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34.休める場所、“えっ、一緒の部屋!?”、そして違う場所でのドキドキ感

34話目です。


ではどうぞ。



<メールを確認中……――新着メール:0件>

 

「あ、そう? 無いのか」


 

 ソルアとアトリの無自覚な、そして極めて強力な誘惑から何とか逃れた後。

 あるかなぁ~と思っていたメールがなく、ちょっと肩透かしを食らっていた。 


 

「これで3つ目の解放なんだけど……じゃあ今度、報酬があるのは5つ目辺りなのかな?」



 アパートの【宿屋】。

 そしてドラッグストアの【薬屋商店】。


 どちらもモンスターに占領されていた【施設】で、解放した後に運営から報酬があった。

 今回ももしかしたらと少し期待してたんだけど。



「無い物は無いんだから仕方ないか……で――」

 

 

【魔女の工房】の方は一先ず、【戦士】のリサイクルだけで止めておくことにする。

 機能そのものは良いんだが、1回につき100Isekaiってのがネックだった。


 じゃあ②の独占使用権を買えば、とも思える。



「でも1000Isekaiだろ? 流石にポンとは出せない額だよなぁ……」



 今手持ちは2350Isekai。

【施設利用カード1200Isekai分】の残額は550Isekai分だ。


 つまり約1/3を一気に使うことになる。


 この先【マナスポット】のヒントになるかもしれない【施設】を訪れることになるのだ。

 一気にそれだけの出費をするのは、少し慎重に考えないといけない。



「ご主人様、準備ができました」


「――っし。じゃあ行こうか」



 必要最低限の物資だけ持ち物に追加し、リサイクルショップを後にすることに。

 


「で、どうするの? マスターが言ってるその場所に直ぐ向かうのかしら?」


「いや。今の休憩って、本当に短時間のやつだったろ? どこか座って、本格的に休める場所があればそこで休みたいと思う」



 リサイクルショップでの時間はどっちかというと気晴らし・心の休み時間だった。

 HPが減っていなくても体の疲労はあるだろうから、そっち方向で休める場所があればと考えている。


 実際に一人、疲れを感じ始めている者もいるしな……。 



≪うにゅぅ~。……ご主人、ごめんね。ちょっとボク、眠くて≫



 ファムは言葉通りとても眠たそうで、フラフラと危な気に空を飛んでいた。

 このままだと見ていられないので飛行を止めさせ、ポケットにて休ませることにする。



「いや、仕方ないさ。来てからずっと頑張ってくれてたからな」



 特にオーク戦の際は【フェアリーシールド】を3人全員に張ってくれていた。

 技の使用、つまり魔力の消費は魔導人形にとっては疲労感に直結するようだ。


 機能の追加とは別に、時々MPを補充してあげることも必要なのだろう。




「…………」 



 ファムという空からの視界が得られなくなり、本来の【索敵】頼りの進行を続けた。

 モンスターと戦うこと自体に恐れや不安はないが、それでも警戒して進むに越したことはなく。


 そのため距離はあまり稼げてない一方で、時間は思った以上に過ぎていった。

 


 やはり、どこか休める場所が欲しい。



「って言っても、ホテルとかなんてこの辺はないだろうしな……」


 

 あるなら駅の方面、こっちとは真逆だ。



「――ご主人様。あちらは、そういう場所、ではないのでしょうか?」  



 すると、ソルアが何かを見つけたように指をさした。

 見逃しただろうかと慌ててソルアの示す方向を確認する。



「あっ――」


 

(くつろ)げる空間 仮眠に最適”


“ドリンクバー無料付き”


“インターネット使い放題”


 

 そうした(のぼり)が風ではためいている。

 


「――なるほど……“ネカフェ”か」



 ソルアが見逃さず指摘してくれた場所は、地元密着型のネットカフェだった。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「あぁ~。見事に散らかってるな」



 ここも例に漏れず。

 モンスターが荒らした後のように、入口ドアは壊されていた。



 だが今のところ【索敵】に反応はない。

 通知が来ないところを見ると、ここは【施設】ではないようだ。



「へぇ~。でも、元はオシャレな所なんでしょう? なんかそんな感じがするわ」



 中に入ってフロント周りを見て、アトリは感心したような声をだす。

 ただ“オシャレな所”という感想にどう返せばいいか、言葉に困る。 


 ……すいません。

 女子にとって、ネットカフェ・漫画喫茶がどういう場所なのか、全く知らないんです。

 

