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33.“俺が倒してしまっても構わんのだろう?”、圧倒する2対1、そして施設と洋服

33話目です。


ではどうぞ。



「FUGAAA!」


 

 大気を震わせるほどの怒声。

 オークは両刃の斧を力任せに叩きつけてくる。



「っつ!」


 

 右足を引いて回避。

 続けて、直ぐに持ち上げられた斧がまた振るわれる。



「っと!」



 前転するように飛んでこれも避ける。

 肉眼では地面を見ているのに、ファムからもたらされる視界では転がっている自分が見えていた。


 練習して慣れていないと、この不思議な感覚に思考が止まっていたかもしれない。



「そりゃっ! ――」


 

 態勢を立て直す、その前に一撃仕掛ける。 

 ファムの視界を頼りに【操作魔法】でガラスの破片を操り、そして射出した。

 

 フッ。

 避けまくってやるとは言ったが、攻撃しないとは言ってない。  



「FAGA――」


 

 ガラスの弾丸は見事、オークの顔中に突き刺さる。

 一瞬だが追撃の手を止めさせた。


 完全に不意を突かれた状態だったのだろう。


 掌を突き出したり、あるいは技名を叫ぶといったわかりやすい動作もなく。

 避けに徹していた獲物からまさか攻撃されるとは……そんな感じか。



「……威力も結構出たな」

  


 ホブゴブリンの時と異なり、ちゃんとダメージも入っているように見えた。

 不意を突いた一撃というのもあるだろうが、やはり相手が【身体硬化】持ちかどうかの違いは大きい。


 それに“魔力”の能力値上昇がちゃんと効果に現れている実感もあった。



「おいおい、大丈夫か? これ、時間稼ぎしなくてもさぁ~。俺が、お前のこと、倒しちゃうかもしれないなぁ~」 



 できる限り陰湿そうに。

 そしてしっかりと見下すような表情で。


 オークをとことん(あお)ってやる。



「FUGU……FUGAAA!!」



 もちろん何を言っているのかはわかってないだろう。


 だが俺がオークの悪意や醜い欲望を感じ取れるように。

 オークにも、俺にバカにされているということがちゃんと伝わったようだ。



「っつ!」



 オークの猛攻が再開された。

 周りのことなど視界に入ってない、ただ目の前の俺を殺すことだけしか考えてない。


 そんな怒り狂った感情を全身で表していた。


 ……よしっ、これでいい。



 3対2ではなく。

 1対1と2対1にしたいのだから、このオークが俺に釘付けになってくれるのはむしろ好都合だ。



「……まあ野郎どころかっ! 人ですらない、オークに! モテモテとかっ、最悪だけどなっ!」



【索敵】とファムの視界とで危なげない回避を続けながらも、煽ることを忘れない。


 オークなんかじゃなく、美少女にモテたいボッチ人生だった……。

 あるいは俺が美少女に煽られたい人生だったぜ……。

     


「――【ショット】!!」



 ファムの目から見た俺の後方では、もう一つの戦局が進んでいた。

 ソルアの【光核(ライトコア)】が、ちょうど光の弾丸を放つ瞬間だった。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「FUGAAA――」

 


 レベルアップしたソルアは核を二つ生み出しており、その両方がまるで無人機のごとく光線で攻撃をしていた。

 致命傷にこそならないが、光の弾丸は確実に命中を続け、オークへダメージを蓄積させる。

 

 

「はぁぁっ!」



 そしてソルア自身も、間違いなくその強さに磨きがかかっていた。

 剣の一振り一振りにキレがあり、オークはその全てについていけていない。



「FAAGA――」     


「――おっと!」



 向こうの劣勢を感じ取ったか、目の前のオークがこちらを離れようとする仕草を見せた。

 もちろんさせず、立ちふさがる。

 

 背中を見せようものならガラスの雨を降らせるぞ、と。


 そしてゴブリンたちが残していった置き土産、武器も沢山ある。

 それらを浮かして見せるだけで十分な脅しになった。



「――やぁっ、りゃぁっ、せぁっ!」

    


 さらにあちらのオークにとっては悪いことに、ソルアだけでなくアトリもいた。


 ただでさえソルア一人に劣勢を強いられている所に。

 圧倒的な火力を誇るアトリが、完全に自由な遊撃として動き回る。

 


「FUG,GAA! FAA!」


「はっ、せぃっ、ふんっ!」

 


 ピンクとも赤ともつかない剣線が残像となって見えるくらい、アトリの攻撃は速く、そして無駄がなかった。

  

 その上アトリの体からは常時【魅了(チャーム)】による霧が出続けている。



「GA,GAGA――」


 

