19.スキル奪取、帰還、そして飴玉
19話目です。
ではどうぞ。
<スキルを奪う対象を選択してください>
【スキル盗賊団】を使用すると、端的にそう表示される。
視界にいるモンスターに焦点を定めると、ロックオンされたかのような照準が見えた。
丸の中にバッテンがあるだけの簡単な奴だが、これで対象が選択されたのだと分かる。
<奪うスキルを選択してください>
[候補スキル一覧]
①剣術Lv.1
それだけ!?
一つしか表示されなかったのを見て思わず首を捻りたくなった。
だがよくよく考えると、単なる一般モンスターなんてこの程度なのかもしれない。
“凶暴なモンスター”という先入観からもっと沢山スキルを持っていて、候補もそれに合わせて数多く表示されてくれるものだと……。
――ん?
ちょっと待てよ……。
「あっ――」
これ、限定的だが“鑑定能力”としても使えないか?
まだIsekaiすら使っていない段階で、相手が持つスキルを見ることができてしまっているのだ。
スキルを奪うための機能だから、能力値とかまではわからないが。
おぉぉ~。
こういう本来の用途とは別の要素を見つけてゲームのプレイに役立てるって、ゲームの醍醐味って感じがする。
ゲームが上手な人ってこういう抜け道っていうか、違う使い方を見つけるの本当に上手いよね……。
ありがたい。
これでまた生存するために使える選択肢の幅が広がる。
「――で? 【剣術Lv.1】を選択すればいいのかな……」
タッチしなくても、それを選ぶように念じるだけでよかった。
<使用するIsekaiを決めてください>
[使用Isekai]
□□□□Isekai
成功率……――%
現在保有Isekai:2265
つまりそれぞれの“□”は千、百、十、一の位だろう。
試しに10Isekaiと念じてみる。
[使用Isekai]
□□10Isekai
成功率……11%
「おっ、10Isekaiでも10%はあるのか」
もっと低いと思っていた。
10Isekaiならまあ失敗してもダメージは少ないか。
物は試しと、これで一度使用してみることに。
「あっ――」
すると、モンスターの周囲に突如として、銀色の丸い光が出現した。
野球のボールぐらいかそれ以下の大きさで、光は凄い速さで骨に向かって飛んでいく。
「BOOO――」
光が衝突しても、モンスターは全く反応を示さない。
当たったことにすら気づいていないというように、光はどんどんモンスターの体を浸食していく。
……だが、銀色の光がジワっとした広がりを見せたかと思うと、5秒と持たず体外に弾き飛ばされた。
<結果報告――スキルの奪取に失敗しました>
「……だろうね」
要するに、あの銀色の光がモンスターの体中に広がれば成功ってことだろう。
その前に弾き飛ばされたら失敗と。
[使用Isekai]
□100Isekai
成功率……66%
「やっぱり“使用Isekai”にも依存するってだけあるな」
10倍の100Isekaiを注ぎ込むとすると、一気に成功率が跳ね上がる。
だが流石に100Isekaiって、成功が確約されていないものに使うには大きい額だと思う。
他の【施設】だと、スキルや機能を確実に得られるから支払うこともそこまで抵抗はなかったけど。
……あっ。
「そうだ、あるじゃん」
気にせず使える施設用のIsekaiが。
――【施設利用カード1200Isekai分】!
【スキル盗賊団】も【施設】だ。
つまりこちらで支払いも可能のはず。
そしてこれなら現金、という言い方が正しいかわからないけど、2265も溜まってるIsekaiの方を消費しなくて済む。
こっちは12時以降、新たな異世界奴隷をお迎えするイベントガチャのために取っておきたいからな。
[使用Isekai]
□150Isekai
成功率……83%
※決済:【施設利用カード】
「あっ、できた」
よし、これで行こう!
「BOOON――」
すると今度もまた、モンスターの周囲にいつの間にか銀色の光が出現していた。
だがさっきと違うのはその数だ。
――うわっ、10はあるぞ!?
沢山の銀の光が骨を囲うようにして宙を浮いている。
そしてモンスター目掛けて、すべてが一気に飛んでいった。
やはり数が違うだけあり、今度は銀色の浸食スピードが圧倒的に早かった。
白色の骨が瞬く間に銀一色に染められていく。
つまり、あの銀色の光は相手を浸食するための、ペイントするための弾丸なのだ。
お金を沢山払って弾丸を豊富に用意すれば、それだけ染めやすく、成果が出やすくなるのだろう。
「あっ、来た――」
モンスターの全身が銀色に染まりきったところで、その銀の光が一瞬で体外に抜け出てきた。
だが今回ははじき出された感じではなく、仕事を完遂した兵隊たちが戦果を持ち帰るように堂々と出てきたのだった。
そしてその光は俺へと向かって飛んできて、スーッと体に入ってくる。
<結果報告――スキルの奪取に成功しました! 詳細:【剣術Lv.1】>
[ステータス]
容量32/34(③[●●●●●○]+④[○○○○○○]→37/46)
●スキル
【異世界ガチャLv.2】
【身体強化Lv.2】
【MP上昇Lv.3】
【索敵Lv.1】
【時間魔法Lv.1】
【操作魔法Lv.2】
【セカンドジョブ】
【状態異常耐性Lv.10】
【剣術Lv.1】(New!)
