

 

 露わになっている脚先を代わりに覆うのは、部屋に複数備え付けてあったグレーのスリッパだ。

 


「……まあ、その、スリッパのソルアも、良いんじゃないか?」


「? はい、ありがとうございます」



 感謝の言葉が返ってきたが、多分言ってる意味は通じてないっぽい。

 

 その……あれだ、絶対領域的な効果に通じるものがある。

 普段はブーツで隠されているソルアの綺麗な脚全体が、今はスリッパ部分以外は全部露出されているのだ。


 そのギャップに、少なくないドキドキ感があるのは否めない。


  

 くっ、ネットカフェ、凄いな。

 異性と来るとこういう効果まで出てくるのか。



「……あっ、これだな。へぇ~。歯ブラシとかもあるのか」



 デオドラント用品だけでなく、沢山のティッシュやマスクなど様々な衛生用品も置いてある。  


 

 ……あっ、いや。

“沢山のティッシュ”って、別に意味深さを出そうとしたわけじゃないから、うん。

 本当に沢山あったんだよ。



 はぁぁ。

 美少女とネットカフェに来るなんてなかったから、変に意識しちゃうよね。



「わぁ~。ティッシュ……紙、ですか? それが沢山ありますね。これだけあれば色んな事に使えそうです」


 

 やめてソルアさん!

 だから、変に意識しちゃうでしょう!?


 君みたいな美少女は口にするだけで、童貞の想像を掻き立てちゃうの!

 安易に意味深なセリフを吐くのはメッ、です!



「まあ、うん……。――ところでソルア。どうだ、アトリとは。上手くやっていけそうか?」

  


 ティッシュから話題を変える意味もあったが、二人でいるときしか話せないことを聞いてみた。


 

「アトリと、ですか? ――はい! アトリ、とても優しくて良い子ですから」



 ソルアは間を置かず、当然の真実を述べるかのようにそう断言した。

 良かった……。


 もちろんソルアは裏表ない、とても素直な女の子だ。

 だが何か思うところがあったとしてもおかしくはない。

 

 なのでソルアが純粋に、アトリに対して好感を持っているということに安堵を覚えた。



「ただ――」



 えっ、何!?

 やっぱり何かあるの!?



「アトリ、来たばかりで多分、色々と慣れないことが多いと思うんです。ですから本人は気づかなくても、疲労が溜まってるかもしれません」


「あぁぁ……なるほど」



 ソルアが思うところというのは、アトリの健康面の心配だったらしい。

 ……本当、ソルアは良い子だな。



「わかった。これからも無理せず、意識的に休憩の時間は取るようにするよ」


「はい、ありがとうございます」



 ソルアの純粋な笑顔を見て、こちらも癒されたような気がした。

 軽い面談もこなせて、この休憩はそれだけでも成功なように思えたのだった。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「なら。やっぱり、リサイクルショップの後にこの休憩をとったのは正解だったな」


「ですね。私もとても気晴らしになっています。ですから――あっ、きゃっ!」 



 そうして話しながら戻ろうとした時だった。 

 ソルアが、慣れないスリッパをひっかけて体勢を崩したのだ。


 ――うわ、これっ、転ぶぞっ!?



「っ! ――」


 

 反射的に、ソルアを支えようと前に出る。

 だが――



「っとと――」



 ソルアは持ち前の運動能力を使い、自力で体勢を立て直しにかかったのだ。

 そして普通は前に転びそうなところを、何と身体能力を生かしてのバク転に持っていく。



「えっ、きゃっ――」


 

 それが不幸な事故へと繋がってしまう。


 俺は、ソルアを助けようと前に出ていて。

 一方のソルアは転ぶどころか、1回転して着地しようと後ろに飛んでいる。


 つまり……。



 ――ソルアの下半身が迫ってきた。



「あぶぁっ!?」


 

 一瞬だけ白い布みたいなものが見えたと思った時には、もう後ろに倒れこんでいた。

 次に気づいたら目の前にはソルアの脚、そして形のいいお尻があって……。


 一方で自分の足元にはソルアの手が置かれている感覚があった。

 誰かに見られたら通報案件です、はい。


 ……ネットカフェすげぇ。

 こんなイベントまで起きるのか。


 俺はなんでもっとネットカフェの利用頻度を上げなかったのだろう。

 ……上げててもずっとソロだったか、ゴメンね万年ボッチで。



「――もっ、申し訳ありません! ご主人様、大丈夫ですか!? いっ、今すぐ退きますので!」


「いっ、いや、焦らなくても大丈夫だから、うん」

  

  

 何なら後ちょっとだけこの体勢が続いても……ゲフンゲフン。

 名残惜しさを感じながらも立ち上がり、お互いにケガがないことを確認する。



「本当に申し訳ありませんでした。……ご主人様と楽しくおしゃべりできて、少し、浮かれてしまっていたようです」



 いや、そんなションボリとしなくても。

 こっちは得こそあれど、被害やマイナスなんて一切なかったんだから。


 もちろんそこには言及しないが、ちゃんとフォローの言葉は忘れない。



「あれはお互い完全な事故だったんだから。うん。気にしない気にしない」



 それに、ソルアみたいな美少女に“一緒に楽しくおしゃべり出来て浮かれていた”なんて言われたら。

 光栄以外の何物でもない。



「……はい」 


「それにしても……ソルア。凄い反射神経を見せたのに、結果あんなドジみたいな感じになるんだな」



 それを指摘すると、落ち込んだ雰囲気から一転。

 ソルアはカァーッと顔を真っ赤にして下を向いた。


 凄い恥ずかしがってる。

 うむ……可愛い。

 