 一人でしか来たことないボッチでごめんね。



「部屋……使えるのかな? 鍵は……あっ、あった」



 半円形のような台で囲われたフロントの中。

 そこに各部屋の鍵が仕舞われていた。


 電子カードタイプではない、鍵穴に差し込んで開閉するタイプの鍵だ。 

 ただ幾つかこの場には無いみたいなので、適当に選んで手に取ることにする。



「……あっ、マスター。これ、食料、なのかしら?」


 

 質問の声に振り返る。

 アトリが指さすのは、給湯ポットが置かれた近くにある棚だった。


 ポテトチップスやチョコのお菓子、それにカップ麺などが乱雑に置かれている。


 

「おぉっ、食料食料。カップ麺はお湯がないから食べ方が難しいが、お菓子はそのまま食べられる」



 足元にもいくつか袋が落ちていて、誰かが開けようとして諦めたみたいな形跡が見られた。

 モンスターだろうか?


 ……普通にナイフか武器で包装を破れば開けられると思うんだが。



 個室のあるスペースへと慎重に移動する。

【索敵】にも反応はないし、ここにモンスターはいないと判断してよさそうだ。 



「よいしょっと――っし! 開いた開いた」



 手に取った鍵の内、該当する部屋の一つにやってきた。


 差し込んで回すと、ガチャリという感覚が手に伝わる。

 ちゃんと開錠してくれたようだ。 



「おぉぉ~! 結構広いんだな!」



 目に飛び込んできた光景に、思わず感動の声が漏れる。

 すると、後ろから二人のクスクスとした笑い声が聞こえてきた。



「フフッ。ご主人様が一番驚かれるんですね」


「そうよ。フフフ。この中でマスターが一番馴染みがあるんだから。その反応はちょっと変よ」



 うるせぇ。

 お前たち、この部屋が何の部屋だか知ってるのか?



 ――“カップルシート”だぞ!? 



 俺に一番馴染みねぇわ。



「……まあそこはいいじゃないか。でっ、ここ。ソルアかアトリ、どっちが使う? 俺はあっちのシングルに行ってみるけど」


「えっ?」


「えっ?」



 ……二人に“何言ってんだコイツ?”みたいな顔をされたでござる。

 俺も心中で二人と同じ反応を返す。


 えっ、君たち何言ってんの?

 俺、変なこと言った?



「あの、ご主人様? 皆で――3人でこの部屋を使わないのですか?」


「そうよ。わざわざ3人で別の部屋になっちゃったら、何かあった時不便じゃない?」



 あぁ、そういうこと。


 でも……ここ、“カップルシート”だよ?

 他に鍵もあるし。


 それに一人の時間とか欲しくない?

 プライベートな空間。

 

 ……いや、えっちぃ、いかがわしい意味とかじゃなくってさ。



「ほらっ、マスター、入って入って!」


「うわっ、ちょっ、押すなって――」



 だが問答無用とばかりに、アトリにごり押しされてしまった。

 ……まあ、二人が良いんなら良いけどさ。



 だがまさか、俺がネットカフェのカップルシートを使う日が来ようとは。

 世の中、本当に何が起こるかわからないものだな……。

 


□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「わぁ~。フカフカです。落ち着きますね……」


「本当。マスターの言った通り、案外私たちも疲れてたのかも。凄く安らぐわ」



 中に入って靴を脱ぎ、マットの上に上がる。

 鍵は念のため閉めておいたが……べ、別に変な意味じゃないからな!


 だが俺のよくわからないソワソワ感にも気づかないくらい、二人はこの個室を楽しんでいた。



「だろう? もしあれならここを仮の拠点にして今日はもうお休みでもいい。とりあえずちゃんと休憩できるときに休憩しておこう」



 それらしい返事をしつつも、心はどこか別の所にあるみたいな感覚だった。


 視界に映るは靴脱ぎ場に置かれているソルアとアトリの長いブーツ。

 振り返ると、直ぐ傍には靴下姿の二人がいる。


 足を一杯に伸ばして、とてもリラックスした姿勢だ。 



「……ゴクッ」



 アパートの部屋も一人暮らし用だからそれなりに狭く、距離は近かった。


 だが家の外。

 そして間に机などの遮るものがない状態は、また違ったドキドキ感を強く意識させた。


 ……そ、ソルアとアトリ、凄く至近距離にいない?

