26.戦闘スタイル、召喚の決断、そして絆が見せる彼女の過去
26話目です。
ではどうぞ。
「ま、間違いじゃない、よな?」
だが目をつむり、ほぐす様に揉んでから見開いても、結果は同じ。
やはり★4の異世界奴隷(女)が当たっていたのだ。
「や、やりました! ご主人様、当たりです、当たりですよ!」
珍しくソルアも興奮した様子だ。
祝福してもらえたことで、改めて★4を引き当てた実感が湧いてきた。
「ま、待て、まだ慌てちゃいけない。ここからが大事な場面だ」
ガチャをする前、ソルアが挙げてくれた希望の話と関わってくる。
「この子が果たして、どういうスタイルなのか。それが問題だ」
もし仮にスピード・アタック系なら問題ない。
ガチャタイムを終わりにして、この子を召喚するだけだ。
だがもしそれ以外なら、魔の時間に突入する可能性が出てきてしまう。
希望のスタイルの子が出るまで続けるか、妥協するかの選択を迫られることになるだろう。
ゴクリッ――
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●アトリ・ローウィラル ★4
異世界のはぐれ魔族。
淫魔で17歳の女。
スピード型の軽剣士で、1対1での戦いに優れた剣捌きをする。
しかし、自己の能力を制御しきれず、心に深い傷を持つ。
本人・他人問わず、彼女の能力を制御できるようになれば、さらなる大きな力が開花するだろう。
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――さっ、サキュバス!?
存在自体が極めてえっちぃけしからんと有名な、あの!?
「? どうかされましたか、ご主人様」
「い、いや。何でもない」
危ない、動揺は悟られてはいないはずだ。
……ってか、俺は何に動揺してんだよ。
そうじゃなくて。
「ソルア、どう思う? 一応“スピード型”って書いてあるけど」
だがソルアの表情は浮かばない。
喜んでいないわけではないが、どこか腑に落ちないという顔だった。
「あっ、はい。申し訳ありません、私は特に“魔族”がどうかという偏見は持っていません」
あぁ、そっか。
異世界だと、中には魔族に対してあまり良い認識を持ってない人もいるのか。
まあその点については、俺も特に気にしてないけど。
「ただ、“サキュバス”が剣術を操るというイメージがなかったので、どう反応すればいいかと悩んでいました」
なるほど。
俺も確かにそのイメージは持ってなかった。
とりあえずお互い、判断の決め手を欠くみたいな状況なので、実際にその姿を見てみることにした。
ソルアを召喚する前、その姿・映像をこの目で見たように。
「あっ――」
「っ! ――」
★4、金色の結晶を掌に乗せ、浮かび上がった女性の姿を確認する。
――その瞬間、二人して言葉を失った。
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『…………』
桃色の長い髪をした女性が一人、そこには映っていた。
“サキュバス”との前情報に違わぬ、極めて扇情的で露出の多い恰好だ。
黒とピンクを基調としたハイレグのようなその服は、肩から豊かな胸元まで、肌が大きく出ている。
おへそやその下辺りにハート形の穴まで開いていて、性的な欲望を強くそそるデザインとなっていた。
「おいおい……どんな状況だよ」
しかし。
異性をこれでもかと意識させるその外見も、彼女の状況を見て完全に意識の外へと行ってしまった。
「これは……自由も何もないじゃないですか」
ソルアが思わず漏らしたというような、その言葉の通りだった。
“アトリ”という少女はソルアの時と同等か、それ以上にキツく拘束されていた。
手足は完全に鎖で縛られ、体の身動き一つできないような状態だった。
それだけでなく、口にも枷をはめられ。
視界にいたっては、不気味な幾何学模様が記された布っぽいもので奪われている。
「まるで封印でもされてるみたいだな……」
……封印。
そうか。
自分で自分の言葉に驚き、同時に納得もする。
“自己の能力を制御しきれず”って書いてあるから、それと関係するとしか思えない。
……この子の、アトリの力になりたい。
元は彼女に助っ人として来て欲しいという趣旨で、ガチャを回していた。
しかしこの現状を見て、彼女を少しでも今より良い状況にしてあげたい。
その思いがとても強くなっていた。
「……ソルア。この子を、召喚してもいいか?」
思った時には、既に口に出していた。
「はい。私も、彼女と一秒でも早く仲良くなりたいです」
そしてソルアも間を置かず、真からそう思っているというように返してくれた。
「ありがとう。そうと決まれば――っとと!」
少しでも早く、彼女をこちらに呼び、解放してあげたい。
その逸る思いに何とかブレーキをかける。
結晶を砕いてしまう前に、一手間を加えておくべきだと思いついたのだ。
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●星絆
アイテム。
具現化前の結晶に使用することで、★の数を一つ増やすことができる。
★4以下の結晶にのみ使用可能。
