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24.食事情とスキル、“ソルアさんそれは違うよ!?”、 そして新たな仲間についてご意見は?

24話目です。


ではどうぞ。



「あぁ~疲れた」



 アパートの部屋に入った途端、一気に疲労感が押し寄せてくる。



「12時まではもう休憩にしよう」



 特に酷いのは頭の疲れだ。


 大学受験を思い出す。

 何時間もぶっ続けで勉強したみたいな……いやそれよりも辛いな。


 普段扱い慣れてない膨大な情報量だったはずだ。

 それを一度に処理するというのは、やはり相当な激務だったのだろう。



「わかりました。ご主人様、何か食べられますか? 準備しますよ」

 


 ソルアは長いブーツを脱ぎ終え、部屋に上がるとテキパキと動いてくれる。

 一度気を抜いてしまったせいか、もう一回立ち上がろうという気力が中々沸いてこなかった。



「……ありがとう。じゃあ頼むわ。豆腐……白い固形の食べ物を出してもらっていいか?」 

   


 お言葉に甘えさせてもらうことにする。

 昼には少し早い気もするが、頑張ったせいか少し何か腹に入れたかった。



「…………」



 ソルアみたいな飛び切りの美少女が我が家にいて。

 そうしてシンクと、傍にある冷蔵庫を往復する様子を見ていると、今頃になってとても不思議な気分になってくる。


 彼女が家に来て、自分のために手料理を振る舞ってくれる。

 そんな甘い青春の一ページを想像したのだ。 

 


 ――これがもし、こんな世界になってない状況だったら。


 

 だが【異世界ゲーム】が始まってないと、そもそもソルアと出会うことも無かったわけで……。


  


「――あの、ご主人様。準備は出来たんですが……」



 ソルアの声がして、現実に引き戻される。


 どっちの方が良かったかなんて、今この状況では意味のない比較だろう。

 ゲームみたいになってしまった、この世界を生きるしかないのだから。

 


「ありがとう。……? えっと、どうか、したか?」 



 持ってきてくれた豆腐を手に、ソルアは固まったままだった。

 不安気に何か言いたそうな表情だったので、そう問いかけてみる。



「これ、その、大丈夫、ですか? 蓋を開けた時、少しツンとする臭いがしたのですが」



 あぁ~なるほど。

 ……まあそもそも消費期限ヤバかった上に、電気というか冷蔵庫がダメになっちゃったしねぇ。


 腐った疑惑が出てるんなら、平時だと迷わずポイしてただろうな。

 でも、今は二重の意味でそんなことはしない。

  


「いや、うん、大丈夫。ありがとう」 

 

 

 気にせずソルアから受け取り、割りばしを使って食べ始める。

 


「えっ、ですが……」



 ソルアは未だ懐疑(かいぎ)的な視線。

 ……まあちょっと待って。


 

 300gある豆腐を十字に箸で切り分け、その一片を口へと運ぶ。 



「あむっ――っ!」



 口の中に柔らかな感触がやってきた後、確かな酸味が直ぐに口内を覆い尽くす。     

うわっ、これ絶対腐ってる!



 反射的にえずき、体が異物を吐き出そうとする。



「……おっ?」



 ――だが次の瞬間、体の中に変化が起きた。


 

 スキルが発動される確かな感覚。

 その直後、口内の酸味がスーッと引いて行ったのだ。


 有害な毒素だけが狙い撃ちで分解され、そして消滅させられるような感じを覚える。

  


「ゴクッ――」



 恐る恐るそれを飲み込んでも、体内に異物が侵入したような感覚は一切なかった。



 ――【状態異常耐性】さん!



 流石はレベル上限の耐性スキルだぜ!

 戦闘以外で、こんな役に立ってくれる場面があったとは。


 その後も残りを平らげたが、同様に、体に変調をきたすようなことは起こらず。

 食後のデザート代わりに、持ち帰った青汁粉末とバナナ味のソイプロテインを混ぜて一気飲みした。

  


「ぷはぁっ」



 ふぅぅ、そこそこ満足。


 傷んだ食料でも腹に入れられるのなら、持ち帰れる候補は一気に増える。

 その分、消費・賞味期限が安全な物は優先的にソルアや、後々取りに来るかもしれない他の生存者に回せばいい。


 これで食料事情にも、新たな光が差し込んだ気がした。

 


