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2.生き残りのための“カギ”

2話目です。


ではどうぞ。




「――っ!!」



 硬直から解放されたかのように我に返る。

 そして次の瞬間には体が反射的に動いていた。


 やることはいたってシンプル。



 ――ドアを閉じるっ!



「KOBOGYAA!」



 だが相手も、ただで待っていてくれるわけがない。

 奇声を上げながらこちらへと一直線に突っ込んできた。


 その手に握られている鉈が、今にも俺へ振るわれようとしている。



 自分に向けられる明確な殺意。

 これほどまで隠されてない悪意を浴びせられるのはもちろん、慣れていない。 

 慣れているわけがない。


 今にも叫び声を上げそうになる。

 


 ――くっそっ、早く! 早く閉まってくれ!!



 閉め慣れた鋼鉄(スチール)製のドアが、今はとても重く、鈍い動きに思えてならない。

 視界が狭まっていくのと比例して、コボルトとの距離も接近している。

 

 もう本当に間近、目と鼻の先だ。 


 

「KOBOOOOO!!」 

 

「痛っ――」 

  


 左腕、手首付近に、火が触れたような痛みが走る。


 切られたっ――


 血の気が引き、一瞬だが死のイメージが脳裏に浮かんだ。



「KOBU――」



 ――だがそれは直ぐに消え去る。



 今度は両腕に強い衝撃。

 だがそれはコボルトの攻撃によるものではなかった。


 

「んぁっ!?」



 スイカか、柔らかなかぼちゃでもプレスしたようなグチャッとした感触が、強く手に伝わってきた。


 その後に視界からの情報が入ってくる。

 

 

 ――あっ、モンスターがドアに挟まった!?



 小さな犬の頭、そして鉈を振るった右腕。

 それらがちょうど、閉めるドアに挟みこまれたのだ。



「っ!」



 だがそれを認識できても、手の力が緩まることはなかった。


 というか防衛本能からかもしれない。

 自分の体じゃないくらい融通が利かず、もう全く緩めることができなかったという方が正しい。


 ほんの数秒だろうか、それとも1分とか何十秒もそうしていたのか。

 やがて、奴の右腕が全く動かないことに気づいた。

 

 まず鉈が床に落ち、乾いた音を響かせる。



「……死んだ?」 



 その後、恐る恐るドアノブを逆に、つまりドアが開くように押す。

 

 ドサリッ。


 まるで開けた物置から人形でも落ちてきたかのように、コボルトは挟まったドアから床に落下した。

 そして死体は突然、光の粒子に分解され散り散りとなり、その場から跡形もなく消え去ったのだった。 



<コボルトを討伐しました。“30Isekai”を獲得しました>



「うぉっ!? ……なんだ、いきなり」



 視界の端、さっき気づいた画面に新たな文章が表示される。

 ……この画面の理屈は分からないが、とにかくモンスターを倒したことは確からしい。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「っつぅぅ……しみる」



 しっかりと鍵とチェーンロックを締め直し、傷口の治療を行う。

 といっても水で洗って、綺麗なタオルを巻いておくだけだ。


 そんなに深く切られたわけじゃなくてよかった。

 


 生物の命を自分の手で奪ったことに、それほど動揺や罪悪感はなかった。

 ゲームみたいな世界になったらしいことも、もしかしたら影響してるのかもしれない。

 まあ何より、相手が自分の命を明確に狙っていたことが大きいだろう。 


 殺らなきゃ殺られるというか、自分を守ることで無我夢中だったって感じか。 

  


「水は出るけど、電気は点かないんだよなぁ……」



 手当の後、改めて室内のインフラを確認した。

 ブレーカーも見てみたが、電気関連は軒並みダメだ。


 今はまだ昼間だからいいが、夜になると明かりの確保に悩むことになるだろう。

 食事の調理もIHと電子レンジに依存したものだったので、やはり電気と直結してダメだった。



「とりあえず、こういう場合ってどうすればいいんだ? ……風呂に水を貯めておくくらいしか思いつかないんだけど」



 管理会社や警察の存在が脳裏に浮かんだが、スマホは圏外。

 ダメ元で電話をかけてみても繋がらなかった。



 風呂場に行き蛇口を回したところで、視界の端、宙に浮く画面の変化に気づく。



<【施設 宿屋】が解放されました。これより【施設 宿屋】を利用することができます>


<新たなメールを受信しました。新着メール:2件>



 2つあった。

 流石に無視というか保留しておくわけにもいかず。

 恐る恐る、本来は何もない空中へと指先を伸ばす。


 最初のメッセージをタッチしてみた。



「あっ、タッチできた――」



 近未来のSF小説とかにありそうな半透明の画面。

 それに触れると反応があり、画面が展開された。

 