 死への恐怖、生存本能から何とか強い意志で、思考が溶け切ってしまうことに抗っている。

 だが連続的に訪れる誘惑。

 1対1でも自分を上回ってくるソルア。

 そして命を削る一撃ばかり放ってくるアトリ。


 それら全てが上手くはまり合って、後はもう勝利へと続く作業をこなす段階へと入った。

 あちらの戦況は決したと確信する。



「さて――」



 とすると、あちらで生き残った方がこちらの援軍に来ることになる。

 つまり、目の前のオークはもう少しで3対1になってしまう。


 明らかに焦りの色が表情に浮かんでいた。

 だが俺は攻撃を当たってやらないし、かすってもそれじゃあ死なない。



【フェアリーシールド】:36/50



 うん、まだ7割も残ってる。

 ファムからもらった守りの盾は、未だ健在。

 俺自身のHPには傷一つついていない。



 ……勝ったな。



 ――だがここで、手を緩めることはしない。




<奪うスキルを選択してください>



[候補スキル一覧]


①剛力Lv.3   ※施設レベルが足りません


②筋力上昇Lv.2 ※施設レベルが足りません 

    

③HP上昇Lv.3  ※施設レベルが足りません


④斧術Lv.1


⑤チームワークLv.1




 慢心、あるいは気の緩みが逆転の一手に繋がってしまう。

 だからより勝ちへと近づけるため、【スキル盗賊団(バンディット)】を使用する。


 正直【剛力】とかレアスキルっぽそうで欲しいけど、残念ながら今は無理らしい。


【斧術】でも【チームワーク】でもどっちでもいい。

 だが相手の弱体化以外に、自分が奪ったことによる後々のパワーアップ面も考慮すべきと思う。

 とすると【斧術】は使い道がなさそうに思えた。 



<使用するIsekaiを決めてください> 



[使用Isekai]


□867Isekai


成功率……81%



現在保有Isekai:2867




「FUGAAA!!」



 オークの自棄(やけ)になったような攻撃を避けながらも、【施設】機能を発動する。

 Isekaiはキリのいい金額を消費。

 


 さっき倒した10体以上のゴブリンやオークで500Isekaiは稼いだ。


 そして全額消費することも覚悟していたガチャで、アトリがかなり早く来てくれた。

 そのためにできた貯金分が残っているのも大きい。



【時間魔法】を使わなくても成功率8割なら、相当に分のいい勝負だろう。



「行けっ――」



 銀の光が次々とオークの周囲に出現する。  

 銀弾が命中したオークは瞬く間に銀色へと浸食されていった。


 そして――




<結果報告――スキルの奪取に成功しました! 詳細:【チームワークLv.1】>




 大きな銀色の光の塊が、自分の中に入ってきた。

 そしてスキルの獲得を理解した瞬間、早速スキルの効果を実感する。


 

 ――あっ、ソルアとアトリ、こっちに来るか。



「ご主人様っ!」


「マスター、お待たせっ!」



 それは【索敵】やファムの視界で分かったのではなかった。


 頭の中に、【索敵】とは別にもう一つのマップみたいなものが出現した。

 それにソルアとアトリの場所がピンのようなもので記されていて、どの能力よりも早く二人の移動を知らせてくれたのだ。



 ……なるほど。

 あのオークの代表め、【チームワーク】で仲間の消滅や劣勢を把握してたんだな。



「FU,FUGO……」



 そして今その元所有者は、自分の中から大切な何かが失われたことを実感したらしい。

 さらに視認できる範囲からも、最後の仲間が倒されて消えてしまった。


 

 完全に戦意を無くしたというか、心が折れたらしい。

 武器の巨大な斧を放り投げ、一目散に走り出す。



「FUG――」



 こちらに背を向けて、逃亡を図ったのだ。


 あぁ~あ。


 だから、さっき脅しだけど警告したじゃん。



 ――【操作魔法(コントロール)】!



 おあつらえ向きに、ピッタリな武器がある。

 ズッシリと重量感たっぷりの大斧を、上昇した魔力頼りで浮かせ。

 そうして隙だらけのオークへと発射。


 逃げる速度よりも斧が進むスピードの方が速く、グサり。

 オークは自分の武器で敗北したのだった。



<所有奴隷“ソルア”がオークを討伐しました。250Isekaiを獲得しました>  

    

<オークを討伐しました。300Isekaiを獲得しました>  

 

<【施設 魔女の工房】が解放されました。これより【施設 魔女の工房】を利用することができます>



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「ご主人様、お疲れ様でした」


「お疲れ様、マスター」



 リサイクルショップの中に入り、戦闘の頑張りを互いに(ねぎら)い合う。



「うぃっす、お疲れ。ケガとかは……大丈夫そうだな。ただ、流石にちょっと休憩していこうか」



 連戦だったこともあり、疲労的な部分を考慮して休む時間をとることにした。


 リサイクルショップで1回。

 後は、新聞の販売所までの間にも、もう1回とった方がいいか。 

 


「わかりました。ではありがたく……アトリ?」


「えっと、ここって、古着とかもある店って話だったわよね?」



 アトリは物珍しそうに店内へと視線を巡らせる。

 ……あぁ~。



「そうだな。……何か気になる物とかあったら、見てきたらいいんじゃないか? 二人で。気晴らしもかねてさ」



 ――ファム、売り場まで案内してあげてくれるか?