□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「あの、本当によろしいのですか? 私が頂いても……」



 ソルアは手にした食べ物を口に運ばず、遠慮がちに聞いてくる。



「ああ。俺はもう満腹だから。それはソルアが食べればいい」



 自分だけ傷んでない、まだまともな物を口にするのに抵抗を感じているのだろうか。 

 食べようとする決心がつかないらしいので、追加で理由をあげることにする。



「……俺が食べた豆腐とか。持って帰ってきた消費期限切れの奴。ああいうのは訓練された地球(こっち)の奴の胃じゃないと厳しいと思う。だから、ソルアは食べやすい“それ”を食べた方がいい」


「……そうですか。わかりました。では、ありがたく頂きますね」

   


 俺の配慮が伝わったのか、ソルアはそれ以上悩んだり異論を(とな)えることはしなかった。

 小さな口ではむっと、スティック状の羊羹(ようかん)を口へ運んだ。



「っ~! わっ、甘いっ! 凄く甘いけど、とても美味しいっ……」



 目を見開き、初めて感じる味に興奮した様子だった。  

 ……よかったよかった。



 ソルアは異世界からやってきたわけで、当然慣れないことだらけのはずだ。

 だからせめて食事情くらいは、ソルアに少しでも負担のかからないようにしたい。

 少しでも美味しい物を食べて欲しいのだ。


 その分俺は腐ったり傷んだものを優先的に処理していくから、それくらいのワガママは通させてもらうつもりだった。 



「んっ、ちゅぱっ……んふぅっ、ちゅっ――凄く、美味しいっ、です」



 うんうん。

 ウットリとした色気ある表情で、美味しそうにチュパチュパと――



 ……いや、ソルアさん?

 羊羹バーって、そうやって食べる物じゃないですことよ?


 

 そんな前後に出し入れして舐め回してたら、その、凄い変な想像しちゃうから、うん。

 棒状の物とか、スティック系の物は、美少女が無闇やたらに舐めない。

 

 良いね、お兄さんとの約束だよ!




「ふぅぅ……【宿屋】での回復も済んだし。本当にちょっとした休憩だな」



 ソルアの間違いを遠回しにそれとなく指摘し、簡単な昼食を終え。

 しばらく休憩時間となった。


 HPとMPも20Isekaiで満タンまで回復。

 疲労感もグッと消えてくれていた。


 こっちはまだ昨日使って24時間経ってないのに使用できた。

 だから多分、0時で回数リセットらしい。



≪――ご主人! 一回お耳の方だけ繋いでもらっても良い? 視界は別に大丈夫かな≫   



 そこで、尾行任務についているファムから声が届いてきた。

 視界の共有はいらず、聴覚だけ繋いで欲しいという。


 久代(くしろ)さんたちで会話がされてるってことかな?



 ――了解。直ぐに繋ぐ。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



『……えぇ? 俺はいらないかなぁ~。“百均”ってさぁ、物資があるようで。でも十数人が何日も食っていけるほど、食料が豊富ってわけじゃなかったじゃん?』



 最初に聞こえてきたのは、男の声だった。

 このしゃべり方は、おそらく学生の男だろう。



『お、俺も。誰か避難者が来ても、う、受け入れには慎重な方がいいと思う。せ、戦力的にも今のままで十分だし。き、来宮(きのみや)さんは、お、俺が守るからさ、うん』



 このおどおどした感じ。

 土田君か。


 ……君、来宮さんのこと好き好きオーラがダダ漏れてるよ?



 内容からすると、どうやら仲間の話をしているらしい。

 新しい人が拠点に来たらどうするか。


 それについて議論中ということかな。



『そう……。まあずっと(かくま)うってことなら、確かに植野(うえの)君の言うことも一理あると思う。ただ、一時的に、身を寄せる場所としてきた場合はどうする?』



 久代さんの声だ。

 ……ん?


 なんか、さっきよりもクリアというか、ハッキリと聞こえる気がする。



『私も。透子(とうこ)さんの言うように、一時的に中に入れて欲しいって人がいたら、できるだけ受け入れてあげたいと思います』



 今度は来宮さんが意見を述べた。

 ……やっぱり、声のボリュームがさっきよりも大きいと思う。



 ファム、かなり接近しちゃってる感じ?