 あれは事故だって言ってるのに落ち込み続ける方が良くないよな、うん。



「意外な可愛い一面を見た気がする。……得した気分だ」


「はうぅぅ~」



 もう気落ちし続けているような雰囲気はなかった。

 というか、それを気にしてられないほど恥ずかしいのだろう。



 ……ちょっと申し訳ない気もするが、こっちの方がまだ精神衛生上はマシだと思う。

 

 そうして話題を別のことに持っていく努力を重ね、何とか元の空気へと戻ったのだった。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□

 

 

≪――ごしゅじん……うにゅぅぅ、感覚、つないでぇ……≫



 部屋の手前まで帰ってきた時。

 丁度ファムからの声が脳に響いてきた。



「……ソルア、ちょっとストップ」


「? はい。どうかされましたか?」



 ファムから言葉が届いたと説明し、ソルアを手で制す。

 直ぐにファムと共有すると、今までとは全く違う感覚が流れ出した。



「っ!」



 痛っ。

 頭痛がする。


 だがそこまで強く痛むものではなく、ズキズキ・ピリッとなる感じだった。


 それにザァザァと昔のビデオの砂嵐みたいな音が聞こえた。

 映像も同じく、点滅したりして上手く視点が定まっていない。



 ……どういうことだ?



「何か……中であったのでしょうか?」


「わからん……」



 ――ファムっ、おい、大丈夫か? ファム!



≪うにゅう……むにゃむにゃっ。ごしゅじん、ボク、まだ眠いよぉ……≫



「あっ――」



 ……なるほど。

 ファムの調子に左右されてるってことか。

 

 ファムがまだ寝ぼけているから、共有した感覚もそれに強く影響されてるらしい。



「はぁぁ……ビックリした――うん。大丈夫そうだ」



 そう告げると、横のソルアもあからさまにホッとした様子になる。

 そりゃそうだ、何事かと思ったもん。


 でもファムが眠たかったり、あるいは調子が悪かったりするとこういうことも起こりうるんだな。

 

 外、モンスターとの戦闘中に初めて知ることにならずに済んで良かった。



 そう結論付け、改めて中に入ろうかとドアノブに手をかける。


 だが――



『……マスターたちはまだ、帰らない、わよね? 大丈夫、よね?』



 不調なビデオが一瞬正常に戻るように。

 ファムがもたらす聴覚の情報が、一時クリアになった。



 これは……アトリの声か?



『まっ、全くもう……マスターは上着を脱ぎっぱなしにして行っちゃって。しょうがないんだから』



 そしてさらに視覚情報も、追加でハッキリと共有された。

 今丁度アトリが、恐る恐る俺の上着を掴み上げている場面だった。

  


『私が畳んでおいてあげなきゃね、うん。しょうがない、しょうがないから……スンスン』

  

  

 ――そうしてアトリは、なぜか俺の上着を鼻へと近づけ嗅ぎだしたのだ。


 

 えっ、何やってんですかアトリさん!?



『はぁぁ……んっ、あんっ、エッチすぎるでしょう……』



 だがまた回線の調子が悪くなったかのように、音が雑になってブツ切れにしか聞こえなくなる。


 アトリさんっ、何がエッチすぎるんですか!?

 アトリさんっ!!



「…………」 

 

「あの、ご主人様? 入らないんですか?」



 黙ったままドアノブを動かそうとしない俺を不審に思ったのか、ソルアが流石に声をかけてきた。


 ど、どうする?

 これ、開けていいのか!?


 これが、息子の部屋を掃除しに来たらエッチな本やDVDを見つけてしまった母親の気持ちなのか!?



≪うにゃぁぁ……――んんっ~? あれぇ、アトリお姉さん、何やってるの?≫



 人生の大きな決断を迫られていた時。

 ファムが凄いタイミングで、目覚めたようにフワフワと宙を浮きだした。

 

 そしてゆっくりとアトリに近づいていく。 

 


『っ!? えっ、あっ、ファム!? ――お、起きたの!? あっ、お、おはよう! 良く寝ていたわよ。どう、元気になったかしら!?』



 ファムの声は聞こえていないはずなので、その存在に気づいたのだろう。

 アトリは凄い慌て方で俺の上着を折り畳み、サッと床へと置いてくれたのだった。


 そして自分は何もやっていなかったと主張するように、ファムへとガンガン話しかけている。


 ……何たる証拠隠滅の速さよ。



「……うん。悪い。入ろうか」


「? は、はぁ……」



 そうして入ってもいいタイミングだと判断し、ソルアを連れて改めて部屋に戻ったのだった。

 もちろん俺は何も見てないし、何も聞いてない。


 ……ただその後、アトリが妙にソワソワしていたということだけは言及しておこう。     

なんか、書けたので更新しました。

今日はとことんゲームの誘惑には打ち勝った日ですね……ふぅ。


ランキングは何とか頑張って4位を維持ですね。

未だ上位にてランキング争いを続けていられるのも、この作品を読んで変わらず応援してくださる皆さんのおかげです。


本当にありがとうございます。


今日は特に誘惑が激しかったですが、おかげで短期間で2話分上げることができました。

いいねや頂ける感想、そしてブックマークや評価にとても力をもらっています。


今後も是非、ブックマークや広告の下にある★★★★★のボタンの方、していただけますと執筆の際の大変大きな励みになります。


よろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] テナントなら、シャワー浴びれたりしないのかなぁ
[一言] もしかしてネットカフェの方が自宅より快適だったりして。
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