[施設 宿屋:○○アパート]


①宿泊:20Isekai 




「何だこれは……」



 展開された新たな画面に、素で疑問が湧いた。

“Isekai”って、さっきモンスターを倒した時にゲットした奴だよな?


 数字の後に使われている所を見るに、このゲームでの通貨ってことらしい。



「で、このアパート自体が宿屋の機能を備えてるってこと? その機能があのコボルトのせいで使えなかったけど、今は、使える?」 



 多分、そういうことだと思う。

 ……一回、やってみたら早いか。


 

<“①宿泊:20Isekai” 1日に1度、使用可能。施設の範囲内にいる者のHP・MP・状態異常を回復します>



 タッチすると説明文が表示される。

 そして使用するかどうかの選択肢が現れた。



<使用しますか? はい/いいえ ※所持金:30Isekai>



“所持金”として説明されている以上、やはり“Isekai”とは通貨という扱いで間違いない。

“はい”を選択。


 スマホ決済などでお金を支払った時みたいなチャリンという音がした。

 所持金が“10Isekai”になる。



「うぉっ!?」

 


 すると、いきなり温かい光が自分の体を包み込むのを感じた。

 そして左腕、先ほど切り付けられた部分に変化が訪れる。



「えっ、あっ、傷口が――」



 ジワジワとした継続的な痛みがまず引いていき。

 それを感じて巻いていたタオルを取ってみると、切り傷がどんどん小さくなっていくのだ。



「……。マジか」



 そして最後には傷は完全に治癒され、モンスターと出会う以前に戻っていた。

 痛みも完全になくなっている。



 ……これは、凄いな。


 今まではモンスターとの遭遇のみだったが。

 こんな現象を体験したらもはや疑いようもない。


 やはり今までの世界とは変わってしまったんだ。  

 ゲームというかラノベやWEB小説みたいな現実になってしまったと、強く実感した瞬間だった。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「さてと……」



 ファンタジー現象を体験して、改めてもう一つのメッセージを確認することにした。

 

 スマホにあるメールアイコンのような絵、その右上に2という数字がついている。

 同じくタッチしてみた。



=====


2 差出人:【異世界ゲーム】運営


件名:ワールドクエスト“一番最初に【施設】解放”のクリア報酬贈呈


=====


1 差出人:【異世界ゲーム】運営        


件名:【異世界ゲーム】をダウンロードいただきありがとうございます


=====



「…………」



“運営”という文字から、今起きている一連の現象の黒幕的な存在を連想する。

 しかし、単なる一個人とか、組織では到底なしえないことだろう。

 

 要するにあまり気にせず、神とか超常的な存在の仕業みたいに思っておいた方が無難だ。


 一つずつメールを開けて読んでいくことにする。



=====


1 差出人:【異世界ゲーム】運営        


件名:【異世界ゲーム】をダウンロードいただきありがとうございます


管理世界“地球”の生存者(サバイバー)の皆様。

この度は【異世界ゲーム】をダウンロードいただきまして、誠にありがとうございます。



皆様の生存を脅かす魔物(モンスター)が現れた世界で、皆様はスキルやジョブなどファンタジーな力を行使できるようになりました。


このゲームの目的はただ一つ、“生き残り続けること”だけです。


ぜひ今までとは全く異なってしまった世界をお楽しみください。


=====



「何が“お楽しみください”だよ……」



 だが文句を言ってこの状況が元に戻るようなら、そもそも初めから変化など与えていないだろう。

 

 無視だ無視。

 それよりも現状把握が先だ。

 


=====


2 差出人:【異世界ゲーム】運営


件名:クエスト“一番最初に【施設】解放”のクリア報酬贈呈



おめでとうございます。

【異世界ゲーム】開始後、一番最初にモンスターに占拠された【施設】を解放されました。


クエストのクリア報酬を贈呈します。

ゲームでの生き残りにご活用ください。



報酬:

①【ジョブの種】 ■

②1000Isekai


=====



 2つ目のメールを開封した。

 これは全プレイヤー宛てではなく、俺個人へだと思う。



「“モンスターに占拠された【施設】の解放”……あぁ、さっきの」



 そこで、さっきの“宿屋”の件とが頭の中で繋がった。



「つまり、さっきのコボルトに、このアパート全体が支配されてたってことか?」



 で、それを解放したことの報酬をもらえる、と。



 文面や“報酬”という内容から考えて、このゲームを生き残るうえで有用なアイテムか何かなんだろう。


“1000Isekai”はこの宿50泊分か。

 ……1日1回しか使えないらしいから、50日生きないとダメだけどね。


 だがこれでなんとなくだが、このゲームみたいになってしまった世界の動き方を理解した。


 

 モンスターを倒したり、あるいはクエストがあるらしいのでそれを達成して。

 で、お金を得て、施設を利用する。


 そうして自分のサバイバルを有利にしていけばいいんだろう。


 まあ本当、フワッとした感じだけどね。

 


「さて。それで、お金以外の報酬だが……うぉっ!?――」



 報酬の横にある“■”をタッチすると、空中がいきなり光りだした。

 その光から、クルミほどの大きさをした虹色に輝く種が落ちてくる。



「これか……」



<【ジョブの種】:消費アイテム。使用すると、使用者が最も適するジョブを取得することができる>



 また別の細長い小さな画面が出現し、種の説明をしてくれる。

 こういうの、大体は鑑定系の能力があって初めてわかるんだが。



「これはスキルとかがなくてもついている説明文なのかな?」


 

 とにかく、ジョブが得られるのはありがたい。

 自分をスキルやジョブで強化して、それでモンスターの脅威に立ち向かっていくのが正道だろう。



 種を口の中に放り込む。

 そうすることで発動されるものだと自然にわかったからだ。    


 ……起きて何も食べてないから、空腹感が働いたってのも若干あるにはあったけどね。



「硬い……でもマズくはないな? んぐっ――」



 沢山のフルーツをごちゃまぜにしたような味。

 それを噛んで噛んで、ゴクリと飲み込んだ。



「おっ――」



 体の中から、力が湧いてくる感覚。

 全身が熱く、エネルギーが凄い速さで循環しているのがわかる。


 そして、新たな力を得たことを実感した。



<New! ――ステータスが更新されました>

 


 また別の画面、メッセージが表示される。

 それをタッチすると、ステータス画面が現れたのだった。




[ステータス]

●基礎情報

名前:滝深(たきみ)幸翔(ゆきと)

Age:20

性別:男

ジョブ:ガチャ師Lv.1(New!)

保有Isekai:1010


●能力値

Lv.1

HP:13/13

MP:8/8


筋力:9

耐久:6

魔力:4

魔法耐久:3

器用:5

敏捷:5 


容量(キャパシティー):15/20


●スキル

【異世界ガチャLv.1】(New!)




 俺の最適なジョブ、“ガチャ師”だったらしい……。



次回、1回目のガチャ回です。

ヒロインも次に出てくる予定です。


ローファンタジーの日間ランキングで65位に入りました。

未だ2話目にもかかわらず沢山応援いただいていると感じ、とても嬉しいです。


ブックマークや評価のポイントは執筆のモチベーションに直結しますでの、本当にありがたい限りです。


引き続き、よろしければブックマークや広告の下にある★★★★★ボタンの方をしていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 昼間の12時スタートにしたって、ドアに挟んだ程度で殺せる敵なら出会い頭に車やバイク、チャリで轢いた人って居るでしょ
[一言] このタイミングで施設にいる敵を倒したのが主人公が一番最初と言われると、素直に飲み込めないですね。 何か理由があとから出てくるかも知れませんが、ここまでの情報からだと無理があるように感じました…
[良い点] 2話まで読みました。 とても面白くなりそうなので楽しみです。 [気になる点] ジョブの種は使用者が最も適するジョブを取得することができるとの事ですが、 主人公は無課金勢であり、ガチャを引き…
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