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具現化、つまりアトリを呼んでからでは使えなくなる、生存ボーナスの一つ。
アトリの現状・問題が“能力を制御できない”ことからくるなら、★5になることで解決できるのではないかと思った。
★の昇格とは、要は限界を超えること、成長を意味する。
だから少しでもこちらに来た時に彼女の助けになればと、使用を決断した。
「あっ――」
光る砂粒を散りばめたような、丸い石ころ。
それが強く輝き、光の集合体へと変化する。
そして光の塊は、金の結晶を目指しビュンと飛んできた。
アトリの結晶にぶつかると、光は一気に吸収されていく。
「……虹色になったな」
強い輝きが収まると、金の結晶は、その色を★5の虹へと変えていたのだった。
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結果
●アトリ・ローウィラル 異世界奴隷(女) ★★★★
↓
●アトリ・ローウィラル 異世界奴隷(女) ★★★★★
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□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「じゃあ、改めて、呼ぶぞ」
「はい!」
準備は整った。
ソルアの時と同じ要領で進めていく。
虹色になった結晶を砕いた。
「あっ――」
同時に室内の中心、光の円が出現する。
召喚のための魔法陣だ。
そしてほぼ時間差なくそこに、さっきまで見ていたあの少女、アトリが現れた。
「……っ!」
ソルアの一件で学び、すぐさま彼女を拘束する全てを、所有者権限で破壊する。
目隠し、口の枷はもちろん、手足を縛りあげていた鎖も一瞬で取り払われた。
今初めて、アトリの容姿を全て見ることになった。
凛々しく、同時に可愛さも残っている。
そんな、とても魅力的な顔をしていた。
フワフワと宙をゆっくり降下するようにして着地するまで。
ずっとその容姿に、視線が釘付けとなっていた。
「――あなたが、私を呼んだの? あなたが、私の主人?」
――だが彼女の表情が、今にも泣きだしそうなものに変わって、言葉を失う。
高く、綺麗で、キリッとした声。
でも感情が今にも溢れ出しそうな、涙を抑えたような声になる。
「……誰にも、また会いたくはなかった。また失う怖さを思い出したくなかった。もうずっと、一人にしておいて欲しかった。ごめんなさいっ――」
「……えっ? あっ、おい――」
アトリは止める間もなく駆け出してしまった。
だがすぐ戸が閉まる音が聞こえる。
……あぁ、浴室に逃げ込んだのか。
呆然としてしまい、最初は凄く嫌な想像が過った。
でも、そりゃこの狭い部屋の中だ。
俺とソルアから離れ、一人になれる場所なんてトイレか浴室しかないからな。
「あっ! ……ご主人様。私が少し、話してみます。――アトリ、良いですか? 私とちょっと、お話ししませんか?」
ソルアが気を利かせて、浴室へと向かってくれた。
だが聞こえてくる声からは、直ぐに解決するような感じは一切しない。
それだけアトリが抱えている問題は根深いのか。
“心に深い傷を持つ”という説明は、言葉その通りだったということだろう。
「……どうしよう。どうすべきか」
一番最初、ソルアは召喚できたことで、その後も上手くいってくれた。
なので、今回は更に“星絆”で★5にしたのだから。
呼ぶことさえできれば何とかなるかと高をくくっていた。
でも、実際に相手をするのは、その人だけの人生を歩んできた生身の人間なんだ。
そう簡単に上手くいくはずがない。
……召喚したのも、“★5”にまで昇格させようと考えたのも、独りよがりのことだったのだろうか?
『――えっ? 何、この光は……きゃっ』
――だがそこで、突如聞こえた声に思考を打ち切られる。
浴室に駆け込んで以来、沈黙を貫いていたアトリの声だった。
何か異変が生じたのだと思い、様子を見に行く。
「あっ、えっ、何だ!?」
電気がつかないはずの浴室。
そこで、昼間とはいえあまりに眩い光が輝いていた。
そして光は塊となり、次の瞬間、すりガラスを通り抜けて俺へと入ってきたのだ。
「ご主人様!?」
「うわっ――」
眩しさに視界を奪われ、思わず目をつぶる。
光に襲われ、一瞬自分がどこにいるのかさえ分からなくなった。
「……あれ? えっ、ここは――」
次に目を開いた時、認識できたのは真っ白な空間だった。
直ぐその後、目の前に映像が流れだす。
『――まただ。私は、全然したくないのに。勝手に、“魅了”が発動して……』
幼い女の子の、とても辛そうな泣き声だった。
――あっ、これは、アトリだ。
それを頭で理解した瞬間、今自分が置かれている状況がフッと自然に認識できた。
……俺は今、“星絆”が見せる、アトリの過去を目にしてるんだ。
日間ランキング、4位を何とかキープできています。
他の素晴らしい作品とこうして上位のランキング争いを続けられているということ自体、とても恵まれたことだと思います。
読んで応援してくださる皆さんのおかげです。
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