 気のせい?


 近さを認識すると、連鎖的に二人の匂いも自然と意識してしまう。

 女性らしい甘い匂いに、少し汗の香りもして……。

 

 正直異性には、それも陰キャ童貞にとってはとても毒な空間です、はい。


 くっ、これがカップルシートの魔力か!



「……あの、ご主人様。汗をかいたので、その。体を、拭きたいのですが。どうすればいいでしょうか?」


 

 一人心の中で何か強大な敵と戦っていると、ソルアがとても恥ずかしそうに申し出てきた。


 えっ、あっ、いや。


 鼻をクンクンしてたのは、別に変な臭いがするって意味じゃないよ?

 むしろ凄くえっちぃ匂いに感じて……って、これを言ったら墓穴だな。



「えっと、外、トイレとかで水は出るだろうし。タオル濡らして拭くってことでも……あっ! そういえば入口の近くに汗拭きシートとかも置いてあったと思う」

 

 

 フォローのつもりで慌てて言葉を継いでいく。

 だがその途中で“汗を拭きたいから一度外に出て欲しい”的な意味だったのかもしれないと思い至る。



「あっ、そうなんですか? わぁっ、やっぱり凄いですね。体を拭く専用のシートがあるなんて。では少し見てきますね」 



 だがソルアは俺の話を聞いて純粋に驚き、そして笑みを浮かべた。


 ……良かった。

 フォローの仕方は間違ってなかったらしい。



「ああ、いや。俺も一応ついて行くわ。俺も汗は拭きたいし。拭くときは別々に場所をとればいい」



 汗を拭い綺麗サッパリしたいという気持ちは真実だった。


 だが“グヘヘ。ソルアの汗を拭くシーン、俺も一緒に行って見てあげようかなぁ~!”的なゲスい趣旨にとられたら嫌だったので。


 保険の言葉もちゃんと付け足しつつ、上着は脱いで部屋に置いておくことにした。


 

「わかりました。……アトリはどうしますか? 一緒に行きますか?」  


「ええ、私も……――あっ! うっ、ううん! 遠慮しておくわ。しばらく足をゆっくり休ませたいの」



 アトリは頷きかけたが、なぜか俺の上着に一瞬だけ視線を投げた後、急いで否定していた。


 ……何?

 何かあるの?


 だがそれこそ一人になる時間だっているだろう。

 追及はしないで黙っていることにする。



「……分かった。後、ファムは残してくから。寝てるっぽいし、そっとしておいてあげてくれ」



 スヤスヤと寝息を立てているファムを、PCの置かれた机に寝かせてやった。

 そうしてソルアと一度、二人で部屋を後にするのだった。

 

久しぶりに日をまたぐ前に更新できました……ふぅぅ。


日間ランキングは5位になったと思ったら4位に戻って踏ん張ってました。

ランキングなんで上下ありうるのが常なんですが、一つでも上にいけるとやはり純粋に嬉しいです。


ここらがまたまた頑張り時だろうと、こうして早く更新できるよう頑張れたのも変わらず応援してくださる皆さんのおかげです。


「せっかくなんだし、サボって他のことしようぜ? ゲーム、楽しいぜ?」と悪魔が本格的な誘惑をしてきましたが、甘い誘いに負けずに執筆を頑張れました。


頂ける感想はもちろん、いいねやブックマーク、それに評価が増えたのを感じられるとやはりとても大きな励みになります。


今後ともぜひ、ブックマークや広告の下にある★★★★★のボタンの方、していただけますと嬉しいです。


よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえば中古屋さんのことを「リサイクルショップ」って言うのは変ですよね。 自分もその言葉を使ってしまいがちですが、この和製英語、頭が悪い感じの言葉なので適切な表現に直すのが良いかも。…
[一言] ゲーム…楽しいぜぇ?
[良い点] 更新乙い
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