≪? 接近……まあそうかな。制服のお姉さんが、距離的には一番近いと思う≫ 



 つまり来宮さんとの距離、ということか。

 ファムが危険じゃないと判断したなら、それはそれで良いけど。



 要するに、久代さんと来宮さんは具体的な言及は避けているが、俺たちのことを聞いてくれているのだろう。


 まあ男二人がOKしたとしても、それでじゃあ行きますってことにはならないけど。



 ……いや、うん。

 久代さんが最後に言ってた“お礼”とか全然、一欠けらも気になってたりしないから。

 



『まあ、久代さんや(はるか)ちゃんの言うこともわからなくはないよ? 助け合いの気持ちは大事さ。でもね――』


『ぼ、僕も、変な男が入ってきて、来宮さんたちによ、欲情とかしたら、ダメだと思うから――』



 態度には出さないものの、男連中の反対の意思は固いようだ。

 久代さんや来宮さんには申し訳ないが、やはり行く気は全く湧かなかった。


 ただファムが切ることを提案してこないので、情報収集のためにこのまま繋いでおくことにする。



「……どうでしたか? 何か有益なことは聞けましたでしょうか?」 



 ソルアも、俺の意識が現実(こっち)へ向いたと察したようだ。

“仲間”や“行動を一緒にする相手”という話題が聞けたことで、一つ話しておくべきことを思い付いた。


 

「まあ、0よりはマシってレベルかな。――で、ソルア。少し話、いいか?」 

     


 改まったような感じが敏感に伝わってしまったのか、ソルアも表情を引き締めた。

 


「……はい。何でしょうか?」



 ……どう言い出したものかな。


 

「えっと、あのな。もうすぐ、12時になるだろう? で、ソルアの頑張りもあって2400以上のIsekaiが貯まった。だから、それでガチャを引こうと思うんだけど――」



 そう。

 待ちに待ったイベントの時間が、もう直ぐ先に迫っているのだ。


 そしてそのイベントは、異世界の新しい奴隷少女を迎えることを一番の狙いとしている。



 ――つまり、ソルアとは別の女の子が増えるかもしれない、ということを意味しているのだ。



「えっと、だから、ソルアの意見をあらかじめ聞いておきたいんだ。うん、いや、まだ当たると決まったわけじゃないし、何を聞いてくるんだ、と思うかもだけど」



 思わず言い訳っぽい言葉が出てきてしまう。

 何となくだがソルアが気にしているかもと、どこかで俺が考えているってことなのだろうか。



「…………」



 だがそれは、俺の取り越し苦労だったらしい。

 話の内容を理解すると、それまで固くしていた表情をソルアはスッと(やわ)らげた。

  


「――そうでしたか。わざわざ私の意見まで尊重してくださり、本当にありがとうございます」   


 

 そして気遣いからくるものではない、純粋な笑顔でソルアは答えてくれる。



「仲間――新たな奴隷の女性を迎えることは、私としては何ら問題ありません」



 こちらが更に先を促す前に、しっかりと自分の言葉で語ってくれる。

 俺に配慮してではなく、真実ソルアがそう思ってくれていることがちゃんと伝わってきた。 



「むしろ一緒に戦って、一緒にご主人様をお守りしてくれる人が増えるのなら。これほど心強いことはありません。ただ――」


 

 ん? 


 た、“ただ”?



「一つ、希望を言わせていただけるのでしたら。戦闘スタイルは、サポート系やタンク系ではなく。アタック・スピード――つまり、継続・瞬間火力の高い人が良いかなと考えています」



 不穏な前置きはしかし、またもや俺の早とちりで済んだらしい。 

 ソルアの希望をしっかりと受け止め、いよいよ12時のガチャイベントへと(のぞ)むのであった。 

次回、とうとうガチャ回です。

奴隷少女が当たるかどうかは……わかりません!


日間ランキング、初めて2位にランクインしておりました。


ここまでこれたのは偏にこの作品を読んで応援してくださる皆さんのおかげです。

もちろん私も日々頑張って書いてはおりますが、そもそも皆さんのご声援がなければ多分続いてなかったでしょうから……。


本当に嬉しい気持ちで一杯です。

ありがとうございます。


今後もぜひ、ブックマークや広告の下にある★★★★★のボタンの方、していただけますと、大変大きな執筆の力や励みとなります。


よろしくお願いいたします。


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[一言] ガチャだからポジションは選べないんすよ…
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