「よし!」
その後、スキルを失ったモンスターは呆気なく倒すことができた。
【スキル盗賊団】でさらに戦闘の幅が大きく広がったと思う。
そして“鑑定機能”としても使えることが分かった。
とても大きな収穫を得て、改めて帰還のため物資回収の作業に戻るのだった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「ふぁぁぁ……帰って来れたぁ~!」
やるべきことを終え、ドラッグストアからアパートへと直帰。
途中、ヤバいモンスターと出会って命からがら逃げてきた……なんてこともなく。
なので今回の遠征は収穫だらけ、大成功と言えるだろう。
「フフッ、お疲れ様です。……ん、しょっ。んんっ」
ソルアはやはり、膝上まである長いブーツを脱ぐのに少々手間取っている様子。
そして同じく前屈みな姿勢で、タイトでミニなスカートが――
「んっ、んん! ソルア。少し休もうか。飴、舐めるか?」
……大丈夫。
前回の経験があるから、もうソルアの無自覚誘惑には乗らないぜ。
「あっ、ありがとうございます。 アメ? 舐める物、なのですか? ありがたく頂きますね」
一度上体を起こし笑顔でこちらを向いたが、返事が終わるとまた前を向いてブーツに手をかけてしまう。
「よいしょっ、んんっ、んしょ――」
そして飴を提案したことがかえってソルアを急かす形になってしまったらしい。
早くブーツを脱ごうとしてか、体全身を使って動いている。
さっきのスカートのピンチさ、そこに腰の振りが加わり、異性をこれでもかと誘惑するとても魅力的な動きになっていた。
――ソルアさん!? 君、凄いえっちぃ動作してるけどなんなの!?
いや、これは俺が変に飴を勧めた過失もあるけどさ……。
「あむっ……あっ、甘い」
昨日の教訓から、視線を逸らすということで難を逃れ。
持ち帰った缶詰ドロップを開け、適当に出して口へと放り込んだ。
舌の上で甘いメロンの味がして、遠征の疲れが少しずつ溶けていくように感じる。
……いや、“メロン”って、別にソルアの身体的特徴とは一切関係ないからね?
何味が出るかはランダム、ガチャと一緒っすよ。
「おっ、脱げたか。お疲れさん。ほいっ」
ブーツを脱ぎ終えたソルアを労い、その手を取って缶をフリフリ。
……いや、だから“フリフリ”って、ソルアのさっきの動作とかけてるとかじゃないからね?
こうしないと、くっついた飴同士が離れて落ちてくれないの!
「えっ、わっわっ!? あっ、ありがとうございます。い、いただきます。あむっ――あっ、甘くて美味しい」
一瞬ソルアが何故か動揺したように見えたが、飴を口へ運ぶと表情の変化は直ぐに収まっていた。
飴玉の甘さに早くも魅了されたようで、ほっぺに転がしながらその味を堪能していた。
飴玉だけでここまで魅力的な笑顔を見せてくれるのだから、こっちとしてもついつい頬を緩めてしまう。
この世界に来て慣れない生活をすることになったんだから、もっとワガママというか、自分の欲望を出してくれてもいいように思う。
まあソルアのその謙虚さや誠実さも、彼女の人としての魅力の一つなのだろうが……。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「ずっと甘いが、口の中に、残り続けてます……凄いです、アメ」
ピンク色の飴玉が出ていたから、おそらくイチゴ味だろう。
イチゴも美味いよな……まあ、一位はメロン一択だけどな。
「俺が、食べてるメロン味も美味いぞ。まだあるから、食べるか?」
自分のオススメも試してみて欲しいという思いで、気軽にそう言ってみた。
「……えっ?」
だが、ソルアは直ぐに返事はしなかった。
とても意外なことを提案されたというような表情。
そしてしばらく呆然としたように固まっていた。
「――あっ、あっ、あっ、あの。その…………はい」
再起動したかと思うと、やはりどこかおかしくなってしまったみたいに、何度も言葉に詰まる。
かと思うと最大級の照れを顔全体に見せつつ、何事かを決意したかのようにゆっくりと目をつぶった。
「いただき、ます。――っ~~!」
そして何かを口に入れることをおねだりするかのように、唇をそーっと前に突き出してきた。
……ん?
――んんっ~!?
何かお互いの間に決定的な食い違いが生じている感がして、全力でその原因を探す。
そしてつい今しがたかけた言葉を思い出した。
『俺が、食べてるメロン味も美味いぞ。まだあるから、食べるか?』
――ソルアさん、もしかして“現在進行形で食べてる俺の飴を口移しで”って意味にとってない!?
違うよっ!?
俺いきなりそんなこと言い出したらやべぇ奴じゃん。
普通に“缶の中にある新しいメロン味出すから、そっち食べない?”って趣旨だからね!?
だが今もプルプルと震えているソルアに言葉を尽くして誤解を解くのも、それはそれでお互いにとても気まずい。
俺は缶を振り、メロン味を何とか取り出してソルアの口へと持っていく。
妥協案だ、スマン。
「悪い、ソルア。これで許せ」
デコトンならぬ、口トン。
ソルアの口に、真新しい飴を、咥えさせるようにして持っていく。
「あっ――……あむっ、ん……こちらも、とても美味しいです」
ソルアは最初こそ意表を突かれたという驚きの顔だった。
だが直ぐに口元に来た飴玉を受け入れ、今日一番の満足したような、とてもウットリとした表情で飴玉を舐めていた。
よ、よかった……。
殺伐とした世界になってしまった中で、こうした一時の休息を満喫するのだった。
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①~生存ボーナス 2日目~
1:★4確定ガチャ券
2:星絆
※受取り可能
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日間ランキング、また3位にランクインしておりました。
上下するのが常なので一時的なこととは思いますが、やはり嬉しいことには違いないです。
皆さんがこの作品を読んで応援してくださっているおかげです、本当にありがとうございます。
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