≪えっ? うん。大丈夫だよ!≫



 衣類は食料に比べて優先順位が低かったからなぁ。

 来たばかりのアトリはもちろん、ソルアにも満足に調達してあげられてない。  

 

 独占するわけじゃなし、2,3着なら問題ないだろう。

 オーク一団という脅威を追い払ったんだから、それくらいの現物報酬はいただいても良いと判断する。

 


「あっ……はい!!」


「うん! さっ、行きましょうソルア」



 二人は嬉しそうに、先導するファムへと着いて行った。

 女の子はどこの世界でも洋服が好きなんだねぇ……。



「さて――」



 二人と、そしてファムがいない間にやるべきことをやっておこうか。


 ……いや、女子勢がいたら出来ないやましいこととかじゃないから。

 普通に解放した【施設】の確認である。




[施設 魔女の工房:○○リサイクルショップ]


①魔女の鍋 1回:100Isekai


②魔女の鍋 独占使用権:1000Isekai ※生存者(サバイバー)の誰かが購入すると、①は消失します



「【魔女の工房】……それに“魔女の鍋”とは?」


 

 リサイクルショップに対応しているのだから、何か作ったり、あるいは再利用する機能かな?



【スキル盗賊団】で800以上を使用したが、一方で2体のオークで550増えた。

 2550Isekaiもまだあるので、ひとまず1度使用して試してみる。



「うぉっ!?」



 100Isekaiが支払われたのと同時に、目の前に大きな鍋が出現した。

 見た目はほぼ(つぼ)にしか見えない。


 ……壺をそのまま鍋として使用した、という設定かな?



「あっ――」



 そしてその鍋を見た時、使い方が直ぐに自然と理解できた。



 ――これ、【異世界ゲーム】で入手した“異世界の物”を入れる奴だ。



「じゃあ……」



 持ち物の中から、愛着が沸きつつあった【村人】を選択。

 じゃあな、【村人】。

 今までありがとう、元気でな。



 白の結晶を鍋の中にシュート。

 ……えっ、愛着?


 ちょっと何を言ってるのかわかんないです。



「おっ――」



 すると、鍋の中がいきなり健康に悪そうな緑色の液体で満たされる。

 グツグツと沸き立つ様子は正に魔女が何かを煮ている場面を連想させた。



 そして10秒ほど待つとそこから光が抽出され、飛び出してきたのだった。

 


<結果報告――“【村人】結晶”は“容量(キャパシティー)+1”へと生まれ変わりました!>  

   



[ステータス]


容量(キャパシティー)42/42(③[●●●●●●]+④[●●●●●●]→54/54)

容量(キャパシティー)42/43(③[●●●●●●]+④[●●●●●●]→54/55)



 おぉっ!

 確かに1増えていた。


 というか【チームワーク】を()ったために、さっきまでは空きが0になっていたのか。

 

 だがこれで、もしかしたら新しい“容量”の獲得手段ができたかもしれない。

 もう一度100Isekaiを消費し、今度は愛着の欠片もなかった【戦士】を投入。



<結果報告――“【戦士】結晶”は“容量(キャパシティー)+2”へと生まれ変わりました!>  

   


 っしゃぁぁ!!

 これで空きが3つになった。

 

 よしよし。


【魔女の工房】も何となくだが使い方は分かった。

 リサイクルショップと対応することからも推測出来たように、物を入れると別の何かに変換してくれるのだ。


 そしてジョブの結晶は容量だった。

 ゲットできる数値は★の数に対応してるのかな?



「フフッ、これでまたスキルかジョブをゲットできる枠が――」 


「――お待たせしました、ご主人様」


「マスター。服、ちゃんと選んできたわよ」



 機能を大体試し終えたところで、ちょうどソルアとアトリが戻ってきた。

 もっと時間がかかると思っていただけに、少し驚いてビクッとなってしまう。



「そ、そうか。それで――」



“どんな服を選んできたんだ”と言おうとしたが、そこから先は言葉がでなかった。

 二人が体に重ねるようにして持っている服を見て、思考が止まってしまったのだ。



「あの、これ、見た瞬間、凄く可愛いお洋服だなって」


「ねっ。で、色違いがあったから。お揃いで良いなって、選んだの。……あの、どうかしら?」



 感想を聞かれて、言葉に詰まる。


 それは、春の季節にはピッタリの。

 ……暖かそうなグレーと黒のニットだった。          


 真っ先に浮かんだ感想はこうだった。



 ――お二人はオークを殺した後、童貞でも殺すつもりですか?



日間ランキング、またしても3位でしたね。

またまたここが耐え時だと思って頑張れているのも、やはり読んでくださる皆さんのおかげです。


何気ない、短いものでもいただけるだけでやはり感想は嬉しいですし、モチベーションも上がります。

ブックマークやいいね、そして評価が増えるももちろん執筆を頑張る大きな力になっています。


本当にありがとうございます。


引き続き、ブックマークや広告の下にある★★★★★のボタンの方、していただけますと執筆のとても大きなモチベーションとなります。


よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なぜ、主人公が倒したオークだけ300Isekaiなのでしょうか?250Isekaiではないのですか?
[良い点] 更新乙い
[良い点] めっちゃ面白いです!! 大学側の女性陣がどうなるのかも楽しみです!!
感想一覧
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